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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部四章 ウージスパイン魔術大学校
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2/魔術大学校 -19 揚げタコ焼き

 寮の食堂で必要そうな食材を分けてもらい、帰室する。


「──ぴィ! ぴィ!」


 俺たちの帰りを健気に待っていたシィが、喜びに部屋を飛び回った。


「ただいま、シィ」


 イオタがシィを抱き寄せ、頭を撫でる。


「竜も、よく見たら愛嬌ある顔してんな」


「可愛いだろ?」


「わりと」


 思わず自慢してしまうくらいには、俺もシィのことが気に入っていた。


「よく見なくても可愛いですけどね!」


「ぴ!」


「はいはい、本題本題」


 ドズマが椅子に腰掛ける。


「カタナ、どうすりゃいいんだ?」


「大筋は覚えてるけど、すこし試行錯誤も入るからな。あと、俺魔術使えないから、調理は頼んだ」


「ま、そうなるわな。オレも得意ってほどじゃねーけど、調理術の単位は取ってる。よほど高度な調理法でなきゃなんとかなるはずだ」


「調理術なんてのまで取れるのか、全優科……」


「全優の名は伊達じゃねーってことよ」


 感心しながらボウルを手に取る。


「じゃ、まずは生地からだな」


「おう」


「了解です」


「分量の記憶が曖昧だから、すこしずつ混ぜていこう。生地の材料は、小麦粉、卵に、水と乳。これをよーく掻き混ぜる」


「よっと」


 操術で操られた材料が、次々とボウルに投げ込まれていく。

 それでいてこぼすことはないのだから、実に器用だ。


「で、混ぜりゃいいんだな」


 ボウルの中の生地が、まるでミキサーにかけたかのように自動的に混ざっていく。


「ドズマさん、上手いですね」


「これでも初等部からずっと銀組だぜ、オレ」


「さすがです」


 生地に指先を入れて様子を確認する。


「ちっと生地がゆるいかな。小麦粉足そう」


「了解」


 小麦粉が慎重に投入されていく。


「本当は、出汁も欲しいんだよな……」


「ダシ、ですか?」


「昆布やら何やらを煮出した汁のことだよ」


「昆布って、海藻の一種だったか。あれ食えんの?」


「食べられる。まあ、そのまま食べるってより、旨味成分を抽出して使うことのが多いけど。俺の国だと重要な食材の一つだったな」


「海藻って、図鑑でしか見たことないです。あれ食べるって人は、ウージスパインにはなかなかいないんじゃないかな……」


「まあ、ないものねだりしても仕方ない。ありものでなんとかしよう」


 そうこうしているうちに、生地が完成する。


「タコなかったけど、いいのか? ほら、名前的に」


「まあ、なければないでなんとかなる。今回は味見みたいなもんだしな」


 丸いお好み焼きみたいなものだ。


「ただの揚げ焼きになっちゃいますね」


 生地のボウルを浮かせながら、ドズマが問う。


「で、こっからどうする?」


 俺は、右手の中指と親指とで輪を作ってみせた。


「こんくらいの大きさだけ取り分けられるか?」


「ああ」


 カタンとボウルが机に着地し、代わりに生地の一部が球体となって浮き上がる。


「──…………」


 タコ焼き器を使うわけではないから、作り方に迷う。


「それ、外側からゆっくり加熱してみてくれ」


「ゆっくりだな」


 ぽこ、ぽこ。

 宙に浮いた生地の内側から、泡が湧き出てくる。

 中で沸騰しているのだろう。


「で、多少加熱したあと、油で揚げる」


「……さすがに制御難度が上がってきたな。イオタ、油だけ纏わせてくれ」


「わかりました」


 用意してあった油が生地を包む。

 ジュウジュウという生地の揚がる音と、良い香りとが、室内を包む。


「──と、まずはこんなもんか」


 こんがり揚がった球体が、皿の上へとゆっくり着地した。


「これが、揚げタコ焼きのタコ抜きですか」


「……見た目の再現度はかなり高いな。味はどうか」


「食ってみ」


「ああ」


 軽く塩をまぶし、あらかじめ用意してあったフォークを球体に刺す。

 サクッ。

 舌火傷に注意して、口へ運ぶ。


「──はふっ」


 熱い。

 だが、懐かしい熱さだ。

 カリッとした表面と、トロッとした中身。

 風味に物足りなさこそあるものの、十分タコ焼きの範疇である。


「おおー。かなり、ぽい」


「ほう」


 ドズマが満足げに頷く。


「今の手順で、オレたちのぶんも作ってみようぜ」


「了解です。楽しみですね」

 ドズマが過熱し、イオタが油を纏わせる。

 この連携で、すぐに二個のタコ焼きが完成する。


「塩でいいんだな」


「ひとまずはな。あと、馬鹿みたいに熱いから、火傷に注意だぞ」


「大丈夫ですよ、子供じゃないんだから」


 そう言ってタコ焼きに口をつけたイオタが、


「──あッッッ」


 あまりの熱さに吹き出しそうになっていた。


「はははッ、お前子供かよ!」


「だから言ったろ」


「ううう……」


 イオタを余所に、ドズマが慎重に口をつける。


「ほふ」


 しばし咀嚼し、


「……あー、こりゃ悪くないな。悪くない。新食感だし、普通に美味い」


「ほ、ほんとら、けっこう美味しい……」


「ぴ?」


「シィには、あとで、油使ってないのをあげるよ」


「ぴィ!」


 ドズマが、考え込むように腕を組む。


「しかし、どうだろうな。そこそこ美味いけど、これでエイザン黙らせられっかな……」


 俺は、不敵に笑ってみせた。


「タコ焼きは、まだ完成してないぞ」


「え、そうなんですか?」


「タコ焼き専用ってわけでもないが、定番の調味料があるんだよ」


「ああ、それで、砂糖だの果実酢だの瓶詰めのソースだの持ってきてたのか」


「その通り」


 材料となりそうなものを、片っ端から机に置いていく。


「タコ焼きに使う調味料は、二種類。マヨネーズとソースだ」


 鰹節も欲しいところだが、さすがに存在しないだろう。


「マヨネーズ、ですか。初めて聞く調味料だ」


「ソースって、随分幅が広いな。そのガンビーズソースでいいのか?」


「マヨネーズは材料覚えてるからなんとか行ける、……はず。ソースのほうは、うちの地元ではただソースって言えばそれを指すから、名前らしい名前ってよく知らないんだよな。ガンビーズソースと風味は似てるから、ここから魔改造するぞ」


 ドズマが頷く。


「じゃ、ソースから行くか。一から作るよか早いだろ」


「ああ」


 ペーストを湿らせたようなガンビーズソースをスプーンでボウルに落とし、指で舐める。


「……塩辛い」


「そのソースはどんな味なんですか?」


「甘味と酸味があって、甘味が強めだな。砂糖とリンゴ酢でも混ぜてみるか。イオタ、混ぜたものメモってくれるか。良いものができたとして、再現性は必要だろ」


「はい、わかりました」


 イオタが机からノートを取り出し、鉛筆で材料を記入していく。

 それを横目に、ガンビーズソースに砂糖とリンゴ酢を軽く混ぜ、味を調える。


「……ちょっと甘すぎるかな」


「塩でも足すか?」


 用意した材料を、思いついた通りに足していく。

 最初は不可能と思われたが、案外なんとかなるもので、


「──これ、近いわ。すげー近い」


 やがて、味も香りもよく似たソースが完成した。


「どれ」


 ドズマとイオタがソースを指に取り、舐める。


「あ、これ行けるな。タコ焼きにこれだけ塗っても美味そう」


「たしかに。ありそうでなかったソースと言いますか……」


 ソースの入ったボウルを取り置く。


「じゃ、最後にマヨネーズだな。これはわりと簡単で、卵の黄身、酢、塩、コショウ、そして植物油。これを適当な分量で、乳化しながら混ぜるだけだ」


 ドズマが眉をひそめる。


「……材料だけ聞いたら不味そうなんだが」


「まあ、食べてのお楽しみだな」


 ソースとは別のボウルに材料を取り、味見をしながらマヨネーズを作り上げていく。

 しばらくすると、納得の行くマヨネーズが完成した。


「ほら、これがマヨネーズ」


 ドズマにボウルを差し出す。


「……すっぱそう」


「酸味は強いが、言うほどじゃあない。酢を少なめにしたからまろやかな仕上がりだ」


 ドズマが、恐る恐る、マヨネーズの一部を操術で口へと運ぶ。


「──…………」


「どうです?」


「お前も舐めてみ」


 マヨネーズを指に取り、それをくわえたイオタが、目を見開いた。


「あ、美味しいかも……」


「だよな。味の想像がまったくつかなかったんだが、悪くない」


「だろ?」


 マヨネーズは好みが分かれるから、気に入ってもらえてよかった。


「で、さっきのタコ焼きに、この二つの調味料を塗るわけだ。印象、ぜんぜん変わるはずだぞ」


「りょーかい」


 慣れた手順で、二人がタコ焼きを作り上げる。

 そして、完成したソースとマヨネーズを塗りたくり、火傷に注意して口へ入れた。


 サクッ。


「!」


「……!」


 顔を見合わせた二人が、目をまるくして頷き合う。


「どうだ、完成品は」


「これ美味いぞ! かなり!」


「はい! これなら票稼げますよ!」


「そうかそうか」


 うんうんと頷き、完成版のタコ焼きを口へと運ぶ。


「──よし、良い出来だ。まさか、こっち来てタコ焼き食べられるとはなあ」


 豆醤に続いて、里心のつくものを口にしてしまった。


「でもよ。これ、タコいるか? このままでよくねえ?」


「気付いてしまったか……」


 出汁が入っていないせいで、タコとの親和性が悪くなっている。

 有り体に言えば、タコを入れる必要がないのだ。


「まあ、もともと生地と調味料がメインの料理だからな。タコはあってもなくても」


「タコ焼きなのに」


「こういう形状の食べ物をタコ焼きって呼んでるだけだから」


 実際、タコ焼きパーティーなどでは、タコ不在のタコ焼きが量産される。

 タコが入っているか否かは重要ではないのだ。


「なら、名前変えとくか。仮で銀組焼きとかに」


 ドズマの案に、俺とイオタが頷く。


「いいじゃないですか、銀組焼き」


「わかりやすくていいじゃん。明日はそれでプレゼンしてみっか」


「ああ。エイザンの度肝抜いてやろうぜ!」


「おう!」


「おー!」


 イオタとドズマは美味しいと言ってくれたが、クラスメイトたちはどう感じるだろう。

 不安と期待の双方が入り混じる中、俺とイオタはドズマを見送り、本日の修練を開始するのだった。

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