2/魔術大学校 -29 巨大ガラス玉迷路
三人で、中等部の母屋を巡る。
高等部と負けず劣らず凝ったものが多く、全優科の生徒たちの本気度が窺い知れた。
「──あ、これ楽しそう! 巨大ガラス玉迷路!」
シオニアが飛び込んだ教室に設置されていたのは、落とし穴付きビー玉迷路を三メートル×二メートルほどのサイズまで巨大化したものだった。
筐体の正面に三段ほどの踏み台があり、上下左右に半輝石の配置されたコンソールが備え付けてある。
「ねえねえ。これ、右に魔力込めたら右に傾く感じ?」
「はい! 最後までガラス玉を落とさずにゴールまで運べたら、粗品を差し上げまーす」
「よーし、やったるか!」
シオニアが袖をまくり、半輝石に触れる。
「右と下に同時に込めたら右下に傾くので、操作に活用してくださーい」
「はーい!」
中等部の生徒が、迷路のスタート位置に大きめのガラス玉を設置する。
「では、どうぞ!」
「やー!」
筐体が大きく右に傾く。
ガラス玉が、いちばん最初の穴へと吸い込まれていった。
「ノー!」
「はや!」
イオタが、指をポキポキと鳴らしながら言う。
「シオニアさん、ぼくに任せておいてくださいよ。一発でゴールまで導いてみせます」
「頼もしい!」
シオニアと交代したイオタが、コンソールの半輝石に触れる。
「始めまーす」
ガラス玉がスタート位置にセットされる。
「行ッけえ!」
ガラス玉が、再現VTRのように、いちばん最初の穴へと消えていった。
「──…………」
「あはははは! へたっぴぃ!」
「この世で唯一シオニアさんにだけは言われたくないですよ!」
「いやー、悔しいなァ。俺に魔力があったら、一発でクリアするのになー」
「うわ、この人安全圏から!」
「カタナさんずるい……」
「いやはや、無念無念」
「あ、テスト用の手で持てるサイズのものがありますけど」
「──…………」
ふー、と息を吐く。
「よっしゃ、来い!」
「あ、神眼はなしでお願いします」
「使えるものはなんでも使うんだよ!」
「師匠、大人げないです!」
新聞紙大のガラス玉迷路を受け取る。
そして、神眼を発動し、ほんの十秒ほどでガラス玉をゴールまで導いた。
「ふふん、どうよ」
「カタナさん、すっごい!」
「すごいです! この能力は借り物だとかなんとか悩んでた人の行動とは思えませんね!」
「ははは、この弟子言いおるわ」
ガラス玉迷路を返し、代わりに粗品を受け取る。
それは、握りこぶしほどの大きさの、綺麗なガラス玉だった。
「あー……」
困ったな。
「あれ、カタナさん嬉しくないの? きれいだよ!」
「綺麗は綺麗なんだが、荷物になるかと思ってな。ガラス玉だし、割れたらもったいないだろ」
イオタが、ぴっと人差し指を立てる。
「なら、シオニアさんにあげたらどうです?」
「ああ、なるほど」
良いアイディアだと思い、シオニアへと向き直る。
「シオニア、もらってくれるか?」
「え、いいの……?」
「ああ、もちろん。部屋のどっかにでも適当に飾ってやってくれ」
「──…………」
シオニアは、ガラス玉をぎゅっと抱き締めると、
「……大切にするね」
と、慈しむような笑顔で言った。
「えー……、と?」
その反応に、気付く。
気付いてしまう。
「シオニア、ちょいここにいてくれ」
「……? うん」
「イオタはこっち」
「はいはい」
イオタを廊下の端へ連れて行き、小声で話し掛ける。
「……勘違いだと恥ずかしいんだが、もしかしてフラグ立ってない?」
「え、気付いてなかったんですか?」
「そしてお前、背中押してない?」
「押してますよ」
「なんでや……」
「気持ち、わかるからですよ」
イオタが、思いのほか真剣な瞳で答える。
「別れが間近に迫ってる。だからって、自分を押し込めて、好きじゃないふりをして、なかったことにするのはあまりに悲しいじゃないですか。それだけです」
「──…………」
そうか。
「……強くなったなあ」
「でしょう?」
イオタが微笑んでみせた。
「ナイショ話、長いよ!」
シオニアが、ぴょこんと下から顔を出す。
「ほら、黒組戻ろ! プルちゃんたち、そろそろ交代してると思うよ」
「そうだな」
「ええ」
俺たちは、三年黒組へときびすを返した。




