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醜い私にサヨウナラ〜捨てられ公主は深淵の谷で幸せになります〜  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 優しすぎる薬師様に恩返ししたいと思います

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018 香袋

「受け取れない気持ちは分かります。でも、皆様はどうでしょうか? 私たちを祝福してくださいますか?」


 春燕(チュンエン)の言葉に周囲はざわついた。

 そして、さらに言葉を続けた。


翡雲(フェイユン)様は、雲龍(ユンロン)国のため、好きでもない化け物のような姫との婚約を迫られているのです。私は彼を助けたい。私は翡雲(フェイユン)様を愛しているからです」


 周りの人々は祝福の言葉をかけた。


「立場上、春燕(チュンエン)様を拒絶したのだな」

「なんと似合いのお二人だ」


 子ども達が、可愛らしい笑い声と共に手に持つ花を二人の周りに投げた。

 祝福の拍手があちこちから聞こえ、春燕(チュンエン)は微笑み再び香袋を渡そうとして、瞳を曇らせた。


「やだっ、香袋が汚れてしまいました。ごめんなさい、翡雲(フェイユン)様、また作り直します」


 先ほど転んだ時に手を怪我していた春燕(チュンエン)は、血のついた香袋を見て泣きそうになっていた。


 それを私達の隣で見ていたお爺さんは、泰然(タイラン)様に気付くと顔を綻ばせて言った。


「おっ、泰然(タイラン)様がいらっしゃるじゃないか。春燕(チュンエン)様の傷を手当てしてくれないか?」

「えっ、俺ですか?」


 私の肩を抱く泰然(タイラン)様の手に力がこもる。


「舞姫様の治療ができるなど、光栄なことですぞ」

「では、この傷薬を渡してください」

「いやいや、医者でもない私では畏れ多いことだ」

「しかし、私は今、急病人を介抱しているのだ」


 お爺さんと推し問答していると、春燕(チュンエン)の従者の方がすぐ横に来ていた。


「お医者様ですか? でしたら、春燕(チュンエン)様の治療をお願いできませんか?」


 従者が話しかけたことで、春燕(チュンエン)もこちらへ視線を向けた。うつむき顔を隠し、泰然(タイラン)様の後ろに匿ってもらうようにして姿を隠すけれど、それが春燕(チュンエン)の興味を余計に引いてしまわないかと、緊張が走る。


「あの方は具合でも悪いのかしら。良かったら、私の籠に──えっ」


 春燕(チュンエン)が驚きの声を上げた。

 どうしたのかと思い目をやると、翡雲(フェイユン)様が春燕(チュンエン)の持っていた香袋を手に取り、反対の手で泰然(タイラン)様に、早く向こうへ行けと手で合図を送っていた。そして、笑顔を取り繕い春燕(チュンエン)に言った。


春燕(チュンエン)様、香袋は作り直さなくてよい」


 そして、懐から薬を出し春燕(チュンエン)の手に握らせた。


「水で綺麗に洗い流してから塗るとよい」


 春燕(チュンエン)の頬が赤く染まっていく。

 瞳は潤み、薬瓶をギュッと握ると顔を綻ばせていた。


「薬は必要なさそうだな。失礼する」


 泰然(タイラン)様はお爺さんにそう言うと、私の身体がフワッと浮かび上がる。泰然(タイラン)様に横抱きにされたのだ。


泰然(タイラン)、力持ち~』


 胸に抱いたリウリーが茶化すように言って、私は恥ずかしくて扇で顔を隠したまま、馬車まで運ばれていった。


 先ほど御者と会った医師の家を借り、泰然(タイラン)様は私に針を打ってくれて、少し身体が楽になった。

 身体の中の気が乱れており、不調だったのだという。


 家を出て馬車に乗ると、走り出す直前で翡雲(フェイユン)も馬車に乗り込んできた。

 そして馬車が走り出してすぐ、布から飛び出したリウリーを見ると、翡雲(フェイユン)様は暗かった表情をパッと明るくさせた。


「おお、ウリ坊じゃないか!」


 リウリーは翡雲(フェイユン)様の胸に飛び込み、抱きしめられ撫でられていた。


「どこに行っていたのだ? また泰然(タイラン)に追い出されていたのか? よしよし」

「リウリーと、とても仲が良いのですね」

「リウリー?」

「はい、その子の名前です」

「そうか、リウリーか。よい名前だ。この子は私の癒しの存在なのだ。……あ、すまない。うるさくしてしまったな。休んでいなくて大丈夫か?」

「はい。泰然(タイラン)様が針を打ってくださいました。あの……先ほどはありがとうございました」


 私を庇って春燕(チュンエン)の気を引いてくれたのだろう。


「気にするな。珍しく泰然(タイラン)が困っていた。日頃の恩が少しは返せただろう。まさか君を抱き上げて走り出した時は驚いたが」

「ご迷惑をおかけいたしました」

「いや、いいのだ。私も屋敷に着いたら泰然(タイラン)に針をお願いしよう」

「具合が悪いのですか?」

「ああ、気分が悪い。雪蘭(シュウラン)もあの舞姫の舞を見ただろう? あれのどこが舞姫だ」

「上手に見えましたが……」

「じょうず!? あんな舞、雪燕(シュウエン)の足元にも及ばん」

「そうでしたか……」


 そんなに違いがあるのだろうか。

 自分の舞う姿をみたことがないから比べられない。


「前に話したと思うが、あの女なのだ。雪燕(シュウエン)の悪評をばらまいたのは。顔に出ていたであろう、腐りきった性根の悪さが」

「はぁ……」


 春燕(チュンエン)には、いつも怖い顔で睨まれていたけれど、顔は美人だと思っていた。

 翡雲(フェイユン)様にはそんな風に見えているなんて、不思議でならなかった。


「あんな者より、雪蘭(シュウラン)の方がもっと上手く舞えると思うぞ」

「えっ? どうして私が」

「舞を子供に教えていただろう? さっき見ていたのだ。身体の芯がしっかりしていて、伸ばした指先まで空間を捉えていた。泰然(タイラン)が扇を贈りたくなる気持ちがわかる」

「これは……」


 今日来ている衣と同じ色の扇。さっき、泰然(タイラン)様が買ってきてくれた赤い龍の刺繍がされた薄絹の扇。とても美しくて私にはもったいないくらいだ。


「ん? リウリー?」


 扇に見惚れていたら、リウリーが翡雲(フェイユン)様の腰の辺りをフゴフゴと鼻でつついていて、紐が千切れるような音がした。

 リウリーは、さっき春燕(チュンエン)が贈った香袋を口にくわえ、床に叩きつけると、ドシドシと後ろ足で踏み始めた。


 強めの甘い香りが馬車内に広がると、まだ屋敷につかないはずなのに、馬車が急に停車し、前の簾から泰然(タイラン)様が顔を出した。


「おい、なんだこの香りは? 息を止めろっ」


 破れた香袋を見て、泰然(タイラン)様は後ろから馬車へ乗り込み、薬が入った壺の中身を出し、香袋を入れると蓋を閉じた。

 リウリーが簾をバサバサと揺らし、空気を入れ換えてくれている。


 そして、泰然(タイラン)様は翡雲(フェイユン)様と距離を詰め、脈を診て、針を取り出した。


 毒? でも、息を止めろと言われたから、喋らない方がいいだろう。

 泰然(タイラン)様の処置を無言で見守っていると、リウリーが私のそばに寄り言った。


『媚薬よ』

「?」

『だから、び、や、く』


 一文字ずつ言われたけれど、聞いたことのない名前だった。







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