62.営業再開2
営業を再開しようとしたシロイは、巡視隊に放火被害の聴取をされています。
その途中で、店舗前の道にいた集団がキレています。
それは単純な勘違いだった。
有能な人材を確保するためのマッチポンプ。
魔道具工房に入るきっかけとしてそれを実体験していた彼らは、シロイ魔道具店の放火が同じことだと考えた。
巡視隊がその一角を担っており、今まさにシロイの作品を奪取しようとしている。
彼らの目にはそんな様子に見えており、それが自分の雇い主かもしれないという不安に怯えた。
より若く優れた人材が雇われ立場を追われる不安は、彼らを暴走させる。
自分が作れない作品を作ったシロイへの敬意がそのまま恐怖へと変わった彼らは、巡視隊に掴みかかった。
「お前ら、どこの指示だ!」
「なんのつもりだ、離せ!」
「ふざけんな、俺は辞めねぇぞ!」
「おい、割り込むな!」
「もう買い物できるのか!?」
通りにいた巡視隊の腕を掴み、突き飛ばされ、ぶつかって殴って殴られる。
周りにいた冒険者たちも喧嘩となれば黙っていない。祭り騒ぎだと、手近な相手を殴り飛ばす。
「テメェ前に俺の獲物横取りしたよなぁ!」
「取られたテメェが間抜けなんだろ!」
「ハーレムパーティとかふざけんな!」
「やっちまえ!」「おうよ!」「おうとも!」「やらいでか!」
「ちょっとまて君達! 集団は卑怯だばっ!」
ついでに日頃の憂さを晴らしている者がいるが、側から見れば暴徒の群れでしかない。
原因であるシロイは何が起きているのか分からず、突如暴れ出した群衆と対応する巡視隊に呆然としている。
しかもそのうちの数名は見知った常連客だ。
止めた方が良いのか、巡視隊に任せた方が良いのか、迷っているうちに手を引かれた。
引っ張られるままに店頭から離されて、開いた隣家の家へと引き込まれる。
「あ、ありがとうございます……ってムライさん? なんでお隣に?」
隣家の女性かと思って見たら、何故か巡視隊のムライが隊服姿で腕を掴んでいる。
そんな疑問符を重ねるシロイを他所に、通りでは喧嘩がヒートアップしていた。
日常茶飯事でキリが無いから「たかが殴り合い程度」では基本的に無罪です。
冒険者たちも分かっていてやっています。
ただし、巡視隊に殴りかかると公務執行妨害で私刑にされたりします。
それも「たかが殴り合い程度」の範疇となります。
このため、暴徒と巡視隊の乱闘に見えて何の罪もないという……異世界って怖いですね。