執事が主の名前を呼びます
なんだこのふわふわした卵は。
この三日月型のパンと共に食べると絶品ではないか。
この黄色温かな飲み物も、塩気があるのに甘くて、丸いパンを浸して食べると、お口が幸せいっぱいになってしまうではないか。
この動物の肉らしきものも、炒めた青菜と食べると力が湧いてくるような味がする。
「フリートさんは食べないのですか?」
あまりの美味しさに黙々と食べていたけれど、ものすごくフリートさんに見られていることに気づいて、気まずくなって声を掛ける。
「ミナレット様のお食事が終わりましたら、あとで私もいただきます」
「昨日から、その呼び方はなんなんですか。もうトゥワと、呼んではくれないのですか」
食事のことも気になるが、フリートさんがここに来てからずっと気になっていたことの方を指摘する。
塔の守人ミナレット。
これは私の名称であって、呼称ではない。
この国では塔の守人のことを総称してミナレットと呼んでいる。だから、ミナレットというのは私個人としての名ではないのだ。
まぁそれでも、塔の守人と交流をもつ者など稀有であるから代々の守人はミナレットと呼ばれることに異論はなかったのだろうが、私は違う。
私には、フリートさんがハンフリート殿下であった頃につけてくれて、ハンフリート陛下になった時に正式に授与してくださった、名前がある。
辺境で出会った時にふと名前の話になり、固有名称がないと話した私に、それでは貴方の存在が希薄になってしまうとハンフリート殿下が心配してつけてくれた名が、トゥワ。
口にしやすく覚えやすい名でとても気に入っているのだが、つけた本人がなぜ呼ばない。
「お名前を呼ぶことを許して下さるのですか?」
「許すも何も、貴方がつけた名前でしょう。貴方が呼ばなくてどうするのですか」
「主従の関係で馴れ馴れしいかと思い、許しを得るまではとご遠慮しておりました」
「貴方しか呼ばないのだから、ちゃんと私の名前で、私を呼んでください」
変なところで線引きをするのだな、と呆れて言うと、フリートさんはここに来て一番の笑顔を見せた。
「では、トゥワ様、スープのおかわりはいかがですか」
大変美味しいこの黄色い液体のお代わりを頂けるということに否やはなく、器を差し出すと、やたらと嬉しそうにお代わりを注ぎに炊事場へと向かって行くフリートさんがなんだか幼子のようで、可愛らしく見えた。




