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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
五章 異世界人・勇者
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五章2話 魔将(相田宗佑)

 明人が突っ込んで来た魔物の攻撃を受け止めて、そのまま魔物の頭を掴み動きを止める。そこを、羽切さんが刀で素早く斬りかかり片付ける。

 宇佐美さんが術を使い魔物の動きを阻害する。大規模な術を使えば宇佐美さんの術だけでも殆んどの魔物が仕留められるんだけど、魔力消費の低い術を使い節約する方針で魔物の数を削って行く。それで生き残った魔物を俺や副団長で仕留めて行く。

 個人の技量よりも連携を意識した戦い方に切り替えた訳だ。残念ながら白山君たちは俺たちの提案を蹴って好きにやっているけど、他の皆は連携を意識して動いてくれている、その結果は徐々に戦線を押し上げ快進撃を続けることでできていると思うんだけど、砦での戦闘以来クロトが戦場に現れない事が気がかりだ。

 別に以前のリベンジをしたいとかそんな訳じゃない、出て来ないに越した事は無いんだけど、このまま魔王軍と戦って行けばクロトは必ず出てくる筈だ。それを、何時かと待っているよりもさっさと出て来てくれた方がやり易いんだけど、あの強さは厄介だ……俺たちの方も戦い方を変えて、前よりは戦えるようになっているとは思うんだけどね。

 でも、俺たちの能力値はこの世界でも群を抜いている、レベルという概念が有って、それが上がった事一般人との差は更に明確になった。そんな俺たちと一人でやりあったクロトの能力値は俺たち以上って事になる。

 皆で協力すれば負けるなんて考えられないけど、その協力ができてないのが問題なんだよね。

 今も白山君たちが突出して魔物を倒している。これまでこの戦場で戦って来た魔物とその数なら、白山君たちが適当に戦っていても負ける事は無いだろうけど軽い怪我は絶え間なく負っている、治療する暁さんたちの負担になってないと良いんだけど……。

 そんな不安材料を除けば進軍はそれなりに順調だ、今日も魔王軍の陣を1つ潰した所で進軍を止め休息に入った。


「宗佑~ちょっといいか~」


 俺の能力値についてセリアと会話していたら明人が瑠璃ちゃんと一緒にやって来た。

 セリアが言うには、俺たちより前のセリアの所持者の中にも異世界人が居たんだけど、俺たちと同じか、それよりも低い能力値で俺たち以上の動きをしていたらしい。俺たちがクロトを強いと感じているのは能力値を完全に使い切れて居ないからという事だとセリアは言う。そうは言われても能力値、ステータスなんて目に見える形で自分の身体能力が確認できる状況で俺たちは育っていないからよく分からないと言うのが本音だ。


「宗佑? 大丈夫か? またセリアと会話中か?」


 おっと、明人が来てたんだった。


「ああ、ちょっとね、大丈夫だよ、どうかしたの?」


 能力値を完全に使いこなす方法なんて分からないから、今すぐ如何こうできる訳じゃない、そんなことよりも明人が何か用事が有るみたいだからそっちの方を聞かないと。


「用が有るのは俺じゃなくって田中の方なんだけどな、なんかクロト並みの奴がこっちの様子を窺ってるって言ってるぞ」

「…………」


 瑠璃ちゃんの方に目を向けると明人の言った事を肯定するように何度も頷いて見せた。

 そう言えば、瑠璃ちゃんはクロトと戦った時に何もできなかったことを気にしていて、あの戦い以来暇さえ有れば周囲を解析していたはずだ。戦闘では殆んど何もできないからと、それ以外でおかしなことが無いか気付けるように人以外は躊躇無く解析していた。


「解析に誰か引っかかったの?」


 罠が仕掛けられていないかとか魔物が潜んでいないかを調べていて魔王軍の誰かが当たったのかな?


「ああ、陣の向こう側なんだけど……こっちを窺ってる獣人が居る、能力値がクロトの平均値と同じぐらいの奴みたいだ、まだこっちを窺ってるだけみたいなんだがな……」


 明人はどうするって聞いてくるけど、それって俺が決めて良いことじゃないよね?


「能力は、涼香と結のを合わせた感じ……です」


 宇佐美さんと羽切さんの能力って事は、氷の魔術と刀剣を扱うてことかな? クロトとは違うタイプだけど、同等の力が有るなら今の俺たちに対処できるかは怪しい所だ。


「やっぱ、様子を見るしかないか……ただの偵察であることを願うぞ……」


 とりあえずは騎士団長に報せて判断を任せよう、勇者とは言え俺たち素人だけで判断する訳には行かない事だからね。

 明人の、いや、俺たちの願いは全く聞き届けられず、翌日の進軍開始時にその人は俺たちの前に姿を現した。


「お初にお目にかかります。私はシノブと申します」


 着物? この世界では始めて目にする衣装に身を包んだ女性は洋風の人が多いこの世界に有りながら俺たちに似た雰囲気があった。


「先日皆様にお世話になったクロトと同じ魔王軍の将の一人です」


 やっぱりそうだよね、こっちの様子を偵察していたんだから魔王軍の関係者である可能性が一番高いのは当然だ。クロトと同じような能力値があるなら将の一人って考えるのが妥当……。昨日瑠璃ちゃんの報告を聞くまでは、てっきりクロトが再度来るものと思っていたけど、他の人が来たって訳だね。


「ああ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。今回は個人的な用で来ただけですので」


 個人的な用事? この人魔王軍の将だよね? そんな理由で勝手に動いていいのかな?


「そこのあなた、私と手合わせしてください」


 彼女、シノブが指名したのは俺……じゃない、進軍直前だったから同じパーティの俺の後ろに居た羽切さん?


「私?」

「ええ、手合わせ願います」


 そう言ってシノブは魔法を詠唱し始める。問答無用か!?


氷細工(クリエイト)氷殺刀(アイスソード)


 シノブの手元に水色の魔法陣が展開されてそこから氷でできた刀が出現する。


『氷でできているとは言っても魔法で強化されています。適当な刀よりも丈夫な事は確実です』


 『何か特殊な効果も付加されているかもしれません』と、セリアは続ける。

 シノブの手にした刀の切っ先は羽切さんに向いている。


「分かった、お相手しよう」

「羽切さん!? 駄目だ! クロトもそうだけど、ひとりじゃ無茶だ! 皆で相手をした方が確実だよ!」


 相手の指名に答えてひとりで相手にするのはどう考えても無謀だ、彼女はクロトと互角の能力を持っているんだよ!


「ああ、安心してください、私を満足させてくれるなら命を奪う気は有りませんので……」


 それは、満足できなければ命を奪うって事だよね!


「これはあくまでも試合ということで良いのだな?」

「ええ、でもそちらは殺す気で来て貰っても構いませんよ」


 俺は止めたいんだけど、既に羽切さんはやる気になっている。彼女は少し猪突猛進な所があるからああなったら俺じゃ止められない。


「あまり舐めていると痛い目を見るぞ……羽切流、羽切結……参る!」

「舐めている訳ではないのですけどね……ゴルディリオン姫騎士隊隊長シノブ、お相手願います!」


 互いが改めて名のり合い試合は始まった。俺にはこれが試合で終わってくれる事を願い羽切さんの無事を祈るしかないのか? いや、危なかったら助けに入らないと! そう決意し、剣に手をかけたままで瞬時に飛び出せるようにして2人の戦いを見守る。

 試合とは言ったけど2人が使っているのは殺傷力のある武器だ、当たり所が悪ければ即死も有り得る。

 互いの武器、刀は全く同じ長さに見える、シノブが自分の獲物を羽切さんの刀を模して魔法で作ったんだろう。

 2人の戦いは互いに斬り合う所から始まった。

 お互いに斬撃を繰り出し、それらを避け、弾き、受け流す。互いの実力は互角のように見えるけどシノブの方が後手に回っているように感じる。羽切さんが押しているのかな?


『いえ、彼女はまだユイの様子を窺っているだけのようです』


 羽切さんと容易くやりあえるって事は、クロト並みの力を持っているのは間違いないって事か。


「この程度ですか……出し惜しみはお勧めしませんよ」

「くっ!」


 羽切さんがシノブの氷刀を弾き、大きく後ろに下がり距離を取ると刀を鞘に納めた。


「降参ですか?」


 シノブは追撃せず、構えを解いてそう訊ねる。


「いや、構えろ……出し惜しみせずに羽切の剣を見せてやろう」


 あの構えは、居合い斬りかな?


「期待しますよ……」


 改めて構えなおすシノブの表情は、言葉の通り期待に満ちている。

 クロトもそんな感じがしたけど、魔王軍の将って戦闘狂なのかな?

 っと、そんな事より2人の戦いだ。

 対峙したまま2人の緊張感が増していく……そして、羽切さんが動いた。


「羽切流、抜刀術……草薙!」


 一息でシノブとの間合いを詰めた。加速された剣戟はシノブが動く間も無く鞘走る。


「御見事……」


 シノブの構えた氷刀が半ばから断ち斬れ、シノブの背後の岩に剣戟の跡が刻まれる。ここが草原なら羽切さんの眼前に広がる草木は綺麗に薙ぎ払われていただろう。

 しかし、シノブ自身は上手く剣戟を防いだようだ。そして、余裕とも取れる嬉しそうな表情で羽切さんに称賛を送る。


氷細工(クリエイト)氷殺刀(アイスソード)


 せっかく壊した武器はすぐに作り直されてしまう。しかも、その氷刀は鞘におさまった状態だ。


「こうでしょうか?」


 シノブは鞘におさまった状態の氷刀を構え、先程の羽切さんの動きをトレースする。って! これってまさか!


「っつ! 皆! 防御を!」


 誰かが大声で皆に呼びかける。すぐに明人が前に出てシノブの剣戟を盾で受け止める。

 結果は羽切さんのやったのと同じ、明人の盾が断ち斬られ羽切さんや俺たちにまで剣戟が届く。

 皆、何とか防御したみたいだけど、今のは羽切さんがやったのと同じ技だ。でも、見ただけでできる物なのか?


「私ではこの程度でしょうか……他には無いのですか?」


 そう言われても羽切さんは動けないだろう、下手に技を見せるとそのまま真似される可能性が有るんだから。


「っ! ま、まぁ、良いです。邪魔も入ったことですし、今日はこのあたりで失礼するとしましょう」


 シノブは俺たちが背後から攻撃するかもしれないことなど気にしていないように、そのまま背を向けて去って行ってしまった。

 俺たちは俺たちで何もできず見送ってしまったんだけど……。

 結局、今日の進軍は中止になった。

 クロトに加えて、新たに現れた魔王軍の将、実力はクロトと同じ様に俺たち以上と思われる。

 魔王軍の将でこれって、皆で協力して俺たちの連携が上手く行っても魔王に勝てる気がしなくなってきたんだけど……。

 このまま進軍して大丈夫なんだろうか?


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