三章15話 天敵
精霊砲、俺たちに精霊石の収集を依頼した依頼主が作り出した精霊の命を糧にして絶大な魔力砲撃を行う魔法兵器だ。その行使によって精霊を殺される事は世界にとって良くないこと。しかし、精霊砲の行使を阻止しようとする俺たちの目の前でその力は行使された。
俺たちは、リミッターをぶち抜いて魔力を込め続けた為に、パリンというおかしな音をさせて砕け散る俺たちの乗って来た魔法車から投げ出されながらその光景を目にする事になった。
「いけえぇぇぇぇぇ!」
精霊砲の上で叫んでいる依頼主、砲門の前に展開された複雑な魔法陣、そこから放たれる魔力砲撃、直径1メートルぐらいの虹色に光る極太レーザーは真っ直ぐ更に前方に有る砦に向って突き進む。
偶然精霊砲の間に居た魔物や鳥を瞬時に蒸発させて魔力砲撃は砦に突き刺さる。
「いや、違う?」
周囲の草木諸共砦を消し去るかに見えたレーザーは砦を覆うドーム状の青い膜によって押し留められている。
「飯本……」
ああ、あの砦には結界能力持ちの飯本が居るんだったな、結界で護られていない砦周辺は草も木も綺麗に消し去られ真っ平らな平地になっている、その光景から精霊砲の威力が窺えるが、飯本の結界内は全くの無傷だ。飯本の結界ってどれだけ優秀なんだ……。でも、砦が落ちる落ちないはどうでもいいんだよ……。
「2人共大丈夫か? 悪い、間に合わなかった……」
「仕方ないわ、でも、これ以上は撃たせない!」
当然だ! 俺たちは立ち上がって精霊砲に向って駆け出す。
「なんだお前たちは!」
精霊砲に向う俺たちの前に紫色の鎧を着た兵士たちが立ち塞がる。そう言えばここって戦争中の最前線なんだよな、ってことはこいつらってマギナサフィアの兵士か? 居るのは当然か……依頼主が単独で攻撃をしていてもそれは戦争行為だ、当然見張りや護衛が居るか……。
「高深君! 殺しちゃ駄目よ!」
美波は俺をどんな風に見ているんだ? 俺は盗賊なんかは平気で殺すけど矢鱈滅多殺戮して回ってる訳じゃないんだぞ。
「分かってる! でも、あの依頼主はボコる!」
「ん、当然!」
鞘からいつもの剣を抜き放ち、代わりに魔剣アンブレイクをポーチから出して発動状態にした後鞘に収める、魔剣と言っても刀身の見た目はいつも使っている剣と変わらないのできっちり鞘に収まることは確認済みだ。
「何か凄いの撃つ気満々に見えるわよ!」
「人には撃たねぇよ! これ以外でどうやってあんな大砲壊すんだよ!」
精霊砲が撃たれてしまったって事は、この周囲には精霊が居ないってことだ。当然美波は精霊術が使えない、伊勢だってあれを壊せるだけの威力の有る攻撃手段は無かった筈だ。いや、能力値任せで壊せるのか?
ともかく、兵士たちを蹴散らしながら精霊砲に向う、こういう場合は伊勢が大活躍だな、素早さを生かして相手を翻弄し、峰打ちで気絶させていく。対人戦に置いては伊勢が俺たちの中で最強だろう。
その伊勢が居るおかげでマギナサフィアの兵士たちはあっさりと蹴散らす事ができた。これが俺だけだったらこんな簡単には行かなかっただろう。相手を殺しても構わないなら、殺傷力の高い魔法剣で薙ぎ払うって手は有るが……。
「ん? お前ら……どうしてここに居る?」
兵士たちを薙ぎ倒してようやく依頼主の奴が俺たちに気付いた。
「精霊砲を撃つのを止めろ! そいつは精霊の命を……」
「ハッ! 僕の実験を邪魔しようってのか! まだだ! 今のはほんの小手調べ、僕の精霊砲の本当の威力はこんなもんじゃない! 僕の魔法兵器の凄さを証明する……邪魔をするな!」
チッ、聞く耳もたねぇ……周囲のロボ共を俺たちに嗾けて精霊砲の準備を始めてしまった。
「駄目! さっきより広範囲から精霊が集められてるわ!」
「精霊術で集まらないように操作できないのか!?」
「もうやってるわよ! でも、集められるのを遅らせるのが精一杯なのよ!」
何で勇者の技より強力なんだよ! 依頼主の技術がそれだけ凄いのか? 例え天才的な技術を持っててもやってることがこれじゃ全く意味がない。精霊の消滅に気付かないにしても人の話にぐらい耳を傾けろよ!
「冬子、そのまま頑張って……蒼也、私たちは……」
「ああ、予定通りだ! あいつが話を聞かないなら仕方ない、精霊砲をぶっ壊すぞ!」
美波が精霊術で精霊砲に精霊を集められないようにしようとして失敗、しかし、精霊が集められるのを遅らせる事はできたのでそのまま続けてもらう。先程より威力を上げるって事だからこれで時間は稼げるはずだ。その間に俺と伊勢でロボ共を何とかして精霊砲をぶっ壊す。
「伊勢、ロボ共の対処法は大丈夫だな!」
坊ちゃん家の地下で対峙したロボ共との戦闘経験が役に立つ、こいつらも地下のロボットと同様に魔法が効き難い素材でできているのだと予想をつけて最初から間接部分を狙って行く。
各ロボ共のスペックは地下に居たのと変わらないようだ。そして、幸いな事に衛生兵型のロボが居ない。これなら倒しても復活されるって事は無さそうだ。
「くそ! 力の集まりが遅い! 何故だ!?」
美波の妨害も上手くいっているみたいだな。まぁ、それがなくても既に周囲の精霊を消費してしまっているから精霊砲を撃つ為の力の集まりは遅い筈だと予想できる。
一発目の発射には間に合わなかったけど、次は絶対に撃たせない!
動けなくなるように、ロボ共の足の間接部分を斬り離して突き進む。
「な! 的確に魔法兵の弱点を! こうなったら……」
おいおい、なんだなんだ……依頼主の乗る魔法車がどんどん大きくなって行く……。
「変形ロボかよ……」
周囲のロボ共を行動不能にしている間に魔法車はガシャンガシャンと音を発しながらどんどん変形していく……ようやく周囲のロボを片付ける事ができた時には既に変形は完了して元の3倍ほどの大きさのロボに変形していた。地下の最後に居た大きなロボと似たような感じの奴だ。魔法車の上に乗っていた精霊砲が大ロボの丁髷みたいになっていて、肩の所に依頼主も居るな……。
「なんであのサイズがこう変わるんだよ……」
中は空洞なのか?
「魔法のカバンが有る、質量が大きく変化しても不思議じゃない……」
魔法車以外のロボの部分は普段はしまっているって事か……護衛のロボに加えてこんなのがあるなら道中の魔物もものともしなかったんだろうな。
こいつを壊すとなると魔剣アンブレイクによる魔法剣、ブレイカーが要るな。そうすると精霊砲を壊すのに、もう一発ブレイカーを撃つ魔力を集めるのに時間が掛かるのだが……。
「直で精霊砲を狙うか? いやそれだと依頼主の奴も巻き込むことになる……けど、まぁ……」
「良いと思う……」
「だな!」
「良くないわよ! ここで私たちがマギナサフィアの人間を殺しちゃったら厄介な事になるわよ!」
ちょっと後方にいる美波からツッコミが……よく俺たちの呟きが聞こえたな。
「伊勢、依頼主を気絶させてしまえばいいんじゃないか? そうすればロボを動かす奴も精霊砲の発射を行う奴も居なくなる」
やっぱり、あいつを消すのが一番手っ取り早いんだよな、後々が面倒だからって躊躇っていないで思い切って殺った方が良い様な気がするんだけど……。
「蒼也、気を引いて……その間に、私がどうにかする」
依頼主までは俺が跳んだぐらいじゃ届きそうに無いけど、忍びの伊勢なら壁走りも有るから依頼主まで届くだろう。なら俺は伊勢の提案に乗って、このままこっちに気を引き付ける為に正面から大ロボに対峙する。
伊勢が気配を消して隠密能力を使い俺から離れるのを感じながら派手に魔法剣を行使する。
「落ちろ! バーストスティンガー!」
ロボを傷つけられなくとも、その爆発の衝撃はロボの体を揺らす。これで上手く依頼主が落ちて来てくれたら苦労は無いんだが……そう都合良くいく訳も無いか。
「っと、反撃だ! 薙ぎ払え!」
依頼主の合図で大ロボが腕を振るい俺を吹飛ばそうとして来る、当然無抵抗に当たる気なんか無いので後ろに飛んで避けさせてもらう。サイズがでかいだけあって動きはそれ程速く無いが、当たったら痛いじゃ済みそうに無いからな。
精霊砲がこっちに撃たれない事を前提とすれば、大ロボの攻撃は巨体に物を言わせた物理攻撃だ。制御は依頼主がしているとは言えその攻撃内容は魔物と大差無い。
大ロボの攻撃を回避しながら効かないと分かっている爆撃を繰り返す。大ロボにダメージは無いものの、乗っている依頼主は爆撃や大ロボがバランスを取る時の揺れで振り落とされないように必至だ。
「しぶといな、とっと落ちてくれれば話しが早いのに……」
「ああ! 鬱陶しい! 貯蔵魔力を使って焼き払え!」
なんだ? 大ロボの胸元が開いて赤いクリスタルみたいな物が露出して……。
「高深君! 多分魔力砲が来るわ!」
げ、物理攻撃だけじゃないのかよ。大ロボのクリスタルが徐々に光を蓄えていく、アンブレイクが魔力を吸収した時と良く似た現象だけど、輝きが増す速度が速い、すぐに魔力の装填が終わるだろう。貯蔵魔力って言ってたな、美波が魔法車にバッテリーが積まれてるって言ってたけどそこから魔力を持って来ているのか? 行きの魔力は使っているだろうが帰り分が残ってると考えると相当な魔力量だ、こんなのどうするよ?
「人に使う武装じゃねぇ!」
「言ってもしょうがないわ! 何とかして!」
何とかしろって言われてもな! とりあえずクリスタルは外装と違って脆そうだしクリスタルを攻撃するか。ポーチから槍を取り出して魔力を込める。
「スパイラルスティンガー!」
地下で作った魔法剣スパイラルスティンガー、俺のイメージが昔漫画で見たドリルを装備した巨大ロボだったからか威力が申し分無いものになっている。漫画とかを元にしたイメージって凄く威力を上げやすいんだよな……まぁ、あの漫画が滅茶苦茶だったってのも有るけどな。威力を一点に集中させるこれで壊せなかったら、俺の魔法剣では破壊できない……。
「美波、逃げる準備はしておいてくれ!」
「無理よ! 今動いたら精霊の制御ができなくなるわ!」
予想はしていたけど、俺の魔法剣はロボの腕に阻まれてクリスタルは無事。どれだけ魔法防御高いんだよ……まぁ、護るって事はやっぱりクリスタル自体は脆いんだろう。でも、それが分かっても攻撃が防がれるんじゃ壊す事ができない。撃たれる前に破壊ってのは無理だな。
美波は精霊の制御で動けない、でも、いざとなったら動いてもらうしかない。
その場合は精霊砲の充填が早まってしまうから俺が魔力砲を迎撃しないと……ああもう、伊勢はまだか!?
魔力砲ってことは魔法だよな? 魔法に対して俺にとれる手は多くない、避ける選択肢が取れないなら、ブレイカー等の高威力の魔法剣で迎撃するか、師匠に貰った魔法を弾く変異種の動く鎧の身体の一部を甲の部分に縫いつけたグローブで防御するかだ。
本当に手が無くなれば使わないといけないけど、ブレイカーは取っておきたいから……。
俺はポーチから師匠に貰った反魔のグローブの片割れを急ぎ取り出して装備する。片方は装備していたけど、もう片方はいざって時に魔法剣を拳で使うために丈夫なグローブを填めていただけだからな。外したグローブはポーチにかたずける間が惜しかったのでそのまま放置。
「っつーか、これで防げるのか!?」
考えなおしている時間は無い、既に大ロボの胸元のクリスタルが燃え上がって魔力砲ってのを撃ち出そうとしている。
でも、燃えてるって事は精霊砲のような極大レーザーじゃないって事か? それなら反魔のグローブでもいけるか?
「撃て! フレイムカノン!」
大ロボのクリスタルから火球が放たれる。唯、そのサイズが大ロボのサイズで言う火球で、人一人ぐらい簡単に飲み込みそうなサイズだ。
「確実にグローブだけじゃ無理だな、アクアスパイラル!」
火球だから水渦で対抗だ、拮抗できるか分からないけどやらないよりはマシだろう……いや、もうこれで行く。ポーチから予備の剣も取り出して順次可能な限り急いで魔力を込めていく。
「アクアスパイラル! アクアスパイラル! アクアスパイラル! アクアスパイラル! …………」
複数剣に魔力を込めてどんどん撃っていく。目に見えて火球が小さくなってくるのは分かるけど俺の魔力もどんどん減っていく……そりゃそうか、魔法車がマギナサフィアからここまで走れるだけの魔力と対抗するんだ。いくら魔法剣の魔力使用量は少ないと言っても、急を要する事態で複数同時に行う故に魔力の込め方が雑だ。剣が壊れる程に魔力を込める事が無いようには気をつけていけどな。
「高深君! それじゃ間に合わない!」
いや、大丈夫だ。もう魔法剣で威力を弱める事ができない程迫って来てるけど、前に見た魔法の火球より少し大きいぐらいに弱まっている、これぐらいならば反魔のグローブで打ち落とせる。これだけの威力に落せるだけの魔法剣を打ち込める距離が有って良かったと言えるな。
「よっし!」
反魔のグローブで小さくなった火球を叩き落す。思ったよりも熱く腕が多少焼けてるけど、異常な治癒力が働き出してるからここは気にしない。サイズは小さくなっても威力は十二分に残っていたようで、打ち落とした火球が地面を溶かしてマグマ状に成ってるけど、考えると怖いので気にしない!
「それだけできるならあのロボも何とかできないの?」
「ブレイカー以外じゃ無理だ」
魔力砲に魔法剣で対抗したからできたことであって、魔法の効き難い素材の身体を持つ大ロボに魔法剣で同じように対処をしても意味がない。
「な! なんだお前! うわぁあああ!」
あ、依頼主が大ロボから落ちた。代わりに大ロボの肩の所には伊勢が立っている。
「伊勢……成功したみたいだな」
俺は落ちた依頼主を拘束するか……。
ポーチからロープを取り出して動きを停止した大ロボに近づいて行くと、落下でどこか怪我したのか痛みを訴えながら大ロボの足元で転がり回る依頼主が居た。
「は~い、それ以上怪我したくなかったら大人しくしような~」
「うぐぐぐ、お、お前は……うわぁあああああ!」
優しく言った心算だったけど、なぜか怖がらせたようだ……何が悪かった? 手に持ったロープか? でもこれが無いと拘束できないしな……。
「あの魔力砲を迎撃したんだから怖がられて当然でしょ……それより急いで! まだ精霊砲の充填が止まってないわ!」
そうなのか、一度魔力を込めれば周囲の魔力を蓄え続ける魔剣アンブレイクのように精霊砲も一度充填を始めると止まらないのか……。
なら、転げ回ってる依頼主をとっとと拘束して停止方法を吐かせないとな。
「ほら、あれはどうやって止めるんだ?」
「ふははははは、僕が作った物が簡単に止まるか! 止めたいなら壊すんだな! まぁ、魔法抵抗の高い素材でできているから壊すなんて無理だろうけどな! 製霊力の充填さえ終えれば勝手に発射されるから早くあっちの砦に砲門を向けるんだな!」
確かにこのまま精霊砲が発射されると何処に被害が行くか分からないから、砦を標的にして飯本の結界に防がせたほうがいいだろう、けど、発射される前に止めてしまえばそれでいい。てか、止めないと精霊が死ぬんだよな。
「いいから吐け」
「うぎゃぁあ!」
怪我したであろう場所を剣の鞘でぐりぐりと刺激する。このままだと痛みでずっと叫んでいるだけだろうから頃合を見て鞘を離す。
「て、停止命令なんて組み込んでない……」
「……本当だろうな?」
もう一度鞘を掲げて問いかける。
「ほ、本当だ! あの精霊砲はまだ試作機で余計な機能は付けていないんだ!」
首を縦に振り、必至になって事実を訴える。首の方も痛めていたようで、その自分の動くで起こった激痛にのた打ち回るあたり本当の事のようだ。
「伊勢~それぶっ壊すから離れろ~!」
大ロボの肩の辺りに有ったロボの操作装置を使い精霊砲の向きを砦に向けて、発射されても飯本の結界で被害が出ないようにしていた伊勢が頷き下りて……来ない?
「手、離れない……!」
なに? どういうことだ?
依頼主の方に目を向けてみると、びくりと震えてスラスラと事情を説明し始める。
「僕の組んだ警備術式は、僕以外が操作するとその人物を操作装置に縫い付けて絶対に逃がさない! 効果は操作に使う魔力が切れても暫く続くから確実に犯人は捕らえられるって寸法だ!」
それって、ロボを乗っ取れるけどロボから離れられなくなる呪いみたいなものだよな。
こんな状況じゃなければ逃げるなり依頼主とか全部片付けるなりすれば、ロボの魔力が切れて呪いも効果が無くなるのを待てば良いだけだけど……このまま待っていると精霊砲が発射されてしまう。
かと言って精霊砲を破壊しようとブレイカーを撃てば伊勢も巻き込むことになる……。
くそ、ロボより先に警備術式を止められないのか?
「僕が試作品にそんな無駄な機能付けるとでも?」
やってくれたなこの野郎……。
とにかく、ブレイカーで伊勢ごと破壊する選択肢は無い、他の魔法剣なら剣が俺のイメージを汲み取ってくれるから調整も可能なんだろうけど、ブレイカーはそうはいかない。高威力の代わりに調整ができないんだ。魔剣が俺に馴染んだらできるのかも知れないけど、今は無理だ。
他の手は……。
「美波、まだ大丈夫か?」
「頑張ってるけど……徐々に精霊が吸い込まれていってるわ」
そう長くもちそうに無いな……。
何か手は無いか? 最悪精霊砲が発射されても飯本の結界なら防げるのか? まぁ、一発目の様子なら防げると考えておいて、発射されても精霊が減るだけだ。それで起こる世界の異変、悪影響は知ったことじゃない、そんなものと伊勢の命を計りにかける気は最初っから無いがとりあえずやるだけやろう。
「もうちょい頑張ってみてくれ、できる限り俺もやってみる。
最悪至近距離でブレイカーを撃てば俺と伊勢が余波を受けるぐらいで何とかなるだろう……」
「無茶はしないでって言いたいけど、私は精霊も助けて欲しいから……高深君、頑張って」
とりあえずいつでもブレイカーをぶっ放せるように伊勢の所まで行こう。
伊勢に大ロボを操作してもらい、肩の操作盤の有る所まで持ち上げてもらった。
「さて、これを壊す訳だけど……どうするかねぇ」
「多分、あれが精霊砲の起動装置」
精霊砲の伊勢の指す部分にはダイヤル式の目盛りと拳大のクリスタル、多分目盛りで威力の設定をしてクリスタルに魔力を込めれば精霊を集め始めて、設定した威力に達したら発射されるのだろう。
目盛りは今、最大に設定されている。美波が頑張ってくれているからまだ設定された威力には達していないんだろうが、何時一杯になるか俺では分からない。美波が一杯になりそうなら合図してくれる筈だから、それまでに何とかしないとな。
「まぁ、一寸行って来る……」
精霊砲と伊勢の居る位置までは少しだけ距離が有る、これなら最悪の場合でも伊勢を背にして精霊砲に向ってブレイカーを撃てば、伊勢には被害が少ないだろう。俺の方は……まぁ、異常な治癒力に期待しよう。
精霊砲の発射装置まで辿り着いたけど……依頼主の言った通り停止装置は無い。試しにクリスタルに魔力を流してみたけど変化は無い。
「う~ん……ん?」
こいつ、リミッターが有る?
クリスタルに魔力を流すと魔法道具には必ず付けられているリミッターが有るのを感じる事ができた。魔法兵器って言っても、これも魔法道具の延長に有るものだ、魔力を込めすぎることを防ぐ為にリミッターが有るのは一緒なのか……。
「なら、話は早い!」
俺は嬉々としてクリスタルに魔力を込める、もちろん余剰分の魔力はリミッターにカットされるけど、俺はそのリミッターをぶち抜ける!
ピシ
リミッターをぶち抜き魔力を注ぎ続ける。
ピシ、ピシ……
なんか異音がしてきた。いい感じだ、どんどん魔力を注ぐ。
ビキ! ギャリ! ガガガガガガ!
精霊砲に目で分かるぐらい罅が入っていく。いける、もう少しだ!
パッリィィィィン!
もっと違う音が鳴るかと思ったけどいつもの音がいつもより激しく鳴り響いただけだった。
規模は大きいが、剣が砕けるのと同じように精霊砲が砕け散り、破片を周囲に撒き散らしていく。精霊砲の有った場所は眩い光を弾けさせる、それらは光の粒になって周囲に飛び散り美波の方へと集まっていく。
「そんな馬鹿なぁ!」
依頼主がなにやら叫んでいるけど、どうでもいい。そんなことより光だ、美波は大丈夫なのか?
「え! なに!?」
美波も突然光に集られて戸惑っているようだけどすぐに落ち着きを見せる。
「あ、あぁ、この光って可視化した精霊なのね……」
どうやら精霊砲に集められたせいで俺や伊勢にも見えるようになった精霊のようだ、森に居たような人型ではないが、美波が精霊砲に集められる精霊を操り集まる速度を落としていたので、精霊砲が壊された今、一気に美波の方に集まってしまったのだろう。
「できたな」
「ん、凄い」
魔法道具、魔法兵器にとってリミッターをぶち抜いて魔力を流し込める魔法剣使いは相等有利なようだ。
精霊砲があっさりと壊された事で呆ける依頼主に美波が何か囁いている、精霊砲が精霊を殺し、その結果世界に起こる異常を説明する良いタイミングだと思ったのだろう。その辺りの事は美波に任せておけば問題無いな。
「この大ロボも壊すか? くっ付いたままの手もその内離れるようになるだろうけど、壊した方が早いだろう……」
「ううん、私たちの乗って来た魔法車、壊れたから……」
俺たちが乗って来た魔法車が壊れたのはすまなかった。あの場合は仕方なかったんだ、結局間に合わなかったけど……。まぁ、この大ロボを確保しておいて帰る時に使うのには賛成だ。
美波の説得が終わり警備術式の効果が切れたら帰るとしよう、一度は間に合わずに精霊を大量に殺されてしまったからあの森の精霊の依頼を達成できた事になるのか、精霊の移住に協力してくれるかどうか共に分からないけど、とにかく戻ってみないとな。
「蒼也! 砦の方!」
伊勢、急に慌てだしてどうした? 依頼主もぶっ飛ばして精霊砲も壊したのに今度はなんだ?
「げ……」
何だあの魔法陣、でっかいのが10以上……飯本の展開する結界が何時の間にか消えて、灰色の鎧やローブを着た奴らが一斉に魔法を放とうと並んでいる。あの灰色の鎧、シルバーブルの城でも見たな。団長なんかは銀色の鎧だったけど……門番とかはあの灰色の鎧だった筈だ。
俺たちが暴れたからマギナサフィアの兵士や魔法兵器―精霊砲―が無力化されて残ったのはこの大ロボのみ、それを好機と見て攻撃を始めたのか!?
「来る!」
ッチ! シルバーブルの兵士共、余計な事を……。飯本の奴も止めろよ、俺たちには気付いていないのか? 飯本のことだ相田の事にしか興味無いんだろうが……。
そうこう考えてるうちに魔法陣から様々な魔法が放たれる、炎、風、雷、バラバラの魔法だけど、属性でお互いに打ち消さないようには考慮されているみたいだ。
魔法を放ったシルバーブルの兵士共はすぐに後退し、飯本の結界が再展開される。
「伊勢、ロボを動かして後退、美波と依頼主も拾って射程外まで逃げろ」
そう指示して、俺は大ロボからササッと降りて行く。
「蒼也も!」
「先に行け! 俺は迎撃と牽制してからいく!」
「……ん」
素直に指示に従ってくれた伊勢に背を向け飛来する魔法に対する。
愛用の剣はポーチにしまって、魔剣アンブレイクを鞘から抜き放つ……魔力を十分に溜め込み爛々と輝いている魔剣を上段に構え、魔法剣を使うための魔力を込める。
飯本の結界も再展開された事だし、このまま魔法剣を解き放つ事になんら躊躇いは無い。
「はぁ~、ったく、余計な事……してんじゃねぇぇえ!! ブレイカー!!」
解き放った魔力は魔法の群れを全て飲み込み、飯本の結界に突き刺さる。
まぁ、結界はビクともしないが、十分な牽制にはなっただろう、再攻撃される様子は無い。
「全力のブレイカーで加減した精霊砲と良い勝負か……っと、俺も撤退しないとな」
マギナサフィアの兵士が残っているけど……まぁ何人か起き上がりだしてるし大丈夫だろう。
マギナサフィアの兵士共に気付かれる前にそそくさと俺はこの場を離れた。
「お、追い着いた追い着いた」
ゆっくりと動いてくれていた為、暫く走ってなんとか伊勢たちに追い着く事が出来た。
「お疲れ、高深君……」
大ロボは魔法車に戻っていた。俺も魔法車に乗り込んで一息つく。魔法車は手が離れない関係上伊勢が操作しているが、魔法車の貯蓄魔力を消費しているので、伊勢もそのまま放って置くよりは早く開放されるだろう。依頼主は騒ぐと五月蝿いから、方法は伏せるがとりあえず眠らせた。
精霊の事とか色々残ってるけど、まぁ、とりあえずひと段落だな……。