表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一章:威力は初級、魔力量は無限。最弱設定のはずが世界から頼られています  作者: ぃぃぃぃぃぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/49

第二十一話:ギルドでの笑いと小さな自信

エルトリアの街に戻る頃には、太陽は傾き始めていた。戦いの余韻がまだ身体の奥に残っている。グリムファングとの激闘は、アルトにとっては今までで最も危険で、そして最も価値のある経験だった。


革袋には依頼された薬草トリア草がぎっしり詰まり、別の小袋には討伐の証明となる毛のサンプルが収まっている。量はわずかだが、初級魔法使いが撃退した証としては十分すぎるほどだ。


(……ふう。まずは報告だな)


ギルドの重い扉を押し開ける。途端、昼下がりの喧騒が押し寄せてきた。酒を飲む者、依頼を張り替える者、鍛冶屋帰りの戦士、軽口を叩く新人。雑多な声が重なり、あの日の嘲笑が脳裏に蘇る。


(前みたいに変な視線を向けられなければいいけど……)


しかし逃げるわけにはいかない。冒険者として生きていくなら、ここは何度でも通る場所だ。アルトは胸の奥で気持ちを切り替え、カウンターへ歩を進めた。


黒髪をきっちりとまとめた受付嬢、ルナが顔を上げた。以前よりも、アルトを見る目が少しだけ柔らかい気がする。


「アルト様。おかえりなさいませ。お疲れのご様子ですが……無事のご帰還、嬉しく思います」


「はい。……依頼のトリア草、採取できました。それと……」


アルトは小さな毛のサンプル袋を差し出した。


「森で、グリムファングと遭遇しました。応戦して、撃退しましたので……その証明です」


ルナの眉が、ほんのわずかに動いた。驚きというより、信じられない、という感情に近い。


「……グリムファングを、単独で?」


「はい。初級魔法しか使えないので、複合魔法で……工夫して戦いました」


ルナは無言で頷き、丁寧に提出物の確認を始める。草の状態を見て品質を判断し、毛のサンプルを封筒に収め、報告書を開いた。


その間、周囲の冒険者たちは、興味津々といった様子でちらちらとこちらを見ていた。


(聞こえてるな……まあ、隠す気はないけど)


「アルト様。確認いたしました。お疲れ様です。今回の遭遇と魔法使用について、補足をお願いできますか?」


アルトは短く息を吸って説明を始めた。


「避けられない状況だったので、まずは土魔法に錬金魔法を組み合わせて、《鋼鉄のアイアン・ウォール》で防御しました。それから、火と風を合わせて《火炎旋風フレイム・ストーム》で撃退を……」


説明の途中だった。


近くでだらしなく椅子にもたれかかっていた冒険者が、思いっきり吹き出した。


「ぶはっ!聞いたかよ、お前ら!初級でアイアン・ウォール?フレイム・ストーム?名前だけは立派だな!」


「魔力量が無限に近いんだろ?そりゃ連発できるよな。初級だけなら、そもそも消費も軽いし」


「でも効率悪すぎないか?普通の冒険者なら中級火球一発で終わりだろ。複合とか無駄な手間じゃねえか」


「足止めして削って……って、どんだけ遠回りなんだよ!」


笑い声が重なり、ざわめきがアルトの周囲に波紋のように広がっていった。


ギルドに響く笑い。


軽蔑というより、ただの嘲弄。

彼らは自分より強く、経験もある。だからこそ、初級魔法にしがみつくアルトの戦い方が滑稽に見えるのだろう。


しかし――。


(ああ……そうだよ。その通りだ)


アルトの心には、不思議なほど嫌悪感はなかった。


(効率悪いし、回り道ばかり。でも、それが……今の俺にできる最適解なんだ)


彼らは知らない。

彼らは気付かない。

八属性すべてを同時に扱えるという異常性を。


普通の魔術師にはできない、小さな組み合わせを積み重ねて、相手を確実に封じるという戦い方を。


(初級魔法しか無いなら、初級魔法で勝てるやり方を考えればいい。それだけだ)


自分に言い聞かせるように、アルトはほんのわずかに頬を緩めた。


「アルト様」


ルナの声が、周囲の喧騒をすっと押し消した。


彼女は報告書を閉じ、まっすぐにアルトを見つめていた。

その瞳には、嘲笑とは違う、ひたむきな評価だけが宿っている。


「ご自分の戦い方を、どうか誇ってください。どれほど魔力量があろうとも、初級魔法だけで複合戦術を編み出し、実戦で成功させる冒険者は……ほとんどいません」


「……ルナさん」


「周囲の言葉は、ただの“別世界の常識”です。貴方には貴方だけの戦場があり、貴方だけの勝ち方がある。それを理解できる人も、必ず現れます」


その言葉に、アルトの胸の奥で、小さな火が灯った。


(誰にも気づかれなくてもいい……でも、俺の努力を、見てくれる人が一人でもいるなら)


笑い声は依然としてギルドのどこかで続いていた。しかし、その音はもはやアルトの心を乱さなかった。


報酬を受け取り、袋を閉じ、アルトは静かに一礼する。


「ありがとうございました。次の依頼も、頑張ります」


「応援しております、アルト様」


ギルドを出ると、夕焼けが街を赤く染めていた。

喧騒は背後に遠ざかり、風が頬を撫でる。


(……大丈夫だ。今日の成功は、小さいけれど……確かな一歩だ)


初級魔法しかない自分。

八属性を扱える自分。

効率が悪く、地味で、誰も真似しない戦術。


でも、それがいい。


(誰にも真似できない、俺だけの戦い方……)


アルトは新しい依頼書を求めて、街灯の灯りがつきはじめた通りを歩き出した。

胸の中には、誤魔化しではない、確かな自信が静かに芽生えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ