3/トレロ・マ・レボロ -5 二通目の封筒
「敢えて誇張して言うぞ。魔力銃の製法をどこかの国に教えるってことは、その国で普通に暮らしてる一般人全員を、調練の必要もなく、冷徹な兵士として運用できるようにするってことだ」
「──…………」
プルの顔が真っ青になっていく。
「カタナの言う通りだ。クロケー、お前の母ちゃんの倫理観どうなってんだ……」
アーラーヤが、呆れたようにクロケーを見つめた。
「ワカった」
クロケーが、再び自分の懐に手を入れる。
「二通目がある」
「あん? 二通目……?」
「お前ラが魔力銃の製法を要らナイって言ったら、コレ出せって」
「……まあ、製法を教えてもらったほうがラーイウラの国力は上がるだろうさ。でも、魔力銃の件はさすがに握り潰すぜ。そのほうが世のため人のためだ」
アーラーヤが、改めて二通目の封筒を開封し、中身を読み上げた。
「──先程の報酬の件は嘘だ、だと」
ヘレジナが呆れて眉根を寄せる。
「何がしたいのだ……」
「続けるぞ。……息子には、こう言い含めてある。魔力銃の製法を欲しがる相手ならば、そのまま戻ってこい。欲しがらない相手なら、意地でもついていけ。この手紙を読んでいるということは、後者だろう。よろしく頼む」
理解する。
「なるほどな。クロケーを託すに値する相手か、試したってことか」
「だが、それは向こうの言い分であろう。こちらは元より連れて行く気などない」
アーラーヤが続ける。
「なお、前金代わりとして、クロケーには新品の魔力銃を一丁持たせてある。魔力銃は自衛手段としても便利だ。また、分解しても模造品を作れない設計になっている。それでは、またいずれ──だとさ」
手紙を読み終えた直後、クロケーが両手を床に突いた。
そして、アーラーヤに向かって深々と頭を下げる。
「オ願いします! オレを弟子にシテください!」
「──…………」
アーラーヤが腕を組み、険しい顔で目を閉じる。
「……なんで俺なんだ? そこのカタナも強いし、ヘレジナの嬢ちゃんに至っては俺なんざよりだいぶ強いぞ。特位一歩手前だ」
「ふふん」
「アーラーヤ、……サンは、オレと戦い方が似てる。速度を武器にシテること。二刀流なこと。手合わせシテ、ビビッ、て来たんだ。コノ人から学びたい、って……」
実際は二刀流ではなく四刀流なのだが、十代前半の少年に対してはさすがに使わなかったらしい。
「はァ……」
アーラーヤが、観念したように溜め息を吐いた。
「……悪い。お荷物増えるわ」
「!」
クロケーの小さめの獣耳が、ピンと立つ。
思わず苦笑する。
「まあ、こんだけ熱烈に追い回されたらな」
「根負けよ、根負け」
ヘレジナもまた、困ったように笑った。
「師匠なら、しっかり弟子を守るのだぞ」
「わかっとるわい。カタナの弟子だっつーイオタより強く育ててやるわ」
「いや、現時点でだいぶ……」
イオタ、さすがにまだ徒弟級だろうし。
「──……はふ、ふ……」
プルが、隣でムニャムニャと妙な吐息を漏らす。
あくびを噛み殺そうとして失敗したらしい。
「寝るか。もう深夜だ」
アーラーヤが、クロケーに言う。
「クロケー。二階のベッド、使わせてもらえ。一台空いてるらしいからよ」
「アーラーヤサンは?」
「俺は、事情があって一階だ」
「ナラ、オレも下で寝る」
「いや、お前──」
何かを言い掛けたアーラーヤだったが、すぐに口をつぐんだ。
「……わかった。好きにしろい」
「あ、毛布出しましね」
「アア」
「〈アア〉じゃなくて、礼を言え礼を」
「あ、ハイ。アリがとう……」
「どういたしまして!」
ヤーエルヘルがクロケーに毛布を渡し、俺たちは今度こそ就寝することにした。
旅は道連れとはよく言うが、まさか六人旅になるとは思ってもみなかった。
騎竜車を二階建てに改造しておいて、本当によかった。
六人での雑魚寝は、さすがの騎竜車と言えど窮屈過ぎるだろう。
俺は、ヤーエルヘルを再びしっかりと抱き締めると、そのまま眠りに落ちた。




