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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第55話 それぞれの戦場

鬼哭砦は、バスを2本乗り継いだ先にあった。


最寄りのバス停から10分ほど歩くと、丘の斜面に灰色の砦が見えてくる。壁面は蔦に覆われ、2つ並んだ塔の片方は先端が崩れていた。入口は鉄の跳ね上げ門で、錆びて半開きのまま固定されている。明らかに日本社会のものではない、ダンジョン発生とともに出現したタイプだろうか。


中に入ると、乾いた埃の匂いが鼻をついた。石壁に囲まれた回廊が奥へ続いている。天井は意外と高く、崩れかけた燭台が等間隔で並んでいた。壁の隙間から差し込む光が、ぼんやりと通路を照らしている。


回廊を進む。左右に部屋が並ぶ構造で、扉は朽ちて外れているものが多い。


前方から3人組のパーティーが戻ってきた。先頭の盾持ちが俺を見て足を止める。


「え、ソロ? ここソロで来るとこじゃないっすよ。」


「まあ、なんとかなるかなと。」


「マジか……。お気をつけて。」


3人が不思議そうな顔で通り過ぎていった。



3つ目の部屋の前を通りかかった時、中から金属音がした。


身体強化を発動して剣を抜く。部屋の中から、錆びた鎧をまとった人型が這い出てきた。兜の奥に顔はない。空洞の中で、薄紫の光がぼんやりと揺れている。


1体。いや、後ろにもう2体。さらに回廊の奥からも足音が近づいてくる。


4体が回廊と部屋から挟み込む形で迫ってきた。動きは鈍いが、通路を塞ぐように位置を変えている。


正面の2体に踏み込んだ。剣を振り抜くと、先頭の鎧の胴が裂けた。金属が歪む嫌な音とともに紫の光が漏れ、鎧が崩れ落ちる。間髪入れずに2体目の兜ごと頭を叩き割り、振り向きざまに背後から迫っていた1体の剣腕を切り落とした。残りの1体が突っ込んでくるのを半歩ずらして躱し、すれ違いざまに首を刎ねる。


4体。10秒もかかっていない。


魔石を拾い上げた。小指の先ほどだが、色が濃い。鬼哭砦の魔石は単価が高いらしいという情報は本当のようだ。



先に進む。回廊を抜けると、天井の高い広間に出た。瓦礫が散乱し、中央に崩れた石の台座がある。壁面に掲げられていたであろう大盾や槍が、朽ちたまま床に散らばっていた。かつての兵器庫か何かだったのかもしれない。


広間の四方から、足音。


8体。壁際の階段からも降りてきている。正面3体が盾を構え、後方に弓持ちが2体。残りは側面から回り込もうとしていた。


盾の向こうの弓持ちを先に潰す。正面の盾列を飛び越え、着地と同時に弓持ちの懐に入った。1体目を斬り上げ、2体目が矢をつがえるより先に踏み込んで横薙ぎに払う。鎧が2つ崩れ、魔石が散らばった。


背後で盾持ちたちが向き直る気配。遅い。


振り返って盾持ちの列に突っ込んだ。1体目の盾を剣で叩き落とし、空いた胴を蹴り抜く。吹き飛んだ鎧が後ろの1体を巻き込んで崩れた。3体目が横から突いてくるのを身を捻って避け、そのまま返す刀で胴を裂いた。


側面から回り込んできた3体が、ようやく間合いに入ってきた。だが、もう弓持ちの援護はない。正面から向かってきた1体を叩き伏せ、残りの2体は壁際に追い詰めてまとめて処理した。


合計8体。魔石を回収しながら広間を見渡す。盾と弓で前後を挟んで、側面から回り込む。初級の攻略者ならこの連携で手こずるだろうが、速度で上回れば各個撃破できる。



2層に降りた。


階段の先は、さらに入り組んだ通路が続いていた。天井が低く、壁が近い。足元に砕けた石材が散らばり、壁の隙間から冷たい風が吹き込んでくる。空気が湿っていて、鉄錆の匂いが濃くなった。


角を曲がった先に、大型の個体が待ち構えていた。さきほどの倍ほどの体格で、肩幅が通路いっぱいに広がっている。両手に持った大剣が、天井の石を削りながら振り上げられた。


重い。が、遅い。


大剣の振り下ろしを横に一歩ずれて回避した。石畳に大剣が叩きつけられ、床が割れる。衝撃で足元の石が跳ねた。振り下ろしの隙に懐に踏み込み、鎧の継ぎ目に剣を突き立てる。紫の光が噴き出して、大型が崩れ落ちた。


その背後から、通常サイズが3体。大型が通路を塞いでいる間に回り込んでいたらしい。大型を囮にして背後を突く。連携パターンが変わった。


パターンが変わるなら、それに合わせるだけだ。


3体が一斉に距離を詰めてきた。狭い通路で横に並べるのは2体が限界だ。先頭の2体に剣を振るう。左の1体を切り捨て、右の1体は剣を弾いて体勢を崩させ、壁に叩きつけた。最後の1体が隙を突いて突きを繰り出してくるのを、身体を回転させて躱しざまに首を落とす。


この階層でも、この様子なら問題ない。


通路を進むにつれ、交戦のたびに魔石が袋に溜まっていった。大型の個体は通常より大きめの魔石を落とす。色も濃い。


2層の奥まで進んだところで、スマホで時間を確認する。夕方だ。


袋の中の魔石は30個を超えていた。初日としては上出来だ。


砦を出て、最寄りの換金所で魔石を売った。55,000円。悪くない。



スマホを確認すると、シノから写真付きのメッセージが来ていた。リビングのソファで丸まっている猫又と、その隣で本を読んでいるハヤテ。『平和です』とだけ書いてある。よくよく見ると、ハヤテは本を読んでいるように見えて、居眠り中だった。


ユキとリンドヴルムからは連絡なし。便りがないのは元気な証拠、ということにしておこう。


明日はさらに深層へ。もっと負荷を上げないと、最近楽をしすぎたからな。




side:ユキ



蒼霧樹海。


巨木の根が地面を覆い尽くす入口が見えた。幹の太さは10人でも抱えきれないほどで、樹冠は霧に隠れて見えない。


入口をくぐった瞬間、肌に触れる魔力の密度が変わった。森の魔力が空気そのものに溶けている。


大体わかった――この森は、私の庭のようなもの。


足を踏み入れた。


地面は苔と落ち葉に覆われ、巨木の根が複雑に絡み合っている。10歩先から霧に沈む視界。樹上から差し込む光はほとんどない。


けれど、不便はなかった。


30歩先の大樹の裏に2体。地中に1体。頭上の枝に1体。


最初の1体が動いた。樹皮に擬態していた魔物が幹から剥がれ、蔦のような腕を4本広げて襲いかかってくる。幹と同じ灰褐色の体表に、樹液のように黄色い体液が滲んでいた。


指を1本上げた。


大樹の根が地面から持ち上がり、魔物の胴体を貫いた。黄色い体液が飛び散り、霧に混じって消える。体が霧散する前に、魔石が宙に残った。

森の操作は問題ない、既に私に服従している。


地中から1体が飛び出すのと同時に、頭上から1体が落ちてきた。地中の個体はモグラのような体形に岩のような外殻。頭上の個体は半透明の蜘蛛型で、粘液の糸を吐きながら降ってくる。


足元の苔が波打った。地中から出てきた個体の体を苔ごと押し上げ、巨木の幹に押しつける。外殻に亀裂が走り、そのまま潰れた。蜘蛛型には、枝が3本伸びて体を絡め取り、幹に叩きつけた。粘液が飛び散るが、私の体には触れない。枝が盾になっている。


残りの1体が大樹の裏から飛び出してきた。擬態型の大型。先ほどの個体の倍はある。蔦の腕が6本、扇状に広がって襲いかかってくる。


手を翳した。6本の腕が伸びきる前に、足元の根が5本束になって突き上げ、魔物の体を下から串刺しにした。


魔石を回収して先に進んだ。



2層への階段の手前で、4人組のパーティーが休憩していた。地面に座り込んで水を飲んでいる。1人が傷の手当てをしている。擬態型にやられたのだろうか。その横を通り過ぎた。


「……今の人、1人?」


「とんでもねぇ美人だ……。」


「てかヤバくない? 遠目に見えてたけど、殆ど歩きながら倒してたぞ……。」


背後の声が霧に紛れて消えた。



2層に入ると、霧がさらに濃くなった。肌に触れる水滴が冷たい。足元の苔は深緑から暗い紫に変わり、踏むと胞子が舞い上がる。


奥から、重い足音。


霧の中から体長3mほどの獣型が現れた。灰色の毛並み、6本の脚。口から緑色の霧を吐きながら、地面を蹴って突進してくる。それなりに速い。


手を翳した。獣の足元の地面が液状化し、6本の脚が一瞬で沈んだ。動きが止まったところに、頭上の枝が束になって降り注ぐ。枝が獣の背中を叩き、押し潰し、地面に縫い止めた。


獣が消え、魔石が残った。


同じ種の個体がさらに3体、霧の奥から駆けてきた。群れで行動するらしい。


右手を軽く払った。3体の進路上にある巨木が、一斉に根を持ち上げた。地面そのものが波打ち、3体の足を絡め取る。動きが止まったところに、樹冠から太い枝が3本、同時に落ちた。


静かになった。霧の中に魔石が3つ光っている。



3層、4層と進んだ。霧が濃くなり、樹木が巨大化していく。魔物も。


4層の奥で、体長5mを超える蟲型の魔物が巣を張っていた。巨木の間に粘液の糸を幾重にも張り巡らせ、中央に黒い胴体を丸めている。背中に赤い斑点が並び、近づくと胞子のような粉を撒き散らしてきた。


周囲の木々に意識を通した。巣の四方にある巨木4本が、同時に傾いた。根元が浮き上がり、幹ごと巣の上に倒れ込む。巨大な蟲が糸ごと押し潰され、地面が震動した。


巨木を元の位置に戻す。根が再び地面に潜り、何事もなかったかのように樹立した。


潰れた蟲の残骸の中から、大きめの魔石が転がり出てきた。



足を止めたのは、1度だけ。


袋の中の魔石を確認した。50個を超えている。


……まだまだ足りない。


再び歩き出した。霧の中に、次の気配が3つ。




side:リンドヴルム



魔獣峡。


切り立った崖の間に、黒い裂け目のような入口があった。中から熱い風が吹き出している。岩壁には爪痕が無数に刻まれていた。


獣の匂いがする。


入口の脇に小さな受付所があった。中にいた男がわらわを見て目を丸くした。


「お、お客さん、ソロですか? ここBランク推奨で、パーティーじゃないと……。」


攻略者カードを見せた。Eランクのカードを見て、男の顔が曇る。


「あの、ホントに大丈夫ですか?止める権利は勿論無いんですが……。」


「よい。入れよ。」


男は何か言いたそうだったが、腕を組んで眺めていると、結局カードを返してきた。


崖の裂け目に足を踏み入れる。両側の岩壁がそびえ、空が細い線になっている。足元は砂利と岩。乾いた風が峡谷を吹き抜けていた。


しばらく歩くと、少し開けた場所で5人ほどのパーティーが陣形を組んでいるのが見えた。岩壁の魔物と戦っているらしい。怒号と金属音が峡谷に反響している。


横を通り過ぎた。



さらに50歩ほど進んだところで、岩壁に何かが張り付いていた。


体長4m。灰褐色の鱗に覆われた大蜥蜴が、垂直の壁面にへばりついてこちらを見ている。黄色い目が細まった。


飛びかかってきた。4mの巨体が壁を蹴って宙を飛ぶ。顎を開き、黄色い牙が並んでいる。


右手を振った。手の甲が顎の側面を打ち、骨が砕ける音がした。大蜥蜴が岩壁に叩きつけられ、壁にめり込んで動かなくなる。岩の破片がぱらぱらと降ってきた。


「脆い。」


魔石を拾い上げた。故郷の低級竜の方がまだ骨があった。



先に進む。峡谷が広くなった場所に出ると、頭上から影が差した。翼を持った大型の魔物が旋回している。体長5m、翼を広げると峡谷の幅いっぱいだ。褐色の鱗に覆われた翼膜、鉤爪のついた後脚。竜に似ているが、竜ではない。目に知性がない。


降下してきた。風圧で砂利が舞い上がり、鉤爪が岩盤を抉る。爪が砕けた岩の破片が頬をかすめた。


翼持ちが再び飛び立とうとした瞬間、尾を掴む。


掴んだ尾を持って何度か振り回し、地面に叩きつけた。峡谷に轟音が響き、砂埃が柱のように立ち上る。岩盤に亀裂が走った。翼持ちは着弾点の中心で、もう動いていなかった。


これが竜に似た姿をしているだけの獣の限界よ。


遠くで攻略者パーティがこちらを見て固まっているが、わらわには関係ない。



奥に進む。峡谷の幅が狭くなり、両側の岩壁が頭上で触れ合うほどに迫ってきた。薄暗い隘路の奥から、地鳴りのような足音が近づいてくる。


6mの甲殻獣が角を曲がって現れた。全身を灰色の甲殻で覆った、犀のような体形。頭部に2本の太い角を生やし、体重だけで岩盤を割りながら突進してくる。背後から8mの多脚蟲が続いた。黒い外骨格に無数の脚、壁面を這うように迫ってくる。


甲殻獣が先に仕掛けてきた。2本の角を低く構えた全力の突進。峡谷の壁が振動するほどの重量が、まっすぐこちらに向かってくる。


正面から受け止めた。角の先端を両手で掴む。足元の岩盤にヒビが入り、砂利が弾け飛んだ。が、そこまでじゃ。


甲殻獣を持ち上げた。前脚が地面から離れ、後脚が空を掻く。そのまま背後の多脚蟲に向かって投げつけた。甲殻と外骨格がぶつかる鈍い音が峡谷に響き、2体が絡み合って崩れ落ちた。


魔石だけ回収して、足を止めずに進む。



峡谷の奥で、空気が変わった。


温度が下がり、岩壁から冷たい水が滲み出している。峡谷が急に広がり、天然の円形闘技場のような空間に出た。直径50mはある。岩壁が高くそびえ、空は遠い円になっている。


その中央に、影があった。


体長10m。全身が黒い鱗に覆われた大蛇が、峡谷を塞ぐように蜷局を巻いている。赤い目がこちらを捉えた。鱗の1枚1枚が拳ほどの大きさで、黒い光沢を放っている。首を持ち上げると、頭部だけでわらわの体の3倍はあった。


これは少しはマシか。


大蛇が口を開いた。牙の隙間から紫色の霧が漏れ出す。霧が地面に触れると、岩が泡立つように溶けた。毒か。


歩いて近づいた。毒霧が肌に触れる。ちりちりとした刺激がある。わらわにとっては、この程度の毒では痒みにもならぬ。


大蛇が鎌首をもたげ、全身のバネを使って噛みついてきた。顎が閉じる速度は速いが、見えぬほどではない。


顎が閉じる前に上顎を掴んだ。黒い鱗が手のひらに当たる。硬いが、竜の鱗には遠く及ばぬ。もう片方の手で下顎を押さえ、口を開かせた。牙が目の前で並んでいる。毒液が牙を伝って滴り落ちた。


喉の奥に、魔石の光が見えた。


手を突っ込んで、引きずり出した。


大蛇が崩れ落ちる。峡谷に地響きが走った。手の中の魔石は拳ほどの大きさがあった。今日一番の収穫じゃ。


足りる、と言った手前、成果は出さねばならん。



ポケットのスマホが震えた。シノから。『どう?』と書いてある。


文字を打つのは面倒だが、返さぬとまた長文が来る。あの狐は返事が遅いと催促してくるのだ。


『問題ない』


送信した。しばらくして、狐の顔の絵文字が返ってきた。シノはこれが好きらしい。


まあよい。日が沈む前に、もう少し奥まで進んでおくとするか。


――――

貯金残高:1,462,000円 / ダンジョン蓄積魔力:310

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)


【ダンジョン構成】

入口 → 物資補給エリア → 宿泊エリア(1泊5,000円/管理:コンシェルさん&猫又)→ 食堂エリア(管理:コムギ)→ 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋

――――

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