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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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4/ジランブ・モア -20 最終調整

「──コレヨリ、フラスネイオン式ワイヤレス魔術伝送装置〈オクルくん〉の最終調整を執り行ウ!」


「おおー」


「いいぞー」


 皆が、なんとなく拍手を送る。


「マズ、コチラが受信機デアル。助手カタナ、装着スルノダ!」


 ハレに手渡されたものは、半球状の半輝石《セル》が取り付けられたベルトだった。


「ベルトか。治癒術とは相性いいかもな」


 なにせ、人体の中央だ。

 仮に腕輪型であったとすると、治癒術の効果が、別の末端などの遠い場所には現れなくなるかもしれない。

 素人考えだが、そんなことを思った。


「ソシテ、コチラが送信機とナル!」


 ハレがごそごそと取り出したものは、一辺が二十センチほどの立方体のてっぺんに、こちらも半球状の半輝石《セル》が取り付けられた機械だった。


「コイツに治癒術を使えば、効果がカタナに及ぶっつーわけだな」


「ソノ通りダ、助手アーラーヤ!」


 ハレが、送信機の半輝石《セル》に触れながら、言う。


「原理は単純デアル。電力でアレバ電線というケーブルにて送電デキルガ、魔力《マナ》にはそれがデキナイ。コレハ、魔力《マナ》が物理的ではナク精神的なエネルギーであるコトを示してイル。コノ事実は、魔術を使う際、思い描イタ術式にヨッテ魔力《マナ》が変質スルコトからも明らかデアル。魔術は物理現象を引き起コスガ、魔力《マナ》は本来精神世界、スナワチ虚数平面に満ちているものでアリ──」


 マナナがギブアップする。


「あー。ごめん、ハレ。うちらみたいなズブの素人にもわかるよう頼めるかい?」


「ウム……」


 すこし残念そうにしながら、ハレが再び説明を始める。


「送信機と受信機の一対の半輝石《セル》は、もともと一つの塊だったノダ。特殊な加工を施すことにヨリ、この二つの半輝石《セル》は精神的に繋がったママの状態とナッテイル。ソノタメ、距離を越えて魔力《マナ》を共有できるのダナ。理解できタカ?」


「こっちの説明だったら、なんとなくは」


 愛用のベルトを外し、〈オクルくん〉の受信機を代わりに締める。


「ハレ。気にナッタんだケド……」


 クロケーが、恐る恐るハレに尋ねた。


「コノ発明品、なんのタメに作ったンダ? ドンナ場面を想定して作ったノカ、よくワカらない……」


 確かに、その通りだ。

 俺たちにとっては都合のいい発明品だが、他の使い道はいまいち思いつかない。


「ウム!」


「──…………」


 数秒待つ。


「……続キは?」


「理由は特にナイゾ! 魔力《マナ》伝送に関スル論文が発表サレタから、魔術ではドウカと試作してみただけデアル!」


 プルが、思わず目をまるくした。


「そっ、それ、……って、純粋魔術……」


「魔術ではナイ! 魔科学デアル!」


 月《サンストプラ》の歴史を思い返す。


「……純粋魔術が禁忌とされた理由、魔科学にもまんま当て嵌まってる気がすんだけど」


「エル=タナエルの怒りを買わなければいいがな……」


「ウム!」


 わかっているのかいないのか、ハレが送信機の側面を開き、細々とした調整を行う。

 機械にありがちなケーブル類はごく僅かで、内部のほとんどは、模様の描かれた無数の基板によって構成されていた。

 そう言えば、さっき、魔力《マナ》はケーブルでは送れないと言っていた気がする。


「──これでヨシ! サア、助手カタナよ! 怪我をスルノダ!」


 すごいことを言われている気もするが、必要なことだ。


「じゃ、本番想定で天眼一閃使ってみるか」


 ヘレジナが、すこし慌てる。


「し、室内でか? 広いとは言え……」


「手刀なら大丈夫だろ。風は吹くかもしれないけど」


「ウム! この研究所《ラボ》は広い! タカダカ腕の素振り程度、なんの問題もナイゾ!」


 プルが、心配そうに呟く。


「そ、……そう、かなあー……」


「どうする? 怪我を負ってから治癒術と、治癒術を受けながら怪我の、二パターンやってみるか?」


「オオ! 素晴らシイゾ、助手カタナ! 確かに、ドチラのデータも欲しいトコロダ!」


「了解。俺も、どっちのパターンも試しておきたかったしな」


「デハ、送信機と受信機はナルベク離れてクレ。研究所《ラボ》内でアレバどこでアッテモ損失率は大差ナイはずダガ、ヨリ遠いほうが実戦的でアロウ。離れスギルと、ドコカの地点で損失率が無限大にナルガナ」


「ンじゃ、俺たちは隅っこ行くか」


「そうだね」


「はあー、……い」


 研究所《ラボ》一階は、ワンフロアをまるまるぶち抜いた、雑然とした空間だ。

 アーラーヤ、マナナ、プルの三名が、送信機を持って研究所《ラボ》の四隅の一角へと移動する。

 俺もまた、三人から最も遠く、物の少ない場所へと陣取った。

 ハレは、治癒術の効果が実際に現れるかを確認したいらしく、クリップボードを左腕に抱えながら俺を観察している。


「デハ、助手カタナよ! 天眼一閃トヤラを使ってみせるノダ!」


「了解ですわ、ハレ教授」


 俺は、右手を胸の前で構え、神眼を発動した。

 1/12倍速の世界へ。

 そして、さらにその先へ。


 深く、

 深く、

 深く──




 ──俺は、天眼を発動した。




 隣にいるハレが、完全に静止している。

 俺は、すぐに巻き起こるであろう強風が彼女に当たらないよう、ただ意志の力で以て、指を揃えた右手を真横へと動かした。


 天眼一閃。




 ──そして、時が緩やかに流れ始める。




 空気が爆ぜた。

 俺を中心にして、一瞬だけ、ヤーエルヘルの操風術にも近い暴風が吹き荒れる。


「オワー!」


 ハレが、すてんと尻餅をつく。

 同時に、頭痛と激痛とが俺を苛んだ。


「がッ! あ、……ああ……ッ!」


 筋繊維が細切れになり、皮膚が割れ血が滲み出し、右腕などは骨に無数の亀裂が入っていることがわかる。


「ちっ! 治癒術、い、いきま、……っす!」


 それは、プルの言葉と同時だった。

 へその下あたりに、ぽっと温かいものが灯る。

 半輝石《セル》がほのかに輝いていた。

 治癒術だ。

 見る間に俺の傷は癒えていき、全身の激痛はすぐに治まった。

 残るは頭痛だけだ。


「──おーい、治ったぞー!」


「はいよー!」


 マナナの返事と共に、治癒術特有の光と熱が消え去る。


「ナッ! ナナナ、ナンダ今のハ!」


「天眼一閃」


「人間が魔術ナシで起こセル風ではナカッタゾ!」


「だから、ボロッボロになるんだよ。頭痛は治らねえし……」


「──…………」


 ハレが、ばんばんと俺の背中を叩く。


「でッ! いて! なんだよ……!」


「助手カタナよ。君はナント面白いノダ! マスマス研究材料にしたくナッタゾ!」


「……お手柔らかに」


 俺たちには、ハレの協力が必要だ。

 それが、実際に〈オクルくん〉の効果を見て実感できた。

 天眼一閃は、一度きりの大技だ。

 これを、二度、三度と振るうことができるのならば、魔竜ルインラインに対しても勝算が見えてくる。


「──デハ、次は治癒術を先に使ッタ状態で、天眼一閃を使用スルノダ! ワタシは助手カタナの背後に回ってオク!」


「はいよ」


 きついのは、すぐに治してもらえる肉体の崩壊より、頭痛のほうだ。

 だが、自身の耐久テストという意味でも、試しておくべきことではある。

 二度放った時点で、頭痛で行動不能になる可能性もあるのだから。


「ンじゃ、治癒術行くぜー!」


 ぽ。

 アーラーヤの宣言と共に、下腹部に治癒術の熱が灯る。


「じゃ、行くぞ」


「イツでも構ワンゾ!」


「わかった」


 再び、右手を胸の前で構える。


 神眼を発動し、さらに天眼へと移行する。

 先程と同様に、意志の力で無理矢理右手を真横へ動かすと、筋繊維のねじれる感覚があった。


 天眼一閃。


 ──そして、時が緩やかに流れ始める。


 空気が、再び爆ぜた。


「──づ、……あッ!」


 先程とは比較にならない頭痛に苦しむが、同時に不思議な感覚もあった。

 全身は、一瞬だけチクッと針で刺すような痛みが起きただけで、血も噴き出さず、皮膚も割れず、どうやら骨も折れていないようだった。


「助手カタナ!」


 ハレが、丸めた俺の背中を優しく撫でてくれる。

 プルの脊髄反射の治癒術、アーラーヤが言っていた置き治癒術は、言われていた通り、そもそも怪我へと至らないようだ。

 そして、同時に理解できた。


 天眼一閃は、短時間に三発が限度だ。

 三発目を放った瞬間、俺は、頭痛によって気絶するだろう。


「……大丈夫カ? トニカク横になるノダ。肩を貸ソウ」


「ああ、悪い……」


「悪いコトなどナイ! 君は、ワタシの助手なのダカラナ!」


 その言葉に軽く感動しながら、俺は、ソファに寝かせてもらった。

 プルが、心配そうに俺の顔を覗き込む。


「ひ、……ひざまくら、する?」


「おお、久し振り、……だな」


「うん!」


 ほどよい肉付きのプルのふとももを楽しみながら、俺は、頭痛が治るまで、しばしのあいだ目を閉じていた。

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