四章3話 セントコーラル到着
「あれがセントコーラル?」
「地図ではそうなってるな」
セントコーラルに着く前に、その聖都を一望するのに丁度良い場所が有ったからそこから見下ろしてる訳だけど、聖都ってくらいだからでっかい教会か神殿っぽいのが有るのかと思ってたんだけど、それらしいものは見当たらない。小さな教会っぽいものが点在しているようなその代わりに都の中心に大きな湖が有る。あの湖って地図に書かれていないよな。マギナサフィアの精霊の居た森に有った泉も書いてなかったし、泉や湖は書かれてないのか?
まぁそんなことはどうでもいい、戦争が起こりうる世界や戦時に一般に販売されている地図に地形を全部描いてしまうのにも問題が有るんだろう。海以外の水関係だけ書かないってのも効果が有るのか分からないけどな。
でだ、セントコーラルの中心の大きな湖の中に木が覆い茂る森が有る。
「多分、あの真ん中のが聖地だと思うわ、あそこから漏れ出ている力が都全体を守護している感じね」
精霊の居た場所を聖地にして都ができたのか、聖地に精霊が住み着いたのか、まぁ、どっちでも良いか、取り合えずあそこを目差せばいいんだな。
「そろそろ、行く……」
「よし、じゃぁ出発するか」
伊勢に促されて歩みを再開する。
俺たちは、これまでのどの道程よりも滞り無くセントコーラルに辿り着いた。
旅慣れて来たのと盗賊に襲われることが無かった事が要因だろうな。俺1人だったら盗賊に襲われていた可能性が否定できないし、多分寄り道しまくっていただろうから、もっと時間が掛かっただろうな。
「まだ日が昇りきっていないわね」
「そうだな、昼飯の少し前ってところか。
どうする? 先に宿を探すか、飯にするか、もういっその事聖地に乗り込むか……」
「高深君、偶に物騒な思考するわね……」
いや、まぁ、乗り込むってのは冗談にしても、一度聖地がどんな感じで、忍び込んだりできそうなのかを見ておいても悪くないと思うんだけど、どうだろ?
「神聖国の聖地って言うくらいだから一般人が簡単には入れるものでもないだろ? ただの冒険者が正面から許可を貰おうにも話も聞いてくれるかどうか……」
「普通に考えたらそうなんだけどね、精霊を召喚して見せたらどうなるかしら?」
どうにもならないんじゃないか? ここは精霊を信仰している訳じゃないだろう。それに、召喚を使ったら美波は気絶するじゃないか、その後の交渉を俺と伊勢にやれって言うのか?
「聖地に精霊……これってその精霊が信仰されてるって事じゃないかと思うのよ」
そう旨い話があるか? んで、それを確かめる為に精霊を呼び出すのか?
「とにかく、行って見ればいい……」
いつの間にか聖地を見に行くって事になってしまってるな。まぁ、別に見に行くぐらいなら問題が有る訳じゃないから良いけど……。
この国にも冒険者協会は有るんだよな、他の街と同じで門を潜ってすぐの所だ。その、ほぼ同じ見た目の建物を横目に通り過ぎる。
そして、遠目に見た通り、少し歩けば教会が目に付く。結局、聖地の有る湖に向って歩いているうちに3つの教会を通り過ぎた。
「で、このちっさい神殿みたいなのを通らないと湖にすら近付けないと……」
湖の周辺には石造りの小さな建物が幾つも有り、そのどれもが見えない壁の向こう側だ。
つまり、湖は結界に囲われていて、結界を通り抜けられる場所は、今俺たちの目の前にある石でできた丸い柱と屋根のパルテノンとかそんなイメージ通りの神殿だけって事になっているようだ。
遠目には他の建物に隠れて見えないようなサイズなんだよな。入り口も馬車がギリギリ通れるぐらいにしか開いていない。
「当然のように、見張りが居るわね……」
「どうする、正面から頼んでみるか?」
「多分、止めた方が良い」
不用意に近付く人間が少ないのか、見張りが適当に近付いて行った俺たちをじっと見ている。
「いきなり怪しまれてるよな?」
「とりあえず、迷った冒険者って感じで離れましょう」
実際に俺たちは冒険者でここに来たのは始めてなんだけどな。
下手に動くよりは情報を集めてから動いた方が良いよな、考え無しに動いて目をつけられても厄介だからな、動くなら確実に成功させられる状態で動くのが望ましいけど……今まで殆んど行き当たりばったりだからなぁ……まぁ、少しは慎重になろうって話しだ。
「取り合えず宿を決めて作戦会議か……」
「情報、集める」
「冒険者協会であの中に入れる依頼って無いかしら?」
ほぼ同時に、それぞれが意見を言い合った。どれも間違った意見じゃない筈……なら、後は順番をどうするかってだけだな。
「冒険者協会、宿、情報集め?」
それで良いと思う、いい宿が無いか聞けば冒険者協会でも教えてくれるだろうから、妥当なところだろう。
俺たちは先程は素通りした冒険者協会へ戻って来た。
「たの、も~」
伊勢、道場破りじゃないからな。小声で言ってるから回りには聞こえてないだろうけど、止めとけ。
「時間的には空いてる時間かしら?」
そうだな、そろそろ昼食時だし、依頼を受けるならもっと早い時間だろうからな。
さて、受付は……正面、左の壁が依頼ボード、右側がバー兼食堂と……今までの冒険者協会と同じ配置だ、迷いようが無い。
「それじゃあ、適当に……」
「蒼也、こっち……」
適当に一番近い受付カウンターへ向おうとしたら、伊勢に手を引かれ2つ隣のカウンターに連れて来られる。
「おう、見ない顔だな、新人か?」
何で受付なんてやっているんだろうって感じの厳ついおっさんだった。
「いや、俺たちは今日この街に来たんだ。ほら、初めて来る街だから協会で色々と聞いておこうと思ってな、ほぼ駆け出しの冒険者にも手ごろな値段の宿とか武器店とかを教えてくれると有り難い」
いきなり聖地やら何やら聞くのは拙いかと思い、不自然じゃない話題から入る。
「おう、それなら……」
顔はあれだけど、対応はまともだ……それはそうか、変な奴を受付になんかしないか……。
丁寧に冒険者が利用するような店を色々教えてくれた。
「へぇ、あの湖の周りって結界で護られているんだな……」
知っていたことだけど、今知りましたといった体でしれっと返す。まぁ、話を知りたい情報の方へ持って行ってるのは美波だ。俺にはそんなことを器用にできる話術は無い。
「残念ね、綺麗な湖だって聞いてたから、一度近くで見てみたいと思っていたのに」
「はは、結界内に入れる依頼が幾つか有るが、君らのレベルは幾つだ?」
お、都合の良い依頼が有るのか? ここで要求されるレベルって、冒険者レベルのことだよな。でも冒険者レベルって、その冒険者を信頼できるかどうかの指針にもなってくるから、相当高くないとその依頼を受けられないんじゃないか?
「私が11で……」
「……同じく、11」
「20だな」
伊勢たちは昇格試験を受けているから魔物の討伐や依頼の達成で少し上がっているみたいだけど、俺は昇格試験を受けずに精霊の依頼を受けたり色々してたからなぁ、20のままだ。
そう言えば……マギナサフィアの受付の奴も、精霊石の依頼分の経験値を加算する時になんか言ってた気がするが……。
「悪いな、最低要求レベルが31からなんだ……」
精霊石の依頼の時もだったけど……計ったように足りないな。しかも今回は必要レベルに達する為には2回昇格試験を受けなくちゃいけない。
「それと、パーティで依頼を受けるなら、全員の冒険者レベル31以上を要求されているからな」
2人もレベルを上げないといけないって事か……。
「そうなの? この街に居る間にそこまで達するようだったら考えてみるわ」
「おう、頑張ってくれ」
カモフラージュの為か、他にも少し話をした後に不自然にならないように協会を後にする。
「流れ的にレベル上げを要求されているな……」
「どこのロープレよ……」
「どう、する?」
冒険者のレベル上げするかどうかか?
「時間的余裕は?」
「一般の民のことを考えたら急いだ方が良いけど……」
俺ら異世界の人間がそこまで面倒見てやる必要を感じない、そもそも、何で俺たち豚王の尻拭いしてるんだ? いや、美波たちが俺らの召喚に何も関わってない民のことを考えて、異常をどうにかしようとしてるんだとは思うんだが……。
「魔物の大量発生ぐらいなら田嶋君たちが何とかするんじゃないかしら?」
それは、冒険者レベル上げをしようってことか?
「俺としては討伐依頼をこなせば能力値の底上げもできるからありがたいけど、いいのか?」
「大丈夫でしょ。でも、冒険者レベルを上げながら情報収集もやっていきましょう」
「ん、了解」
あっさり決まったか。
湖の結界の中には入れる依頼がどんな内容か分からないけど、今のところ他に結界内に入る方法が無いからこの方法でやっていくしかないか……。
でも、結界内に入った後はどうするかだな。多分、自由に動き回れるなんて事は無いだろうから、レベルを上げているうちに何か良い方法を考えておかないとな。
「よし、とりあえずこのまま2人の冒険者レベルを俺と同じにするか……俺だけ先に昇格試験を受けて、その間に二人はレベル上げをしてるって言うのも考えたけど、多分伊勢が俺から離れてくれないだろう?」
「うん」
迷い無く即答する伊勢。
先日、伊勢が私から離れちゃ駄目って言ってから、伊勢は本当に離れないからな……。
仕方ないから全員で昇格試験を受けられるようにしようという訳だ。
「決まりだな、取り合えず、今日は傷薬とかの消耗品なんかを準備して明日から動くか……んで、情報収集も同時進行って事で」
「そうね、でも最後に1つ良い?」
ん? まだなんか有るか?
「高深君、そろそろ私たちのこと名前で呼んだほうが良いと思うわよ」
「……は?」
え? 何で急にそんな話が出て来るんだ?
「それ言ったら美波もだろ?」
「そうね、でも、私たちが冒険者協会で登録してるのって名前だけなのよ」
あ~、そう言えばそうだな。名前しか登録してないのに他の名前で呼んでたら、隠して偽ってる意味が無かったな。
「そう言う訳でこれからは名前で呼ぶこと、いい? 蒼也君?」
「ああ、分かったよ冬子」
「蒼也……」
伊勢、じゃ無くって……玲奈も今呼べって事だよな、期待したような目で上目遣いに見てくる。
「ああ、玲奈もな」
「ん!」
なんか、凄く喜んでるな。
名前呼びだと、今までよりも親しい感じがするし、喜んでくれるのは悪くない。
なんかやる気出てきた。頑張ろう。