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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部二章 遺物三都
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1/ベイアナット -10 放浪の物語

 翌朝、俺たちは、再びウガルデのギルドを訪ねていた。

 朝っぱらから赤ら顔の冒険者は、さすがに多くない。

 それでもいることはいるのだから、他にすることはないのかと思わず心配になってしまう。


「──よう、あんたら。ヤーエルヘルもちゃんと眠れたか?」


 ヤーエルヘルが元気よく答える。


「眠れました!」


「元気そうで何よりだ。んじゃ、さっさとパーティ登録しちまうぞ。パーティ名は決まったか?」


「ああ」


 ヘレジナが頷き、答える。


「〈ワンダラスト・テイル〉とした」


放浪の物語(ワンダラスト・テイル)──なかなかいい名前じゃねェか」


「ふふん。そうだろう、そうだろう」


 案を出したのが自分だからか、ヘレジナはすこぶる得意げだ。

 用紙にパーティ名を書き留めながら、ウガルデが続けて尋ねる。


「代表者とパーティメンバーの名前も頼む。仮の登録証を作らないとなんねェからな」


「ふむ。代表者は私で構わんか?」


「それが無難だろ」


「あちしもそう思いまし」


「へ、ヘレジナ、お願い……ね?」


「わかりました。代表者、謹んで拝命いたします」


 プルに一礼したあと、ヘレジナがウガルデへと向き直る。


「では、代表者はヘレジナ=エーデルマンで頼む。メンバーは──」


 ヘレジナがこちらを振り返る。


「ヤーエルヘル=ヤガタニでし」


「鵜堂──いや、カタナ=ウドウで頼む」


 こちらのほうが通りがいいだろう。


「わ、わたしは、プルク──」


 言い掛けて、プルが慌てて口をつぐむ。

 こんなところで本名を名乗れるはずもない。


「どうした?」


 ウガルデが怪訝そうに顔を上げる。


「──…………」


 明らかに主従関係が見えるヘレジナより、俺のほうが妥当か。


「こいつは、プル=ウドウだ。それで登録してくれ」


「ほう?」


 ウガルデが無精髭の生えた顎を撫でる。


「……どう見ても血は繋がってねェな」


「複雑な家庭環境なんだよ。察してくれ」


「なるほどな。まあ、深くは聞くまいよ」


 ウガルデが用紙にペンを走らせる。

 よし、通った。


「……カタナさんとプルさん、兄妹だったんでしか?」


「そ、そそ、そうなの……?」


「おお、親愛なる妹よ」


「お、お兄さま……!?」


 プルが混乱している。

 混乱するな、このくらいで。


「この登録用紙を遺物三都ギルド連盟に送れば、登録証が送り返されてくる。この登録証は身分証明書としても使えるから、絶対に紛失すんなよ。登録証が届くまで二日はかかる。それまでは仮の登録証で働いてもらうわけだが、仮だと大した仕事は任せらんねェ。まあ、肩慣らしだと思って気楽にやんな」


「了解した」


「んじゃ、ワンダラスト・テイルの初仕事は──」






「配達依頼、か」


 ヤーエルヘルの誤解を解きつつギルドを出たあと、俺たちはギルド連盟ベイアナット支部から荷物を受け取り、ベイアナットとロウ・カーナンとの国境にある貴族の屋敷へと向かうこととなった。

 カナン遺跡群から離れると、途端に人工物がまばらとなる。

 国境線を表わす城壁ばかりが延々と続き、轍の深く刻まれた粘土質の道が、ここではないどこかへと伸びていた。


「楽な仕事で気分がいいな。こんなんで金もらえんのか」


 既に二時間ほど歩いているが、こんなの散歩同然だ。

 往復で四時間強と考えるとそれなりの拘束時間ではあるのだろうが、元の仕事に比べると天国以外の何物でもない。


「配達依頼で百シーグル。仮登録なら悪くない額だと思いましよ」


 プルが深呼吸をする。


「──ひ、陽射しが気持ちいい、……でっす。これなら、お、お弁当、作ってきてもよかった、……かも」


「確かに。水と干し肉だけじゃ、ちょっと味気ないかもな」


「へ、……ふへ。こ、今度、そうするね。また、配達依頼が来たら……」


「楽しみでし!」


 巨大な荷物を背中で揺らしながら、ヘレジナが呆れたように言う。


「皆、気が抜けているぞ。いつなんどき悪漢が我々の届け物を奪いに来るかわからないのだ」


「届け物、つってもなあ……」


 手に提げた包みに視線を落とす。


「どこの誰がこんなん、わざわざ奪いに来るんだ」


 荷物の中身は手作りのクッキーである。

 配達先であるルルダン二等騎士の母親が、息子のために焼いたクッキーらしい。

 年老いて足腰が弱くなり、長時間歩くことが困難となったため、やむなくギルドに依頼したのだそうだ。

 同居すれば万事解決だと思うのだが、人には人の事情がある。

 詮索するのは野暮というものだろう。


「今回は手作りクッキーであったとしても、次回もそうとは限らない。油断せず気を張る癖をつけておかねば、いざという時に一手遅れかねん」


「一理はあるけどさあ」


「気を張りすぎると疲れてしまう気がしまし」


「呼吸のように自然に行えるようになればよい。事実、私の師匠はそうであった」


「──…………」


 ルインライン=サディクル。

 その名前は、俺たち三人の心に、深く、深く、刻まれている。


「……?」


 俺たちのあいだに流れる微妙な空気に気が付いたのか、ヤーエルヘルが小首をかしげた。


「どうしたんでしか?」


「あー……」


 ルインラインの名前さえ出さなければ、いいか。


「ヘレジナの師匠って、すごい剣術士だったんだよ。ただ、最近亡くなっちまってな」


「そう、でしたか……」


 遠くを見るように、プルが口を開く。


「強くて、や、優しくて、誰より敬虔なひと、……でした。で、でも、わたしは、好きだった」


「……あんなことがあったのに、か?」


「だって……」


 プルが、苦笑しながら目を伏せた。


「……わ、わたしが、望んだことでも、あったから」


「──…………」


 ヘレジナが、わざと明るく言った。


「すまんな、ヤーエルヘル。少々辛気くさくなってしまった」


 ヤーエルヘルが胸の前で両手を振る。


「そんな、気にしないでくだし。みんな、つらいことを抱えてるんだって知ったら、すこし楽になりましたから」


「そうか」


 ヘレジナが、ふ、と微笑む。

 なんだかんだ言いつつも相性の良さそうな二人だ。


「──なあ。配達先の家って、あれじゃないか?」


 俺は、遠くに見えてきた豪奢な屋敷を指差した。


「おっきい家でしねー……」


「……? そ、そう?」


「おっきくないでしか?」


「あ、わ!」


 自分の失言に気付いたのか、プルが慌ててフォローを入れる。


「え、っと、その! ぱ、パレ・ハラドナには、立派なお屋敷、た、たっくさーん、あったから!」


「へえー」


 ヤーエルヘルが、興味深げに頷いた。


「そうなんでしか。さすが皇巫女の国でしね!」


「──…………」


 目の前にいるのがその皇巫女だと知れば、ヤーエルヘルはどんな顔をするだろう。

 試してみたい衝動に駆られつつも、目的地はすぐそこだ。

 残りくらいは、ヘレジナの言う通り、気を張って歩いてみることにしよう。

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