表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界追放業  作者: なきり。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/13

13件目【ラドナの休日3】

 『魔盛毒蛇マナランスヒュドラ』は、蛇の胴体に4本の足、3つの頭を持つSランクモンスター…つまり、最上位種にあたるモンスターだ。通常の毒蛇ヒュドラが普通の蛇の姿に近いことを考えると異形と形容するに相応しいその体躯は、人間を簡単に殺せる膂力と、Bランクのモンスターとは比べ物にならないほど厄介な特性を内包している。

 が、そもそも毒蛇に限らず蛇の姿をしたモンスターは大抵、耳と目が弱く熱源探知を駆使して相手を探る。私たちの話し声、姿を認識して襲ってくることはないと見ていい。つまり…


「走って逃げるわよ…! 残した焚き火がある今なら逃げられる!」


 今もパチパチと音を立てている焚き火、魔盛毒蛇はそっちの熱に興味津々みたいだし、喋りながらも離れてたから結構距離は取れてる。今から走って離れれば余裕で逃げ切れる!


「え? 確かにヤバそうだけど、ラドナさんと俺ならいけるでしょ」


「バカ言ってんじゃないわよ、私1人ならまだしも、碌に連携も取れない奴と一緒なんてかえって足手纏いになるわ。そもそも前衛がいない状態なら私も1人で相手にするなんて無謀しない」


「へぇ、ラドナさん日和ってんすね? なっさけない、俺を追放したくせして臆病なことで」


「あぁ?」


 ぴきり、と自分のこめかみに血管が浮かんだのを感じる。私が? 日和ってる? …いや待て待て、こんなダンジョンの怖さを知らないような初心者の安い挑発に乗ることないわ。いくら私がSランク冒険者で、こいつも覚醒したスキルを持ってるとはいえ、負けの目は十分ある。ここで戦う理由は、無い!


「…馬鹿なこと言ってないで逃げて! そろそろ気付かれる!」


 魔盛毒蛇が焚き火の元へ近づき、食べかけだった毒蛇の肉ごと尻尾で吹き飛ばす。粉々になった肉片と、燃えつきて炭になった木片が炎と共に飛んできて、不快な匂いと衝撃に思わず顔を顰めて両腕で顔を庇う。

 キョロキョロと飛散した炎が生物でなかったことを確かめるように辺りを見渡したと思えば、魔盛毒蛇のセンサーがこちらの姿を熱で捉え、ギュルンと首を回して視線がかち合ってしまう。まずい、確実に気付かれた。


「ひゅ〜、怖いねぇ。でもどんなに凄んでも、結局はでけぇ蛇だろ? 俺の力を試す試金石として丁度いいかな」


 腕をブンブン回しながら魔盛毒蛇と対峙するハルト、その言葉に驚きより先に呆れが出てしまう。こいつは何を言っているの?今まで戦っていた…いや、身体に傷がないのを見るに遠くからの蹂躙が主だったのであろうただの毒蛇と魔盛毒蛇は次元が違う相手だ。この男はソレを、まるでわかっていない。


「見ててくださいよラドナさん、貴方がビビるこいつをあっさり殺して、惚れさせて見せます」


「ハッキリ言うけどアンタじゃ勝てない!惹きつけといてやるから早く逃げなさい! 口答えするな! 死にたくないなら走れ!」


 馬鹿が突っ込むより先に、眉間に向けて『ボウラ』を放つ。センサーは眉間あたりにある、上手く当たれば撹乱できる!が、手負いならまだしも、万全の状態の魔盛毒蛇に初級魔法が当たるとは思ってない。だから、


「爆ぜろ!」


 叫んだ瞬間、魔盛毒蛇に迫っていた『ボウラ』の輝きが一瞬大幅に強まり、四方八方に散ってゆく。散って行った小さな『ボウラ』達は地面に着いてからもしばらく燃え続け、簡易的な囮の役割を担ってくれる。他の魔法なら難しいけど、得意な水と火ならこういう小細工もお手のものよ!

 魔盛毒蛇は知能がある、私たちを人間と認識してるはず。『ボウラ』も魔法による攻撃と理解してる。だけど、眼前に迫ってた攻撃が突然消失、熱源が複数現れたら混乱して一瞬隙が生まれるはず!


「今よ! 行って!」


 ハルトの方に目をやって、精一杯の声を張り上げてそう指示する。前衛がいないとはいえ私なら、1人で逃げる隙くらい作れる。足手纏いにはさっさと逃げてもらって、そこから一対一の闘いに持ち込む! 

 そのはずだった。


「おうよ! いっけぇ! 『剣王創生けんのうそうせい』!!」


 馬鹿の叫び声と共に、地面から生えた3本の大剣が魔盛毒蛇の身体を突き刺す。一瞬何が起きたか分からず目をぱちくりしていると、


「見てくださいよ! やっぱSランクモンスターってもただの蛇じゃないすか! なんか焦ってたけど、過剰反応っすよ」


「馬…馬鹿…!! 何で攻撃してんのよ!」


「行け! って言われたから…」


「前にじゃなくて後ろに行けっつってんのよ! あーもう良いわ、せめてなるべく動き回らずにいて。戦闘の邪魔しないでよ!」


「は?もう倒したんだか…ら…?」


 剣が刺さった部分から、ぷすぷすと音を立てながら蒸気が噴き出す。魔盛毒蛇を軽々貫く、強度の高い魔力の剣が、ドロドロに溶けて地面に銀の水溜りを生成していく。刺さった剣がなくなってからも体から噴き出す蒸気は止まらず、みるみるうちに傷は無くなり万全の状態に元通りだ。


「再生能力持ちって事かよ…でも、刺しまくれば意味ねぇよなぁ! 『剣王創生』!『斧王創生ふのうそうせい』!『槍王創生しょうのうそうせい』!」


「ちょっ…!」


「「「ぶおおぉぉぉ!!!」」」


 魔盛毒蛇が咆哮を上げ、3つの頭で同時に口から毒液を吐き出す。が、その攻撃は避けるまでもなく私とハルトの遥か頭上を通り過ぎ、代わりにハルトの猛攻が魔盛毒蛇を襲う。詠唱と共に武器が地面から産まれては魔盛毒蛇目掛けて一直線に刺さっていき、右の頭が潰れ、足が切り落とされ、尻尾が2本に分断され、胴に無数の武器が突き立てられて満身創痍。ハルトは息を切らしながらも荒々しく笑い、


「ハハッ、流石にこんだけやりゃあ死んだでしょ。どうです?これが今の俺の強さです。ちょっとはハーレム入りを考えて…マジかよ」


 ハルトの見つめる先は魔盛毒蛇の全身から立ち昇る蒸気、己に刺さった武器をへし折ったり溶かしたり、あれほど壮絶な攻撃を喰らったとは思えぬほど平然と動くその姿は、ハルトの攻撃が致命傷にはほど遠いことを示している。今は再生中だが、逃げようとする獲物を逃すほど広い心は、攻撃を喰らって怒ったあいつには期待できなそう。背中を向けた瞬間、機動力の差で潰されるのが目に見える。


 …と思う間に、後ろから大きな衝撃が地響きと共に私たちの体を揺らす。弾かれたように後ろを見ると、私たちが来た道が塞がってる。さっき吐き出した毒液は、天井を溶かして落とし、逃げ道を消すため…! 残された道は、魔盛毒蛇が来た横道と、真正面にある正規の道だけ。どちらにせよ、こいつを退かさない限りは逃げ込めない…!


「これで分かったでしょ! アイツに生半可な攻撃は通じない! 魔力で出来た体を魔力で再生するから! 外ならまだしも、ダンジョン内で簡単に倒せるもんじゃないのよ! しかも噴き出す蒸気のせいで空気に毒が混ざるから、このまま戦えばジリ貧で毒が回って全滅! だから早く逃げろっつったのに!」


「ちゃんと納得できる説明してくださいよ!」


「納得してる間に死んだら意味ないでしょうが!」


 言い合いをしている最中にも再生は進み、メキメキとひしゃげた身体を音を立てながら治し、切り落とされた部分は根本からまた生え変わり、潰れた目も何事もなかったかのように元通り。攻撃する前とした後で変わったのは、空気中に舞う毒素の量と、魔盛毒蛇の足元で広さを増した銀の水溜りだけ。覚悟を決めるように息を吐き、キッと前を見ながらハルトに話しかける。


「『ボウラ』の撹乱ももう通用しない、逃げ道も塞がれた。おまけに相手は怒ってて、私たちを逃すつもりは毛頭ない。この状況下で生き残る方法はただ一つ、アイツを倒すことよ」


「…俺が言うのもなんですが、出来るんです?」


「出来るかどうかなんてどうでも良い、やらなきゃ死ぬわ。…Sランク冒険者ラドナの実力、見ておきなさい」


 己に発破をかけながら、全身に魔力を巡らせる。命を賭けた戦いが、始まる。

【補足情報】


 お察しの通り、蛇族の熱源探知能力は現実の蛇のピット器官を元に考えてますが、現実のそれより精度が低めにされてます。位置も眉間あたりになってる。多分現実の蛇のそれと同じものなら、焚き火の火に近づかずにラドナ達を狙ってきて、ワンチャンそのまま攻撃してきて終わり。

 蛇族の熱源探知に関しては熱を持つものとそうでないもの、冷えているものを探知でき、ある程度温度差による判別は出来ますが、作中やったように突然高熱のものが複数発生したりするとちょっと混乱してしまいます。ですが魔盛毒蛇は知能があるのですぐ気付きましたし、今のところ深く踏み込んできてないのは相手の力量を図るためです。雑魚と思われたらめっちゃガン責めしてきます。ラドナ、というか今のところハルトのことを強敵と認めたので己の糧とするため相手の逃げ道を断ち、自分だけ逃げれるようにして戦いを始めようとしてます。ハルトより頭良いかも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ