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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部二章 遺物三都
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1/ベイアナット -7 爆砕術

 所持金は僅か。

 だが、取らぬ狸の皮算用で、日持ちのする食材をたっぷり買い込んでしまった。


「わ、わたし、仕込みに入りまっす……。や、ヤーエルヘル、がんばって!」


「はい!」


 ぱたぱたと手を振りながら平屋へ入ろうとして、


「──ふぎゃん!」


 段差に足を引っ掛け、プルが派手に転倒する。

 なるほど、今日はピンクか。


「だっ! だだだ、大丈夫でしか……!」


 ヤーエルヘルが、慌ててプルを抱き起こしに行く。


「ら、らいりょぶ、だいじょうぶ……」


 プルがいくら転んでも平気な理由は、奇跡級の治癒術にある。

〈転ぶ!〉と思ったら反射的に治癒術が発動するらしく、怪我をする前から治癒に入るので、そもそも大して痛くもないのだと言っていた。

 忠実な従者であるヘレジナも、助け起こす際は怪我の心配よりまずスカートを直すことを優先するので、脊髄反射の治癒術への信頼度が窺い知れる。

 ヤーエルヘルに気遣われながら、プルが扉の向こうへ消えていく。


「では──」


 ヘレジナが、ヤーエルヘルへと向き直る。


「ヤーエルヘル、お前の実力を見せてもらいたい。お前はいったい、何ができる。師に何を教わった?」


 軽く唾を飲み込んでから、ヤーエルヘルが答える。


「あちしは、徒弟級の魔術士でし。専門は爆砕術でし」


「……?」


 ふと疑問が湧いて出た。

 俺の様子に気が付いたのか、ヘレジナが解説を入れてくれる。


「爆砕術とは、火法系統、炎術の応用魔術だ。火薬との相似魔術と言えば、カタナにも伝わるだろう」


「──ああ、いや。そっちはわかる。言葉の響きでな」


「では、何を疑問に思ったのだ?」


「この世界の人らって、ほとんど全員魔術が使えるんだろ。なのに、わざわざ魔術士って分類を作ってる。それが不思議だったんだよ」


「そういうことか」


 小さく頷き、ヘレジナが答える。


「一般人が日常生活を送るためには、炎術、灯術、操術があれば事足りる。魔術士とは、それ以外の専門性の高い魔術を扱う人間のことを指す。プルさまは治癒術士だが、広義の魔術士でもある」


「あー、なるほどな」


「?」


 今度はヤーエルヘルが小首をかしげる番だった。


「この世界──でしか?」


 特に隠す理由もない。


「俺、このサンストプラの人間じゃないんだよ」


「サンストプラ以外にも世界があるんでしか……」


「あるみたいだな。実際、詳しいことは俺にもわかってないけども」


 パン、パン。

 ヘレジナが両手を打ち鳴らす。


「お喋りは後だ。ヤーエルヘル、お前の魔術を見せてみろ」


「はい……」


 ヤーエルヘルが、数瞬ばかり目を閉じ、意識を集中させる。

 そして、


「はッ!」


 右手の人差し指と中指とを揃え、数メートル先に落ちていた小石へと向けた。

 指先から放たれた火花が、パチパチと爆ぜながら一直線に走る。

 火の粉が触れた瞬間、


 ──ボンッ!


 小石が弾け、粉々になった。


「おー」


 炎術以外の攻撃魔術って、初めて見たな。


「ふむ」


 ヘレジナが頷き、言葉を継ぐ。


「では、次に威力と精度を測る。可能な限り遠くの標的を、可能な限りの威力で爆砕してみろ」


「えと」


 ヤーエルヘルが、戸惑いながら言う。


「いまのが精一杯だったのでしが……」


「……んえ?」


 ヘレジナが間の抜けた声を上げた。


「しみません、徒弟級でしので……。威力は上げられるのでしが、そうすると、どこへ飛ぶのかわからなくて」


 ヘレジナが、呟くように言った。


「……早まったか……」


「ごめんなし……」


 雲行きが怪しくなってきたな。

 俺にも責任があるし、ここは助け船を出しておこう。


「いや、十分だろ。まともに食らえば骨折くらいはする。強力過ぎても使いどころなんざないし、攻撃手段が一つ増えたくらいに考えようぜ」


「対人かつ不殺(ころさず)という条件であれば、威力は適切であろう。問題は、精度だ。魔術有利の原則という言葉を聞いたことはあるか?」


「あると思うか?」


「思わんな。魔術士と剣術士が真剣勝負を行った場合、ほぼ確実に魔術士が勝利を収める。理由は攻撃範囲だ。魔術士が距離を取って戦えば、剣術士は無力だ。カタナが私と手合わせした場合、十本のうち一本は取れるかもしれない。だが、私が銀琴を持って百歩先から攻撃を仕掛けてきたら、どうなる?」


「死ぬ」


「魔術士に真に必要なのは、攻撃精度なのだ。威力は二の次でいい。十歩先の小石にしか確実に当てられないようであれば、役には立たん」


「──…………」


 ずうん。

 そんな声が聞こえてきそうなほど、ヤーエルヘルが落ち込んだ。


「あのウガルデという男、酷なことをする。無力な子供を冒険者に仕立て、わざわざ危険に晒すとは……」


 ヤーエルヘルが、ヘレジナの目をまっすぐに見据えた。


「あちしが弱いのは、あちしの責任でし。ウガルデさんは、あちしの意思を汲んでくれただけでし。悪く言わないでくだし……」


「……すまん」


 ヘレジナが、存外素直に謝った。


「だが、足手まといは要らん。これは意地悪で言っているのではない。私たちに回ってくるのは、恐らく、高難度の仕事だろう。実力が離れていることは、お前自身を危険に晒すことに他ならん。自分の命は自分で守らねば、すぐに失ってしまうぞ」


 場の空気が重くなる。

 ヘレジナが案じているのは、ヤーエルヘルの身だ。

 だからこそ、厳しい言葉で諦めろと言っている。

 だが、それはそれで性急過ぎる。


「待て待て。ヤーエルヘルにしかできない役割がある。それを吟味してからでも遅くないだろ」


「!」


 ヤーエルヘルが目を見張る。


「そ、それは、どんな役目でしか……?」


「プルの護衛だよ」


「!」


 俺の言葉を聞いたヘレジナが、瞠目して頷いた。


「そうか……!」


「プルは奇跡級の治癒術士だ。内臓が焼け焦げたって、生きてるうちは治せる。でも、プルには攻撃手段も自衛手段もない。脊髄反射の治癒術にだって限界があるだろ。冒険者をやるって話になってから、その点はずっと気になっててな。だから、ヤーエルヘルの加入はちょうどいいって思ってたんだよ」


 ゲームで得た経験や知識も案外役に立つものだ。


「カタナの言う通りだ。私は、ヤーエルヘルの能力ばかりを見て、パーティ内での役割分担のことを考えていなかった……」


 ヘレジナが、ヤーエルヘルに深々と頭を下げる。


「足手まといだなどと言って、すまなかった。プルさまを守る役目を頼めるだろうか」


 自分の非を認めて素直に謝れるのは、ヘレジナの長所だ。


「そんな、頭を上げてくだし! あちしが役に立てるのなら、嬉しいでし……!」


「感謝する」


 顔を上げたヘレジナが、こちらを見た。


「カタナも、ありがとう。不用意にプルさまを危険に晒すところであった」


「パーティなんだから、誰かが気付けばいいんだよ。俺の頭が働いてないときに、いいアイディアの一つも出してくれればそれでいい」


「そうか」


 ヘレジナが薄く微笑む。


「この感謝は、私の持てる限りの技術をカタナに叩き込むことで示そう」


「うげ」


「枝を持て」


 ヘレジナが、短剣の長さに整えた二本の小枝を拾い上げる。


「ヤーエルヘルよ。せっかく仲間になったのだ。話の種に、特等席で見物していけ。奇跡級の剣術士同士の模擬戦というものを」


「はい!」


「……プルに心配かけない範疇でな」


 呟きながら、俺は、愛用している一メートル少々の長さの枝を拾い上げた。

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