三章14話 魔法兵器
俺たちは、シルバーブルとの国境の戦線部に精霊砲と言う魔法兵器の試し撃ちに行った依頼主を追って馬車に揺られていた。
馬車といっても馬の居ない荷台部分だけのものだ、依頼主の弟の坊ちゃんが作った魔法道具で、魔力を込めると自走する術式が組み込まれている。異世界の車って感じだろうか?
「免許も運転経験も無いのによくやるな……」
「ここ、異世界」
「ゲームでやる車の運転みたいなものよ」
早々にばててしまった俺と伊勢に、魔法車を借りて追い付いて来た美波は、精霊が居なくて精霊術が使えずに温存することになった魔力を存分に使い魔法車を高速で走らせる。
魔法車の前面にある菱型に並んだ四つの突起とその横に並んでいる赤と黄色の突起……でかいけど昔のゲームパッドにしか見えない。それを器用に操作している美波は魔法車を加速させて前方を行く馬車を抜き去る……おい!
「今のは依頼主の乗った馬車じゃないのか!?」
ぶっちぎってんじゃねぇよ! 何処の走り屋だ!
「安心して、依頼主はこれと同じもので移動してるらしいから今のは違うわ」
それなら安心……って安心できねぇ! なんでこの魔法車ドリフトしてるんだ! どんな操作した!?
「操作にも慣れて楽しくなって来たわ! タイムアタックするならドリフトは基本よ!」
俺はレースゲームやったこと無いからそんな物分からないけど、頼むから安全運転で行ってくれ……。
美波の操作する魔法車は絶好調で街道を進んで行く。
しかし、追い付くまで美波の魔力が持つんだろうか? ちょいちょい交代した方が良いのか? でも今一番操作に慣れているのは美波だ、俺や伊勢が代わると速度が落ちてしまうだろう。まぁ魔法系の称号を持つ美波が俺たちの中じゃ一番魔力が高いだろうから大丈夫なんだろうけど……。いざとなったら魔力回復用に残してある蜂蜜グミを使えばいいか。
「高深君、魔物!」
「お、おう! 了解!」
前方には街道を横切るブレイドボアの集団、暫く止まって気付かれないようにすればやり過ごせるのだろうけど、今は止まっている時間が惜しい、なら邪魔な魔物は速攻で片付ける。
「とりあえず一掃するか……マナブレイド!」
斬れ味を悪くした魔力の刀身を伸ばし、前方を横切るブレイドボアたちを薙ぎ払い道を空ける。そこを魔法車が通り過ぎた後で起き上がったブレイドボアたちが追いかけて来たが、美波が魔法馬車のスピードを上げて振り切った。
道中は基本的に魔法車のスピードに物を言わせているので、元々進行方向を塞いでいない限り魔物と戦うことは無い。もし道を塞ぐ魔物が居れば今みたいに除けば良い、と言う訳だ。
「国境まではこの魔法車でも数日かかるかわね……」
「数日って……どこかの町の宿泊施設で追い付けるだろう?」
じゃなきゃ俺だって急いで走り出したりしない。それでも早々にばてたから考えが甘かったが……。
「それがね、あの依頼主は目的に向って一直線なタイプらしいのよ、それこそ寝食を忘れるぐらいに」
まさか、途中で休憩も入れずにこの速度で走り続けているのか? そんなの魔力がもつ訳無いだろう。
「厄介なのは私たちの乗っているこの魔法車と違って、向こうの魔法車には国境まで休まずに走れるだけの魔力バッテリーが積まれてるって所よ。そのうえさっき言った性格でしょ……だから私たちも休まずに突き進むか、向こうの速度以上で追い着かないといけないのよ」
その魔力バッテリーはこの魔法車には積めなかったのかよ……。
「それだと各町で情報を集める時間が無駄になる可能性が高いな、このまま交替しながら国境を目指した方が良さそうだな、途中で出くわせば良いけど……駄目なら依頼主を追い抜いて国境で待ち伏せする感じか?」
「そうね、その方法のが上手くいくと思うわ」
美波と俺たちが交替すると慣れていない分遅くなるだろうけど、ずっと美波に操作をやらせておく訳にも行かないよな。今の内に美波の操作方法を良く見ておいて、交替したら出来るだけ早く慣れるようにしないとな。ドリフトしてぶっちぎれる気はしないけど……。
「伊勢、とりあえず交替で休んでおこう。俺が先に魔物の対処役をやるから伊勢は先に休んでろ、多分夜もぶっ続けで走らないと追い着けないだろうから」
「ん……了解」
昼夜休まず走り続けないといけないなら、忍びの称号から来る能力で夜目が利く伊勢は今の内に休ませて夜間走行を受け持ってもらう。その間に美波を休ませて露払いは俺のままだ。
夜が明けた後は臨機応変に交替していく、美波の魔力が回復しているなら美波に任せた方が速いだろうからな。俺が休んでいる間の露払いが伊勢だけなのが心配だったが、何の心配も無かった。
試しに伊勢に任せてみたら魔法車から飛び降りてそのまま加速し、前方の魔物を切り払って魔法車に戻って来た。流石だ……。
で、伊勢が休んだので露払いは俺の担当だ。せっかくだから強引に譲って貰った魔剣を調ながらやろう。多分依頼主の説得は無理だから、依頼主の魔法車に追い着いたら精霊砲とやらをぶっ壊さないといけないだろうからな、せっかく手に入れた高火力をちゃんと把握しておかないとな。
まず、魔剣の名前がアンブレイク。俺は魔剣に魔力を少し込める事で魔剣の力を発動させていたけど、この魔剣の名前、アンブレイクが魔剣の能力発動の呪文になっているらしく、両手で構えてアンブレイクと唱えると周囲の魔力を集めて刀身の丈夫さを強化し始める。放っておくと一定の量の魔力を集めた所で魔力の収集が終わり暫く刀身を強化した状態を保った後に徐々に魔力が抜けて行き元の状態に戻る。
俺が地下で使った魔法剣は魔剣が集めた魔力を一気に開放して攻撃するものだ。
露払いをしながら色々験してみたけど、どうやらこの魔剣ではブレイカー以外の魔法剣が使用できないようだ。他の魔法剣を使おうとしても全部ブレイカーになる。
威力は高いが応用が利かない、でも一度能力を発動させればずっと持っていなくてもどんどん魔力を溜め込んでいく、だから戦闘開始時にとりあえず発動しておくといいかな……別に使わないなら使わないで良いわけだし。
魔剣の検証をしたり美波に魔法車の操作方法のコツを教わったりしている内に大分日が沈んで来た。
そして丁度今1つの町を通り過ぎたところだ。
「やっぱり街には寄らないんだな」
「居ない可能性の方が高いもの、時間が掛かったり追い越しちゃう可能性が有るけど、まっすぐ国境に向かう方が確実よ」
「あ~、そうなるか……でも、今思ったんだけど、依頼主が精霊砲をどこか適当な場所で験し撃ちするって可能性は無いのか?」
そうなったら不味いぞ、こっちの予想する依頼主の行動が間違ってたら今必至で追いかけてるのも無駄になる。
「魔法車を準備してもらってる間に坊ちゃんと話してたけど、そこは大丈夫そうよ。国境には飯本さんが居るって話したでしょ、彼女が能力で砦を守ってるからマギナサフィアの魔法兵器が軒並み無意味になっちゃったのよ、それでムキになった依頼主が精霊砲なんて開発して飯本さんの結界に挑もうって心算のようよ」
それって、精霊を殺して攻撃する兵器を作ろうって原因が召喚された勇者って事にならないか? まぁ、ならないか……召喚する奴が悪い、砦に飯本を配置した奴が悪い、総じて豚王が悪い、以上。俺たち召喚された者は悪くない、そう考えておいた方が気楽だ。
「飯本がよく相田から離れたな……」
「その相田君に説得されてたからね」
まぁ取り巻き共は相田の不況を買うような事はしないか。
「高深君、また魔物よ!」
「っと、了解!」
あ、今まで合った事の無い魔物だ。師匠から得た知識でどんな奴かは分かるけど、能力の強化部位のある魔物で今の状況じゃ回収できないのが残念だ……強化部位を得るには特殊な倒し方が要るし今の状況じゃどの道無理だな、仕方ない、普通に排除しよう。
最初のブレイドボアの時のように魔力の刃を伸ばして魔物を薙ぎ払う、後は追いかけてくる前に美波が駆け抜ければいい。
「ほんの数戦でもう慣れた物ね、排除行為が作業化してるわよ」
「別に悪くないだろう、余裕を持って行動できるならその方が良い」
できれば、厄介な事とは無縁で居たいんだ。でも、今までの傾向だとこれからも厄介事に遭遇して余裕なんか無くなるんだろうな、多分だけど……。
とりあえず今は目の前の厄介事を片付けないとな。
「あ、この辺りは精霊の反応が有るわね」
空が暗くなりだした頃、美波がしきりに余所見をしながらそう言い出した。いや、余所見するなよ、危ないだろうが。
「これなら精霊にお願いして街道を照らしてもらえるかも……」
「止めとけ、美波の魔力を消費するんだろ? 夜は伊勢に任せればいいから」
「呼んだ?」
いつの間に目を覚ましたのか、伊勢が背後から抱きついて来た。
「伊勢、丁度暗くなって来たところだしそろそろ交替するか?」
「ん……やってみる」
器用に魔法車を走らせながら美波と位置を入れ替わる、伊勢も魔法道具は使えるから魔力を込めるのは問題無い、変わった後は少し速度が落ちたが、すぐに元の速度を維持して走り出した。どう言ったらいいんだろう? 美波と違ってレースゲームとかやったこと無いんだろ? それですぐに魔法車の扱いに慣れるとか伊勢も十分高スペックだよな。俺の番が来た時大丈夫だろうか? 伊勢も美波も上手いんじゃ俺の感じるプレッシャーが大きくなる。
「大丈夫みたいね、なら私は休むわね」
「おう、なんだったら魔力回復効果のある蜂蜜グミ食っとくか?」
「寝る前に食べるのはちょっと……」
ふむ、体重を気にするか……最近の運動量を考えれば気にしなくても大丈夫な気はするんだが、まぁ女の子だし仕方ないか、元の世界の生活を忘れてないってだけいい傾向か。
「じゃぁ、ちゃんと休んで魔力を回復させてくれ」
「分かってるわよ……玲奈、その調子でよろしくね」
「ん……任せて」
暫くすると美波も寝息を立て始めた。2人共寝付き良いな、この魔法車が衝撃吸収能力が組み込まれてるから殆んど揺れを感じないとは言え……。
「まぁ、休めないよりは良いか……使える魔法道具みたいだし、この魔法車借りパクしようか?」
「この大きさだと定期的メンテが必要……私たちじゃ無理」
そうなのか? 旅に使っている魔法道具なんかはメンテナンスが要るなんて聞いた事無いんだが、このサイズの魔法道具だとそうもいかないみたいだな。
魔法道具のメンテナンスなんかを行うのは魔法道具の技師、坊ちゃんや依頼主のような奴らだ……うわぁ、信用できねぇ……。
「敵! 空!」
え……街道の方は俺も注意を払っていたけど空のほうは全く気にしてなかった!
「すっかり日が沈んで良く見えないんだけど、何が居る!?」
「コウモリっぽい奴、大きいの!」
ジャイアントバットか? 夜は基本的に結界を張って休んでたから戦ったことは無いな、丸焼きにして食べると素早さの能力値が上がる魔物だ。ただし、クソ不味いらしい。
宵闇の中に黒い影が動くのが見える、結構速くて少なくても3匹以上は居るようだ……一匹は無理矢理食う為に残して、その他は全部焼却処分だ。
「追えない速度ではないか……」
噛み付こうと近付いて来た一匹を串刺しにして魔法車の端に振り払って討ち捨てる。
こいつらの攻撃は噛み付きか体当たりだけだ。超音波なんかは発しておらず、ただ夜目の利くコウモリっぽくてでかい外見の魔物だ。
「焼き払う範囲を広げて……フレイムスラッシュ!」
あっちこっち攻撃されても対処しきれないので、炎の勢いを広げた炎斬撃で一気に夜空を焼薙ぐ。
面白いように黒焦げになったジャイアントバットが魔法車の後方に落ちて行った。
「残敵……無し、おつかれさま」
「ああ、知らせてくれて助かった、空の警戒をすっかり忘れてたよ、また何か見つけたら頼む」
俺が索敵するには明るさが足りない、明かりは魔法剣や魔法道具で点けられるけど、そうすると目立って魔物を引き寄せそうだしな……。一人旅の間に夜でも昼に近い形で行動できるように慣れておけば良かったかな。
まぁ、徐々に暗闇に目が慣れて来てはいたんだけど、今の炎撃でせっかく慣れた目が元に戻った。でも、焼き払うのが一番手っ取り早かったんだよなぁ……。まぁいいか。
ジャイアントバットを焼き払ってからは特に魔物にも遭遇せず静かなものだった。焼き払った炎で周りの魔物を刺激してないかと思っていたが、魔法剣を使った場所からはすぐに離れていたから問題無かった。
「それ、食べるの?」
俺が魔法車の隅に討ち捨てたジャイアントバットをチラリと見ながら伊勢が訊ねて来る。俺から能力値が強化できる部位を持った魔物が居る事を聞いている伊勢ならそう予想しても不思議じゃない。
「まぁな、でもすっごい不味いから、もっと落ち着いた状況でだな……」
とりあえずは簡単に処理を済ませて魔法のカバンへ入れておこう。
「調理、する?」
「ん? 伊勢が調理してくれるって事か?」
そうは言っても能力値強化の為には丸焼きにしないといけない、調味料で味を誤魔化すのは良いけど丸焼き意外は駄目だ。
「うん……」
「ありがたいけど、丸焼きにするだけだぞ」
「丸焼き?」
「丸焼きだ。それ以外じゃ能力値強化ができないからな……せっかく作ってくれるなら何か別の機会に頼む。旅の間にその機会も有るだろう……」
「ん、簡単なのじゃない、ちゃんとしたのを何時か作る」
自信有り気な伊勢。これまでの旅の間は簡単なものを皆で用意していたからな……伊勢の正確な料理の腕は分からない、期待と不安半々だが……まぁ、楽しみにしておこう。
夜の走行は伊勢の夜目が利くおかげで順調で、次第に空が明るみだしてきた。依頼主の奴はどうやって夜間走行を可能にしているんだろうな? 明かりを使うと魔物が寄って来そうだし……もしかして寄って来た魔物を倒しながら進んでいるのか? もし、俺たちに追い着かれないでそれだけのことができる戦力が有るなら結構厄介だが、そんなものが有るなら精霊砲なんて作らないか……いや、飯本の能力がそれ以上ってだけか? まぁ多分暗視できる魔法道具でも有るんだろう。
「朝食でも用意するか……とりあえず今は俺が簡単に用意するな」
「ん……」
美波は空が暗くなりだしたぐらいに眠ったから、そろそろ起きるんじゃないかと朝食の準備を始める、ポーチに保存している食料の中から魔力回復の効果のあるものを中心に簡単な朝食を作る。食材に魔力回復薬を使うのはどうなんだろう? 味は栄養ドリンクっぽいから食事には向いていよな、それでも気にしない人が居るのは分かるけど俺は嫌だ、まぁ魔力回復薬はそこそこ値が張るからいざって時の為に用意しているんだ、朝食で使う必要も無いだろう。
「パンに蜂蜜で良いか、魔物のやつだけど魔力回復効果が有る」
「寝る前に言ってたやつ? 魔力の底上げもできるのよね?」
いつの間にか目を覚ました美波は随分と寝起きが良い様だ。本当に寝ていたのだろうか?
「こんなに魔力を使うことって滅多に無いけど、凄く良く眠れるわね……」
そう言えば、俺も魔力を枯渇させた時暫く寝てたんだったな、あの時は重症を治療してもらった後で比較的安全な場所ってこともあってだけど、良く眠れた。旅している間は熟睡ってしないからな……周囲で何か有ったら即起きられるようになったのは良かったのか悪かったのか、この世界で1人旅する上では絶対必要な能力だろうけど、平和な世界ではほぼ必要無い能力だよな。なによりしっかり休めないがもう癖になってしまっているからな……。
「しっかり回復できたなら良い事だ、それで、魔力は満タンか? 回復薬はいるか?」
「ちょっと足りないけど、その蜂蜜で様子見ね……玲奈もう少し運転お願いね」
「俺が代わるぞ、伊勢も朝食を食べて休んだらどうだ?」
俺の食事は用意しながら済ませてしまっている。多少減っていた魔力も回復しているしこのまま代わっても全く問題無い。
「駄目……」
「確かに、次は高深君が休みなさいよね……運転は朝食を食べたら私が代わるわ、その方が速度も速いでしょう」
この世界での旅で数日ぐらい眠らなくても気合でどうにかなるような身体になってはいるが……休んだ方が効率が良いのは確かだよな。俺の不自然な治癒能力も傷を癒しはするが、体力や魔力は回復してくれない、ここは2人の言うように休んでおこう。
「じゃぁ、悪いが暫く休ませて貰うな……」
一人旅じゃないんだ、無理する必要も無いよな……。
外套に包まり目を閉じる、組み込まれた術式のおかげで魔法車の揺れは殆んど無い。俺はすぐに夢の中へと誘われていった……まぁ、いつでも気を張っていたせいで、この世界に来てから夢なんて見た憶え無いんだけど……。
「玲奈、運転代わるわ、高深君の用意した朝食食べちゃいなさい」
「うん」
まだ二度目だというのに慣れた様子で魔法車の運転を交代し、伊勢も朝食を口にする。
「あまぁい、これって魔力が上がる蜂蜜? すっごく濃厚なんだけど……」
「高深君は蜂の魔物の蜜だって言ってたわね、魔力が上がった感じはする?」
「分からない、でも……減った魔力が回復している感じはするよ」
「やっぱり? 私も回復はしても魔力が上がった感じはしないのよね……高深君の勘違いか、分からないぐらい微々たる量なのか……」
「蒼也が嘘言ってるとは思えない」
「あ~もう、分かってるから睨まないで、きっと元々能力値の高い私たちじゃ分からないぐらい微々たる量なんでしょ……。高深君はこれを積み重ねて今の強さに成ったのね……」
「うん、模擬戦でも油断できないよ」
食事を終えた伊勢は眠っている俺の頭を優しく撫で始める、何が楽しいのか分からんが不快でもないからまぁいいか、休息の邪魔になるわけでもないし好きにさせておこう。
「ほんと、玲奈って高深君のこと好きよね……」
「うん……」
「分かってはいたけど……恥かしげも無く肯くわね」
「隠してないもん、それに、冬子には牽制しておかないと……」
「まだ地下に落ちた時の事根に持ってるの!? 大丈夫よ、私にも高深君にもそんな気無いから。あれは緊急事態だったから仕方なくだって分かってるわよね?」
「大丈夫、分かってるよ……」
「何か怖いわ! 本当に分かってるの!?」
なんか……伊勢の話し方がいつもと違うな、それに、なんか恥かしいことをサラリと言ってる。普段の行動から考えれば不思議じゃないんだけど……あぁ、そうか、これは夢か。いつの間にか夢を見るぐらいに眠っていたのか、俺も疲れてるのかねぇ。それにしても、異世界に来て初めての夢が女の子が自分を好きだと言っている夢って……こっちが恥ずかしいな、普段から接触過多だから心の中では俺までその気になってるのか?
「ねぇねぇ、高深君のどこを好きになったの?」
こんな夢を見る自分に内心身悶えながら俺は2人の会話を聞き続ける。まぁ、夢なんだしあまり気にしないようにしよう……。
「性格とか色々だけど……一目惚れみたいなものだったから」
「一目惚れ……私たちって一年の時もクラス一緒だったわよね、ってことは一年以上も? その割にはこの世界に来る前はあまり目立った接触はしてなかったように見えたけど?」
そうだな、話し方が独特で俺や田嶋、相田なんかが一緒に居ると変な呼び方するから憶えてはいたけど殆んどと言っていいほど親しくしては居なかったはずだ、でも時折目が合う事は有ったか、伊勢の性格だから偶々だと思って気にしてなかったけど……。
「じっくり攻めてたから、変わった話し方したり偶然目が合ったように見せたり色々と印象に残るように……でも、こんな世界に来ちゃったから」
「焦っているとのね……」
下手したら簡単に死ぬような世界だもんな。
「それと、私が蒼也と会ったのは一年の時じゃないよ」
は? いや、一年の時だろ? それまでは住んでる場所も学区が違って別々だっただろ?
「小学生の頃、デパートで迷子になっていたのを助けてくれた」
「小学生って、その頃高深君も小学生でしょ……」
「同い年とは思えないほどしっかりしてたよ、蒼也も両親と離れ離れになっていたみたいだけど、多分自力で探せたんじゃないかな? でも、私を迷子センターまで連れて行ってくれて、ついでだから自分の両親も呼び出してくれって名前を言ってたの……それから、お母さんが来るまでずっと一緒に居てくれた。私、その時の男の子の『たかみそうや』って名前を覚えていたのよ」
「で、一年の時に同じ名前の高深君に再会したと?」
「うん、性格はあの時とは違ったけど、記憶にある面影と一致したから蒼也が私を助けてくれた『たかみそうや』君で間違いないよ」
小学生、デパート、迷子……まだ俺が小学生だった頃の記憶を漁る、すると、確かにそんな事が有ったことを思い出す。何も態々忘れてしまっていた記憶まで持って来てこんな夢を見る必要は無いと思うんだが……。
それよりも、あの時の俺は別に迷子じゃなかった筈だ、デパートの隣のビルだったかで親父が今の義母さんとお見合いしてる間、デパートのゲーセンで遊んでるって言って小遣いを貰って機嫌良く遊んでいただけだ。確かに迷子の女の子を助けたけし、自分だけ迷子放送されるのは恥かしいかと思って俺もしてもらってけど、女の子が両親と無事再会して去ってから迷子センターの人に説明して再びゲーセンで遊んでいたはずだ。その時の女の子を伊勢に設定するとか……我ながら恥かしい夢を見るな。
「それに、今の蒼也もちゃんと優しい」
「厄介事は嫌いそうだけど、基本的には紳士よね……」
なんなんだ、凄く恥かしい。そう思っていると、次第に2人の声も聞こえなくなって来た。いや違う、この嫌な気配は……魔物か? とりあえず目を覚まそう。
「玲奈! 空から敵!」
「確認した……っ!」
目を覚ますと、伊勢が空から仕掛けてきた鳥系の魔物に向って手裏剣を投げつけるところだった。
襲撃を察知して目が覚めたか……一人旅のせいで、我ながら穏やかじゃない体質になったな。
「援護するな、ライトニングスティンガー!」
鳥といったら雷が効きそうってイメージは何処から来ているのか……まぁとにかく、伊勢の手裏剣では仕留めきれなかった鳥を雷で突き撃ち落す。
「高深君、起きてたの?」
「いや、寝てた。ただ、この世界で旅している間に何か有ると起きてしまう体質になってるだけだ」
鳥の魔物を殲滅し終えた伊勢が真っ赤になって蹲ってるけど何か有ったか?
「大丈夫か伊勢? どこか怪我したか?」
「大丈夫大丈夫、放っておいてあげて」
まぁ美波がそう言うなら大丈夫か……
それから数日、街道を走っている為、時折ある魔物との遭遇も手強い相手は居らず魔法車は順調に進んで行く。しかし、俺たちが追いかけている依頼主の乗る魔法車には、国境の砦が近くなった今でも全く追い着けていなかった。
これが、既に追い抜いているというなら良いのだが……交代制でずっと走り続けているのに、1人で突っ走っている依頼主に追い着けないって言うならどうにもできないぞ……。
「あ、この気配! 不味いわ!」
美波が焦ったように声を上げるが、これは俺にでも分かる。遥か前方に何か光が集まっている場所が有り美波のこの焦り様、依頼主の精霊砲が放たれようとしている。
「駄目ぇーー!」
美波が魔法車に過剰に魔力を注ごうとするがリミッターに阻まれてそれも叶わず、魔法車の速度は変わらない。
「美波代われ!」
運転を代わり、リミッターをぶち抜き魔法車に魔力を注ぎ込む。
「揺れ! 凄! い!」
「伊勢! 黙ってないと舌噛むぞ!」
速度は今までで一番の速さを叩き出したが、術式で揺れを抑えている筈の魔法車がガタガタと揺れて今にも壊れそうだ、これ以上魔力を注ぎ込むと、いつものおかしな音を立ててすぐに壊れることが予想できる、この速度でどうか間に合ってくれ!
もうちょいだ、依頼主の魔法車、その周囲を守るように囲むロボ、そして魔法車の屋根の上で周囲の精霊の命をかき集め放たれようとしている精霊砲、魔法兵器。
頼む、間に合え……!
「あ……」
無常にも俺たちの前で精霊の命を糧にする魔法兵器が放たれた。




