第23話 評価を拒む理由
監査局の一行が去ったあと、野営地には奇妙な静けさが残った。
いつもなら、戦闘後は軽口が飛び、武具の手入れをしながら雑談が始まる。だが今日は違う。誰もが、何か言いたげで、しかし言葉にできずにいた。
「……なあ」
最初に口を開いたのは、カイルだった。
「今の、見られてたよな」
「ああ」
レインは短く答える。
「しかも、かなり本気で」
「評価される、ってやつか?」
その言葉に、レインは首を横に振った。
「違う。測られた」
その違いを、説明する必要はなかった。
皆、何となく分かっている。
「王都が本気になれば、話は早い」
カイルは続ける。
「功績をまとめて、肩書きを用意して、管理下に置く。よくある話だ」
「……それを、断る気か?」
誰かが、恐る恐る聞いた。
レインは、即答しなかった。
一度、全員を見回す。
「断る、というより――」
言葉を選び、静かに告げる。
「今は、受け取れない」
ざわめきが起きる。
「馬鹿か? 王都だぞ」
「安定する」
「もう追放される心配もない」
正論が並ぶ。
どれも、間違っていない。
「分かっている」
レインは、すべてを受け止めた上で言った。
「だが、評価と引き換えに、判断を渡すことになる」
その一言で、空気が変わった。
「判断権限は、条件になる」
レインは続ける。
「誰を救い、誰を切るか。その決定を、制度が握る」
セレスが、静かに頷いた。
「測れる判断だけを、求められる」
「そうだ」
レインは、目を伏せた。
「それは、俺が一番やりたくないことだ」
沈黙。
やがて、カイルが苦笑した。
「……難儀な男だな」
「自覚はある」
「でもな」
カイルは、少しだけ真剣な声になる。
「俺たちは、あんたの判断に命を預けてる。それは、王都よりも重い」
他の傭兵たちも、黙って頷いた。
レインは、一瞬だけ目を閉じる。
「だからこそだ」
静かに、しかしはっきりと言った。
「俺は、評価される場所に立たない」
評価される場所では、判断は自由でなくなる。
自由でない判断は、誰かを救えない。
「必要とされるなら、ここにいる」
「だが、肩書きは要らない」
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
夕暮れの風が、野営地を抜ける。
そのとき、伝令が駆け込んできた。
「……王都からです」
差し出された書簡には、簡潔な文言が記されていた。
――正式な功績認定の打診
――王都付き顧問職の検討
セレスが、書簡を一読し、レインを見る。
「来たな」
「ああ」
レインは、紙を畳んだ。
「断る」
即断だった。
その判断に、迷いはなかった。
評価を拒む理由は、もうはっきりしている。
自分は、測られるために判断しているわけではない。
――生き残るために、選んでいるだけだ。
野営地の焚き火が、静かに燃えていた。
王都の光は、まだ遠い。
だが、確実にこちらを照らし始めている。
歯車は、次の段階へと回り始めていた。
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