執事と守人たちのお茶会①
私からの茶会の誘いにおずおずと応じた家主に通された地下室の中は、塔の外観やそこに至るまでの廃墟のような様相とは異なり、真新しい建物の匂いがする真っ白な空間だった。
初めて見る素材で出来た壁は触れるとツルリとしていて冷たく、床も同じ素材で出来ているようで、足元から温度が逃げて行きそうだ。
その色のせいで、中央に置かれた寝台以外何もない空間を余計に広く感じて、自分の矮小さが心許なくなる。
こんなに広々としているのに心が狭まってくる場所を、私は他に知らない。知らなくて良かったと思うとともに、こんなところが閉じられた場所だったのかと思うと、空恐ろしくなる。
恐らくここは、彼が前の世界で居た、閉じられた場所を模したものだ。
ちらりと視線を感じて目を向ければ、円な黒い瞳の少年と目が合う。
私より上背はあるというのに同じくらい華奢で、陽に当たったことがないような白い肌と陽に透けるような金茶の髪が相まって、儚げに見える。
実際、透けてしまいそうな不安定な存在感に心配になるけれど、私の紫紺の瞳に怯むことなく見つめ返してくる目には、強い光が宿っている。
いい目の色をしている。
緑がかった黒目の奥の神気の色は、光の色。
私の紫紺の瞳の奥の黒色と、対をなす色だ。
「トゥワ様、茶会の席が調いましてございます」
少年の瞳の色に見惚れていたら、背後からフリートさんの声がして振り返ると、この殺風景な部屋の一角になんともほのぼのとした茶会の席ができていた。
この部屋には椅子も卓もなかったので、フリートさんが籐の籠に詰めてきた敷布を床に広げて茶席を設けることにしたのだが、さすがはフリートさん、とてもいい具合に仕上がっている。
床に座しての茶会は、辺境で野営をした時の食事会のようで、楽しかった気持ちを思い出す。
「さあ、貴方も一緒に」
そっと近づいて黒い瞳を見上げて手を差し出せば、恐る恐るといったふうに白い手を伸ばして、その指先をちょんと私の掌の上に乗せた。
なんだこの可愛らしい仕草は。
私より頭一つ分は大きいのに、まるで野生の小動物が警戒しつつも人に懐いてくるようにされて、激しく動揺する。これが庇護欲というものだろうか。
初めて湧き上がる感情に心が震えるけれど、今は私情に流されている場合ではないので、その細い指先を軽く握ってフリートさんが用意してくれた茶会の席につく。
「あらためまして、お初にお目にかかります。私は南の塔の守人ミナレットこと、トゥワと申します」
一方的に少し心安くなったからか、今度は淀みなく自己紹介できた。
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しばらく守人たちのお茶会が続きます。




