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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部六章 亜人国家トレロ・マ・レボロ
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3/トレロ・マ・レボロ -9 うねり

 それから、一時間ほどトレーニングで汗を流したあと、三人に尋ねた。


「ハルヴァ、見つからないのか?」


 俺の問いかけに、皆が顔を上げる。


「どこにもないんでし……」


「すべてのページを三度は読み返したのだが、ハルヴァのハの字もないわ」


「わ、……ワンテール島みたいに、名前、か、変わってるのかなあ……」


「ああ、それはあり得るな」


 ならば、古い地図を当たるか、ハルヴァの近くの街で聞き込みをするしかないだろう。

 何度も読み込んだ新聞を畳みながら、アーラーヤが言う。


「明日からしばらく東へ進んでみっか。電信は便利だが、新聞じゃ情報が浅すぎる。こいつ一部だけ持ってバレボロに戻ってもしゃーないわ」


 新聞でわかることであれば、いずれはバレボロにも伝わるはずだ。

 ネルやベアハウルが求めているのは、新聞に書かれているような表面的な情報ではなく、もっと本質的なものだろう。


「ああ。ハルヴァの件も、いろんな街で聞き込みを続ければいつかは辿り着けるだろ。運ゲーではあるけどな」


 思案しながらゆえか、ヘレジナがゆっくりと口を開く。


「……中央県。あるいは、東県。引き返すとすれば、そのあたりになるだろうか。当然、パレ・ハラドナの情報次第でもあるが」


「ハルヴァ、南東県になければいいんだけどな。パレ・ハラドナとの小競り合いが起きてる南東県に無策で突っ込んで、タイミング悪く開戦でもされたら困るじゃ済まないぞ」


 アーラーヤが冷静に返す。


「まあ、たとえ開戦したところで、しばらくは大丈夫だろ。ルインラインみてえなバケモンがいればともかく、戦争ってのは基本的に陣取り合戦だ。押して取られりゃ取り返す。一進一退よ」


 当然のように戦争を語る姿に、ふと思い当たることがあった。


「……アーラーヤは、戦争の経験があるのか?」


「まあな。ヴワルツワルダ出身って言や、伝わるか?」


「ああ。アウミマウミ独立の……」


「そうだ。ガッツリ巻き込まれちまってなあ」


「……そっか」


 思った通りだった。

 スールゼンバッハの吊り橋の逸話で知ったヴワルツワルダの動乱に、アーラーヤは巻き込まれていたのだ。


「私は歴史として学んだだけだが、アウミマウミ独立戦争はかなりの犠牲者を出したと聞く。たいへんな幼少期を過ごしたのだな……」


「なーに。生きてんだからなんの問題もねえよ」


 重い言葉だった。

 アーラーヤが戦争経験者でなければ、そう感じることはなかっただろう。

 これは、多くの人々の屍の上に成り立つ言葉だ。


「戦争ってのは、うねりだ。個人がどうこうできるモンじゃねえ。もし巻き込まれることがあれば、自分の命と大切な人の命だけ引っ掴んでなんとか逃げろ。それが、戦争っていう災害に対して個人ができるいちばん賢い行動だ。よーく覚えとけよ、クロケー」


「戦争は、うねり……」


 クロケーが、アーラーヤの教えるすべてを吸収しようと、素直に頷く。


「──ああ、そうだそうだ。サルナバーレとトゥイレ、レシピ本にあったぜ。クロケーが見つけてくれたんだ」


「わっ、ほ、ほんと……?」


「ほんとでしか!」


「このページだな」


 プルとヤーエルヘルの二人が、俺を挟むようにして、開き癖をつけておいたレシピ本を覗き込んだ。


「あ、こ、こういうの、……かー!」


「懐かしいでしー……!」


 プルが、レシピを読み込み、言った。


「うん! ざ、材料があれば、……今日にでも作れる、よ!」


「わあ……!」


 ヤーエルヘルが、目をきらきらと輝かせる。


「か、買ってきましよ! また!」


「え、……と。材料は、じ、自分で選びたい、かも」


「なら、俺が護衛につくわ」


「お、……お願いしまっす」


 ヤーエルヘルが、客車内をぐるりと見渡す。


「あちしとプルさん、カタナさんで、買い出しに行ってきまし!」


「相分かった」


「ちょうどよかったわ。ヘレジナの嬢ちゃんに、クロケーの方向性について相談したかったしな」


「よかろう。私には師が二人おるからな。それぞれにどういった鍛錬を課されたかも教えてやろう」


「ルインラインとジグか。贅沢も贅沢、そら強くもなるわな」


「ふふん」


 クロケーが、ヘレジナに小さく頭を下げる。


「アリがとう、ヘレジナ」


「ヘレジナさん、だ。私を何歳だと思っておる」


「プル、……サンと同じくらいじゃナイのか?」


「……二十八だ」


「!?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたあと、クロケーが素直に言った。


「……ヘレジナ、サン」


「よろしい」


 満足げに頷くヘレジナを横目に立ち上がる。


「んじゃ、買い出し行ってくるわ。日が暮れるまでに帰らなければ、なんかあったと思ってくれ」


「気ィつけろよ。亜人の純人間への態度は嫌悪寄りだが、敵愾心を持ってるやつも絶対いるからな」


「オーケー。なんとか穏便に済ませる」


「行ってきまし!」


「い、……行ってき、ます!」


 二人と共に、騎竜を外された客車を降りる。

 預かり所の敷地を出ようとしたとき、先程の従業員がヤーエルヘルに話し掛けた。


「君たちは、宿に泊まらないノかい?」


「あ、はい。問題ありましたか……?」


「アア。デキれば宿を取ってほシい。夜間は、従業員以外、誰も敷地に入れたくナイんだ」


 俺たちのことを疎んじているのも確かだろうが、この言葉も本音には違いあるまい。

 同じ立場なら、俺だって嫌だ。


「ど、……どうしよう、か」


「そうだな……」


 現状、わざわざ宿を取る必要はない。

 水はたんまりある。

 体を拭いても洗髪しても、六人で十日間は平気で持つ量だ。

 それに、今日はサルナバーレとトゥイレを食べるのだ。

 宿では調理が難しいだろう。


「急で悪いけどさ。俺たち、買い出し済ませたらもう出るわ。料金値切るとかはしないから」


「ソレは、構わないケど……」


「そのつもりで頼む。んじゃ、あとで」


 後ろ手に手を振り、従業員と別れる。

 プルとヤーエルヘルは、礼儀正しく挨拶をしているようだった。

 すぐに二人が追いつき、ヤーエルヘルが俺の左側、プルが俺の右側へと陣取る。


「え、と。よかったんでしか……?」


「現状、宿の利点って、風呂に入れることと、頼めばメシが出てくることだけだろ。今日の夕飯はヤーエルヘルのリクエストなんだから、利点が半分潰れてる」


「お、おいしいの、作るからね!」


「ありがとう、ございまし……」

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