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2/ハノンソル -3 永劫の繁栄

「か、かたなのおはなし、聞きたいな。ハノンまでのあいだだけだけど、かたなのことも、かたなの世界のことも、もっと知りたい、……でっす」


「そら構わんけど、ハノンまでって?」


 俺の疑問にヘレジナが答えた。


「ハノンから地竜窟までの道のりは、これまで以上に厳しいものとなるだろう。機転が利くとは言え、ただの一般人をまたぞろ危険に晒すわけにはいかん」


「……そうか」


 なんとなく地竜窟まで一緒に行くのだと思っていたから、心細くはある。


「ふふん。だが、安心していいぞ。地竜窟からの帰途、我々はカタナを拾ってパレ・ハラドナへと帰還する。プルさまの御友人を放って帰ったりはせん。一週間ぶんの路銀は渡すが、賭場で増やそうなどとは考えるなよ?」


「知らん世界の知らん街で生命線の生活費をギャンブルに注ぎ込むほどの蛮勇は持ち合わせてないな」


「ならばよい」


「──ああ、そうだ。こいつも聞いておかないと」


「な、なに?」


「目的地が地竜窟ってことは聞いた。わざわざそこに向かう理由はなんだ?」


「──…………」


 プルが、躊躇うように目を逸らす。

 代わりにヘレジナが答えた。


「エル=タナエルより神託があったのだ。地竜窟にて儀式を執り行うことで、パレ・ハラドナは永劫の繁栄を約束される──とな」


「永劫の繁栄、ねえ」


 妙に胡散臭いな。


「神託って、そんなのでいいのか?」


 恐らく、同じ疑問を抱いていたのだろう。

 俺の曖昧な質問の意図を、ヘレジナが正確に汲み取った。


「……いや、普段はもうすこし具体的なのだ。災害や天変地異、流行り病に紛争の火種。前皇帝の崩御も、プルさまに下賜された預言のひとつだ。皇巫女の神託は決して外れない。どういった形かはわからんが、永劫の繁栄は実現するはずだ」


 ヘレジナの言葉で、点と点とが繋がる。


「ああ、そう言うことか……」


「なんだ、いきなり」


「二人とも、最初は俺のことをパラキストリの刺客かもしれないって言ってただろ」


「わ、わたしは、覗きかなって……」


「それはいいから」


 ヘレジナが腕を組む。


「たしかに、当初はそう疑ってはいた。すぐに誤解は解けたがな」


「隣国の要人に刺客を放つ理由。たぶん、神託だろ。今の内容がパラキストリに漏れた。隣の国が永劫の繁栄なんてのを実現しちまったら、自分たちがどうなるかわからないからな」


「ほう」


「か、かたな、すごい……」


「よせやい」


「私たちも、カタナと同じ意見だ。影の魔獣に私たちを襲わせたのも、パラキストリの魔獣使いだろう」


「魔獣使いなんてのもいるんだな」


 RPGの世界だ。


「通常、魔獣使いが操れる魔獣は一体のみらしい。それが十数体も同時に現れたのだから、組織立って我々を狙っているのは間違いないだろう」


「……ちょっと待て」


 さすがに聞き捨てならない。


「十数体も、同時に……?」


「ああ。もっとも、私たちを襲った一体以外は、師匠が引きつけて倒してしまったようだがな」


「──…………」


 思わず絶句する。

 こちとら、一体倒すだけで瀕死だぞ。


「ふふん。私の師匠はすごいだろう!」


 ヘレジナが薄い胸を張ったとき、御者台からルインラインの声が届いた。


「──はてさて。そのすごい師匠の弟子は、何匹退治出来たんだったかのう」


「う」


「帰ったら鍛え直しだ。カタナ殿もどうかね。ヘレジナより筋が良さそうだ」


「勘弁してくれ」


 俺からしてみれば、ヘレジナだって十二分に超人だ。

 そんなやつらの稽古に混じるなんて、冗談じゃない。

 こちとら文化系一筋だぞ。


「──…………」


 ぎゅ。


「?」


 スーツの裾を掴まれて、思わず振り返った。


「そ、そのう……」


 プルだった。


「わたし、もっと、かたなの話が聞きたい……でっす」


「ああ、悪い悪い。話が逸れてたな」


 食事をしているあいだに、全身の痛みが薄れてきていた。

 改めてプルへと向き直る。


「何が聞きたい? 大した話もできないけど、異世界の話って時点で多少は興味深いだろ」


「……え、と。その。かたなの家族のおはなし、とか……」


「両親に、妹が一人いる。両親は米農家だな。妹が何やってるかは知らんけど、結婚はまだしてないはずだ」


「こめ?」


「こっちにはないのか? こう、稲穂に粒がたくさん実って、脱穀すると真っ白になる作物だ。日本──俺の国の主食だな」


「む、麦みたいな、もの?」


「近いな。とにかく、それを作ってるわけだ。もう五年も帰ってないけど……」


 プルとヘレジナが目をまるくする。


「五年!」


「ど、どうして……?」


「仕事で帰る暇がなかったんだよ」


「仕事は何をしていたのだ?」


「営業。簡単に言えば、自社製品を他社に売り込む仕事だな。うちの会社はIT──つってもわからんか。とにかく技術力が高い方じゃ決してなかった。だから、仕事を請け負うためにひたすら足で稼ぐ必要があったんだよ」


「はー……」


「仕事をもらえる確率が同業他社の半分なら、営業は二倍頑張らなきゃならない。そんな地獄みたいな環境でな。休日も月に一度。正月休みも盆休みもない。実家の宮城に帰る時間が、どうしても捻出できなかった」


「──…………」


「──……」


 二人が微動だにしなくなってしまった。


「仕事の愚痴ならあと十時間くらい話せるけど?」


「ぜ、ぜ、ぜったい! そのおしごと、やめたほうがいい、でっす!」


「あ、ああ。そこまで行くと命に関わる。忙殺されて本当に死ぬなど前代未聞だが、あり得ない話ではないぞ……」


 どうやら、こちらの世界に過労死という言葉はないらしい。

 ないほうがいいわな、そんなもん。


「ありがとう。無事に帰れたら農家を継ぐつもりだよ。離れてようやく冷静になれた。あんなん、まともな人間がする仕事じゃない」


「そ、それがいいと思う……」


「俺からもひとつ、いいか?」


「?」


 小首をかしげるプルに、言う。


「俺も、こっちの世界に興味がある。特に魔法のこととかな」


 俺とて、まだまだ少年の心を忘れてはいない。

 実在する魔法体系の話など、まさに垂涎ものだ。

 世界が変われば物理法則も変わる。

 俺が魔法を使うことも、もしかしたら可能かもしれないのだ。


「う、うん。いいよ。次は、わたしが話す、……ね?」


「頼んだ!」


 前のめりな俺に、プルが微笑む。

 順番に互いのこと、互いの世界のことを話すうち、騎竜車での道中は瞬く間に過ぎ去って行った。

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