第29話 三人目
Dランクになって、2ヶ月が経った。
あの日から、毎日がめまぐるしく過ぎていった。ひかりとは放課後や休日に依頼をこなし、平日は俺がソロで翠嶺洞の中層~深層を周回する。たまにハヤテにもダンジョンで協力してもらった。ハヤテが上空から偵察して、モンスターの位置を教えてくれるから効率は抜群だ。
翠嶺洞の中層はロックタートルの群れが主な相手だ。素材が採れそうな個体は部位を剥いでから仕留める。ロックタートルの甲殻片は防具の素材として需要が高く、協会の窓口に持ち込めば1枚5,000円前後で買い取ってもらえる。
ひかりとの依頼は、翠嶺洞と石廊殿を交互に回るのが定番になっていた。素材採取、モンスター討伐、たまにダンジョンの環境調査。Dランクの依頼はバリエーションが豊富で中々勉強になるし、攻略者として段々様になってきた気がする。報酬は1件あたり3万から5万。2人で折半しても、月に何件もこなせば相当な額になる。
ひかりの腕前も目に見えて上がっていた。石廊殿2層のゴーレム3体同時出現を、2人で危なげなく捌けるようになったのが3週間前。先週は翠嶺洞の4層でロックサーペントの水中奇襲を、ひかりが単独で回避してみせた。
「遥さん、今の見ました!?」
「見てた見てた。反応速度上がったな。」
「えへへ。」
ひかりは間違いなく才能がある。俺はズルみたいなものだと思ってるが、ひかりは自分の才能と努力で踏ん張っている。将来はどんな攻略者になるか、楽しみだ。
ダンジョンの方も変化があった。
来訪者が明らかに増えている。2ヶ月前は1日に数組だったのが、最近は10組を超える日も出てきた。物資補給エリアのポーションは午後には品薄になるし、森エリアではパーティー同士鉢合わせがの発生することもある。
「ご主人、今日は12組だったっすよ。」
ハヤテが報告をしながら、嬉しそうに翼をばたつかせた。
「ありがとう。流石にかなり増えてきたな。」
そんな日々を重ねるうちに、季節は初夏から夏に変わった。
「ご主人様。」
ユキが対面に座った。
「ノートを拝見してもよろしいですか。」
「もちろん。」
ノートを回すと、ユキの蒼い瞳が数字を追った。
「順調ですね。」
「うん。だいぶ溜まったな。前に話した計画、覚えてるか。」
「新しい実戦エリアと、眷属の召喚ですね。」
「あぁ、そろそろ踏み切れそうだな。ただ、順番がある。」
ユキが小さく首を傾げた。
「先に眷属を召喚する。実戦エリアの設計は後だ。」
「……理由をお伺いしてもよろしいですか?」
「実戦エリアの中身をこっちで全部決めてから眷属を呼んで『はい、これ管理して』ってのは、違うかなって。新しく来る眷属にも意思がある。どんな環境が得意か、それを聞いてから設計した方が結果的にいいものができると思うんだ。」
「なるほど。道理ですね。」
「折角だしハヤテにも立ち会ってもらうか。おーい。」
ソファでくつろいでいたハヤテが、片手を上げた。
「呼んだっすか?」
ハヤテがソファから起き上がって、テーブルに寄ってきた。
「新しい眷属、召喚するんすか!」
「おう、そのつもりだ。」
「おー! どんなやつが来るんすかね。」
「それは召喚してみないと分からない。ただ、今回は実戦エリアの管理を任せたい。戦闘寄りの眷属だとありがたいな。」
「ユキ先輩みたいなのがもう1人来たら、心強いっすね。」
「そうだな。今度は地上戦特化とか、ダンジョン管理に向いたタイプが来てくれるといいけど。まぁ、こればっかりは運だ。」
ユキが静かに口を開いた。
「ご主人様。一つ、確認してもよろしいですか。」
「なんだ?」
「召喚された方の意思を尊重するとのことでしたが、もし召喚された眷属が戦闘を望まなかった場合は、どうされますか。」
「その時はエリアの設計自体を見直す。本人がやりたくないことを押しつけるつもりはない。」
ユキが黙って俺を見つめた。
「かしこまりました。ご主人様らしくて、いいと思います。」
「ユキとハヤテにも、これまで以上に頼ることになる。新しい眷属が馴染むまでは、よろしく頼むな。」
「お任せください。」
「自分も頑張るっすよ。新入りが来たら先輩っすからね、楽しみっす!」
ハヤテが先輩風をふかしすぎない様にユキに見張ってもらおうとひそかに決意した。
明日、召喚の準備を始めよう。
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貯金残高:3,000,000円 / ダンジョン蓄積魔力:500
スキル:【剣術】Lv.4 / 【身体強化】Lv.3
眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)
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