13.嫌いだった
「――ま…さ……と?」
そのまま眠ってしまっているようで、雅斗は頭を上げない。
なんで雅斗がここにいるかなんてわからない。
いつからいたのかさえ分からない。
どうして扉を開けなかったのかさえ…。
「…聞きたく…なかったのかな…?」
ふと思ったことで合点がいく。
あぁ、そうかもしれない。
だって、雅斗はもう私と関わりたくないんだもの。
それでも彼がここにいるのは――きっと彼が優しいからだ。
私がメールにずっと待ってると書いたから…。
心配して…。
酷いことを言われても…雅斗は私の好きになった雅斗のまま…。
ピクリとも動かないかれはどうやら本当に眠っているようで、微かに寝息が聞こえる。
起きていなかったことが嬉しいような…寂しいような…。
あぁでも、寝ているんなら――。
この気持ち、喋ってしまってもいいだろうか…?
たとえ雅斗が知らなくても…いい区切りになりそうだから…。
「初めはね、雅斗の事嫌いだった」
出会い初め。
あんなにも悪い出会いじゃなければよかったかもしれないけど…、あんな出会いだったから。
第一印象は最悪。
飛び交う噂。
居たくて一緒にいたわけじゃないのに、雅斗が私を特別に構うから、それに嫉妬した人達から嫌がらせもあった。
「放っておいて欲しかった。遊びなら」
あんな出会いだったから、本気で私の事思ってるなんて思わなかった。
雅斗が噂になっている子達と、私は全然違うタイプだったから、物珍しいのだと思っていた。
「雅斗が私に興味があると思ってなかったから。――珍しいんだと思った。あんな出会いをした私が。だから玩具にしたくて付きまとうんだと思った」
そう…思っていたの。
ずっと、ずっと…。
私自身が雅斗の事を決め付けていたの。
噂を鵜呑みにして、その本心を聞くこともなく。
…でも――。
「――でも…、カラオケに行った日。あの薄暗い部屋の中。煩い音の中。歌っていた雅斗だけが、私の変化に気付いてくれた」
ちょっと顔を伏せて、髪を耳にかけない…本当にそれぐらいの変化だったのに…。
「すごく…嬉しかったんだよ」
あの時初めて、雅斗が私を私としてちゃんと見ているんだって思った。
「それから…色々話すようになったね。雅斗と話すようになってから、雅斗が傍にいるのが普通になってきた」
それが当たり前だったから…気付かなかったの。
「私は自分の気持ちに気付かなかったの。雅斗と話すようになっても、雅斗と恋愛を結びつけることが出来なかった…だから自分自身に雅斗は友達だと言い聞かせた。だから…将のことも相談できると思ったの。あんなに…寂しそうな、辛そうな顔をされると思ってなかったの」
あの時少なからず衝撃を受けた。
雅斗の行動も。
雅斗の表情も。
「次の日――『関わるな』って言われたね…」
ありありと思い出せる。
あの時の衝撃も。
絶望も。
「もう…嫌いになっちゃったかな?」
ずっと…思っていたこと。
あの時、関わるなと言った時の雅斗の顔は、もう私を見たくないとそう言っていたから。
「それでも…その時に…、気持ちが分かったの。自分の気持ちが…」
例え嫌われていたとしても、伝えてしまいたかった。
言葉が外に出たがっているから。
「雅斗が――雅斗のことが……好き」
妙な達成感が生まれる。
雅斗は眠っていて聞いていないのに…、もうこれでいいと思える心。
「じゃぁ…行くね」
もう日は沈んでる。
きっともうすぐ昇降口も閉まるだろう。
雅斗のことは警備員さんが見つけてくれると思うし…。
そう思って私は雅斗に背を向けて立ち上がった――はずだった。
――ドンッ。
背中とお尻に鈍い衝撃が走る。
何が起こったのか…わからない。
私は立ち上がったはずなのに…何故座り込んでいるんだろう?
――雅斗の上に。
「ったく、言い逃げする気かよ」
耳元で…雅斗の声がした。