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復讐猫

「お、死んだ?」


 男は猫が激しく痙攣し、大きく一鳴きした後、動かなくなった猫を見て呟いた。


「くっは。やっぱおもしれーわ。動画も上手く撮れたかなー、と」


 男は先の猫の死に様を思いだし、愉快そうにに嗤う。

 この男、度々動物(大概は野良犬や野良猫)を捕まえては虐待し、それを某掲示板の動物虐待スレに動画を投稿している。男が上げる動画はスレ内では評判は良いが、良識ある人からは鬼畜にもとる所業として散々叩かれている。

 にも関わらず動画を上げているのはただ注目を浴びたいからであり、好評だろうが批判的であろうがそんなのは関係無かった。特に批判的なコメントには、


「害獣を殺して何が悪い?」


 と煽るようなコメントで返してきた。


「さーって、確認確認っと…………うわっ!?」


 男が録画用に設置していたスマホへ向かおうと歩み出すと、何故かバランスを崩し転倒する。


「ってぇー、何だ……あづっ!?」


 踵から激しい痛みが走る。男は痛みのする踵を見ようとするが、今度は四肢に何かが刺さったような激痛が走る。


「いっ!? ぎゃああああああああああああ!!」


 否、刺さったような、ではない。実際に何かが刺さっていた。両手の甲に右太股、左脹ら脛に長い金属製のパイプのようなものが。それは猫を閉じ込めていた檻の格子、細い鉄パイプだ。

 パイプは四肢を貫通し、地面に突き刺さっている。男のその様は宛ら昆虫採取の標本のよう。


「いぎっ! あぐっ! 何が、何がどうなってっ!?」


 動こうとすると激しい痛みが走る。救急車を呼ぼうにもスマホに手が届かない。その時、男の背中に何かが乗る感触が伝わった。そして、その何かに背中を引っ掻かれる。

 男の着ていた服はやや厚めだったので、始めは傷つくことは無かった。だが、背中に乗った何かは何度も引っ掻き、服はズタズタに引き裂かれる。そして、とうとう男の背中が直に引っ掻かれた。


「いだっ! おい、やめっ! いぎっ!!」


 何度も背中を引っ掻かれる。次第に背中は傷だらけになり、血で真っ赤に染まる。

 そして、その何かは背中から降りると、男の顔面へと近づく。


 それは、ついさっき絶命した野良猫だった。だが生気は感じられない。


「ぅみ゛ゃ~お」


 猫は男を見て一鳴きする。男は猫の鳴き声を聞き、ビクリとする。

 その鳴き声はとても可愛らしいものではなく、しいて言えば相手を威嚇する時の声だ。それでもここまで不吉な感じのする声ではないだろう。


「生きて……否、死んだ筈だ。何で動くんだよ……」


 男の言葉を聞いているのかいないのか、猫はただ男をじっと見つめる。

 その猫に誰かが近付いてくる。足だけしか見えないが、男は助けが来てくれたのか、とほっとする。


「な、なあ、誰だか知れないけど救急車を呼んでくれよ! ……なあ、あんた、聞いてるのか!? 早く救急車を――っ!?」


 だが、それは大きな間違いだった。背中から今まで感じたことのないような強烈な熱さと痛みが走った。

 熱湯を浴びせられたのだ。


「ぎゃああああああああああああ!! あぢいいいいいいいいいいいいい!! いでええええええええええええ!!」


 男はたまらず絶叫をあげる。熱さと痛みを和らげようと転がろうとするも、地面に縫い付けられて動くことも出来ない。


「ぢぐしょっ! なんだよっ! 見るなよっ! ごのぐぞ猫っ!!」


 猫はただ見ている。さっきまでいた誰かはもう居ない。否、離れていただけですぐに戻ってきた。顔を上げれないから何処の誰かも分からない。

 そしてまた熱湯を浴びせられる。


「うぎゃああああああああああああああああ! なんだよっ! 俺が何したよっ!?」


『コロ、シタ』


 その時、唐突に男の頭の中に声が響いた。聞いたことのない声だ。


『ソウヤッテ、ワタシヲ、コロシタ』

 

「は?」


『ダカラ、ワタシト、オナジメニ、アッテ、シネ』


「何だよそれ。ふざけるな、このクソ害獣がぁっ! あぎゃああああああああああああ!!」


 また熱湯を浴びせられる。猫はただ見ている。否、嗤っている。嗤いながら、男の苦しむ様を見ている。


「何だよ、何嗤ってやがる、クソ猫がぎゃあああああああああああ!」


 また浴びせられる。何度も。何度も。


「ま、までっ! 謝るっ! 謝るからっ! もうしない、だからもう止めてくれえええええええ!」


 だが、そんな謝罪とはお構いなしに熱湯を浴びせられる。


 何度も。何度も。


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


 何度も熱湯を浴びたことで血は洗い流されたものの、男の背中は赤く焼けただれている。


「ごべんなざい……もう……やべで、ぐだざい……」


 男は息も絶え絶えに懇願する。だが――


「あっぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」


 今までよりも長い絶叫が響く。浴びせられたのは熱湯ではなく――


 煮たった油だった。


 男の背中の皮が玉葱のようにズルリと剥ける。皮が剥けた所に直接煮たった油が注がれる。

 最早この世のものとは思えない程の激痛に男は身体を反らし、今まで熱湯を浴びせてきた者の顔を見た。


「!!」


 男自身だった。男が磔られた男に熱湯を浴びせていたのだ。


「お、俺…………? 俺に、ころされ、る……?」


 その男は猫が作り出したモノであり、無表情で、生気を感じられなかった。檻の鉄パイプを動かし、四肢に突き刺したのも猫なら、当然背中を引っ掻いたのも猫。


 古来より、猫に酷いことをすれば、猫は祟ると言う。


「う、あ……………………」


 男はそのまま痛みから逃げるように意識を飛ばし、生命活動を止めた。


 その後、この一部始終が男のアカウントから件の虐待スレに投稿された。そして長い空白の後、ある一文が書かれていた。


 ツ ギ ハ キ サ マ ラ ダ 。




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