間章三章2話 いろいろ動く(田嶋颯太)
数日後には戦闘組が纏めて魔王軍との戦線に向う。俺は帰還組と共に残ろうと思っているから出発日までに戦闘組のリーダーである相田をもう少し洗脳、もとい、考え方を誘導する必要がある。って、意味変わってないか? まぁ、あいつが今のままじゃちょっと不安だからな……。
「で、相田は何処に居るんだ?」
何故か自室で半裸になり鏡に向ってポージングしていた相田の親友、藤田に相田の行き先を訊ねる。相田の取り巻き女共はまともに会話が成立する気がしないので、こいつに聞くしか無かったんだが、タイミング悪かったか?
「おま! 何処から入って来たよ!」
何処からって窓からだが……ああ、最近隠密行動ばかりやってるから扉から入るって事を忘れかけているな、気をつけるとしよう。
「気にするな、で、相田は何処に居るか知らないか?
訓練所も食堂も相田の自室もハーレム共の部屋にも居ないみたいなんだが……」
「お前それを隠密行動の能力使って調べてるのか? 犯罪チックだから止めろよ……
宗佑なら聖剣と対話するって言ってたから、多分人目のつかない場所に居るだろうな」
俺の行動が犯罪じみてきているのなんて自覚している、でも必要な事だ、若干楽しんでも居るが。
にしても聖剣と対話するって、相田もいよいよおかしくなって来たか……。
「わかった、思い当たる場所を探ってみる……邪魔して悪かったな、思う存分マッスルしてくれ」
「ちょ! 違うからな!」
何が違うのか知らねぇが、俺は来た窓からとっとと退散しよう、これ以上藤田のポージングを邪魔する訳にもいかねぇからな。
さて、相田は何処でラリってんのかな~っと。
「お、居た居た」
順に思い当たる人目のつかない場所を回っていると相田の姿を発見した。でも相田1人じゃないみたいだな、なんか遠目にも美人なことが分かる女の子が一緒だ。でも、取り巻きの女共でも城の奴でもないし……誰だ?
とりあえず気づかれる距離で野次馬っぽく見守ろう。
「ソウスケ……」
「え!? 誰か居るの!?」
美人さんが俺が隠れている事にあっさりと気付いて相田に知らせる。
「まぁ、俺だ」
見付かるように隠れていたんだから、あっさり姿を晒す。
「どうしてるかと思ったんだが、その子誰だ?」
「えっと、彼女はその……」
なんだ? 言い難い奴なのか? 相田が周囲に言い難い関係の女、こんな人気の無い所でこそこそと合っている相手、そこから導き出される答えは……。
「恋人か! ようやく一人を決めたか! 偉いぞ~褒めてやる! でもこっちの世界の女を選んじまったか、まぁ帰れるかどうかも分からないからそれは仕方ないか~」
「ちょっと! 待ってよ田嶋君! それ勘違いだから!」
っち、そこまで必至に否定しなくても良いだろうが……お前が身を固めてしまった方がこっちはなにかと楽なんだよ、なし崩しでも良いからとっとまともな奴とくっついちまえ。あ、豚姫は論外な。
「タジマさん、ですか? 私はセリア、ソウスケの聖剣エクセリアの精霊です。よろしくお願いします」
聖剣? 精霊? あぁ、相田が戦闘時に呼び出して使ってる剣か……相田は称号が聖剣の勇者だから何の疑問にも思わずそう言う能力だと気にしていなかったが、その聖剣に宿っている精霊か……。
「ああ、俺は田嶋颯太だ、好きに呼んでくれ……」
ふ~ん、聖剣の精霊ねぇ……相田が覚醒した時とかに聞こえて来た声に従ったと言っていたから居ても不思議じゃないのか? にしても美人だな、本当に相田とくっついちまえば良いのに……。種族―人と精霊―の差なんて異世界ならどうとでもなるだろ? 相田もなんかまんざらでも無さそうだし、美人だし、聖剣の勇者と聖剣の精霊って……立場的にも相田のパートナーにぴったりじゃねぇか、美人だし!
「それで、俺に何か用かな?」
「ソウスケ、ソウタは姿の見えないソウスケを心配して探してくれていたのよ。だから、私との対話をするのに隠れる必要は無いと言ったのに……」
相田が誤魔化すように言ってくるが……俺の心配は杞憂になりそうだな、セリアが相田に付いているなら覚醒前に見せた勝手に飛び出すような行動はマシになりそうだ。これだけの美人が常に見張っているなら豚姫にどうこうされる事も無いだろう。
「いや、どうやら心配無さそうだな、俺はもう行くから2人で仲良くやっててくれ」
「え! ちょっと田嶋君!」
「落ち着いてソウスケ、ソウタの冗談だから」
ははは、本当にセリアが居れば大丈夫そうだな、これで1つ心配事が減って他の事に集中できる……。
放って置いても状況が良い方に動く、もう相田は気にするだけ無駄だな。本当にあいつは王道のチート勇者やってるな、その調子で皆を元の世界に帰してくれ……。
まぁ、とりあえずセリアのことと、相田とセリアが良い雰囲気だって事を言い触らしておくか……。
さて、相田が問題無さそうになったから時間が空いたな……本当なら相田の取り巻きの女共も何とかしたいんだけど……あいつらはどうやったらまともになるのか分からないんだよなぁ……これがラノベとかなら、相田の幸せの為に身を引くってのが一般的で、そうじゃない奴は大抵は悪役の噛ませだ。
ヒロイン、この場合はセリアか、彼女に嫌がらせをして最終的には身を滅ぼすって話ばっかりだよな……。相田の事さえ抜いたらそんな嫌な奴でもない普通の女子だ。でもって、一応クラスメイトな訳だからそう言う結末は後味が悪いよなぁ……ったく、どうしたものかなぁ。
ん? 人の気配を感知して隠密を全開にする。城を動き回るときに隠密を発動させるのはデフォルトになっているが、疲れるから人の気配が無い時にまで全力で使っていないんだよな。
で、城の兵士に案内されて、多分豚王の居る玉座の有る部屋に向っている奴、誰だあれ。城の奴じゃないな、ターバンと外套で顔はよく見えないけど、俺たち召喚されたクラスの奴らでもない。背中の鞄は魔法の鞄か? 見ようによっては商人に見えなくも無いが、なんか嫌な予感がするな。
とりあえずこのままつけよう、隠密は全開で気配や音も完全に遮断して怪しい商人(仮)の後を追う。
思った通り怪しい商人は玉座の間に通された。扉が開いている内に俺も中に進入して、怪しい商人と相変わらずだらしない身体を玉座に沈めている豚王の会話が聞こえる位置に身を潜めた。
「本日はお目通りいただきありがとうございます。私魔法道具の研究、開発、販売をしている……と申します」
あ? 名前だけ聞き取れなかった? この距離で、ありえねぇだろ? あの商人がなんかやってるのか? 魔法道具を研究開発販売してるって言ってたし魔法道具の類か? いや、その言葉自体信じても良いのか? ああくそ! 俺に田中の解析能力が有れば全部分かるのに! めんどくせぇ!
「私の作り出した魔法道具、いえ、魔法兵器が是非ともこの国には必要だろうと参上いたしました」
魔法兵器、マギナサフィアが国境の戦線で使用している魔法道具の攻撃性を高めて兵器化した物か、その対処の為に飯本が相田ハーレムから離れてマギナサフィアとの国境の砦に行ったんだよな。
魔法道具の本場、マギナサフィアと戦争中の為にシルバーブルは今有る魔法兵器のみで戦わないといけない、そんな事情を理解して、研究費や開発費を稼ぐ為に自分の魔法兵器を売り込みに来た研究・開発者、怪しい奴の言っていることは一応筋が通っているのか?
「ほう、どういった物が有るのか申してみよ」
あ~、豚王があっさり乗り気になっている、この国に魔法兵器を購入するような資金って有るんだろうか?
「通常の魔法兵器を改良し威力を高めた物は一通り取り揃え、私が開発した魔法兵器も数点、こちらも申し分ない威力だと自負しております。そして、今回は私の開発しました魔法兵器を数点譲渡させていただきます。お気に召すようであれば他の物の購入も考えていただければと考えております」
いくつか置いていくのか? お試し品って事になるのか……余程自分の開発した魔法兵器に自信が有るのか、それとも他の意図か……分からないが豚王はあっさりとそれらを受け取り上機嫌になっている。
「今回は魔法の鞄に入る小型の物ばかりですが、お望みと有らば通常の魔法兵器もお売りいたしますので是非御贔屓にしてくださいませ。最後に、お近づきの印しとしてダンジョンで発見された魔道具を献上させて頂きます」
あ!? なんだそれ! 豚王にゴマ擂るにしてもやり過ぎじゃないか? この世界について学んだから知っているけど、ダンジョンで発見された魔道具って珍しくて人の手で作られた魔法道具と違って厄介な能力を有している物が多いんじゃなかったか? そんな物をポンと豚王なんかに渡すって……あいつ何考えてるんだ?
「それでは、本日はこれで失礼いたします。また後日伺いますので、その時に追加のご注文をいただけると幸いです」
怪しい奴が帰る、どうする、後を追うか? 豚王の方は別に放って置いても良いか、なら、怪しい奴を追おう。
隠密状態を維持しつつ怪しい奴の後を追う。でも、そいつは城を出てすぐに宿屋へと篭ってしまった。まだ昼間だから篭りっきりって言うのが怪しいって言えば怪しいのか? でも、予定が無く出発の準備をしているだけだって言うならおかしくないのか……あぁ、考えるのが面倒だ、もう進入しよう。
些か隠密能力を過信し過ぎな行動のような気もするが、今まで気付かれた事も無いし大丈夫だろう。俺の隠密に気付けるのは同レベルで隠密の使える伊勢ぐらいだろう。勇者―異世界人―のスキルは簡単に破れるようなものじゃない。筈だ……。
入り口の扉は閉ざされている、一緒に中に入って全部の出口を閉めきられた状態で魔力が切れたら、隠密が解けてばれるから一緒に中に入らなかったんだが……窓が開きっぱなしだな。深く考えずに一緒に入っておけば良かったか……。
それじゃ、窓からお邪魔しますよ~っと……あれ?
「居ない……っ!」
思わず声が漏れてしまい慌てて口を塞ぐが……隠密が解けていない? ってことは今の声は聞かれてないって事だ。俺、音声遮断まで使ってたか?
いや、本当に部屋に誰も居ないからだ、人が居なければ声を聞かれることも無く隠密が解けることも無い。隠密の解ける条件は、魔力が切れるか、触れられるか、声を聞かれるか、自分で解くかだ。
あの怪しい奴はどこに行ったんだ? 部屋には怪しい奴所か人の居た形跡すら無い、宿から出てくる気配なんて無かった筈だ。
俺の感知を掻い潜った? そんな馬鹿な、こんな昼間で窓と扉しかない部屋から出てくる人の気配を感知できない筈が無いんだが……。あいつ、何者だ? 少なくてもあいつの言う通りの魔法道具の商人って訳じゃ無さそうだ……。
こりゃ、あいつが置いて行った魔法兵器と魔道具を早急に調べた方が良さそうだな……。
っても、豚王に上手いこと説明する言葉が思い浮かばない、面倒だしいつも通りこっそり隠密で調べれば良いか……できるだけ早めに田中に頼んで調に行こう。
にしても、あの怪しい奴は何所に消えたんだ? このまま放置ってのも拙い気がする……そろそろ本格的に皆を避難させる準備をしたほうが良さそうだな。
何所に消えたか謎だが、居ないものは仕方ないので城に戻る事にした。
で、城に戻ったんだが……。
「よしよしよしよしよし……」
…………捜索組みの占い師、朝霧由宇が黒一色の仔犬と戯れていた。
「朝霧、何やってんだ?」
「ッ! 田嶋君!」
いや、そんなに慌てなくてもいいって、仔犬と戯れるぐらい誰でもやるだろ。それに仔犬と戯れている朝霧は結構絵になってたぞ、相田の取り巻き共が居るから目立たないけど朝霧も十分美少女だからなぁ。
「な、なにを言って! じゃなくて……」
ん、なに慌ててるんだ? 急に深呼吸しだしたし……まぁ、可愛い所見られて慌てただけか、落ち着け落ち着け。
「また可愛いとか……はぁ、他意は無いんでしょうけど……まぁ良いわ、この仔、田嶋君宛みたいね」
仔犬をこちらに差し出して来る。俺宛? どういうことだ?
仔犬は俺を認識すると「ウォン」と一声吠えて一枚の紙を吐き出す。それは日本語で書かれた手紙だった。どうでも良いが、この手紙飲み込んでいたのに濡れてないな……。
「この仔、玲奈の能力みたい、手紙なんて書いてるの?」
玲奈? ああ伊勢か、犬の飲み込んでいた手紙がなんで濡れていないかなんてどうでもいい事より手紙の方だな……なになに。朝霧も隣に来て手紙を覗き込んでくる。
「……へぇ、高深と合流できたのか」
「それって凄い確率じゃないの?」
「高深の主人公補正だろ? もしくは伊勢のヒロイン補正?」
「補正って……まぁ良いわ、それよりも隷属の首輪って……そんな物有るの?」
「昔に召喚された勇者―異世界人―が作ったらしいな、魔法道具製作士とかの能力なんだろうけど余計な事を……」
「でも高深君が壊せるって」
「あいつも順調に強くなってるっポイな」
「着けられたら相手を殺せって、軽く言ってくれるわね……」
「あいつは1人で旅してたんだ、そういうのは割り切らないと生きて行けなかったんだろうな……お! 俺の調べた情報って間違ってなかったっポイな」
「何のこと? ああ、周辺三国との戦争の原因ね……分かってたけど、高深君が確証を得たのね、やっぱりあの豚共の自業自得って事なのね……」
「頼み方ってもんが有るだろうが、まぁ、最初から搾取する気満々で交渉に挑んだんじゃ、危険視されて戦争になるのも仕方ねぇな」
「これって……」
「俺たちが加担する必要って全く無いな……」
相田が張り切ってなければとっとと全員で逃げ出している所だぞ。でも、今のあいつなら真実を知ればクラスメイトを引っ張りこの国から逃げ出すぐらいはするか?
いや、無理か。悪いのは豚王共でこの国の民は関係無い、なら、豚王じゃなくてこの国に暮らす人の為に戦うって言いそうだよな……。
逃げるってなっても、今は一部の奴らがバラバラに動いてるからなぁ、とりあえず俺は予定通り捜索組みの奴らがいつでも逃げられるように準備をしておこう。
「高深君も帰還方法を探しているの?」
「ああ、そうみたいだな、でもエバーラルドの王族も知らないって……あいつ、どんな大物と関わってるんだよ! でも、まぁ、テンプレか?」
「しかもシルバーブルの者がエバーラルドの姫を誘拐しようとしたって……」
「戦争なら相手を降伏させる良い手なのか? いざって時は姫の命ぐらい斬り捨てられると思うんだがな」
「あの豚の考える事よ、捕まって連れて来られていたらお姫様どうなっていたか……」
ふと誰も居ない牢屋を思い出す。1人で探索してた時に見つけた豚王の部屋から繋がる隠し部屋、そこには血の臭いと、思春期の男なら憶えの有る異臭が残っていた。その時に誰も居なかったのが幸いだ。誰か居たら俺どうしていいか分からなかったからな。まぁ、隠し扉の隙間を蝋で固めておいてやったから簡単には再使用できないだろうけど……。
「虫唾が走るな……」
「ま、まったくね」
朝霧、顔を赤くしてるけど、ほぼお前が振ってきた話題だぞ……まぁ深くは突っ込まないが……。
「け、剣が折れたって、どんな相手とどんな戦い方してるのよ!」
誤魔化そうとしてるな、まぁいい。で、餞別にやった剣が折れたか……まぁ、それまで高深の身を護れたなら良いだろう、俺の事は気にしなくて良い。
「元々高深が自分で剣を用意するまでの繋ぎの心算で渡した物だしな。それより、この話しクラスの奴らに広めておいてくれ、俺も適当に広めておくから……」
「相田君へは……」
「あ~、どうすっかなぁ、いったら信じてはくれるだろうけど……戦いは止めそうに無いんだよなぁ、まぁ、一応俺が藤田に話しておく……」
後は藤田が何とかしてくれるだろう、丸投げってことだがあいつ相田大好きだし、上手くやるだろう。
「まぁ、それはお任せするわ……ところで、この仔どうするのかしら?」
気に入ったのか、黒い仔犬を抱きしめながら問うて来る、それ伊勢の能力だよな? 手紙を届けるって目的を果たしたのだから、伊勢の所へ帰ったり、この場で消えたりしないのか?
「大人しいものよ……」
ほんとにな、全く消える気配を見せないし、かと言って伊勢の元に帰る様子も無い。それどころか、朝霧の腕の中で「クウン」と鳴いて随分と落ち着いている……。
なんだ朝霧、その飼って良いぞって言って欲しそうな目は。
「まぁ、高深たちに連絡したくなったらそいつに頼めば運んでくれるんじゃないか? それまで手元に置いて置いても良いだろう……餌が要るのかどうか分からんが、そいつの事は朝霧に任せる」
これでいいか?
「うん!」
うわぁ、眩しい良い笑顔だぁ……改めてこいつは美少女だと実感させられる、うん、美少女が笑ってるとこっちもやる気になるな。それが相田に興味の無い子なら尚更だ。よし、手始めに豚姫の部屋で見つけた首輪を手当たり次第偽物に交換だな……。
「んじゃ、朝霧、そっちは任せたぞ!」
さて、いろいろ動くか……。




