五章4話 シルバーブルの姫(田嶋颯太)
「まぁ、獣軍の将なんて言ってたらしいし、他の隊が有ってもおかしくないよな……姫騎士隊って事は王女の護衛部隊か? それが相田たちの前に出て来るってどういうことだよ?」
最近は交替で休暇を取る為に城に戻っている奴に魔王軍との戦線状況を確認するのが恒例になっている。
「しらねぇよ、シノブって奴は、羽切と適当にやり合って帰って行ったからな……気になるなら自分で行きゃ良いだろうが、俺は休憩しに戻ってきてるんだから邪魔すんじゃねぇよ!」
おぉ、この手の奴等はDQNで面倒臭いな、まぁ、やり方さえ間違えなけりゃ扱い易くは有るんだが……。
適当に宥めたり煽ったりして情報を聞き出してとっとと離れよう。
「よう、そっちは何か変わった事や気付いた事は無かったか?」
白山から話を聞いて、これ以上役に立つ情報を持って居なさそうだと判断して用済みとばかりに無視して白山と一緒に休暇に戻って来た奴にも話を聞く。白山は俺との話が終わったらそいつを連れてどこかに行くようだったので、俺が話しかけて引き止めている事に小さく舌打ちをして一人で何処かへ行ってしまった。
まぁ、どうせ人気の無い場所で虐めようとしていただけだろうから問題ないだろう。
「僕は特に何も……あ、そう言えばシノブの戦い方が、羽切さんの刀の使い方を学んでいる風だったかな……最後には羽切さんの技をそのまま真似て見せたからね」
あ~、そいつは異界の剣士に興味があった系だな……。そして、刀剣マニアとかのオプションが付きそうな感じだ。それだったら、姫の近衛隊っぽい部隊の隊長が前線に出てくるのにも一応の説明が付く。
クロトもだけどシノブって奴もテンプレに当てはまりそうな奴って感じだな。分かりやすくて有り難い限りだ。
もうこれ以上聞き出せる事は無さそうだって所まで付き合ってもらい情報を整理する。
戦線も決して順調とは行かないようだな。豚王に義理は無いが、俺たちも手伝いに行った方が良いんだろうか? 少なくても、なんらかの方法で能力値に見合った(変態的な)動きができることを前線の奴等に伝えないとな。意識的に人外の動きができるだけで戦力は一気に上がるだろう。
今回戻って来た奴等は色々問題有るからな、他の奴等にも伝えてくれるかどうか分からない所が痛いんだよなぁ。
まぁ、豚王を何とかしないと、魔王軍と安心してやりあえないよな。後ろに敵が居る状態で戦うなんて無謀過ぎる。
さっさと暗殺しようにも、豚王の急所が見えなかったことが問題なんだよな。
異界の暗殺者の称号持ちの俺は、隠密状態で相手の急所に一撃を加えれば即死させられる必殺の一撃って能力が有るんだが、急所が見えなきゃ話にならねぇ。なら、能力に頼らなくても分かる急所、心臓とかを狙えば良いんだが、脂肪が邪魔で心臓の位置が特定できないんだよな。動脈狙って首を切っても脂肪に阻まれそうだし、そもそもこの世界には治癒魔法が有る、動脈切っても魔法ですぐに止血すれば生き残っちまうかもしれないんだよな……豚がこれほど面倒だとは思わなかったぞ。
「どうしたもんかなぁ……」
豚王の方は元々クズな王だった為、城下で豚王の有る事無い事な悪行の噂をばら撒いて、いつ討っても問題無い様に工作できたんだが、豚姫の方は無理だった。何の冗談なのか、豚姫に対する城下の民の評価は悪くない、寧ろ豚王が酷過ぎるからか評判が良いのだ。これでは悪い噂を流そうにも信憑性が無く、このまま豚王を討っても豚姫が国の実権を握る事になってしまう感じだ。好き勝手やっている豚王と違って、しっかりと民心を掌握していたようだ。
しかも、現状は豚王をさくっと殺る方法が無く、正面から全力攻撃で行くしかない。
それだと捜索班ばっかりの現状じゃ俺位しか戦えないんだよな……戻って来た戦闘班の奴等に応援を頼めば良いんだろうが、今回戻って来た奴等は色々問題があるから頼みたくないんだが、そうも言ってられないか。
「カメイ? そんな名前の勇者居ないわよ……」
っと! 最近聞いていなかった豚姫の声が聞こえたので思わず隠密を使って隠れてしまった。
今は別に疚しい事はしていないから隠れる必要は無かったんだが、まぁ良いか。暫く姿が見えなかった事だし、とりあえず何か企んでないか様子を見てから行こう。
なんか、豚姫は自身の影に向って一人で話し続けている。
「こっちだってね、せっかく持ち出した禁呪が効かないなんて思っても見なかったんだから仕方ないでしょ!」
禁呪? 何のことだ? 気にはなるが、豚姫の奴、相田たちと接する時と随分態度が違うな、やっぱりでっかい猫被ってやがったようだな。
「大丈夫よ、豚の方はだいぶ育って来たから、そろそろ勇者をぶつけても良いんじゃないかしら?
え? 禁呪無しで行けるのかって? 馬鹿にしないでよ、そんな物無くても男を騙す方法ぐらい有るんだから……」
さっきからこいつは誰と話してるんだ? 多分魔法道具か魔法で離れた相手と話しているんだろうけど、俺はそういった魔法や道具に心当たりは無い。豚王の事を話してるって事は相手は豚王じゃない、となると、誰と話してるかは全く見当がつかないな。分かる事といったら、豚姫が豚王と協力して企てをしてるんじゃなくって、豚王を道具扱いしてるって事ぐらいか。
「だから、カメイなんて名前の奴知らないわよ……偽名でも使ってたんじゃないの?」
お? 話が戻ったな、偽名ねぇ……勇者の中にそんな奴が居ないかって話が来るって事は俺たちの中の誰かがそう名乗ったか? カメイって言うと単純に考えて仮名って変換できるよな。もしかして高深か? いや、あっちは今伊勢と美波も一緒だから一人だけ如何こうってことは無いか?
「とにかく、こっちは早く終わらせたいのよ! もう十分でしょ!? 次の段階に進めるからね!」
あ、ヤバイ、どう攻めようか考えてる内に事態が動いちまった。
豚姫が話を終えて去っていくのを見送り、俺も急いで行動を開始した。兎に角、まずは今城に来てる奴等を避難させないとな。
俺みたいに情報収集する為や、捜索班が隠れ家に逃げた事をカモフラージュする為に何人かは城にちょこちょこ来ているからそいつらの避難を最優先しないと……。
捜索班に宛がわれた部屋に着くと朝霧が居た。他は……居ないみたいだな。
「え! 誰!?」
朝霧が勢いよくこっちを振り向いて驚いた声を上げる、っと、隠密を解除してなかったな。そりゃ急に扉が開けば驚くか。ん? でも俺が出した音に気付いたなら朝霧に対しては隠密が解ける筈なんだが、もしかして隠密を使い過ぎたせいで能力のレベルが上がったとかか? いや、今はそんな事どうでもいい。
「朝霧、豚王が動きそうだから城に居る捜索班の奴等を連れて避難してくれ! 俺は休暇に戻って来てる戦闘班の奴等に知らせに行く!」
「っちょっと待って! え……と、白山君が食堂の方に居るわ……あ、姫も近くに居る」
占いか? 闇雲に動くより有り難いけど、豚姫が近くに居るのか? 豚王に勇者をぶつけるって言ってたけど白山を嗾ける心算か?
「わかった! そっちに行ってみる、朝霧は捜索班の奴等を頼む!」
「ええ!」
食堂の方だな、通路を行くより外から行った方が早いか。
窓から外に出て外壁を駆ける、多少重力を無視しないと無理な行動だけど、能力値を使いこなす事を覚えた今なら、俊敏に特化気味の能力値が何とかしてくれる。
「勇者様! 助けてください!」
うお! 豚姫の猫を被った声が食堂に響く。窓から侵入しようとした所で丁度豚姫と白山が接触したみたいだ。
「このままでは私は父に穢されてしまいます!」
いや、お前腹ん中真っ黒だから、今更……。
白山の腕にしがみ付いて潤んだ瞳で上目遣いにじっと見詰める、なんと言うか……相手が相田じゃないって所以外はいつも通りだな。
「どういうことだ?」
白山が決め顔で優しく豚姫の肩を抱き問いかける、何だこの茶番。
「父は成長した私の身体が目当てで、今まで私を育てていたのです。先程、そろそろ摘み取ろうかという呟きを聞いてしまい、私怖くって……」
恐怖に震えながら必至に助けを求める姫、男性なら助けたいと思うのが普通なのだろうな。でも、豚姫のそれは演技だ。
「大丈夫だ、俺が護ってやる」
「勇者様!」
ひしっと、白山に抱きつく豚姫……。
だから、何だこの茶番。白山、そいつは相田に色目を使ってたんだぞ、思い出せよ。
「俺が王を倒してやる、だからお前は俺の物になれ、そして俺たちがこの国を治めようぜ」
こいつも何言ってるんだ? もしかしてカッコイイ事言った心算か? そんな訳ねぇよな? 豚から助けてやるから身体と国を寄こせって言ってるだけだよな? なんか、白山を助けに飛び込もうかと思ってたけど、これは放って置いても良いんじゃないか?
「勇者様……はい、この身、この心、国と共に勇者様に捧げます」
受け入れちまいやがた、って当然か、豚王と白山をぶつけるならそう答えるのが手っ取り早い。まぁ、白山も戦闘班なんだし戦力としては俺よりも役に立つだろう。結局豚王とは戦わないといけない訳だし、このまま先陣を切って貰うか。
俺はこの場で出て行くことを止め、白山が食堂を出て行った後で別の窓から城内に入り、食堂の入り口から何食わぬ顔で食堂に入った。
「勇者様! 助けてください!」
さっきの繰り返しが起こったので、縋り付こうとして来た豚姫を華麗に避けた。
無様に床に倒れた豚姫の背を足蹴にして踏み躙りながら冷たい声で宣言する。
「望み通り王とは戦ってやる、どうせ、豚王の持ってる魔法具の効果は喰った人間の能力値を吸収するって所だろう、副作用は精神を病むのと段階的な異形化って所か? きっちり片付けてやるから、その後、お前も無事で済むと思うなよ……」
引き続き背中をぐりぐりと踏み躙りながら、俺の予想を話し豚姫の反応を見る。見た感じ俺の予想は大きくは外れていないらしい、それだけ確認できたらもういい、とりあえずこっそり作っていた麻痺毒を染み込ませた針を、豚姫の肩に捻り込むようにぶち込んでから白山の後を追う。そう簡単にやられはしないだろうが、どれだけ豚王が強化されてるかだな。正面戦闘になる以上戦力は多い方が良い、急ぐとしよう。
「ん? 江ノ塚?」
玉座の間に向う途中で別の通路から江ノ塚が駆けて来た。
「田嶋君! 朝霧さんから聞いたよ!」
朝霧から聞いたって、お前が、戦闘を手伝いに来たって言うのか? ここに来たって事はそうなんだろうけど、虐めにじっと耐えているようなこいつが、積極的に戦闘に参加しにくるなんて思っても見なかったぞ、これなら素直に応援を頼んで、後手に回る前にさっさと豚王を倒しておけばよかったな。
「ああ、今白山が先に豚王の所に向かってる、急ごう!」
「うん!」
力強く頷いた江ノ塚の顔はとても頼もしく感じられるもので、普段の虐められている者の弱々しい物じゃない、異世界での生活がこいつを変えたのか? 変わったのなら良いが、虐める奴が居ない状態だからなんてことなら、白山に追い付いてどうなるかが心配だな。
まぁ兎に角急ぐか。
俺たちの駆ける前方で玉座の間の扉が大きく弾け跳ぶ、扉と共にぶっ飛んだ奴が部屋の中を睨みつけながら立ち上がる。
「白山!」
もう戦闘が始まってやがる、せっかち過ぎるだろうもうちょっと会話で尺を稼いで引き伸ばすとかできないのか!
部屋の中から白山に向かって鞭のような物が伸びて来る。俺は能力値をフルに使い、江ノ塚を置き去りにして距離を詰め、アイテムボックスから取り出した二本の短剣でそれを小間切りにする。
ここでようやく俺は玉座の間の中を確認できた。
「うおぅ、予想はしてたが……随分人間離れしたな」
元々脂肪だらけだった身体は、もう何所が何所だか分からない肉塊と化し、その肉から同質の無数の触手が伸びている。幾つかの触手は壁際まで伸びていて、その先端に兵士やメイドが百舌の早贄のように突き刺さっていた。いや、百舌の早贄って表現は正しくないか、貫かれた者たちは触手の先端に有る口によって現在進行形で喰われているのだから。
「今もパワーアップ中って事か……でもまぁ、やるしかねぇな」
自身の戦力に不安を感じながら覚悟を決める。
「田嶋! あの化け物を倒すの手伝え!」
その心算で来たんだけど……もうちょっと頼み方ってもんが有るだろう……。
やる気が少しそがれた気がした。




