2/皇都コルハイン -12 繰り返し繰り返し繰り返し
【青】再び始める
【黒】終わる
気が付けば、目の前に、幾度も見た覚えのある二行の文章が浮かび上がっていた。
「──エル=タナエル」
呼び掛ける。
返答はない。
「……わかった」
俺は、青の選択肢を選び取る。
幻のように実体のないそれは容易に崩れ落ち、光の粒となって周囲を満たし始める。
失われた感覚を寄せ集め、
俺は、
全身全霊を込めて目蓋を開いた。
「──つまんないな。アイヴィル程度の実力じゃ、ボクの相手にならないって」
ルブロイの声が聞こえてくる。
一瞬、ここがどこで、今がいつか、わからなかった。
──ここは、ハシュラム大時計台の最上階。
日付は、……わからない。
「──はあッ! ……は、……はッ、くそ……ッ!」
俺の足元には、心臓を貫かれたクロケーの遺体があった。
何故だ。
どうして、クロケーが死んでいる。
真実を忘れていく。
俺が、俺でなくなっていく。
そして、目の前に選択肢が現れた。
【黒】燕双閃・自在の型を使用する
【黒】右から打ち込む
【黒】正面から打ち込む
【黒】背を向けて逃げる
【黒】白き神剣を投げつける
黒枠。
黒枠だ。
俺は、既に理解している。
この選択肢が、俺の選んだ分かれ道に置かれた道標であることを。
俺は、ルブロイに負けて、何度も繰り返しているのか?
そうなのだろう。
ただ、忘れているだけだ。
果たして、
俺は、
この物語を何周しているのだろう。
そして、俺はまた忘れ去る。
すべてを。
「──…………」
ああ、懐かしいな。
地竜窟でルインラインに挑んだときも、最上拝謁の間でラライエと戦ったときも、この選択肢が出ていたっけ。
陪神級。
ルブロイは、確かに、その級位に足る実力の持ち主だった。
ならば──
俺は、いずれの選択肢も選ばないことにした。
そして、
「──らあッ!」
ルブロイの左から、白き神剣を叩き込む。
俺は、見た。
ルブロイの神槍ダウナシュートが、回避不可能な軌道で、俺の心臓を貫くさまを。
「かッ、……は……!」
神剣を取り落とし、神槍を掴む。
「あーあ。同じ神眼持ちだから、すこし期待したんだけどな」
目の前が暗くなっていく。
ああ、そうか。
鵜堂 形無の旅路はここで──
【青】再び始める
【黒】終わる
「──サア、行こうじゃナイか純人間諸君! ワタシの科学力が必要ダロウ!」
「ほ、ほんとに来るのでしか……?」
ヤーエルヘルと誰かの会話が聞こえてくる。
──ここは、どこだ。
──今は、いつだ。
わからない。
何も、わからなかった。
真実を忘れていく。
俺が、俺でなくなっていく。
そして、目の前に選択肢が現れた。
【青】ハレを連れて行く
【青】ハレを置いて行く
ハレ?
この、白衣を着た亜人の少女のことだろうか。
俺は、既に理解している。
この選択肢が、俺の選んだ分かれ道に置かれた道標であることを。
だが、こんな世界線を、俺は知らない。
果たして、
俺は、
この物語を何周しているのだろう。
そして、俺はまた忘れ去る。
すべてを。
「──…………」
どちらの選択肢も、青枠か。
これって、たぶん、どっちを選んでもついてくる強制イベントみたいなもんだよな。
ハレがこちらの言うことも都合も何もかも無視して猪突猛進な振る舞いをすることは、この三日間で嫌と言うほど思い知らされた。
うん、諦めよう。
それがいい。
青枠が光の粒子となり、世界が色を取り戻す。
「……わかった。もう、わかった。一緒に行こう」
「か、かたな……」
「……そうであるな。断ったとしても、そのバイクとやらで延々ついてくるのであろう。見えないところで起こったことの責任を負わねばならなくなるより、見えているところで止めに入ったほうがましだ」
「フフフ、そう言ってくれると思ってイタさ! サッソク騎竜車を見せタマエ! ワタシの発明した冷蔵庫を積んで、イツでも冷たい飲み物が飲メルようにしてヤロウ!」
「え、マジ? 冷蔵庫あんの?」
「ウム! 動力が魔力ゆえ、トレロ・マ・レボロでの一般発売はできんガナ!」
「や、……やっぱり、て、天才なんだ……」
ハレ=フラスネイオン。
彼女が俺たちに何をもたらすのか、期待二割の心配八割といったところだった。
【青】再び始める
【黒】終わる
「──フム、興味深い! コノ神殿には出入口がナイようだ。さっそく爆破シテみようじゃナイカ!」
「だ、だめでしだめでし! いきなり爆破は危険でし!」
「デハ、後ほど爆破シヨウ」
「あー、はいはい。ハレ、すこし落ち着きな。嬉しいのはわかったからさ」
ヤーエルヘルが、誰かと話している。
マナナと──この白衣を着た亜人の少女は誰だ?
アルクハルヴァ神殿の玄関に、俺たちは立っていた。
俺は、混乱した。
ヤーエルヘルがヤガタニになっていないのに、何故、アルクハルヴァ神殿へと辿り着いているのだろう。
ここは、俺の知る世界線ではない。
真実を忘れていく。
両手ですくった砂のように、記憶からこぼれ落ちていく。
俺が、俺でなくなっていく。
そして、目の前に選択肢が現れた。
【黄】神殿の玄関を爆破する
【白】神殿の周囲を調べる
【青】ヤーエルヘルに話を聞く
【赤】神殿の玄関を白き神剣で斬る
わからない。
わからない。
果たして、
俺は、
この物語を何周しているのだろう。
そして、俺はまた忘れ去る。
すべてを。
「──…………」
[羅針盤]の選択肢によれば、とにかく手荒な真似をすべきではないのだろう。
安定の青枠だ。
俺は、まず、ヤーエルヘルに話を聞くことにした。
青枠の選択肢が光の粒子へと変わり、世界が色づき始める。
「──それで、ヤーエルヘル。お前の言ってたハルヴァって、ここで合ってるか?」
「あ、はい! あちし、覚えてまし。あちしは、ずっと、この建物──神殿?のなかで暮らしてて……」
「二十年前まで、ってことだよね」
「はい。ずっと、ずっと、この中で──」
ヤーエルヘルが、本来であれば扉が設置されて然るべき壁に手を触れる。
「えっ」
白大理石の壁に、波紋が走った。
「おお! フシギ現象を観測シタぞ! ヤーエルヘル、モット腕を入れてミルのだ!」
ハレが、ぐいぐいとヤーエルヘルを押していく。
「わっ! わ、待って! 待ってくだ、わああ!」
とぷん。
ヤーエルヘルと共に、勢いハレまでもが壁の向こうに消える。
「ちょ!」
「カタナ! うちらも入るよ!」
「あ、ああ!」
二人を放っておくことなど、できるはずもない。
俺は、マナナと共に、白大理石の壁へと突入した。




