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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第81話 模擬戦

電車を一本乗り継いで、駅前の通りを歩く。

土曜の午前、空気はまだ涼しい。コンビニの脇を抜けたところで、駅の改札の方からぱたぱたと駆けてくる足音があった。


「遥さん、おはようございますっ!」


ひかりが息を弾ませて隣に並ぶ。栗色のショートボブが朝の光で揺れ、頬がほんのり赤い。リュックの中には双剣のケース、肩には小ぶりのキャリーバッグ。協会前で会う予定だったのだが、見かけて走ってきたらしい。


「おはよ。早いな。」


「家で何度も時計見ちゃって、結局早く出ちゃいました。」


「そうか。」


「遥さんも早いですね。」


「大人の余裕ってやつだな。」


ひかりが頬を膨らませる。


「私だってもうすぐ大人です!」


「冗談だよ、ごめんごめん。」


そんな話をしながら大通りに出る。少し歩いた先に、攻略者協会第七支部の建物が見えてくる。今日は協会自体に用があるわけではなく、隣接している訓練場を使うために来た。


「とはいえ、顔だけ出しとくか。」


正面玄関から中に入る。空調の効いた広いロビー。受付カウンターでは見慣れた人物が仕事に励んでいて、こちらを見てぴたりと手を止めた。

朝霧さんだ。


「……た、たたた鷹峰さん!」


「あ、お久しぶりです。すみません、急に来て。」


「いえ、いえ、こちらこそ、お元気そうで!……ではなくて!えーと、ダンジョンの件、あれって。」


朝霧さんは冷静で仕事のできる人、というのが俺の印象だ。今は面白いくらい慌てふためいている。


「えぇ、まあ、ご存じの通りです。自分、実はダンジョンマスターだったんですよ。」


「い、いやいや、そんな普通のことみたいに仰られましても……!」


「あ、協会的に何かマズかったりしますかね?」


「いえ、そのようなことは……。というか、登録者がダンジョンマスターだった場合、なんて規定は当然ありませんから……。」


「あ、そりゃそうですよね。ははは。」


「はははじゃないですよ、もう……。」


困った人ですねとばかりに額に手を当て、朝霧さんはかぶりを振った。


「詳しい話はまた後日伺わせていただけると助かりますが……。今日はどのようなご用件でしょうか?」


「あぁ、訓練場、貸してもらえないかなと。申請すれば借りられるって聞いたので。」


「あ、わたし、Cランク昇級試験を受けるので、その練習で……!」


ひかりが脇から顔を出して、両手で封筒を差し出した。Cランク昇級試験の通知書だ。


「なるほど、そういうことですね。ご利用者はお二人でいいですか?今日であればこの後がすぐ空いていますよ。午後からはあいにくほかの予約が入っていますが。」


第七支部は都心からは少し離れているが、それでも土曜は利用者がそれなりにいるようだ。


「失礼ですが、鷹峰さん、そのお身体で模擬戦を?」


「ええ、最初は慣らしから入るので、大丈夫です。」


「分かりました。場所はご存じですよね?」


「試験で使った場所ですよね。はい、大丈夫です。」


朝霧さんが鍵と入場札を差し出してくれる。受け取る瞬間、何か言いたそうにして、けれど結局は丁寧に頭を下げてくれた。


「お気をつけて。」


「ありがとうございます。」


俺は左手で鍵を受け取り、軽く頷いて踵を返す。



訓練場は、支部の建物の裏手にある。コンクリートの外塀に囲まれた屋外の広場で、地面は固めた土。隅に的の人形と鉄製の支柱がある。屋根は無く、空が広い。


「うわぁ、結構広いですね……!」


ひかりがリュックを下ろし、武具の準備を始めた。俺もコートを脱いで、左手で剣を一本確かめる。もともと右手で握っていた分、座りの悪さはあるが、まぁ使えなくはない。緊急時はどちらの手でも振るう機会があったのが、ここに来て幸いしている。


「軽く合わせるか。」


「はい!」


軽く構えて、お互いの間合いを取る。ひかりは右手順手・左手逆手の双剣。俺は片手剣を、左手一本。

ぱっと打ち合って、力の感覚を見る。ひかりの剣はずいぶん速くなった。手数も増えている。


数合で剣を引いて、俺は頷いた。


「うん、悪くない。」


「ほんとですか?」


「よし、じゃあ、本格的に――」


「あ、ちょっと待ってください!」


ひかりから唐突な待ったが掛かった。


「うん?」


「折角なので、配信しましょうよ!きっとみんな喜んでくれるかなと思って。」


気になってはいたが、肩掛けのデカい荷物は配信用のドローンだったのか。


「なるほど、減るもんじゃないし、いいんじゃないか?」


「やった!ドローン準備しますので、ちょっと待ってくださいね~。」


ひかりがキャリーバッグを開けて、ドローンを地面に置く。電源を入れると、ぱっと小さなライトが点って、ふわりと浮き上がった。ひかりの肩の少し上に位置取って、すいすいと距離を保って付いてくる。続けて、配信枠の立ち上げ。最近はダンジョン攻略時も配信しているようで、慣れたものである。


ひかりがスマホで配信を開始する。


「みなさん、こんにちは!空月ひかりです。今日は土曜日ということで、いつもとは違う配信なんですけど――」


ひかりが、こちらをちらりと見る。俺は左手で軽く剣を上げて応えた。


「Cランク昇級試験の練習として、模擬戦をしようと思います!」


『ひかりちゃんおはよ』

『模擬戦!?やった!』

『相手って誰なんやろ』

『突発配信助かる』


コメントが流れ始める。視聴者数は配信開始数分でぐんと伸び始めた。


「お相手は――裏山ダンジョンのマスター、鷹峰遥さんです!」


ひかりがドローンに向かって、手のひらでこちらを示した。ドローンがふわりと俺を捉える。


『ええええええ』

『マスター!?』

『え、マスターってあの光物じゃらじゃらつけてた変な奴?』

『戦えるんか?』

『ひかりちゃん頑張れー!』

『そう言えばなんでこいつ右腕無いんや?』

『え、ほんとだ』

『これで模擬戦とか正気かな』

『また変なことやってんな』


一部過去の羞恥心を鋭く抉るコメントがあり、俺は顔を覆い隠したくなる。


「遥さんはこう見えてとっても強いので、心配無用です!それでは、はじめます!」


こう見えて、という部分は気にしないでおく。確かに俺はムキムキなわけでもなく、強そうには見えないからな。


「お願いしますっ!」


「あぁ、よろしく。」


俺たちは間合いを取り直して、構えた。

コンクリートの外塀の上を、白い雲が一筋、流れていく。


ひかりが、地面を蹴った。


砂が散る。一足で間合いに入って、右の剣が斜めに落ちてくる。俺は左手の剣でそれを受け流す。流された右剣の動きに合わせてひかりの体が捻れ、逆手の左剣が下から喉元を狙って跳ね上がってきた。手数の多い双剣使いの基本コンビネーションだ。それでも、まだギアは上げ切っていない、様子見の一撃。


俺は半歩だけ後ろに引いて、左剣の切っ先をやり過ごす。


――ここはひとつ、驚かせてやるか。


俺は左手の剣を、ぽいっと地面に放り投げた。


「え……?」


ひかりが目を丸くする。けれど、双剣の連撃はもう止まらない流れに乗っていた。流された右剣の勢いを使って体ごと反転――背中側から、三の太刀が振り下ろされてくる。


「はぁああっ!」


ひかりの渾身の気合が剣の軌跡に乗って、俺の頭上へ落ちてきた。

俺は空いた左の手のひらを、その刃の軌道に重ねた。


ギャリッ――!


金属が削れる、耳障りな音が訓練場の空気を裂いた。

握り直したひかりが、渾身の体重を乗せて押し込んでくる。手のひらに当たる刃がジリ、ジリと滑って、ぱちぱちと火花が散った。


それでも、刃は止まっていた。皮膚の上で擦れるばかりで、肉に食い込む気配はない。


「な、な……!」


ひかりが、自分の剣と俺の手のひらを交互に見比べて、固まった。


リヴァイアサンを呼んでから、STR・VITがだいぶ乗っている感覚があった。余程の破壊力が乗っていない限りは刃物でも通らない自負がある。


『え』

『は?』

『火花飛んでるんだが』

『ギャリギャリいうてる』

『ほんとに人間か?』

『化け物じゃん……』

『ヒエッ』

『人外じゃね?』

『アカン』

『ひかりちゃん泣いてもいいよ』


「……そ、そんなの、ずるいですっ!」


ひかりが、頬を膨らませて剣を引っ込めた。


「素手で受け止めるとか、そんなの私、勝てるわけないじゃないですかぁ!」


「悪い悪い、ちょっと驚かせたかっただけだ。今のはノーカン、ノーカン。それにほら、安心して模擬戦できるだろ?」


「もー、遥さん、ホントずるいんですから!」


「次は真面目にやるよ。ほら、構えて。」


「絶対、油断しませんからね!」


『ひかりちゃん怒り顔かわいい』

『このマスター茶目っ気ある』

『普段岩とか食べてらっしゃる?』


「お肉とか食べてるよ。」



二本目。


ひかりは、踏み込みを浅くして入ってきた。まずは剣ではなく蹴り。刃物が通らないと見るや打撃でダメージを入れに来る。これがひかりのセンスが輝く部分、即応力と凶暴性。左腕を身体の前で構えて受け止める。ひかりは反動を利用して距離を取った。


そこから、ひかりの体がぐんと低く沈む。

膝を深く折って、踵を地面ぎりぎりに滑らせる。両剣を抱え込むようにして、地を這うような姿勢のまま、俺の懐へ飛び込んでくる。視線が下から見上げてきた。


「おっ!」


低い姿勢から、右の剣が俺の胸元を、左の剣が俺の首を狙った。ほぼ同時の急所攻撃。だがこの速度なら対応できる。

俺は左剣を体の前に流して、二本の刃をまとめて受け止める。受けた瞬間、ひかりの体がぱっと跳ね起きた。低姿勢から一気に立ち上がりながら、上から右剣が返ってくる二段目。


俺はその右剣を、左剣で外側に流す。ひかりは流された右剣の勢いを使って、体ごと半回転――背中をこちらに向けた状態から、逆手の左剣を肩越しに振るってきた。

背向けのままの一撃。視界の外から差し込んでくる、変則の動きだ。


「やるな。」


口の中でつぶやきながら、俺は半歩外へ躱す。空振りしたひかりの左剣が、ひゅっと風を切る。背向けの姿勢から、ひかりは右脚を軸に体を回して、もう一度こちらに向き直った。両剣を構え直す動きが、わずかに堅い。


これも悪くない。

けれど、ひかりが体を回しきる前に、俺はその回転の軌道に剣の腹をすっと差し込んだ。

向き直ろうとしていたひかりの首筋が、自分の動きの先で、俺の剣の腹に触れる。


「あ――」


寸止め、というよりは、ひかりが自分の動きで剣に当たりに来た形だった。


「二本。」


「うぁ……。」


ひかりが真剣な顔で一連の攻防を振り返る。


「俺もそんなに剣術が分かるわけじゃないけど、攻撃偏重になっていて、差し込まれる反撃に弱いんじゃないか?正面からの攻撃は反応がいいから捌けてる分、そこが隙だと思うな。目のいい奴が相手だと、付け入られると思う。」


「はい……!」


『いきなりヤクザキックで草』

『俺も蹴られたい』

『はえーすっごい』

『このマスターだけじゃなくてバケモンがダンジョン守ってるんやろ?反則やん』

『ひかりちゃん頑張れ!』


ドローンが、俺たちの頭上で位置取りを変える。



三本目。


「今度は、地形も使ってみよう。」


俺は隅の鉄製の支柱まで、わざと後退して、それを背に取った。


ひかりは少し息を整えてから、剣を構え直した。

地面を一蹴りして俺の左側へ大きく回り込んでくる。


短い助走から、低い跳躍。支柱の側面を斜めに蹴って、横へ大きく跳ぶ。空中で身体をくの字に折り、両剣を交差させて構え直す。落下の頂点で、ひかりは右の剣を一度、宙に放った。


え、と思う前に、ひかりの右脚が俺の頭部を蹴りに来ていた。


「やぁっ!」


俺は左腕で蹴りを受け止める――が、蹴りの反動でひかりは空中で身を捻り、宙に放っていた剣を右手で掴み直していた。

着地と同時に、掴み直したばかりの右剣が、低い位置から俺の脇腹を抉りに来る。


俺は左剣を、ひかりの首筋の手前へ運んだ。

同じ瞬間――低い位置から伸びてきていたひかりの右剣の切っ先も、俺の脇腹のすぐ横で、ぴたりと止まっていた。


互いに寸止め。


「……あ。」


「相打ちだな、今のは。」


「あ、私、届いて……?」


ひかりが、自分の右剣の切っ先と、俺の脇腹を、何度も見比べた。けれど、その目はまだ何かを追いかけているような色をしていた。


「ひかりはセンスの塊だな。俺は半分ズルみたいなもんだし、ほんと、凄いよ。」


「ほ、ほんとですか……。」


「ああ。剣を手放すのも、1本目から思いついたんだろ?ほんと、可愛げがないくらい吸収が早いな。」


ひかりが、こくりと頷く。額に汗が浮いて、頬の辺りに前髪が張り付いていた。


「はい、アレを見せられた時、意識が剣の方に縫い留められて、動けなかったんです。だから、真似しようと思って。」


そこで、ひかりは言葉を止めた。


「あ!配信!すっかり忘れてました!」


「あ。」


『うぉおおおおお』

『ひかりちゃんすげー!!』

『当てたーーー!!!』

『いやでもマスター当たっても無傷やろ』

『でもガチで強くなってない?』

『速すぎて目が追いつかん』


「これ、ひかりがCランク試験で落ちるとか絶対ないだろ。」


「ほんとですか!なんだか自信出てきました!」


ひかりはふんすとやる気を上げている。

俺は剣を鞘に納めて、息を整える。ひかりも両手の剣を腰の鞘に戻して、額の汗を手の甲で拭った。


「お疲れさま。」


「えへへ、自分でも、なんだか変われた気がします。配信を見てくれた皆さんも、ありがとうございましたー!」


配信を終了して片付けをしていると、周囲に人影が増えていた。



スーツ姿の協会員らしき男が数人。ひかりも気付いて、目を瞬かせた。


「遥さん、なんか、人が……。」


「あぁ。多分朝霧さんから報告が上がったからじゃないか?」


俺はちょっと考えて、まぁそうなるか、と頷いた。

ゆっくりと、見覚えのある人影が一人近付いてきた。

白髪混じりの短髪に、眼鏡。スーツを内側から押し上げる肩幅。協会のバッジが、午前の光で短く反射した。


第七支部、支部長の井筒さんだ。


井筒さんは、訓練場の内側まで歩いてきて、俺の前で立ち止まった。


「鷹峰君。」


「あ、ご無沙汰してます。」


「ああ。元気そうで何よりだ。」


井筒さんは、軽く頷いた。それから口元を緩めて、ひかりの方にも会釈をする。ひかりが慌てて頭を下げる。


「練習中、邪魔して悪いな。」


「いえ、ちょうど終わったところで。」


「そうか。」


井筒さんは、腕時計をちらりと見て、視線を再びこちらに戻した。


「鷹峰君、少し時間あるかな。」


「はい、大丈夫ですよ。」


「応接室まで、付き合ってもらえると助かる。」


俺は頷いた。

ひかりが、心配そうにこちらを見上げる。俺は左手で軽くひかりの肩を叩いて、大丈夫、と目で返した。


「ひかりは先に帰っていてくれるか?俺はちょっと井筒さんと話していくよ。」


井筒さんが軽く頷いて、踵を返す。俺はその背中を追って、訓練場の外へ歩き出した。


――――

貯金残高:11,050,000円 / ダンジョン蓄積魔力:6,830

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)/ メフィス(契約の悪魔)/ リヴァイアサン


【ダンジョン構成】

入口 → 温泉街エリア(補給/工房/宿泊/食堂/湯治/神社)→ 森エリア / 火山・大空洞エリア / 海洋エリア&バベルの塔 → 居住エリア(塔最上階)→ コアの小部屋

――――


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