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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部二章 遺物三都
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1/ベイアナット -9 歓迎会

「め、召し上がれー……」


 粗末な木の食卓の上に、香り立つ料理の数々が所狭しと並べられている。


「すっげ。めちゃくちゃ豪勢じゃん」


「こんなごちそう、初めて見たかもしれないでし……!」


「や、ヤーエルヘルの歓迎会と、か、かたなの、快気祝い……。ふへ、へ」


「ありがとうな」


「ありがとうございまし!」


 プルが、てれてれとほっぺたを両手で包む。


「ふふん。プルさまは、治癒術だけでなく料理の腕も天下一品である。皆の者、身に余る光栄に震えながら食すがいい」


「そ、そこまでじゃない、……から、ね?」


「持ち上げ過ぎてもプルが困るだろ」


 プルが、うんうんうんと何度も頷く。


「そ、そうでしたか。それは失礼を……」


「いいから、ほら。いただきます」


 しっかりと手を合わせ、フォークを手に取る。

 サンストプラには、いわゆる〈いただきます〉の概念がない。

 各自が勝手気ままに食べ始めるのが普通らしいのだが、


「ああ、いただきます」


「い、……いただき、ます」


 俺がしつこく繰り返していたら、いつの間にかプルとヘレジナも言うようになっていた。


「……?」


 そんな俺たちを見て、ヤーエルヘルが不思議そうに小首をかしげる。


「プル。フルルカを使った料理ってどれだ?」


「し、シチューと、タンナータ……でっす。お、大きく切ったから、わ、わかりやすいかなって」


「なるほど、タンナータね」


 テーブルの上を視線でなぞる。


「タンナータってどれだ……」


「こ、これ」


 プルが、アヒージョにも似た料理を指差す。


「に、肉と、ね。果実を、豚脂で煮て、いろいろした料理……」


「いろいろ」


 工程が多くて、言葉で説明するのが大変なんだろうな。


「じゃあ、豚肉料理か」


「と、豚脂は別に買えたから、こ、今回は、山羊肉でっす……。く、癖のあるお肉だけど、果実で臭みは取れてる、……はず」


 タンナータを大皿から取り分ける。

 ごろんと大きな具材の中に、黄色いものを見つけた。


「お、フルルカ」


「う、うん。どうぞ」


 フルルカにフォークを刺し、口へと運ぶ。

 最初に感じたのは、果実を煮込んだラードの爽やかな甘み。

 フルルカを噛み締めると、口の中でほくほくと崩れた、

 その食感と味は、カボチャの煮物とよく似ている。

 なんだか懐かしい味だった。


「ほー、火を通すとこうなんのか」


「ど、……どう?」


「美味い。俺の故郷だと、ジャム作る以外で果実を煮るって発想があんまないんだけど、甘さと塩気のバランスがちょうどよくていいな。豚の脂で煮てるくせに、ぜんぜん脂っこく感じないし」


「よ、よかったー……」


 プルが、ほっと胸を撫で下ろす。


「フルルカも、これいいわ。生で食うより好きかも」


「ふ、ふへへ、へ……」


 嬉しそうなプルの姿を見ていると、こちらまでほっこりする。


「──おいしいでし! おいひいでし……!」


 賛美の声を上げながら、ヤーエルヘルがプルの料理をがつがつと食べ進めていく。


「ああ、ほら。頬に跳ねているぞ」


 ヘレジナが、懐から取り出したハンカチで、ヤーエルヘルの頬を拭う。


「むい」


「料理はどこへも行かん。誰も取らん。だから、ゆっくり食べるのだぞ」


「はい……」


 微笑ましい光景だ。

 料理が残り僅かになったころ、ヘレジナが口を開いた。


「──ああ、そうだ。パーティ名を決めねばならんな」


「そうだった」


 遺物三都に滞在しているあいだだけとは言え、自分たちで名乗るものだ。

 納得の行くものにすべきだろう。


「実は、密かに考えてみたのだがな……」


「どんなのでしか?」


 ヘレジナが立ち上がり、右手を握り締めて言う。


「〈ハラドナの誇り高き黒き風〉、というのはどうだろう!」


「──…………」


「──……」


 プルとヤーエルヘルが顔を見合わせた。


「……やっちまったな」


「何をだ!」


「だって、なあ?」


 二人に同意を求める。


「……そ、その。長い、……かも?」


「ヘレジナさんとプルさんは、パレ・ハラドナの出身なのでしか?」


「そうだ。秘密だぞ」


「公然と名乗ってるじゃねえか」


「ぐぬ」


「ぱ、パレ・ハラドナを連想させるのは、ちょ、ちょっと、危ないかも……」


「……仕方がありません。では、〈誇り高き黒き風〉で妥協いたしましょう」


「それもどうなのよ」


「ええい! 文句があるなら代案を出すがいい!」


「そうだな……」


 顎に指を当て、しばし思案する。


「やっぱ、罪とか血とかは入れたいよな」


「え、な、なんで……?」


「カッコいいじゃん」


「そうでしかね……」


「──よし、〈狂乱の戦血〉ってのはどうだ」


「どうしてそう血生臭いのだ……」


「え、カッコよくないか?」


「まあ、カッコいいが」


「──…………」


「──……」


 プルとヤーエルヘルが、何か言いたげにしている。


「なんだよ……」


「え、えと! や、や、ヤーエルヘル。ほ、他のパーティって、どんな名前、なの?」


「そ、そうでしね!」


 思い出し思い出し、ヤーエルヘルが答える。


「え、と。出身地が揃っていれば、出身地をパーティ名に組み込むことが多いみたいでし。アーウェン出身だから〈アーウェンの子守歌〉とか、カイオス城の門番だったから〈カイオス・ゲート〉とか」


「ほら」


 ヘレジナが得意げに胸を張る。


「今日までお世話になってたハイゼルさんのパーティは、〈誉れ高き銀の刃〉という名前でした」


「──…………」


 そして沈黙する。


「……〈誇り高き黒き風〉は諦めるとしよう」


「それがいい」


 印象が悪すぎる。


「二人はなんかあるか? 名前そのものじゃなくても、アイディアとかでもいい」


「ご、ごめん、……なさい。なにも考えてなかった、……でっす」


「あちしも……」


「で、でも! 出身地を入れるひとがいるなら、わ、わたしたちも、共通点とか……」


「なるほど、共通点か」


 当然、出身地は論外だ。


「性別は俺だけ違うし、年齢もバラバラ。役割も、剣術と魔術とで綺麗に分かれてる。こう、ビタッと来る共通点はないな……」


「た、誕生日とか、どうかな。近ければ、……だけど」


「誕生日」


 ふと、疑問がよぎる。


「そもそも、この世界の一年って、何日なんだ?」


 ヘレジナが答える。


「三百六十日だ」


「きっかり?」


「きっかり」


「……俺の誕生日、七月三十一日なんだけどさ。暦にある?」


「三十一日、でしか……」


「サンストプラの暦は、季節ごとに前節、中節、後節とに分かれていて、それぞれが三十日となっている。暦を、新年である冬から数えるとすると、カタナの誕生日は夏の前節と中節とのちょうど中間となるな」


「なるほど」


 逆算すると、こちらの世界で言う一月から三月までが冬、四月から六月までが春、七月から九月までが夏、十月から十二月までが秋であるらしい。


「……つーか、今ってどの月の何日なんだ? 俺の世界では春先だったんだけど」


「ええと、春の中節、二十二日だったと思いまし」


「あ、暦はわりと揃ってるんだな」


 こちらの暦に変換すると、五月二十二日といったところだろう。

 ヘレジナが呆れたように言う。


「そんなこともわからずに旅をしていたのか……」


「仕方ないだろ。最初にいたのが流転の森で、季節感もクソもなかったんだから」


「こ、暦のこと、話題に上がらなかったし……」


 ヤーエルヘルが目をまるくする。


「流転の森って、たしか、パラキストリの東にある神人大戦時の要害でしよね。あんなところに入って、よく無事でしたね……」


「ほう、詳しいではないか」


「あちしの師が、よく聞かせてくれたのでし。筋金入りの旅人で、世界中行ったことのない場所はないっていつも自慢してましたから」


「──…………」


 ヤーエルヘルの言葉を受けて、プルが呟くように口を開いた。


「旅……」


「旅?」


「わ、わたしたちの共通点。旅人、……ってことかも。みやぎに行くまで、だけど」


「みやぎ、……でしか?」


「ああ、俺の実家があるとこ。異世界だよ」


「あー」


「み、みやぎに行って、おこめつくって暮らすの。ふへへ……」


「なるほど。では、旅か、旅に近い意味の単語を組み入れてみましょう」


「あ、そうでしね!」


「……血は誰にでも流れてるぞ」


「やめんか」


「誰しも罪を抱えながら生きている……」


「だから、やめんか。私も黒き風を諦めたのだから、お前も諦めろ」


「人の足を引っ張るのはよくないと思いまーす」


「貴様!」


 そんな感じでわいわいと騒ぎながら、夜は更けていった。

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