表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部二章 遺物三都
119/128

1/ネウロパニエ -11 ベディ術具店

「──……ふぁ、……ふ」


 漏れるあくびを噛み殺す。


「か、……かたな。眠い……?」


 こうして漏れ出している以上、誤魔化しても無駄だろう。


「まあ、すこしだけな」


「無理して、そ、ソファで寝なくて、よかったのに……」


「……いや、ソファがどうこうではなくてだな」


「?」


 ソファを用いることで同衾感を減らせるかと思いきや、あのベッドがそもそも三人でも狭く、皆の寝息が近くて落ち着かなかったのだ。

 ベッドとソファのあいだに段差があるおかげで、ヤーエルヘルが俺の腕の中に転がり落ちてきた、というのもある。

 いずれにしても、とても安眠できる環境ではなかった。


「……ごめんなし、カタナさん。暑かったでしよね」


「気にすんなって。それより、家族のぬくもりは感じられたか?」


「はい! みんなに囲まれて、すっごく安心して眠れました!」


「だとさ」


 そう言って、プルに微笑みかける。


「……ふへ。よ、よかった」


「カタナを入れぬのであれば、また三人で寝てもよいぞ。ただ、夏場は熱中症になる可能性があるのでな。涼しい日に限るが」


「はい!」


「な、仲間はずれ、よくない……」


「……また俺に眠れぬ夜を過ごせと?」


「あ」


 プルが、はたと気付く。


「……そ、それで、眠れなかった、……の?」


「もしかして、今気付いたのか?」


「う、うん……」


「遅い……」


 実際に寝る前に気が付いてほしかった。


 俺たちは今、中央区からすこし離れた住宅街区の一つを訪ねている。

 中央区から外れた途端、急激に生活レベルが低下しているのが見て取れた。

 ネウロパニエは、外周──新たな街区になればなるほど貧している。

 この周辺は、それでも平均的な区画だろう。


「──たぶん、このあたりだと思うんだけどな」


 最後に道を尋ねた人によれば、この先の五叉路を左に曲がったあたりだそうだ。


「左って、この細い路地で合ってると思うか?」


「い、いちおう、五叉路にはなってる、……ね?」


「ひとまず入ってみればいい。なければ戻ればいいだけだ」


「でしね」


 裏路地をひょいと覗き込む。

 がらくたで溢れているかと思えばそんなことはなく、ただ道が細いだけで通ることは十分にできそうだった。

 皆を先導して裏路地の最奥まで行くと、突き当たりのビルの一室に看板が掲げてあるのを見つけた。


「──ベディ術具店。ここでし!」


「うっし、なんとか見つかったか」


 さっそく扉を開こうとするが、ノブに掛かったプレートが気になった。


「……? これ、なんて書いてる?」


「あっ」


 プレートを覗き込んだプルが、一瞬固まった。


「……り、臨時休業」


「マジかよ……」


「こ、ここまで来たのに、……ね」


 思わず肩を落とす。

 だが、できることはまだある。


「しゃーないな。もし誰かいたら、客が来たことだけでも伝えようぜ。いつなら開いてるのか知りたいし」


「そうでしね。明日も明後日も休業だと、毎日通うのも手間でしし」


 ベディ術具店の扉をノックする。


「すんませーん」


 反応はない。

 ノブを捻ってみると、鍵は掛かっていなかった。

 扉を薄く開き、声を掛ける。


「……すみません、誰かいませんかー」


 声は響けど、返答はない。


「駄目だ、出直すしか──」


 そう言って振り返ったとき、表通りから歩いてくる人影があった。

 それは、白髪を油でオールバックにまとめた気難しそうな老年の男性だった。


「──臨時休業」


「はい?」


「お前ら、文字が読めないのか。ならば教えてやる。そこには臨時休業と書かれている。わかったら、退け」


「──…………」


 一発でわかる。

 これは、難物だ。

 慌てて笑顔を作り、久し振りの営業モードに入る。


「申し訳ありません。ニャサに住むユーダイ様から紹介を受けまして……」


 紹介状を差し出す。

 男性はそれを受け取ると、中身も読まずに懐に入れた。


「それで」


「臨時休業とのことでしたが、いつまで休業なさるのでしょうか。今日は失礼し、また開店なさるときに出直そうかと」


「しばらくやらん。諦めろ」


「すゥー……、はァー……」


 プルが深呼吸をしたあと、男性の前にしずしずと進み出る。


「不躾に申し訳ありません」


 優雅に一礼し、続ける。


「事情がおありでしょうが、わたしたちにも、どうしても義術具を作っていただきたい理由があるのです。本日すぐにとは申しませんので、滞在中に営業を再開していただくわけにはいかないでしょうか」


「諦めろ」


「ふぎゃ……」


 にべもない。

 プルの皇巫女モードでもどうにもならないとなれば、手持ちのカードではどうすることもできないぞ。


「他に用がなければ、退け」


 無言で男性に道を譲る。

 男性は、当然とばかりに鼻を鳴らすと、扉をくぐり、

 ──カチャリ。

 聞こえよがしに鍵を掛けた。


「な──」


 ヘレジナの顔が紅潮していく。


「なんだ、あの態度は! こちらは客だぞ! いくら腕がよくとも、人柄が伴わなければ話にならん! プルさま、別の術具士を探しましょう!」


「……う、うう。あれはむり……」


「まったく、常識を疑う!」


 ヘレジナ、ああいう態度のでかい人のこと嫌いだからな。

 俺は営業で慣れているので、いまさら何も感じないけれど。


「しゃーない。ひとまず魔術大学校のほう行ってみようぜ。術具士を探そうにも伝手がない」


 元の世界であれば、スマホで一発検索できるのに。

 少々歯がゆいものがある。


「でも、ネウロパニエは道がわかりやすくていいでしね。魔術大学校から放射状に道が伸びてるから、現在位置がすぐにわかりまし」


「その点、迷わずに済むから助かるよな」


 裏路地から出て、表通りを左折する。

 目抜き通りから中央区を臨めば、どこからでも魔術大学校の塀が見える。


「行こうぜ。調べものにも時間掛かるだろうし」


「う、うん」


「ああ」


「はい!」


 三者三様の返事を受け、俺たちは魔術大学校へ向けて歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ