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執事が我が家にやってくる

 国王陛下の御前を辞して、塔の自室にて凪いだ気持ちを取り戻したところで、とんでもないことになってしまったと後悔したが、もう遅い。

 言ってしまったものは仕方がない。

 言葉というものはどのような方法であれ発した瞬間から実態を持ち、発信者はそれに対しての責任を負わねばならないものだ。

 中央権力からの干渉を厭うていたにも関わらず、自分の失言によって、その干渉材料を懐に引き入れることになってしまったからにはもう、腹を括って受け入れるしかない。


 まぁ今頃、あんな戯言に付き合う謂れはないと、国王陛下も我に返られているかもしれない。


 都合よく自分の失言が有耶無耶になる可能性を見出していた私は、翌日の午後、王宮から届いた褒賞目録を目にして驚いた。

 金品や領地や肩書きなどが仰々しく書き連ねられたその末尾に、「望みのもの」として「有能な執事」と書き記されていたのだ。国王陛下自らが選定するゆえ少々お時間を頂きたく、という但し書きまで添えて。


 冗談みたいな本心からの望みをあんな形で表明したにも関わらず、こうして公式文書にして聞き入れた国王陛下の正気を、不敬にも少々疑った。

 こんなことに付き合わせてしまったのはこちらの方だし、そのことについては本当に申し訳ないと思うのだが、それはそれとして。


 執事が、我が家にやってくる。


 文字で記されたのを見るにあたって、漸く得た実感。

 国王陛下自ら選定なさるということだから、妙な人物が送り込まれて来ることはないだろう。

 こちらが深く関わらないようにしているだけで、国王陛下との関係は悪くないはずだから、私の悪いようにはなさらないだろう。


 余計な心配などせずとも、きっと大丈夫だ。


 さしあたりこの現状が飲み込めてくると、今度はどんな有能な執事が送り込まれてくるのだろうかという興味が湧いた。

 

 やはりロマンスグレーで何でもお見通しという雰囲気を醸し出す紳士然とした執事か。それとも慇懃無礼な態度とモノクルの奥に鋭い光を宿した闇夜に暗躍しそうな執事か。あるいは、感情の読めない無表情を崩さないのに繊細で細やかな気配りを見せる面倒見のいい兄のような執事か。それとも……。


 などと、想像の翼を大きく広げて期待に胸を膨らませ、先の失言を一度は後悔していたことも忘れて、執事が我が家にやってくる日のことを心待ちにしていた。


 だから、褒賞を賜ってから三月ほど経った頃に齎された、「執事を派遣した」という国王陛下からの先触れには浮足立ったし、実際爪先は軽く浮いていた。

 

 塔の領分への立ち入りを許可した人物が、私に褒賞を授与した御方その人であると分かるまでは。


お読みいただきありがとうございます。

執事と言えば有名な方が何名かいらっしゃいますが、国王陛下から派遣されるなら、どんな執事が良いですか?

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