11 苦難
中間試験を終えた数日後の朝、結果が中庭に面した回廊に掲示されていた。
掲示板の前には、思った以上に人が集まっている。
ざわめきの中心は、やはり上位の名前だった。
「……やっぱり一位はレオニスだよな」
「全部一位、ってわけじゃないみたいだけど」
「総合はダントツでしょ」
予想通りの名前。
けれど、完全な独走でもないらしい。
リネアは少し離れた位置から、掲示を見上げた。
クロウは三位、セラフィナは七位だ。
二人とも、すごい。
勉強会メンバーの健闘をたたえながら、視線がそのまま、自分の名前に辿り着いた――
一瞬、動きが止まる。
(……え?十五位)
思っていたより、ずっと上だった。
専門史は二位。
理論系も、想定より点が取れている。
一方で、結局あまり力を入れなかった一般科目はやはり低めだ。
「リネア!」
次の瞬間、背中に勢いよくぶつかられた。
「見た!?見た!?」
「見たよ」
「すごいね!ちゃんと上位!」
セラフィナが、自分の順位と見比べてはしゃいでいる。
「私、思ったよりずっと良かったの」
「うん、頑張ってたもんね」
「でしょ!」
そこへ、少し遅れてレオニスとクロウが来た。
「なるほど」
成績表を一通り眺めて、レオニスがため息をつく。
「今回は、取りこぼしが出たな。理論系はクロウに負けた」
「勝てるところで勝っただけだ」
クロウが淡々と補足した。
「で、専門史は……」
「俺が一位。リネア、二位か」
レオニスが読み上げる。
「でも僅差!」
「そこ、強調しなくていい」
セラフィナがにやりと笑う。
「ねえ、これってさ」
指で上位をなぞりながら、宣言した。
「次は――打倒レオニスじゃない?」
「おい」
即座に突っ込む声。
「なんで俺が倒される前提なんだ」
「だって全部一位取るつもりだったんでしょ?」
「取れるなら取る」
あっさりした答えに、セラフィナはほらね、も不満そうに頷いた。
「次は三人で共同戦線はって、レオニス包囲網をつくろう!」
「包囲される気はないが」
「受けて立つって顔してるよ?」
「当然だろ」
レオニスが肩をすくめて、少し悪ぶった顔で言う。
「全力で来い。手加減はしない」
「聞いたからね!」
「後悔するなよ」
口々に飛ぶ軽口の応酬。
周囲の生徒たちも面白いものを見るような目でこちらを見ていた。
◇
座学試験が終わってからは、演習の時間が明らかに増えた。
連日続く肉体的な疲労で、生徒たちの演習地へ向かう足取りはいつもより重い。
「はあ……試験終わったと思ったら、すぐ演習とか聞いてない」
歩きながら、セラフィナが悲しそうに肩を落とす。
「試験のおつかれ様会、皆でしたかったのに……ないの?」
「ないだろ」
「ひどい」
ぼやきつつも歩調は乱れない。
その横で、レオニスが無慈悲に笑う。
「中間が終わったからな。ここからは期末にある実技試験を見据えた内容になる」
「つまり?」
「つまり、楽じゃない」
セラフィナの肩がさらに落ちた。
「終わったら、甘いものでも皆で食べような」
演習地の結界が見え始めた頃、空気がわずかに変わる。
配置されている障害物も、人工魔物の数や種類も、これまでより多い。
リネアは、その様子を黙って見ていた。
(……切り替えが、早い)
学院は、容赦がない。
人工魔物の動きが速い。
連携の要求が細かい。
ほとんどの生徒に、小さな擦り傷や打撲が確実に増えていた。
リネアも含めて、一部の生徒には恩寵の対価も蓄積している。
クロウも例外じゃない。
大きな怪我こそないが、演習中に肩や腕に細かな打撲や傷が残る。
そのたびに、リネアは触れてすべて回復していた。
胸が重い。
(……回数、増えてる)
恩寵を使うたびに、対価の体の内側に痛みや重みが残る。
まだ表に出るほどではない。
けれど、確実に積み重なっていた。
「リネア、大丈夫?」
気づいたのか、セラフィナが振り返った。
「顔色、ちょっと悪いよ?」
「うん、大丈夫」
すぐに笑って返す。
「考え事、してただけ」
「……ならいいけど」
セラフィナはそれ以上踏み込まず、前を向いて気持ちを切り替える。
「ま、やるしかないよね」
「そうだな」
レオニスが応じる。
「試験は、待ってくれない」
◇
演習地の中央で、教官が笛を構えた。
その音が鳴れば、また一段階、先の区画へ進む。
夢で見た大星蝕を思い出せば、このくらいで根を上げるわけにはいかない。
「フォレスト」
呼ばれて顔を上げると、クロウがこちらを見ていた。
「次、少し前に出る」
「……分かった」
リネアは小さく息を整えた。
(まだ、大丈夫)
そう思いながらも、胸の奥に残る違和感は、消えなかった。




