23 ゴブリン侵攻戦⑥
カウンターを決めたが、ゴブリングレートの手には目に見える傷がない。
“観察”のおかげで、なんとかダメージを与えていることを把握できるだけだ。
ゴブリングレートは短剣が叩きつけられた手を少しさすると、再び斧を持ち直して突進を仕掛けてきた。
「よっと」
ジンは軽く声を漏らしながらサイドステップ。ゴブリングレートはその力に任せた直進的な攻撃が多い。
それ故に簡単にかわせる。予想通り空を切った斧をゴブリングレートは素早く戻し、再び突撃してくる。
その単調な攻撃が2度、3度と繰り返されるが当然のようにかわし、カウンターを合わせていく。
一見順調に見えるその攻防の中、余裕の表情を崩さないジンであるが警戒心を高める。
(行動はEWO通りだが、初撃以降は攻撃速度が落ちている気がするし、反撃を恐れてか腕の戻しも速い。あれくらいのダメージならまだ警戒する段階でもないと思うのだが……?)
そうして4度目の突撃。ジンもこれまでと同じように回避を始めようとするが、ゴブリングレートの表情を見て即座に行動を切り替えた。本能の赴くままに反対方向へ全力疾走。
(何かわからんがやばい……!?)
ふと後ろを見ると、ゴブリングレートはその斧を振り下ろさずにそのまま大地を蹴って加速。
ジンが今まで避けていた方向に、大きな体が砲弾のように飛んでいく。その勢いのまま、行き先の木を3本ほどなぎ倒した。
その光景に、さしものジンも顔を青くする。
(実際に見たことはないが、自動車の衝突だってもう少しマシだろう!?)
人間では決してありえない筋肉と巨体、そして速度から繰り出されたぶちかましの威力に絶句してしまう。討伐方針を変更せざるを得ない。
(仕方ない、最初から安全策で行くしかないか)
ジンは短剣を構えて、ゴブリングレートに肉薄する。奴は頭に落ちてきた木の葉を顔を振って取り払っている。今がチャンスだ。
「“ポイズンナイフ”!」
ジンが声を出すと同時、短剣に紫色の光が宿る。そのままゴブリングレートのふくらはぎを傷つけつつ、側面に走り抜ける。
「“ポイズンナイフ”!」
ゴブリングレートがジンの攻撃に気づき、脚を後ろへ蹴り上げる。それを走る勢いのまま回避し、無防備な右腕に向かって短剣を振る。
血こそ出ないが確かな手応えと共に、ほんの少しだけゴブリングレートが唸る。さらなる反撃も走り去る勢いで回避し、森の中に飛び込んだ。
「さてさてどうかな……“観察”」
ゴブリン弓兵の時と同じように、茂みに姿を隠して移動しながら、ゴブリングレートを見つめる。頭には新しい情報が流れてきた。
名前:ゴブリングレート
状態:毒(軽度)
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ポイズンナイフ 【Aスキル】
【要:短剣装備】
短剣に毒をまとわせた一撃。
相手を確率で毒状態にする。
何度も攻撃すると、毒の深度が増すことがある。
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ゴブリングレートがジンの間近に迫るが、やはり見つけられないようだ。木をなぎ倒す勢いで斧をぶん回すその表情には、明確な焦りが見える。
(どうやら毒を受けたことに気がついたらしいな)
魔法あるいはスキルによって受けた毒は、自然治癒しない。回復には毒消し薬か、回復系の魔法あるいはスキルが必要になる。
それ故に毒の発生確率はそこまで高くないのだが、今回はたった2撃でかかってくれた。
もともとゴブリングレートに毒に対する耐性が無いこと、ゴブリングレートに回復用のスキルがないことを、EWO廃人のジンが知らないはずがない。
(これでもゲーム内時間で20分くらい経てばHPが0になると思うが……)
ゴブリングレートが背中を向けた際に、さらにジンは動き出す。
「“ポイズンナイフ”!」
がら空きの足首を再度傷つける。おそらくバックアタックも成立しており、腕の時と比べて肉を切る感触が強い。
「グオオオオ!!!」
身がすくむほどの咆哮を上げて、ゴブリングレートが素早く腕を振りながらジンに向き直る。ジンは既に間合いを外れており、再度茂みの中に飛び込むように移動した。
しゃがみ、移動しながら再び相手の様子を“観察”する。
名前:ゴブリングレート
状態:毒(中度)
(よし!!)
ジンは心の中でガッツポーズをした。毒の深度が上がったことで、持続ダメージも増える。EWOと同じなら毒のダメージは倍。よって討伐までの時間もおよそ半分に縮んだ。
(このまま逃げ続ければ討伐もできるが……まあそう簡単にはさせてくれないよな)
ゴブリングレートはジンの飛び込んだ茂みに向かって突進。先ほどよりも強く斧を振り回した。あっという間に木々はなぎ倒され、広場が少しずつ広がっていく。
悪いことに偶然か必然か、ゴブリングレートはジンの逃げている方向に向かって開けた場所を広げ始めた。このままでは10秒を待たずして奴に見つかってしまう。
「“ものをぬすむ”!」
ジンは姿勢を可能な限り下に落としながら、ゴブリングレートに正面から接近。
短剣で足を傷つけつつぬすみ、そのままその大きな股下から背後に向かって走り抜けた。ものをぬすむを使った右手には、何かをつかんだ感触があった。だが今は、確認している暇も余裕もありはしない。
ポーチにねじ込んで全力疾走あるのみだ。
「グオオオオ!!!!」
再び叫んだゴブリングレートを尻目にジンはまたも茂みに飛び込む。
脳筋のゴブリングレートもジンの戦法を理解したのか、ジンが茂みに飛び込むのとほぼ同時に、全速力で追いすがる。
「やっぱ学習能力があるな……!」
ここまで明確に姿を捉えられてしまっては、気配隠蔽だけでどうにかなるものではない。
茂みに飛び込んだ瞬間は相手から丸わかりであり、気配隠蔽は姿を完全に隠すスキルではないからだ。
「ここからが、本当の正念場だな……!」
ジンは短剣を構え、全てに対応できるように集中力を高めていく。
ゴブリングレートもまた、己の戦意を力に変えるため、大きく息を吸った。
「オオオオオオッッ!!」
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ウォークライ 【Aスキル】
恐れを知らぬ戦士の咆哮。
一定時間、自分と仲間の
物理攻撃力が上がる。
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ゴブリングレートに、薄紅色のオーラがかかる。
ゴブリングレートが使える唯一のAスキル、ウォークライの効果を示すものだ。
その効果時間は、ゲーム内時間で10分。
(クリティカルどころかバックアタックで即死……! 緊張感のある勝負は嫌いじゃないぞ!)
ジンの口角が、無意識に上がる。
ゴブリングレートはなにも答えずに、突撃をもって答えた。




