113話 15年前 シオン視点
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みやびさんの病室の前で加賀宮が出てくるのを待つ。
恐らく加賀宮は彼女と兄妹である事は誰にも知られたくないだろうから弐番隊執務室では話が出来ない。寮の部屋でとも考えたが、加賀宮の事だから今のうちに捕まえて色々と聞いておかないと逃げられてしまうだろう。
それにしてもと思う。
みやびさんは加賀宮を「ジンお兄ちゃん」と呼んだ。
以前の加賀宮の話しぶりからいって、九条涼音には鳴宮蒼穹との間には娘であるみやびさんしか子をもうけなかっただろうし、加賀宮が鳴宮蒼穹の子供であるとは考えられない。
そして彼は九条涼音を「朔夜」と呼んだ。鳴宮蒼穹亡き後に朔夜という偽名を使っていた涼音がみやびさん共々加賀宮の家に来た、という所だろうか。
涼音と加賀宮の父親が元々知り合いだったのかはわからないが。
「……遅い」
思ったより時間が経過した。
加賀宮を兄だと思い出したみやびさんと思い出話に花を咲かせているのだろうか。
先ほどの彼女の口ぶりから、妹を困らせるような兄だったらしいが。今も昔も変わりのないな、なんて心の中で笑ってしまう。
「自分の目的の為なら他人の事なんてどうでもいい」という、そんな加賀宮の自分勝手な生き方に惹かれた。
そしてそれは生まれながらに強い霊力を持ち、巫女姫の為だけに尽くし生き、次世代の巫女姫の為に子を為して、死ぬはずだった私の人生に疑問を抱かせた。
「弐番隊の戦力強化のために術師をよこせ。生半可なやつではなく凄腕のやつをな」
そんな一言が私の人生を変えたなんて当の本人は一切わかっていないでしょうが。
巫女姫を護るためだけの存在である神衛隊所属だった私の転属が認められるとは思わなかったけれど、承認した杠葉長官には彼なりに思惑があったのでしょう。
私の主でもあった月詠みの巫女の口添えもあったとか……。
そのせいで加賀宮は今も敬神の会から敵視されているわけですがね。
過去に思いを馳せていると、扉が開く音がした。
加賀宮は一瞬驚いた風だったが、私の姿を確認した途端にその顔はいつもと同じ不機嫌さを漂わせているものに変わった。
「なんだ、待っていたのか」
「ええ。あなたの事だから今ここで捕まえないと逃げそうですからね」
「ちっ。お見通しかよ」
「私がこれまで、どれだけあなたに振り回されてきたと思ってるんですか」
「……デイルームでいいか?」
私の返事も聞かずに先々歩き出す。一応、約束通りに話は聞かせてくれるつもりらしい。
この時間、誰も使用していないデイルームへと戻ってきた。
そもそもこの医療施設では、今はみやびさん以外に入院が必要な患者は居ないのでデイルームを利用する人間も私たちくらいだ。
加賀宮は先ほどと同じく、ブラックコーヒーを購入している。長丁場になりそうだから、私もロイヤルミルクティーを買う。
ふと自販機に陳列されている炭酸飲料が目に入り、先ほどの「兄によって炭酸飲料を飲まされ、笑われた」という話を思い出した。
「何が聞きてえ」
椅子に座ると開口一番加賀宮は不機嫌そうな声色で言う。
「まず、あなたがみやびさんの兄というのは真実なんですね?」
「……単純な話だ。俺の親父とあいつの母親が子連れ同士で再婚した。それだけだ」
予想通りでしたか。どうりで2人ともまるで似てないと思った。
「朔夜というのは九条涼音の偽名ですか?」
「俺の家に来た時にはすでに朔夜という名前だった。俺にとっては涼音よりもなじみ深い名前だ。鳴宮蒼穹との逃亡生活中、朔夜という偽名を使っていたんだろうな。親父と籍を入れられたことから考えるに戸籍まで偽造したんだろうな。幸か不幸か鳴宮は公安警察所属だったから色々な抜け道を知っていたんだろう」
そういえば、情報屋とも懇意だと言っていましたね。
法令遵守を信条としていたであろう警官が、法を犯してまで妻と娘を守ろうとしていた。
そしてその結果、殺されてしまった……。
「あなたはその……天涯孤独だと聞いていましたが?」
とはいっても、直接聞いたことはないけれど。
加賀宮は良くも悪くも目立つ男なので、彼に関する様々な情報が噂として流れていた。確かなのは、異能暴走事件の被害遺児などを保護する弘原海邸の出身という事。元々の彼の家族構成は誰も知らない。
武人としても名高い弘原海氏に師事していたきょうだい弟子のナギも恐らく知らなかったでしょう。
他人に関心の薄い男同士だし、両者ともお互いのプライバシーには踏み込まないタイプですからね。
ナギ……彼がこの真実を知ったらどう思うだろうか。よりによって加賀宮が、最愛の人の兄だとは。
眉間に皺を寄せて「――そうなのか」と嫌そうに呟く姿が脳内で再生された。
「俺が10歳の頃に親父が何者かに殺されて、朔夜母さんと妹であるあいつが姿を消した。事件の異常性から異能暴走事件と睨まれ西の護国機関が捜査に乗り出したが、2人の行方は一切追えなかった」
西?……ああ、確か加賀宮は西古都出身でしたか。
「お父さんを――だからあなたは異能力者である母親の行方を捜す為にこの仕事を?」
朔夜が加賀宮の父親を殺したのだろうか。娘であるみやびさんを害した時のように、感情が暴発して。
「言っとくが、親父を殺したのは母さんじゃねえ、五行計画の追手だ。元々強力な異能力者を生み出すという計画だったから、思惑通りに生まれたあいつを攫おうとしての事だ。先祖返りである強力な力を持つ異能力者が生まれるとは予想外だっただろうがな」
そんな私の考えが読まれたのかと釘を刺された。
みやびさんの実の父親、そして加賀宮の父親の命を奪った。
「五行計画。――なんて残酷な」
思わず言葉に出してしまった。
「……彼女はそれを?」
「鳴宮の方は死因を言ってない。もし今後聞かれたら事故死だとか言ってごまかすつもりだが。だが恐らく親父の方は思いだすだろうな。……親父はあの日珍しく夜泣きしていたあいつと一緒に寝ていて、撃ち殺された」
「……みやびさんと共に居る時に侵入者に襲われた」
「親父を撃った時の銃声で俺と母さんが起きた。一足先に駆け付けた母さんが――エアロキネシスの異能力で襲撃者を全員殺した。俺が寝室に着いた時には辺りは血の海になっていたので正確にはその場に何人居たのかもわからない。それほどの惨状だった」
みやびさんは母親が男たちを殺害する光景を見たのだろうか。だとしたらあまりにも救われない。
「あいつがそれを目撃したかはわからん。俺が最後に見たあいつは意識を失った状態で母さんに抱きかかえられていた。もしかしたら母さんはそれも懸念して記憶操作の異能力者にあいつの記憶を消させたのかもしれん」
だとしたらあの母親の気持ちも理解できる。父の死、そして母が人を殺す様を見たかもしれない娘を思って。
その結果、彼女から幸せだった頃の父、兄との記憶。さらには本当の名前を奪ってしまったのは皮肉な話ですが。
「それからおよそ15年間、何の手掛かりもなかったがまさかこんな形で再会するとはな。……皮肉なものだ。名前も年もまるで違う別人として生きてるとは思いもしなかったな……。」
おとうと弟子のナギの番いとして加賀宮の前に現れるだなんて、なんという数奇な運命。
加賀宮とナギがきょうだい弟子の関係でなければ、そしてナギがあの時私に話しかけてこなければ、加賀宮が「茶髪の少女」と聞いて興味を示さなければ、兄妹は互いを認識する事も無かっただろう。
「加賀宮、あなたは仕事でも異能力者を追う業務を優先していましたね」
しかも執拗に、異常な程に執念を燃やして。それ以外の業務はナギ率いる壱番隊や他の隊に押し付けてまで。
「家を去る前に母さんが『自分は異能力者だから共に居られない』と言っていた。さらに西の護国機関の取り調べでも『異能力者』という単語を聞いた。取り調べでは黙秘を貫いて知らないふりをしていたが、異能力者を追えば母さんと妹の足取りを追えると思った」
「あなたは涼音――朔夜さんを探し当ててどうする気だったんですか?」
巻き込まれ殺されてしまった父の復讐の為に追っていたのか。
現になにがあったのかわからないが、朔夜は亡くなった。加賀宮の銃弾を胸に受けて。
「真実を知りたかっただけだ。あの夜に何があったのかを。今日までの2人の暮らしぶりを」
「……聞けましたか?」
みやびさんが搬送されていくのを呆けた目で見ていたあの状態から、正気に戻れたのだろうか。
「ああ。予想通りだったな。俺のその後を尋ねられて何度も謝られた。あいつを頼むとも言われた。――さて、もういいだろ」と加賀宮はすっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲むと有無を言わさずに席を立った。
「待ってください。――ナギにはどう説明をするんですか?」
「ちっ、それがあったか。……めんどくせえな。黙っておくか」
「――それは」
後で知られた時の方が怖いと思うのですが。
「じゃあお前が伝えておけ」
「嫌ですよ。そういうのは自分の口で説明してください」
あなたが愛してやまない女性の兄が加賀宮でした、なんて恐ろしくて言えない。
いえ、それを知った時のナギの困惑ぶりは少し見てみたい気もしますね……。
「ちっ、しばらくナギに会わないように調整するか」
そう言いながら空になった缶を乱暴にゴミ箱に押し込んだ。
そしてその言葉の通り、それからずっと加賀宮はナギと遭遇しないように立ち回った。 外泊までして。
その間、加賀宮はずっとみやびさんの病室に入り浸りで兄妹の時間を過ごしたらしい。
担当看護師の子からその様子をそれとなく聞いたが、談笑が廊下まで聞こえてくるとか。
15年間生き別れていた兄と妹。色々と積もる話があったんでしょう。
それが噂になりナギの機嫌がどんどんと悪化していったのは言うまでもない。




