表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部四章 ウージスパイン魔術大学校
151/261

2/魔術大学校 -30 目指せ、最優等クラス!

 プルたちと合流し、高等部の母屋へと向かう。


「楽しみでしねー!」


「カタナの地元の料理、か。豆醤がなかなか美味かったゆえ、期待が持てるな!」


「まるまんま再現したのもあるけど、アレンジ加えた品もある。どれかは口に合うだろ」


 シオニアが、味を思い返すように目を閉じる。


「どれもおいしかったなー……。ね、ね、アタシもまた食べていい?」


「もちろんいいですよ。ただ、並ぶかもなあ……」


「確かにな。開店前から並び始めてたし」


 プルが目をまるくする。


「す、すごい、……ね。で、でも、噂になってたから、当然、かも。みんな、ひとくち、食べてみたいんだ」


 その予想は正しかった。

 二年銀組の教室へ向かう途中で、行列に出くわしたのだ。

 最後尾にクラスメイトを見つけ、声を掛ける。


「お疲れさん」


「お、ウドウさんにシャン君だ。参観会はどう?」


「おかげさまで楽しませてもらってる」


「すみません。当番押し付ける形になってしまって」


「いいのいいの。しっかし、これだけ繁盛するとはなあ……」


 イオタが行列の先を覗く。


「今、何人待ちですか?」


「二十五人待ちかな。これ、門が開いたらとんでもないことになるぞ」


「──…………」


 想像するだに恐ろしかった。


「あ、並ぶなら並んでいいよ。僕、列の最後尾をお客さんに教える係だから」


「わかった。サンキューな」


 礼を告げ、皆で最後尾へと並ぶ。


「ほ、ほんと、大人気……」


 プルの嘆息混じりの言葉に、シオニアが続けた。


「午後もこの調子なら、ほんとに最優等クラス取られちゃうかも……」


「……材料尽きんじゃないか、これ」


「買いに行くから大丈夫でしょう。ジャムも馬鹿みたいに仕入れてますし……」


「お金取ってたら、相当儲かっただろうな」


「でしょうねえ」


 二年銀組の教室へと帰って来られたのは、それから三十分後のことだった。


「いらっしゃいませ──って、カタナたちか」


「邪魔をするぞ、ドズマ」


「こ、こんにちは……」


「来ましたよー!」


「おう、空いてるとこ座れ座れ」


 六人掛けの席を取り、厨房へと視線を向ける。


「ドズマ、材料大丈夫か?」


「あー。まだ大丈夫だが、これ一回は仕入れに行かねーと駄目だな」


「まだ門も開いてないんですが……」


「なら、ひとっ走り行ってこようか」


「お前は黙って遊んどけ」


「オーケー」


 ドズマが厨房へと声を張り上げる。


「銀組焼き、六人分追加ァ!」


「喜んでー!」


 仕込んでおいた返事と共に、調理が開始される。

 プルが、深呼吸をし、ゆったりと言った。


「す、すーごい、いい香り。なんだか、いろんな匂いが混じってる……」


 ヤーエルヘルが、隣の客席に視線を向ける。


「あの、まるいのが銀組焼きでしかね」


「ふむ。カタナよ、元は何という名前だったのだ? まさか、元より銀組焼きという名ではあるまい」


「ああ、揚げタコ焼きだ。本当はあの丸いのの中にタコの足を入れるんだが、今回は抜いた。好き嫌いが分かれそうだったしな」


「面白い料理でしね!」


「祭りの定番なんだよ。ほら、ロウ・カーナンにズラリと露店が出てただろ。あんな感じでいろんな屋台がギチギチに並ぶんだけど、その中の一つがタコ焼きだな」


 揚げタコ焼きの屋台はあまり見ないが、詳しく説明しても混乱を招くだけだろう。


「それは、随分と賑やかそうであるな」


「楽しそうでしー」


 やがて、


「──ほら、銀組焼きお待ち! 説明はお前らに任せんぜ、オレは他の接客行くわ」


「おう、お疲れさん」


 ランチョンマットの上に置かれた三種二個ずつの銀組焼きが、ふわりと湯気を上げている。


「ほう……。さっきから気になっていたのは、このソースの香りか」


「白いソースと黒いソースが塗ってありましね」


「それはオリジナル。カタナさんの地元の料理をそのまま再現したものです。真ん中はサワークリーム。右はスイート。スイートには、お好みのジャムをかけていただいてください」


「で、デザートまであるんだ。すごい……」


「どれも、すんごくおいしいんだから!」


「あ、火傷には気を付けてくださいね」


「火傷?」


「外はカリカリなんですが、中はトロッとしてるんです。予想以上に熱いので……」


 プルが微笑む。


「だ、だいじょうぶ。わたし、ち、治癒術得意、……だから」


「プルちゃーん。治せるから怪我してもいいって発想は不健康だって、お姉さん思うな!」


「はは……」


 多少、耳が痛い。


「では、気を付けていただきましね」


「せっかくだから、食レポも頼むわ」


「しょくれぽ、でしか?」


「その食べものがどう美味しいか、みたいな説明?」


「やってみまし!」


 ヤーエルヘルが、ふうふうと銀組焼きを冷ましつつ、口へと運ぶ。

 サクッ。


「あっ」


 どんぐりのような目が、さらにまるくなる。


「これ、おいしいでしよ! えっと、このソースが……おいしいでし!」


 食レポをしようとした気配はあった。


「ほ、……ほんとだ。お、おいしい。その、……おいしい!」


「──…………」


 レポーターって、実はすごいのかもしれない。


「うむ、美味であるな!」


 ヘレジナに至っては、食レポする気ゼロだった。


「む、難しいでしー……」


「悪い、無茶振りだったな」


 正直に言えば、俺自身もできる気はしない。


「か、かたな。このソースの、つ、作り方、教えて。今度、作る……」


「マジで。そりゃ嬉しいな!」


「うへ、へ……」


「むうー……」


 シオニアが口を尖らせる。


「ほら、他のも冷めちゃうよ! 食べる食べる!」


「言われずとも」


 ヘレジナが、サワークリームをたっぷりつけた銀組焼きを口へと運ぶ。


「うむ、こちらも美味い」


「新しい味と懐かしい味、かわりばんこに食べるといいでしね!」


「でしょでしょ!」


 サンストプラにおいて、サワークリームは一般的な調味料だ。

 冷蔵手段が存在しないため、食物の輸送においては、発酵、塩蔵、糖蔵、乾燥等のいずれかの保存法を選択する必要がある。

 そのため、食卓に発酵食品が並ぶ機会が多いのだ。

 生乳とヨーグルトから簡単に作ることのできるサワークリームは、サンストプラに住む多くの人々に愛されているのである。


「さ、最後は、スイート。わたし、ロロントジャムでいただく、……ね?」


 プルが、瓶詰めから操術でジャムをすくい取り、銀組焼きに乗せる。

 サクッ。


「……わ!」


 両手で口元を隠し、目尻を下げた。


「こ、これ、すーごく美味しい!」


「ふふー!」


「シオニアさんが胸を張るのはおかしいですからね?」


「スグリも美味しいでしよ!」


「うむ、甘くて美味い!」


「ヘレジナ、美味いしか言ってないな」


「美味いものを美味いと言って何が悪い!」


 それはそうだが。


「か、簡単に作れそうなのに、こんな調理法、考えてもみなかった。すごい……」


 シオニアが、再び胸を張る。


「二年銀組、優勝間違いなしだね!」


「おい、二年白組シオニアちゃん。君はそれでいいのかね」


「あ、そうだった」


 ようやく自分のクラスを思い出したらしい。


「ね、ね、次は白組に来てよ! すっごいんだから!」


「う、……うん! すーごく楽しみ……」


「ドズマさーん! おいしかったでし! ありがとうございまし!」


「おう!」


 ニッと笑って手を振るドズマに挨拶をして、俺たちは二年銀組の教室を出た。






 それから、六人でさまざまな出し物を見て回った。

 プルたちは白組の二層立体大迷宮に驚いていたし、一年赤組の歌劇を観て完成度の高さに危機感を覚えたりした。

 十二時の門が開いてからは、客がどっと増えた。

 人の波に紛れてデイコスが襲ってくる可能性を危惧し身構えていたが、結局は杞憂だったようだ。

 再び当番の時間がやってきた四人と別れ、俺とイオタは一息つくために冬華寮へと戻ってきていた。


「──あれ?」


 自室の扉に手を掛けたイオタが、不審そうな声を上げる。


「鍵、開いてますね」


「掛け忘れたか?」


「そんなことないと思いますけど……」


 ノブの下にある鍵穴に視線を向ける。


「……待て。鍵穴に引っ掻き傷がある」


「どういうことです?」


 この世界における一般的な鍵には抗魔術式が刻まれており、単純な操術による解錠はできない。

 だが、鍵の構造自体は比較的シンプルだ。

〈技術〉によって鍵を開くのは、容易とまでは言わずとも、決して不可能ではない。

 嫌な予感がした。


「──シィ!」


 慌てて扉を開き、自室へと飛び込む。

 室内は静まり返っていた。

 いつも俺たちを出迎えてくれる、あの仔竜の姿は、なかった。


「え──」


 イオタから表情が抜け落ちる。


「確実なのは、この部屋に侵入した者がいること。そして──」


 机の上にあった、見覚えのないメモを拾い上げる。


「狙いは恐らくシィだってことだ」


 イオタにメモを渡す。


「読んでくれ」


「は、はい……」


 震える声で、イオタがメモを読み上げる。


「──武術大会に参加せよ。指示は、その都度行う。逆らえば仔竜の命はない……」


 思わず拳を握り締める。


「……エイザンだ」


 何かを仕掛けてくる気配はあった。

 だが、躊躇なく犯罪に手を染めてくるとは思わなかった。

 油断していた。


「──…………」


 イオタが、修練用の木剣を手に取る。


「エイザンの考えそうなこと、わかるか?」


「ええ、わかります。衆人環視の中で、カタナさんをボコボコにしたいんですよ。あれは、そういう人ですから」


 思わず頭を抱える。

 くだらない。

 本当に、くだらない。


「……ヘレジナたちに頼もう。探せば見つかるかもしれない」


「ええ、ギリギリまで探しましょう」


 ふと、イオタが妙に落ち着いていることに気が付いた。


「……イオタ。お前、大丈夫か?」


「大丈夫です。ただ、そうですね」


 イオタが、口元を吊り上げる。


「──ちょっと、怒っているだけですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ