第3話 タイマン
ザワザワザワ......
気付けば2人の回りには何層もの人の輪が。即席リングの完成だ。
「◎?〃$★△♀!(なんだ、お前やろうってのか?!)」
ポキポキポキッ。指の関節を鳴らしながら、酔っ払いは既に臨戦態勢。いつでも来やがれ!......仕草がそのように語っている。
一方、『ブルドーザーマルコ』なる大男はと言うと、酔っ払いとは正反対。
「......」
口数は少ない。と言うよりか無言。しかし顔は赤身を帯び、バシッ! 見事なファイティングポーズを決めてみせる。
「マルコ、やっちまえ!」
「酔っ払い! 逃げるなよ!」
ワァー、ワァー、ワァー......
ガヤガヤガヤ......
いつの間にかリングと化したパブは、異常なまでの熱気に包まれている。日本人であろうが、ロシア人であろうが、一般人であろうが、『ヴァローナ』であろうが、酒が入って大騒ぎしたくなる気持ちは万人共通なのであろう。
そして、最初に口火を切ったのは、酔っ払いだった。
「ほれっ!」
バシッ!
目にも止まらぬスピードで放たれた酔っ払いの拳は、見事マルコのボディに炸裂!
しかしマルコは、ニヤリ。痛がる素振りを見せるどころか不敵な笑みすら浮かべている。
全然効かねーな......フッ、フッ、フッ。その表情は、正にそんな言葉を語っていた。すると今度は、
パシッ! マルコの大きな手の平が酔っ払いの顔面を叩き落とす。日本でお馴染みの『ピンタ』だ!
「うわぁ!」
ガクンッ。目にも止まらぬマルコの強烈な『ピンタ』に、思わず膝が崩れそうになる酔っ払い。
しかし、よろけながらもギリギリの所で踏み止まる。
「オー、こいつマルコの張り手で落ちなかったぞ! いい根性してるな」
「でも、次で終わりだろ。もうへべれけじゃねえか」
見れば酔っ払いの足は酔っ払いに相応しく、見事なまでにフラついている。やはり大男の『ピンタ』は強烈だったようだ。しかし酔っ払いも負けてはいない。
「くそっタレが! うりゃあ!」
バコンッ!
渾身の右ストレートがマルコの顔面にクリティカルヒット! すると......
ペキッ。前歯が宙を舞う。思わず地べたに膝を付くマルコだった。さすがにこの一撃は効いたようだ。
「フンガーッ......」
しかし直ぐに立ち上がり、ファイティングポーズ。まだまだ戦意は喪失していない!
「さすがマルコだ! 立ち上がったぞ!」
「次で決まりだ!」
ギャラリーの興奮は正に最高潮。皆、二人の激闘を見ながら一喜一憂を繰り返していた。よくよく見ていると、どうやら......
互いに1発づつノーガードで攻撃を受けると言うルールが暗黙の了解で出来上がってるいるみたいだ。
と言う事は、順番でいくと次はマルコの攻撃と言う事になる。
「ンガガガガー!」
マルコは意味不明の雄叫びを上げると、次の瞬間には酔っ払いの喉元をグローブのような大きな手で鷲掴み。そして、酔っ払いの身体を明後日の方角に投げ飛ばす!
「テヤッー!」
すると、酔っ払いの身体は天と地が逆さとなり、そのまま壁に激突!
バゴーン! ズルズルズル......
気付けば、酔っ払いは仰向けに倒れピクリとも動かない。余りの衝撃に、店が未だガタガタと揺れている。壁に穴が開かなかったのが奇跡にも思える。
「よし、マルコの勝ちだ!」
「2万ルーブル貰い!」
「なんだ、酔っ払いもうちょっと頑張るかと思ったんだがな」
誰もが酔っ払いの敗北を確信したそのときだった。
「◎?〃$★△♀!(待った、待った......まだ終わりじゃないぞ!)」
それは誰もが目を疑う光景だった。




