執事は料理もできそうです
ぼさぼさだった栗毛を櫛で一纏めにし、いつもの白いローブを羽織って厨房に降りていけば、とても良い匂いとともに、素敵な朝の食卓が目に飛び込んできた。
こんな光景は書物でしか見たことがない。
黄色いふわふわしたものは焼かれた卵であろうか。まだ湯気が見えるので出来立てほかほかといったところか。そこに添えられた青菜は油で炒めているのかしんなりしていて食べやすそうだ。それと、何か動物の肉のような塊も添えてあってなんとも香ばしい匂いがしている。
その皿の手前には取手つきの器があり、何やら黄色い液体が入っている。これからも湯気が立っていて温かそうだ。
私の入室に気づいて振り返ったフリートさんは、手にした三日月型と丸い形のパンの入った籠を卓の上に置くと、こちらに向かってきた。
「改めまして、おはようございます。どうぞ、こちらにおかけください」
おかけください、と言いつつ素早く私を掬い上げて着席させるフリートさんには、もう何も言うまい。
そういうものだと思って諦めることにする。
「おはようございます、フリートさん。お料理もできるのですね」
「返品された王子に付いてくれるものなどあの頃にはいませんでしたので、西境時代になんでも一通りのことはできるようになりました」
触れてはいけない話題だった。
婿入り話がなくなった後、王宮に居場所がなかったハンフリート殿下は最果ての不毛の地と言われる西境に、有志の開拓団とともに赴いた。
その後、兄王が先王と同じ病で儚くなり王妃も後を追うようにして病に倒れ、十歳の王子を抱えて途方に暮れた王宮からの帰還願いが来るまでずっと、西境の開拓に尽力してくださった。
私もおりに触れ、西境に赴いては神術でできることはしてきたが、人々の心を支えたのはハンフリート殿下の直向きな姿だった。
今でも西境ではハンフリート殿下を、のちにハンフリート陛下となられたが、我らが英雄と讃えて、着任された日を忘れることなく祝日としているそうだ。
ハンフリート殿下にとって西境での泥に塗れた日々は不遇時代と言えなくもないのだろうが、私の目にはどこか晴れやかでのびのびとされているように映ったし、西境の者たちは誰も婿入りするはずの国から帰ってきた彼のことを変な目で見ることはなかった。
そんな瑣末なことに心を割く余裕はなかったと言えるし、大自然を前にして余計なことなど考えている暇などなかった。
「西境時代のことは今でも夢に見るくらい、いい思い出ばかりですよ」
微妙な空気にしてしまった私を慰めるように言ったフリートさんの声音がひどく優しくて、本当にいい思い出だと思ってくれているのだと安心する。
「私にとっても、あの西境での日々はいい思い出です。それでは、いただきます」




