とある野良猫の生涯
わたしは野良猫です。名前はありません。産まれたときから野良として生きてきました。
時々人間に飼われている猫を見かけては羨んでいるだけの、そんなしがないただの野良猫でした。
そんなある日のことでした。
わたしは数日間餌が見つからず何も食べずにいました。食べるものはないかとうろうろしていると、何処からかいい匂いがしてきました。匂いに釣られて行くと、そこにはご飯が置いてありました。
お腹が空いてたわたしは何の警戒もせず、無我夢中にご飯に飛びつきました。その時、後ろからガシャンと何かが閉じるような音がしましたが、わたしはご飯を食べることに夢中で、どういう状況になっているのか、それを知ったのはご飯を食べ終わった時でした。
わたしは檻に閉じ込められたのです。
何とかして檻から出ようとしましたが出れません。
そうこうしていると、知らない人間が近づいてきました。人間は手に何か持ってます。それは鍋という容器でした。
人間は鍋に入っている何かをわたしに浴びせました。
熱い! 痛い!
それは熱湯でした。
わたしはあまりの熱さに檻の中で暴れます。だけど檻は頑丈で逃げ出すことは出来ません。
人間は鍋に入っていた熱湯を全部わたしに浴びせると何処かに行ってしまいました。
暫くすると戻ってきました。手に鍋を持って。
人間はまたわたしに熱湯を浴びせました。
熱いよ! 止めてよ! 何でこんなことするの!?
ひどいことしたのなら謝ります。すぐにここから居なくなります。だから止めてください。
言葉が通じないのは分かっています。けど何度もお願いしました。
けど人間はわたしに熱湯を浴びせるのを止めませんでした。
人間は、嗤っていました。愉しそうに。
わたしはこの人間が恐くなりました。
人間が鍋を持ってやってくると、檻の中でガタガタ震えました。それを見て人間はニタリと嗤い、熱湯を浴びせるのです。
何度も。何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
そしてとうとうわたしは立ち上がることさえ出来なくなりました。何度も鳴いて声も出ません。
それでも人間はわたしに熱湯を浴びせます。
息をするのも辛くなってきました。意識も徐々に無くなってきました。
嗚呼、わたしはもう死ぬんだな。
消え行く意識の中、わたしはそう思いました。
そして、あの人間がまた鍋を持ってやって来ます。
人間は鍋に入った熱湯を浴びせます。
わたしは熱さにと痛みに身体を痙攣させ、最後の力を振り絞り、鳴きました。
そして、わたしは、死にました。