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執事と主と引きこもる守人

「お初にお目にかかっ、てはいないから、えっと、お初にお声かけ致します。私は南の塔の守人ミナレット、って貴方もミナレットなのだから、ややこしいな。あ、そうだこうときこその名前だった。んんっ、私は南の塔の守人トゥワと申します」


 人の気配を辿って行き着いた先でフリートさんの腕から滑り降りた私は、とりあえず目の前の扉を軽く叩いてから、自己紹介などしてみたのだが。


 自分のことを誰かに表明することなど塔の守人の名乗り以来したことがなかったし、相手の反応が窺い知れないこの状況が妙な緊張感を生んで、自分でも何を言っているのか分からないようなものになってしまった。


 本当はこんなことをしなくとも、なんの防御力も無さそうな扉から押し入ってしまえばいいだけのことなのだが、それは私たちを好意的に迎え入れてくれたこの塔を裏切る行為のような気がした。

 地下の人影を感知した私の目の前にここへと導く螺旋階段を用意した塔の、この扉の向こうにいる新たな守人をどうにかしてやりたいという、意思を感じたから。


 塔は、自ら選んだ守人を慈しむものだ。

 世界の境界を越えて、この地を守らせるために異界の者を誰に断ることなく招び寄せるのだから、その責任を負うように、塔はこの地での守人の安寧を補償する。


 けれど、召喚した守人が守人として機能しなければ。

 塔は、その恩恵を守人に与えることができなくなる。


 このままでは、せっかく塔に召喚されたというのに、救われないまま元の世界に還ることになってしまう。

 還った先で幸せになれるのであれば私も引き止めはしないが、そもそも元いた世界で幸せなのであれば、塔に招ばれてはいない。


 塔が守人として選ぶのは、ここではない世界の閉じられた場所に在る不遇な存在と決まっている。

 この私がそうであったように。

 きっとこの塔に選ばれた者も、誰かに、何かに、助けを求めていたはずだ。


「私は、南の塔の守人トゥワ様の執事でフリートと申します。扉越しではお話をお伺いすることもままなりませんので、中に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」


 なんとかしてやりたいと悶々としながら扉に手をつき様子を探る私の横で、中には見えないというのに最上の礼を取って挨拶をするフリートさんのその右手を見て、ハッとする。


 そうだ、対話するにはもってこいの素晴らしいものを、私は最近知ったばかりじゃないか。

 

「ここに、美味しいお茶とフリートさんお手製の甘味がありますので、一緒にお茶でもいかがですか?」

「これはトゥワ様のために持参したものですが、入室の許可を頂けるなら、お裾分けをするのもやぶさかではございません」


 フォワード国王陛下の来訪で食べ損ねた間食を、せっかくだからと籐の籠に詰めて持ってきてもらったのだが、こんなふうに役立つとは思わなかった。

 交渉の材料として使用することをフリートさんも快く同意してくれたことだし、甘味の誘惑に抗える者など居やしないだろう。


 勝利を確信して扉の向こうの気配を探れば、人影が躊躇いがちにこちらへと近づいてくるのを感じる。


「さあ、塔の守人のお茶会のはじまりですよ」


 私が高らかに宣言すると、フリートさんは胸に手を当て、嬉しそうに笑った。

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