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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
四章 セントコーラル・急ぎ足な帰路
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四章4話 レベル上げ

「行くわよ! 氷柱雨陣(アイシクルレイン)!」


 青色の魔法陣が、玲奈の引っ張ってきた魔物たちの頭上に描き出され、そこから無数の氷柱(つらら)が降り注ぐ。魔道書を読みながら独学でやっている冬子も順調に魔法を習得しているようだ。

 氷柱によって貫かれる魔物たち、その中の氷柱を通さない、或いは避けた数匹の魔物たちが、勢いを少しだけ衰えさせて、こちらに向って駆ける玲奈を追いかけて来る。


「蒼也、よろしく……」


 玲奈が囁きを残して俺の横を通り過ぎる。ああ、任せておけ。

 吠え声を上げて飛び掛ってくる獣型の魔物を両手に持った剣で次々薙いで行く。半分ぐらいは俺に飛び掛って来たからそのまま斬り倒したが、残りは俺を無視して玲奈を追いかけようとしているようだ……でも、簡単に後ろに通す気は無い。


「エリアルブラスト!」


 数匹対応しきれないと判断して両手の剣で1つの魔法剣を発動させる。片方を逆手に持ち替えて残りの魔物たちが俺の一番近くに来たところで身体を一回転させる。剣から周囲を薙ぎ払う旋風が巻き起こり、魔物たちを巻き込んで切り裂く。

 2本の剣に魔力を込め1つの魔法剣を発動させる、双魔法剣とでも言えば良いだろうか? ブレイカー以外の強い攻撃を求めて試してみたところ成功した魔法剣だ。剣2本に込めた分の魔力を使用している為、単純計算で倍程に威力と魔力消費が上がっているが、剣同士の相性や俺のイメージ次第でもっと威力は高められるだろう。

 冬子も魔法を幾つか使えるようになっているし、確実に俺たちの実力は上がって来ているだろう。


「OK、片付いた!」

「蒼也君、次、来るわよ!」


 っと、後方から誰かを追いかける魔物の一団が来た。まぁ、魔物に追いかけられて駆けて来ているのは、俺の横を通り過ぎた後に再び周囲の魔物を集めに行った玲奈なんだが……。

 冬子は既に魔法の詠唱に入っている。

 俺も、もう何度目になるのか数えていないが両手の剣にそれぞれ魔力を込め直して構える。

 玲奈が早さを生かして周囲の魔物を集め、冬子が魔法で間引き俺が残りを片付ける。こうして俺たちの周りには魔物の死体が大量に転がっていた。


「玲奈! 一旦ストップな!」

「ん!」


 魔物を離し過ぎない速度で駆ける玲奈にもう連れて来なくていい事を告げる、そろそろ魔物の死体を処理しないと邪魔でしょうがない。


「そろそろ魔力が不安なのよね……氷柱雨陣(アイシクルレイン)!」


 だろうな、覚えたての魔法を朝から連発してるんだ。元の魔力が高いと言っても、俺の魔法剣とは消費が違う分減りも早いだろう。

 冬子の魔法で減った魔物を反転した玲奈と共に討ち取る。今回は2人がかりなので魔法剣無しで討ち洩らし無しだ。

 周囲に敵が居なくなり一息つく。


「それじゃ、納品依頼に必要な部位を各魔物の死体から確保するか……」


 今回俺たちは討伐依頼を受けて出て来ている訳だが、壁に張られた依頼書の中で魔物から取れる物でできる納品依頼をある程度憶えて来た。討伐依頼のついでに先に納品物を確保してから依頼を受ければ良いだけだ。せっかく魔法のカバン(マジックポーチ)があるのだから有効に使わないとな。

 実を言うと、もうとっくに討伐依頼の対象となる魔物は必要数撃破しているんだ。

 魔物を倒すと冒険者証に記録され、その分の冒険者経験値も貰える。下手すれば、依頼を受けて冒険者経験値を稼ぐよりも、今回のように効率よく魔物を狩りまくっている方が経験値が多いんだ。

 冒険者経験値じゃない方も溜まって、能力値のレベルも上がるからな。


「いっそ、シルバーブルの方に遠征して、魔物の群れに突っ込むか……」


 精霊が減った影響で魔物が大量発生してるからな……今なら、あの時のような事にはならないだろう……。むしろ効率が上がるんじゃないか?


「確かに数は多いわよね、前に数で押されて撤退した後に、魔物の群れを相田君、藤田君、田嶋君の3人で殲滅した事があったけど……確かその時は半分ぐらいの魔物を謎の剣士が1人で片付けて行ったって話しだから、実質半分の規模の魔物の群れを倒すのに相田君が覚醒する必要が有ったのよ」


 覚醒って相田……まぁ、いい。俺だって殲滅じゃなく突っ切って行って師匠と帰っただけだからな。人のこと言えない。俺の場合は魔力枯渇の上に大怪我したからな……。

 今の戦力でも数が多いとキツイか?

 高威力で殲滅できたら良いが、俺のブレイカーは発動に時間が掛かるから連発は無理。

 冬子の精霊術は威力が高いが魔力消費が激しく、精霊が減っているシルバーブルでは効果が低い―それでも結構な威力だが―、マギナサフィアの精霊の召喚に到っては、威力は申し分無いが使えば確実に気絶する……正に切り札だ、意識の無い人間を担いで魔物の群れを抜けようとして大怪我した俺としては、同じ事をするのは避けたい。

 玲奈は早いから生き延びるのは簡単かもしれないが、攻撃の威力が足りないだろう。


「まぁ、今のまま続けるほうが無難か……」

「ん、地道にやる」


 先ずはこの大量の魔物の死体から使える部分を取らないとな……。


「やっぱり、どこにでも居るなブレイドボア……こいつは牙剣を回収」

「蒼也、こっち……は?」

「俺に聞くより冬子に聞いた方が良いと思うんだが……青と黄色い波紋の羽の蝶、いや、蛾……サンダ蛾か? 鱗粉だな、ナイフか何か使って直接触れないように、毒は無いけど肌に付いたら取りにくいぞ」


 ポーチから小さ目の空き瓶を取り出して投げ渡す。あれは解麻痺薬とかの材料だな。


「このアザラシは強化部位があるって言ってたわよね?」

「シーパンサー? まんまアザラシだな、シーバードが居ないと意味無いから牙だけ回収で……時間も掛かるしな……」

「アザラシと海鳥で時間が掛かるってことはキビヤック?」

「だな、発酵するのを待ってなんて居られない。誰だ、こんな強化部位見つけた奴……」

「異世界……人?」


 その可能性が濃厚だな、作り方が完全にキビャックって発酵食品だからな……。


「牛……」

「って、そいつは動物の部類だな、混ざってたか……せっかくだから肉持って帰ろう」


 適当に周囲の魔物を集めて殲滅してるから余計な動物まで混じっているな。

 まぁ、持って帰れるから無駄にはならないだろう。


「こんなものかしら?」


 粗方片付いたな。必要な部分を取って残った魔物は放置しておけば獣か魔物が食うかな?


「次、行く!」


 はいはい、俺と冬子は魔力回復薬を使ってから玲奈に続く。回復薬の類は高価な物なので普段なら自然回復を待つのだけど、今回は効率を重視する方針で行こうということになった。


 そうして、俺たちは夕方まで魔物を狩り続けて冒険者協会へと戻って来た。

 今日は街の南側の森の魔物を自重せずに狩りまくったおかげで、街道を通らずとも帰りに魔物に遭遇する事はなかった。最後の方は魔物も見つけにくかったからな、明日は南側以外のどこかでやろう。


「おう、お前ら帰って来たか」


 なんか各冒険者協会で最初に対応してもらった受付の人が居れば、ずっとその人に対応してもらっているな……。


「取り合えず討伐依頼の確認をお願いします。それと、ついでに色々収集して来たんで、納品依頼も受けさせてもらいますね」

「おう、すぐに討伐確認をするから冒険者証を貸してくれ。で、確認してる間に納品するものを出しといてくれればいい」


 了解了解、言われたとおりに全員冒険者証を渡してそれぞれのポーチから今日の収穫を出していく。

 すぐにカウンターはいっぱいになったので、カウンター前の床にまで侵食していく。


「おう、確認できたぞ……って、何やってんだ!」


 何って、言われたとおり今日収集して来た物を出してるんだが?


「ちょっと待て……」


 おっさんが再度冒険者証を確認しだした。


「3人合わせて……ブレイドボア96体、ウィンドスライム15体、アイアント36体、シーパンサー……」


 聞いてる限りでは今日狩った魔物の数を数えてるってところか?


「おいおい、お前らやり過ぎだ。ってか、どうやってこんな数を仕留めた!?」


 どうやってって、普通に……集めて、範囲魔法当てて、残りを殲滅の繰り返しだけど?


「まぁ、こうなるわよね。中に高レベルの大物が混じっていないだけマシでしょうけど」

「ん、分かってた……」


 あ、そうだ、いきなりこんなに大量に魔物狩って来たら目立つの当たり前じゃないか。

 前までは目立たないように行動しようって思ってたのに、玲奈たちと行動し始めてからすっかり忘れてないか? いや、前から色々やらかしてたかもだけど……。


「取り合えず不正はして無いぞ」

「そりゃ、こんだけ現物見せられりゃ疑わねぇが……まぁいい、全部集計するから暫く待ってろ」

「ええ、よろしくお願いします」


 おっさんが他の職員にも応援を頼んで集計作業を始めたが、量が量だから暫く時間が掛かりそうだ。


「さて、どうする?」


 受付カウンターに向って右側、バー兼食堂の空いていた席に腰を下ろして集計を待つ。


「明日の準備は報酬を貰ってからの方が良いわよね?」


 そうだな、傷薬はともかく魔力回復薬は高価だから報酬をもらう前の状態じゃ、今日使った分の補充も難しいだろうな。


「いらっしゃい、ご注文は何にしますか?」


 席に座ったからかウェイトレスの女性が注文を取りに来た。


「いや、俺たちは……」

「見てましたよ、待っている間に何か注文していって下さいよ~」


 最後まで言わせて貰えなかった。


「まぁ、いいんじゃない?」

「ん、お腹……空いた」


 2人がそれで良いなら良いか、どの道晩飯は食べるんだからな。

 あまり冒険者協会の食堂は利用した事が無かったんだが、早い安い量多いだった……味に関しては不味くは無いってところか、冒険者向けなんだからそんなもんだよな。

 そして、食事中、ウェイトレスの女性ように受付カウンターでの俺たちのやり取りを見ていた冒険者たちが、一緒にパーティを組んで討伐依頼に行かないかと誘って来る者が数名居たが、丁重にお断りした。ちょっと急いでいるから、他人と足並み合わせていられないんだ。多分、俺たちだけのほうが効率が良い。

 誘いを断ったからと言って突っかかって来る者も無く、何事も無く報酬を受け取り薬を補充して宿に戻った。


 俺たちの冒険者レベル

 俺20、玲奈15、冬子15


 この分だと、2、3日中には2度目の昇格試験を受けられるレベルに達しそうだ。


「お約束が無かったわね……私たちの稼ぎを掠め取ろうとするアホとか、パーティ申請を断られて逆ギレするキチガイとか……」

「残念そうにするな、そうトラブルばっかり有ってたまるか」

「蒼也君なら絶対なんか引き寄せると思ったのに……」

「ん、そして……身包み剥ぐ、正当防衛で……臨時収入」


 んなこと考えてたのかよ……こいつ等もこの世界に馴染んで来たってことか……。


「まぁ、協会で問題起こすなんて本物の馬鹿だろうからなかなか居ないだろう、そんな期待は止めとけ」


 冒険者証に殺人なんかの罪科も記録されるからな、この世界の冒険者は比較的まともな奴が多い。

 まぁ、その馬鹿が居ない訳ではないから、注意はしないといけないだろうけど……。


「それじゃ、明日も頑張りましょう、自重? もう今日で十分目立ったもの、当然しないわよ!」

「まぁ、程々にな。よし玲奈、今日もやるぞ」

「ん……」


 そう言って訓練用に調達した木剣をポーチから出して投げ渡す。


「2人も程々にしなさいよ……」


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