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めたもるふぉうぜ!!  作者: 覆水
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第3部その3

 宮島家へ辿り着くと武志を心配していた楓と薫に出迎えられた。


 楓は酷く落ち込んでいたらしく泣いていた涙の筋や頬を拭った赤味が見られて武志は心が痛んだが彼が持ち帰った様々なものがそうした心配や寂しさや悲しみの全てを払ってしまった。



「わあ!」



 楓は彼が持ち帰った花々を見て手を合わせて喜ぶとさっそく花瓶や鉢の用意を始めている。


 薫は武志が持ち帰った食材を冷蔵庫へと詰め込んでいくが文句をぶうぶうと言った。



「もー、アイスがないじゃん。せっかく行ったのならアイスぐらい持って来てよねー」



 薫が文句を言うと武志は謝ったがその謝罪を聞くと冗談で言ったつもりだったと弁解して彼の苦労を労うのだった。楓も彼を大いに労って家庭の中は温かい安堵に再び包まれていく。


 武志はショッピングセンターで見たものは口にしなかった。彼女たちもそれを聞こうとしないのにいくらか救われている。きっと理解しているに違いないと武志は思った。


 せかせかと働いた楓によって武志が持ち帰った花々は宮島家を彩った。それから楓と薫が準備した夕食を食べる頃には彼は木戸フラワーでの事を話している。彼女たちもその花屋に行きたいと言って今度、3人で行く約束をした。


 楓が母親の寝室から花の本を持って来た。それぞれの花の名前や花言葉をひとつひとつ丁寧に読み上げて解説していくが眠りに就く頃にはまだ半分も済んでいないので続きは明日やると締めくくった。


 武志は風呂に入ってさっぱりすると着替えてベッドに入って眠りについていく。これからの事を考えていた。社会は形を変えてしまったかもしれないが人の存在は変わっていない。空は晴れているし、太陽も上空に輝いていて月も夜空に浮かんでいる。そして彼が持ち帰ったあの花々もこの宮島家を出て自然の豊かな場所へと行けば咲いている事だろう。


 不変なものがあるという発見をすると武志はこれからも大丈夫だという根拠のない、まるで言い聞かせるような変な自信が湧いてくるのを感じた。


 きっと誰かが上に立ってこの異変、異常事態をそれなりに収めて生活をさせてゆくために立ち上がるに違いない。そうした時に自分たちの生活が出来るようになっていけば言う事はないと武志は想いながら眠りに落ちていった。


 そして翌朝、朝も早い頃に武志は宮島家を襲う揺れを感じて目が覚めた。


 ぐらぐらと揺れている。それも長い時間揺れていた。武志は跳ね起きると楓と薫の元へと駆け出していた。


 楓の部屋の扉を開けると楓はすでに身を起こしていて武志を見るなりベッドを出て傍へと寄り添った。



「たけしくん!」


「うん。楓、大丈夫か?」


「うん、へいき!」


「リビングへ!」



 武志に言われて楓はリビングへと下りていった。武志は薫の部屋の扉を開けると彼女はベッドの半ばからずり落ちた格好で器用に眠っている。いかにも薫らしいと思って武志は少しだけ微笑んだが物に溢れた彼女の部屋を突き進んで彼女を起こした。



「薫ちゃん、起きて」



 武志が薫の肩を揺すぶっているのを振り払って薫は起きるのを拒否した。だが、その動作と地震の揺れで彼女の僅かにベッドの上に残っていた下半身がずり落ちようとするので武志はなんとかそれを支えるのだった。



「うわっ!」



 悲鳴をあげて起きた薫は揺れよりも起きてまず目に飛び込んできたのが武志である事に大いに驚いて再び悲鳴をあげた。



「きゃあ!」



 その女性らしい叫び驚いたままでいるが武志は彼女を支えるために伸ばした手を引っ込めないでベッド上に彼女を座らせるとようやく地震に気が付いた様子の薫に言った。



「リビングへ行こう!」


「う、うん」



 薫の手を握って外へと連れ出すとそのまま2人で宮島家の両親がいるはずの寝室へ向かった。



「薫ちゃんはお母さんの方をお願い!」


「うん!」



 武志に言われて薫は幼児の母親を抱き上げるとそのまま階下へと下りていった。


 武志は静かに寝息を立てている宮島姉妹の超高齢者となってしまった父親を揺り起こして身を起させると自分の首にこの高齢者の細い腕を回すと立ち上がらせた。どうやらほとんど自立して立つような力が無いらしく立つ事すらままならない。


 なんとか力を振り絞って武志は歩き出すと階段をゆっくりと下りていってリビングへと入った。



「あ、来た!」



「たけしくん、おとうさん!」



 ソファに座らせるとこの老人はいよいよ天へと召す迎えが来たと言わんばかりの恍惚とした表情で天上を見上げたままで固まっている。


 地震はまた一段と大きくなって武志たちを不安に包んでしまう。楓も薫も武志に抱き着いて安心しようとしていた。


 照明が切れて明るさが無くなってしまった。カーテンの隙間から漏れている陽の光が明滅している。



「「たけしくん!」」


「2人とも離れちゃダメだ!」



 そして徐々に揺れが収まって行った。


 ようやく完全に揺れが収まると武志は楓と薫を安心させるために優しく撫でた。楓も薫も泣いていてどうやら本当に一巻の終わりと考えたようだった。


 互いの泣き顔を見て笑う姉妹を見て武志もまた笑うと立ち上がって明るさをリビングの中に入れようとカーテンを開こうと手にかけた。


 しゃっと音を鳴らして窓の外を見るとそこは彼らの知っている光景ではなかった。宮島家の庭はすでに無くなっていて大きな尖った岩が隆起していて今も徐々に地中から角を生やすように伸び出ようとしている。


 緑に包まれていた宮島家の庭は家を囲っていた壁が全て崩れ落ちていて緑というよりも赤に近い色のよく分からない草に覆われている。


 武志が立った窓際からの眺めは未だに伸びて行く鋭い岩の姿で他の光景は見えない。



「なにこの岩………」



 薫がぽつりと呟いた。楓も呆然としている。


 武志は玄関へと向かった。開けようとしたが今の地震で建付けが悪くなったのが開けようとしてもなかなか開かない。壊す訳にはいかないと思った武志は2階の階段を上って楓の部屋へと入って行く。


 楓も薫も武志の後へ続いて部屋へと入った。ベッド際にあった窓の閉め切ったカーテンを開けるとそこには彼らが一度も見た事のないような不思議な光景が広がっていた。小高い丘の上にぽつんと建っている宮島家の邸宅、他の家は丘の下に並んでいてそそり立つ岩に穿たれた家すらもあるようだった。


 その鋭い岩が無数に生えていてまるで剣山のようですらある。小高い丘の上からは遠くに照り映える赤い波に揺れている海が見えていた。


 彼らの知る全てに、目に見える全てと見えない全てに訪れたこの大異変を前にして武志は愕然としながら後ろにいる2人を振り返った。その時に彼女たちを見ると彼はまた思った。


 どれだけのものがどんなに変わったとしても君を愛する、と。


 そうして全てがメタモルフォーゼしていく。


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