執事の笑顔には容赦がない
塔の守人の朝は、遅い。
特に一日の予定が決まっているわけでもない。
何か異常があれば自然と目が覚めるので、私が睡眠を貪っていられるのは平和である証拠、なのだが。
「おはようございます、ミナレット様。何度もお声かけ致しましたが、お返事がありませんでしたので。女性の部屋に勝手に立ち入るのはいかがなものかと思いましたがやむを得ず」
朝の挨拶とともに流れるような言い訳と爽やかな笑顔でご登場されたのは、ハンフリート陛下ことフリートさんだ。
昨日は執事としてハンフリート陛下を雇うことになり、その後、ここに住むというハンフリート陛下もといフリートさんの部屋をどこにするかということで一悶着あり。
何かあった時にすぐ逃げられるように一階を居室として欲しい私と、私に何かあった時に駆けつけられるように最上階の私の部屋の近くを所望するフリートさんの舌戦は、当然のことながら、フリートさんの圧勝であった。というか、またもや丸め込まれてしまったのだった。
元国王陛下な執事に舌では勝てるわけがないので、今後無謀な争いはしないでおこうと肝に銘じた。
結局、最上階の物置になっていた部屋を片付けてフリートさんの部屋とし、フリートさんが王宮から持参したという軽食のご相伴に預かったりしているうちに夜は更けて。
それぞれの部屋で休んだのが数時間前のこと。
「おはようございます?」
なぜこんなに朝早く、と言ってもおそらく陽は登っているので普通の人ならばもう日々の営みを始める時間であろうが、私にとっては早朝に違いない時間になぜ?という気持ちで寝台の傍に立つフリートさんを見上げれば、昨日と変わらず一部の隙もない執事然とした格好で微笑みを返してくる。
その、笑顔の圧が強い。
「昨日お通しいただきました厨房に、朝食をご用意しておりますので、お着替えになってお越しください」
「朝食は不要ですが?それよりも睡眠を」
「お着替えもお手伝いいたしましょうか?なんなら厨房までもお連れいたしますが?」
「自分で着替えて、自分で厨房に行きます」
昨日に引き続き、全く話を聞いてくれる素振りのないフリートさんに、執事とは?と思いながらも、着替えを手伝われるのも抱えて連れて行かれるのもごめん被りたいので、素直に言うことを聞くことにする。
寝台から降りた私を満足気に見てから見事な一礼の後、退室して行ったフリートさんの背中に疑問を投げかける。
私が欲しかった執事って、こういうのでしたっけ?




