24 決着、そして
赤いオーラを纏った斧が、ジンに迫る。
ジンがその斧の軌跡を予測し、回避する。
最初の攻撃の応酬と変わらない展開。だがウォークライのバフを得た振り下ろしは、地面が割れるかと思うほどの衝撃をジンに伝えた。
(まともに受けるのは絶対に無し! 短剣で防御なんて考えるな!)
体勢を立て直すより早く、ゴブリングレートが斧を横薙ぎに振るう。
ジンは咄嗟に地面へ伏せた。
頭上を轟音が通過し、その先にあった細い木がへし折れる。
「洒落にならないな!」
伏せた姿勢から地面を蹴り、ゴブリングレートの脇を駆け抜けざまに短剣を振るった。狙うのは、先ほどもポイズンナイフで攻撃した右脚。
――短剣越しに返ってくる手ごたえは浅いが、それでも構わない。
ゴブリングレートが振り返るより先に、ジンは木々の間へ飛び込んだ。
(倒すために攻撃する必要はない。毒はもう入ってる。俺がやるべきなのは――死なないことだ!)
追ってくる足音。
ジンは倒木を飛び越え、太い幹の横をすり抜ける。ゴブリングレートも強引に追ってくるが、その巨体では同じようにはいかない。邪魔な枝を腕でへし折り、倒木を斧で砕きながら進むため、どうしても速度が落ちる。
その差を利用して距離を稼ぐ。
だが、いつまでも逃げ切れるほど甘くはなかった。
「グオオッ!」
「うおっ!?」
背後から飛んできた石が、ジンのすぐ横の木に激突した。
幹が大きく揺れ、木片が頬をかすめる。
(投擲攻撃も、そりゃあ相当な威力だよな!!)
続けて二つ目。
今度は軌道を見て横へかわす。
三つ目――は来ない。
(……フェイント!?)
気づいた時には、ゴブリングレートが倒木を踏み台にして跳び上がっていた。
「マジか!」
頭上から振り下ろされる、大上段の一撃。
左右では間に合わない。
ジンは前へ飛び込んだ。
背中のすぐ後ろへ斧が叩きつけられ、今度こそ本当に地面が割れた。ジンは受け身を取る余裕すらなく、地面を転がった。
「ぐっ……!」
恐らくだが、HPはたいして減っていない。シンプルに痛いだけだ。
すぐさま起き上がる。
視界の端では、地面に食い込んだ斧をゴブリングレートが引き抜こうとしていた。
(今なら視線を切れる!)
逃げるのではなく、ゴブリングレート後方の茂みに完全に隠れることを選択。
これで気配隠蔽が発動するはずだ。
そして息を殺しつつ、“観察”。
名前:ゴブリングレート
HP:3/10
状態:毒(中度)
(あと少し!)
だが、ゴブリングレートも自分が追い詰められていることを理解しているのか、先ほどまでのように闇雲には追ってこなかった。
荒い息を吐きながら斧を構え、ジンのいる方向を睨みつけている。
(気配隠蔽は発動しているはずなのに……!)
そしてそのまま、ドスドスとゆっくり近づいてくる。
毒による消耗と暴れ続けた疲労のためか、ゴブリングレートの肩は大きく上下し、右脚もわずかに震えている。
それでも、その目から戦意だけは消えていない。
「……いいな」
気配隠蔽は効いていないと考えたほうがいい。
ジンは覚悟を決めて立ち上がり、息を整えながら短剣を握り直す。
「ゲームじゃHPが減ったって動きは変わらなかったけど……生きてるなら、そうなるよな」
ゴブリングレートが一歩踏み出した。
わずかによろめくが、次の瞬間には雄叫びを上げ、斧を構えて走り出した。
遅い。
最初と比べれば、明らかに遅い。
だからこそジンは逃げなかった。
斧が振り下ろされる瞬間、最小限の動きで斜め前へかわす。
そして、一閃。
短剣がゴブリングレートの脇腹を切り裂き、そのまま走り抜けた。
ゴブリングレートは……追ってこない。
「“観察”」
名前:ゴブリングレート
HP:1/10
状態:毒(中度)
「グ……オオ……」
ゴブリングレートは斧を杖代わりにして、再び立ち上がろうとしていた。
ジンはそれを見て、短剣を構え直す。
毒で待てば勝てる。
当然わかっているが、だからこそ最後まで油断はしない。
正面のゴブリングレートが、斧を持ち上げた。
(この距離で振り下ろし――?)
そう疑問に思った瞬間だった。
「グオオオオオオオッ!!」
「なっ!?」
ゴブリングレートが、斧を投げた。
間違いなく、ジンに油断も慢心もなかった。
だがそれは、極限状態におけるEWOプレイヤーとしてのジンの限界でもあった。
EWOのゴブリングレートは、武器を投げることなど絶対にないのだから。
回転しながら飛来する巨大な石斧を前に、ジンは考えるより先に地面を蹴った。
石斧が服の端を掠め、そのまま後方の木へ激突した。
石斧が轟音と共に木を2本ほどへし折り、3本目の木に深々と突き刺さる。
(危な――)
安堵しかけた瞬間、地面を蹴る音が聞こえた。
「――ッ!」
目の前に、ゴブリングレートがいた。
斧を投げたのは攻撃のためではない。
ジンに回避させるため。
その一瞬で距離を詰めるためだ。
(こいつ……!)
ゴブリングレートが腕を広げていた。
勢いだけ見れば、最初に木々をまとめてなぎ倒したぶちかましに近い。
だが今度はかわすための余裕がない。
回避直後で体勢も崩れており、右にも、左にも、間に合わない。
「だったら――!」
ジンは短剣を握り締め、前へ出た。
(真正面から受ければ死ぬ! なら、当たる前に――!)
狙うのは胸でも腹でもない。
そんな場所を短剣で切ったところで、この巨体は止められない。
今度こそすべてを見逃すまいと、ジンは全神経を集中させる。
肩の動き。
踏み込む脚。
わずかに傾く上体。
そして――首。
「そこだ!!」
激突する寸前、ジンは身体を半歩だけ横へずらした。
完全にはかわせない。
ゴブリングレートの肩がジンの左腕を掠める。
「ぐっ――!」
凄まじい衝撃に左腕が弾かれ、身体ごと持っていかれそうになる。
だが、踏みとどまった。
そして交差する一瞬、短剣をゴブリングレートの首筋へ叩き込む。
「――ッ!!」
刃が肉へ食い込み、そのまま巨体の勢いに引っ張られ、短剣が首筋を深く切り裂いていった。
それでもなお、ゴブリングレートは止まらない。
ジンも勢いに巻き込まれ、地面を何度も転がる。
「いっ……てぇ……!」
全身を打ちつけながら、それでもすぐに顔を上げた。
ゴブリングレートは数メートル先にいて、立っている。
いや、立とうとしていた。
一歩、もう一歩とジンへ向かおうとして――膝が折れる。
巨体が地面へ沈んだ。
――レベルが13になりました。
――スキル“気配探知(小)”を取得しました。
頭に声が響き、ランダムドロップである宝箱が出現したことからおそらく討伐だろうが、ジンは念のため“観察”で確認をする。
名前:ゴブリングレート
HP:0/10
状態:死亡
「やった……勝てた……!」
そこまで確認して、死と隣り合わせだった状況から解放されたことを理解したジンは、大きく息を吐く。
「こいつの攻撃力と耐久力、それに行動……どれもゲームの中じゃ考えられないくらいの強敵だった」
戦闘を思い出して、正直終盤は紙一重の場面が多かったものの、行動自体に大きなミスがなかったことを自分でほめてやりたかった。
そう考えながらも、ジンは自分の視野が広がっていることに気がついた。振り返らずとも自分の背後に何がいるのかわかる。まるで見えているかのような、不思議な感覚だ。
「これが気配探知……すごいな。自分の頭にレーダーでも埋め込まれたみたいだ」
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気配探知(小)【Pスキル】
半径10メートル以内の敵の位置が
マップに表示される。
気配隠蔽(小)を無効化する。
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EWOでの“気配探知(小)”はマップに赤い点として、敵の位置を表示するスキルだった。
だがこの世界では常に表示されているマップなどありはしない。そのためこのようなスキルの挙動になったと思うのだが、この感覚に慣れるには少し時間がかかりそうだ。
「さてさて、周りに敵もいないようだし、早速ドロップ品を……」
と呟きながら宝箱を開けようとしたその時、ゴブリングレートのいる方向に気配探知が反応した。




