130 宿泊所での夜 みやび視点
noteの方で、裏話、小ネタを掲載していってます
(TOPページ)
https://note.com/kirakiraspino
noteではこちらの前日譚「0話」も公開中
https://note.com/kirakiraspino/n/na36abbadd334
「うーん……見た目ではわからないね」
骨格が逞しくて、さらに適度に筋肉がついている。自分とは全然違う異性の体だ。これまで見たことのないナギの上半身裸の姿に少しドキドキする。
――いけない、集中しないと。左肩から鎖骨の中心部に向けて指を滑らせていく。
「っ!」
突如、ナギが身をすくませた。
「わ、ゴメン痛かった?」
「いや、少し驚いただけでなんでもない。うん……その辺りに痛みを感じるな」
「胸は?」
「? いや、そこはなんともないが」
「さっき私の胸見てたから、そっちも痛いけど遠慮をして言い出しにくいのかなって」
「……たまたま視線が向いただけじゃないかな」
なんか釈然としないけど、まぁいいや。
「そっか。痛めてないのなら良かった」
他人相手の治癒って初めてだけど、自分自身や過去動物にしたのと同じようにしたら大丈夫かな。集中するために目を閉じ、打ち身の箇所に左手を軽く置き念じる。
【治れ】
ナギの体に置いた手がじんわりと暖かくなり、それが広がっていくイメージ。それと比例して私の中から何か、熱のようなものが抜け落ちていく感覚がする。
以前、備わっている霊力を消費して異能力を使うって教わったっけ。私の場合は神力らしいけど。
しばらくそうしていると、少しだけ疲労感に襲われた。運動もしてないのに軽く息切れを起こす。
不安そうに私を見るナギに「大丈夫だから」と軽くアイコンタクトを送る。事実、そのけだるさはほんの少しの間でなくなった。
「凄いな、痛みが消えた」
ナギが痛めていた部分に手をやり確認してる。
「良かった」
他の人間相手には使うの初めてだから若干心配だったけど、うまくできたようだ。
「ありがとう」
「こちらこそあの時に身を呈して受け止めてくれてありがとう」
「いや」
短くそう言ったナギの右手が私の頬に添えられ、彼の唇が私のそれに落とされる。今日は軽めのキスだ。
……物足りない。
「ナギ、もう一回、して?」
「ああ」
頬に添えられた手が私の背中に移動し、力強く引き寄せられる。段々と顔が近づきもう少しで唇が触れようとした時――。
「あの……そういう事する時には部屋に鍵かけた方がいいと思いますけど」
シオンさんの声が室内に響いた。シオンさんの隣には、お兄ちゃん。
そのお兄ちゃんは頭を押さえつつドアに寄りかかるように立っていた。以前も私とナギのキス未遂を目撃したなぁ、そういえば。
「すぐに部屋を出るつもりだったので鍵はかけなかったな」
ナギはシオンさんたちの突然の登場にさほど驚くでもなく、平然としてそう言った。確かに私が引き留めたんだよね。私もすぐにナギの治療をしたらすぐに寝るつもりだったけど、何故か押し問答が始まっちゃったんだよねぇ。
「一応ノックはしたのですがね……」
シオンさんが、話す気力もないという感じのお兄ちゃんを一瞥して言う。お兄ちゃんのその額には深く皺が刻まれている。見るからに不機嫌そう。
「お前はとっとと服を着ろ。なんで上半身裸なんだ」とナギに向けて吐き捨てるように言った。
「みやびに脱がされた」
そのナギの言葉を受けて場の空気が凍った。ギギギと音を立てるようにナギに向いていたお兄ちゃんの顔が私をまっすぐに見る。さっきとは打って変わった無表情の顔が怖い。
「ちょっと! 言い方! 語弊のある言い方! 治療しただけだから!」
慌ててナギの言葉を補足する。なんか私が破廉恥な事をしてるみたいじゃない。ただの治療なのに。
「それにしてもどうしてお前たちは俺がドアを開けたら毎回いちゃついてやがんだ」
それはお兄ちゃんがノックと同時にドアを開けるからじゃないかな? 私たちに対してだけなのか、いつもそうなのか知らないけど。
しばらく言い争いがあったけど「もう夜も遅い、みやびさんを休ませてあげないと」というシオンさんの提案を受けて3人は引き上げていった。
ナギも報告書を今晩中に書かなければいけないというので、名残惜しそうに部屋を出ていった。寂しいけど、仕方ないか。ここで一緒に寝るわけにもいかないからね。
私も襲撃を受けて、さらにナギを治療したから疲労があるから一刻も早くベッドに横になりたかった。
軽くシャワーを浴び、持ってきていたパジャマに着替えてベッドへなだれ込んだ。
体は疲れていたけど、結局はあまり熟睡できなかった。
そして夜が明けた。




