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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
五章 異世界人・勇者
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五章11話 蝙蝠獣人

「ソウタ様! ソウタ様! ソウタ様!」


 豚姫の代わりに食堂に転がって麻痺していたコウモリの羽の生えた女の子がその小さな羽をパタパタさせながら田嶋に纏わり付く。犬の尻尾みたいな羽だな。あの羽じゃ小さすぎて飛行補助の魔法でも無いと飛べないだろう、飛行補助魔法は竜族固有らしいから、あの女の子が亜竜でも無い限り飛行補助魔法も使えない訳だし……。

 見ている分には愉快なんだが纏わり付かれる田嶋にしたら鬱陶しくてかなわないだろうな。


「ああもう! くっつくな! だいたいお前誰だよ!」


 なんか田嶋に懐いてる感じだけど、田嶋の知り合いじゃないのか?


「くっつくなって言ってるけど、嬉しそうね……」


 ん? 朝霧? お前なんか怖いぞ。

 それと、俺がここまで運んで来た玲奈はそろそろ動けるんじゃないか? そろそろ降りてくれないか? 疲れはしないし玲奈の接触にも慣れてはいるんだが、冬子以外のクラスメイトに見られるのには慣れて無いんだよ。


「で? 田嶋……イチャついていないで、その子が誰なのか説明してくれないか」

「お前にイチャついてるとか言われたくない! 俺だってこんな子知らねぇよ!」


 田嶋は女の子を引き離そうと頑張っているけど、女の子は引き離されまいと頑張る。俺も抱えている玲奈を下ろそうとしたが首に手を回して抵抗してくる。でも、抵抗したって事はもう動けるんだよな?


「そんな! さっきはあんなに激しく踏み躙ってくれたのに!」


 何だこの子、変態か? てか、田嶋は女の子に何やってるんだ?


「冷たい声で脅してくれたよね! 薬で自由を奪わなくてもそれだけで痺れちゃってたんだよ!」


 この女の子が変態だってことは間違いないな。


「俺が踏んだのも脅したのも麻痺毒を使ったのも全部豚姫だ!」


 俺たちが戻って来る前に何が有ったんだ? 今女の子が言った事も妄想じゃなくて、実際に田嶋が豚姫にやったことかよ……。ほんと、お前何やってるんだ? 俺が言えた義理じゃないけど……。


「あ! そうだね! この姿じゃ分からないよね!」


 そう言って女の子はやっと田嶋から離れる、だから玲奈も離れよう、な? あ、嫌か……まぁ良いけど。

 田嶋から離れた女の子が魔法の詠唱を手早く終わらせる。詠唱の終わりと同時に、黒い魔法陣が女の子の足元に現れる。魔法陣の外周から上に黒い光が立ち昇り女の子の姿を隠す。


「変身魔法だね、闇属性の適正が要るから使える人は少ないけど……解析できた。これで僕も使える」


 演技の幅が広がるとか何とか江ノ塚が言ってるけど、変身魔法ってことはもしかして……。


「これなら分かるかな? ソウタ様!」


 やっぱり思った通りだ、女の子が豚姫に変わった。しかも、声まで変わるんだな。


「はぁ!? 豚姫の偽物!? じゃぁ本物は……」

「勿論、私たちが捕らえてるよ! あ、でも安心してね、あの豚と違ってちゃんと持て成してるから!」


 おいおい、いつから入れ替わってた? 田嶋たちは気が付かなかったのか?


「嘘だろ……最初の時から入れ替わった様子なんて無かった筈だ……」

「あ……だからか、最初から入れ替わってたって事?」

「うん、最初から、ソウタ様たちが召喚される前から入れ替わってたよ! それで、ソウタ様たちを召喚するように仕向けたのは私だよ! その後は全然上手く行かなかったけど……禁呪の魅了魔法まで持ち出して来たのに……でも! ソウタ様たちに魅了魔法が効かないなんて知らないもん仕方ないよね!」


 俺たちが来る前から入れ替わってたんじゃ気付き様が無いか、解析持ちの田中も人を解析するのには抵抗が有ったみたいだし、気が付かなかったか……。


「さっき解析できたとか言ってた江ノ塚は? 気付かなかったのか?」

「僕の解析は模倣、田中さん程の精度は無いからね。見抜けなくてもしょうがないと思うよ」


 と言うか、江ノ塚の能力って便利だよな、演劇? 演舞? だったか? 制限は有るみたいだけど田中の解析と合わせれば何でもできるんじゃないか?


「じゃあ、捕らえた本物のリーシア姫は何処に……」


 そう言えば、シルバーブルノ姫の名前ってそんなんだったな。豚姫としか認識してなかったからすっかり忘れていたぞ、田嶋はよく憶えていたな。


「ソウタ様が言えって言うなら言うけど~、後でいっぱい虐めてほしいな~」

「ゴルディリオンよ、その子も魔王軍の将……いえ、諜報部隊の隊長みたいね」


 何処から取り出したのか水晶玉を手に朝霧が言う、なんか女の子を睨んでいて水晶玉は全く見ていない気がするんだけど……占いだよな? 裏切って魔王と通じてるなんてこと無いよな?


「あ~、なんで言っちゃうの! せっかくソウタ様に虐めてもらえると思ったのに!」


 なんかよく分からんが、この子が残念な子なのは間違いないな。なんでか懐いてるみたいだし田嶋に任せよう、俺は関わりたくない。


「なんだよ、俺らが来る前からこの国詰んでるじゃねぇか

 あぁ~そうか、街でのリーシア姫の評判と豚姫に対する俺たちの評価が一致しなかったのはこいつのせいか!」

「キリちゃんから、リーシアちゃんに成り代わって色々やって来いって言われたからね!

 でも私! ソウタ様が虐めてくれるならソウタ様の味方に付くよ!」


 キリちゃんてのが誰か知らないが、こいつあっさりと魔王を裏切る宣言したな、田嶋はこの子に何したんだ? マジで。


「うん、交渉成立だね。存分に田嶋君に虐めてもらうと良いよ♪」

「あ! 江ノ塚! お前勝手な事言うなよ!」

「えへへ~、ソウタ様~」


 あ~、とりあえず、本物の豚姫が魔王に捕まってるんだな……で、魔王軍のこの子がこっちに付くと、信用できるかどうかは置いておくとして、今後の方針はどうなるんだ?


「田嶋君、この子変態(こんなん)だけど魔王軍の諜報部隊の隊長らしいよ。田嶋君がちょっといやらしい事するだけで魔王と交渉できるかもしれない駒が手に入るんだよ、損なんて無いじゃない、上手く犯ったよ、ねぇ?」


 こっちに同意を求めるな、俺はノーコメントだ。


「江ノ塚、本性見せた途端にあくどくなったな」


 田嶋の言う通りだな、俺が城を出て行く前はこんな感じじゃなかったんだけど、今はなんかすっきりしたような雰囲気が有ってはっちゃけてる感じだ……まぁ、こっちの方が生き生きしてるから良いんじゃないか?


「あぁ、糞! 分かった、こいつは……おい、お前名前は?」

「ソウタ様にならなんて呼ばれても良いよ!」


 田嶋が女の子の頭を軽く叩く。


「突っ込みが甘いな」

「そんなんじゃお笑いコンビの頂点には立てないよ」

「お前ら! 他人事だと思って楽しそうだな!」


 軽くだけど、田嶋に叩かれた女の子は若干嬉しそうにしているな……にやけた締まりの無い表情で笑っている。


「僕が解析しようか?」

「自己紹介ぐらい自分でします~」


 そう言って女の子は変身魔法を解除する。


「私はリリ、吸魔蝙蝠族の蝙蝠獣人で魔王軍諜報部隊の隊長なんだよ! あ、でも今は私に素晴らしい世界を教えてくれたソウタ様の奴隷だよ♪」


 うん、田嶋がやった何かが、このリリって変態を目覚めさせたらしいな。


「いつの間にか調教終了して好感度MAXとか……凄いね、僕には能力を使っても真似できないよ」


 全く羨ましくないし、真似したいとも思わないけどな。


「まぁいい、今後どうするかを話し合うからお前も大臣共に説明してくれ」

「は~い」


 帰ってきて早々、いや、帰って来る前から色々起こってるな。俺そろそろ休みたいんだが……このまま残ってるのかどうか分からない自室に戻って休んで良いか? 無いなら無いで適当に宿とって休むからさ……。


「はぁ、俺居なくても良いよな?」

「馬っ鹿、今回エバーラルドの姫を引き連れて来たのはお前だろうが! 不参加なんて認める訳無いだろ!」

「いや、そういう話し合いは冬子に任せてるから俺は要らないかと……」

「逃がす訳無いだろ……」

「逃げたら代理王押し付けるって事で良いんじゃない?」


 あ、江ノ塚余計な事を!


「それ良いな、よし、なら高深が来なかったら豚王の代理は高深な。んで、高深が来たら代理は江ノ塚な! よし! 行くぞ!」

「OK、さっさと行くか!」

「え、ちょっと! 僕にまで飛び火ってこれじゃ僕がやる流れじゃないか!」


 江ノ塚が俺に押し付けようとするからだ。さっき候補に上がってたのはお前だろうが……。


「僕もちゃんと話し合いに行くから、王代理は田嶋君がやると良いよ!」

「馬っ鹿! 俺はこの変態(リリ)を引き受けるだろうが! 他の面倒事なんて抱えられるかよ!」


 俺たちは騒ぎながらリミュールたちが話し合いをしている部屋に向う。なんかこの男同士のノリって久しぶりだな……無意識にだったけどテンションが上がってるみたいだ、まぁ、楽しいから良いか。

 なんかこの後も色々面倒事が有りそうだけど……少しぐらい楽しんでも良いよな。


「それじゃぁ……会議してる所に一番遅く着いたら王ね!」


 そう言って江ノ塚が真っ先に駆け出す。


「江ノ塚フライング! ってそんなもんねぇか! こっちは変態引き摺ってるんだぞ!」

「それ言ったら俺だって玲奈を抱えてるからな!」


 江ノ塚、これらを見越して計ったな!


「舐めた真似を……玲奈一人ぐらいでハンデになるとでも思ってるのか……前の俺じゃないんだぞ……」

「暗殺者の速度に勝てる訳ねぇだろ……」

「「ぶち抜く!」」


 俺は玲奈を抱えたまま、田嶋は変態(リリ)を引き摺りながら加速する。


「蒼也、頑張って」

「ソウタ様! 何これ引き摺られるの! 凄いよ! ご褒美!?」


 玲奈、応援してくれるのは励みになるけど、舌噛むなよ。


「黙ってろ変態!」

「あああぁん!」


 田嶋は大変そうだな、アレを見たら玲奈が離れてくれない位なんて事は無いな。

 まぁとりあえず……。


「江ノ塚をぶち抜いてあいつを王にする!」

「あぁ、自分で言ったんだから責任とって貰わないとな!」


 旅の成果を見せてやる、まぁ、駆けっこってのが締まらないけど……。

 今は兎に角江ノ塚を抜かすことを考えて走ろう!


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