三章13話 魔剣
螺旋階段を上り辿り着いた部屋は、下の部屋と同じぐらいのサイズだった。
多分、下の部屋の上に有るこの部屋は、俺たちが落ちて来た穴の分小さいのだろう。
で……中央には台座があり、剣が突き刺さっているのは下の部屋と一緒だ。剣の見た目は下にあった物とは違うみたいだけど、当然罠だろう。
そして台座の向こう側には部屋を二分する透明な壁、ガラスのようにも見えるけど触ってみるとゴムのよな弾力がある。また衝撃を吸収したり魔法抵抗の高い素材なんだろうか?
「とりあえず験しに魔法剣を撃ってみるか?」
「多分だけど、今回もまたあの剣がここを抜ける鍵だと思うわよ」
それは俺もそう思っているけど、犯人の思惑にしっかりはまるみたいで、やりたくないんだよな……
出来ればあの剣をそのままにして、自力でここを抜けたい。
下の階でロボ共が剣に魔力を吸われ動かなくなったように、あの剣を使えばここを抜けられる仕掛けが有るはずだ。剣の効果がどういった物かは分からないけど、透明な壁の他に何か無いだろうか?
「剣以外に仕掛けは無さそう?」
もうちょっと探してみるか……。
3人で手分けして透明な壁のこちら側を見て回る。すると、下の階と変わり映えの無い床に、一ヶ所だけ少し盛り上がっている部分があるのを発見した。しかもその盛り上がっている部分には中央の台座に有る剣を刺せそうな窪みが有った。
「よし、先ずは魔法剣で壁を攻撃してみるか……」
「ここにあの剣を刺してみないの!?」
それが正解だったとしても、犯人の仕掛けを正確に攻略するのはなんか気に食わない。
「それは最終手段ってことで……バーストスティンガー!」
そこそこ本気で透明な壁に魔法剣を叩き込む。剣による突きは壁に僅かに突き刺さるだけに留まり、爆発の衝撃は壁をぶるんぶるん揺らす。普通の壁にはありえない動き方だな……何で出来ているんだろう?
「突きは通らずに衝撃は散らすか……なら、バーニングエッジ!」
爆撃で熱せられた壁を更に加熱する。
「アイシクルインパクト!」
そして急激に冷やす……。熱せられたガラスを急激に冷やすと割れるってやつをやろうと思ったんだけど、あれって金属にも効いたよな?
「高深君、やりたい事は分かるけど、その壁相手じゃ無理だと思うわよ。基本的な物理耐性が高くて魔法抵抗もあのロボット並みには有るみたいよ」
なに? そんな事分かるのか?
クラスメイトの中には解析能力を持った奴が居たけど、そういったものが美波にも有るのか?
「限定的なものならね、玲奈にもあるでしょう?」
「ん……毒物判定、隠蔽看破……とか?」
やっぱ、俺以外の勇者は色々便利そうな能力を持ってるんだな。まぁ、俺も師匠から教わった魔法剣がそう簡単に習得できるものじゃなかったことが分かったし、チンピラドラゴンのおかげで異常な回復能力を得てるから、召喚された直後程羨ましく思っているわけじゃないが……。
「便利な事で……まぁ、駄目みたいだし他の手を考えるか」
次は、あの台座の剣じゃなく、ポーチから取り出した投擲用の使い捨て剣を例の窪みに刺し込んでみる。
何も起こらないな、やっぱあの剣じゃないと反応しないのか、それともこの窪み自体フェイクか……他に条件が有るのか……こういう謎解きみたいなのは面倒なんだよな、もう素直にあの台座の剣を窪みに刺し込むか?
「駄目……何も変化無い」
細かく壁に変化が無いか調べてくれていた伊勢が戻って来る。
すると、ズッという音と共に窪みの有る盛り上がり部分が沈み込む。
変化に時間が掛かった? 何か変わったか?
改めて壁に目を向けると壁の一部が開いて向こう側に行けるようになっている。
「お、行けたか……」
壁の開けた場所に向おうとすると、沈んだ筈の窪みのある盛り上がり部分が元に戻り壁も元に戻る。
何故戻った? 沈んだ盛り上がり部分が元に戻ったのだからその直前の行動に原因が……俺と伊勢の体重か? 盛り上がり部分が沈む直前に伊勢が来て、俺と一緒に盛り上がってる部分に乗った。それで壁が開いたんだ……やっぱこの盛り上がり部分がスイッチになってるみたいだな、でも、押し込むのに一定の重さが必要で、あの剣はその重さを満たしているって所か?
とりあえず最後のあがきに図書館の地下ダンジョンで手に入れた椅子を3つ程盛り上がり部分においてみるけど……重さが足りないみたいだ。
他の剣とかも乗せれば重さを満たせるだろうけど、乗せた物全部ここに置いて行く事になるんだよな……それならもうあの台座の剣を使った方が良いな。
「はぁ、あの剣が必要か……」
「あら、もういいの?」
犯人の意図どおりに動くのは気に入らないけど、これ以上我侭言っても仕方ないからな。正解は分かりきっていたのに付き合わせた2人にも悪いし……。
「今度は破壊したら不味いよな……」
脱出に必要な鍵が無くなる訳だからな、魔力は込めないように注意しよう、下にあった剣みたいに魔力を吸収するようなら投げるか……。
「私が……」
伊勢が自分がやると名乗りを上げそうだったのでとっとと台座の剣を引き抜く。どうやら魔力が吸収される事は無いみたいだ。
思ったよりも軽い、これじゃ必要な重さに足りないんじゃないか? そう思いながらも窪みに剣を刺し込む。
やっぱり重さが足りないみたいだな、この方法が正解じゃなかったのだろうか?
「ん~? もう一度、乗る?」
そう言った伊勢が美波と共に盛り上がった部分に乗ると、やっぱりそこが沈んで壁の一部が開く。
これじゃ、3人中2人をここに残して行く事になるんだよな、ゲームとかなら向こう側にも壁を開くスイッチがあるパターンなのかな?
「ちょっと向こうも調べて来る」
「分かったわ」
「ん……」
壁の向こう側も造りは殆んど一緒だ、でも、スイッチらしき物はぱっと見ても見当たらない、もう少し慎重に調べてみるけどやっぱり見当たらない……。
2人をここで置いて行けって事か? そんな仕掛け認められない、他の方法を考えよう。
2人の元に戻り向こうに何も無かった事を報告する。
「玲奈と少し考えていたのだけれど……この剣に何か仕掛けが無いかしら?」
どうなんだろうな、下にあった剣は魔力を吸い取ったけどこれには何も無いように思える。験せる事といったら魔力を流してみるぐらいか?
「まぁ、駄目元だな……」
剣に魔力を流してみる……あれ? この剣、リミッターが付いてる。そう言えば下にあった剣を砕いた時も何かを突き抜ける感覚が有ったな、あの時は焦っていて良く考えなかったけど、リミッターが付いているってことは、この剣って剣の形をした魔法道具なのか?
「お? おお? 重!」
流し込んだ魔力の量に比例して剣がどんどん重くなってくる、これなら必要な重さに達するんじゃないか? 再度剣を窪みに刺し込み続けて魔力を流し込む。
リミッター直前でスイッチが沈み込み壁が開ける。
「これが正解みたいだな」
それにしても魔力を込めれば重くなる剣か……魔力を流している間重くなる剣なら使い道がありそうだな、この剣だと高い位置から重くして敵に落とすぐらいしか思いつかない。どのみちこの仕掛けを作動させておくのに置いて行かないといけないから持っては行けないな。まぁ、要らないんだけど……。
とにかく壁が開いている内にとっとと部屋を抜けよう。
念の為にもう一度剣に魔力を込め、徐々に減っていた魔力を補充して剣の重さを維持してから行く。
俺たちが部屋を抜ける直前ぐらいで剣の重さが元に戻ったのか、開いていた壁は元の状態に戻った。これで此処も後戻り出来なくなったな。まぁ、いつまでもここに居ても仕方ない、進むのみだ。
部屋を出てすぐにさっきの螺旋階段と同じ造りの螺旋階段があったのでそれを上り、同じ様に台座に剣の刺さった部屋に出る。この部屋にも仕掛けが有るのか、部屋の造りが下とちょこちょこ違うが、やはり何かしないと先には進めそうにない。
「……どうする?」
伊勢が聞いてくるのはさっきの部屋と同様に最初は自力で何とかするかどうかということだろう。部屋の造りを見てみると、やはり台座の剣を使えばすぐに突破できそうな感じがする。
「もう面倒だな、余計な体力を使いすぎるのも良くないし、とっととあの剣を使って行くか……」
「最初の部屋に有った剣みたいに、不都合が有りそうなら壊して自分たちで何とかする、でいいんじゃない?」
そうするか、という事は剣を調べるのは俺の役目だ、2人が部屋を調べる間に俺が剣に魔力を通したりして剣を調べる。そして、その剣のを部屋の怪しい所で上手く利用して道を開く……。
そうして何部屋突破しただろうか? そろそろ地下から抜けられても良いと思うのだが……。
「GOO!」
その部屋はとてもシンプルだった。今までのように中央に剣が刺さっているのは一緒で、他には何も無い様に見えるが……出口が無いな、代わりに壁に埋まるようにして一番下の階に居たロボのでかい奴が居る。そいつが俺たちに対して腕を振り上げて挨拶をするように声をあげた。
とりあえず無視して部屋を調べる事にした。しかし何も無い、壁の材質が下の階とは違うように感じるけど俺たちじゃ良く分からないな。
「ん、大きいロボの後ろ、階段を発見……」
「ってことは、あれを倒して行けってことか」
いけるのか? 小さいロボでも魔法剣が効きにくく、間接部分を斬り離して行動不能にするぐらいしか出来なかった。これだけ大きくなると間接部分も斬れるかどうか分からないぞ。
「GOUGOU」
壁に填まってる奴が手のひらを上に向けてクイクイって、カモンじゃねぇよ。
「バーストスティンガー」
なんかイラッと来て思わず魔法剣で爆破したけど、大ロボどころか壁も破壊できていない。
「ッち、やっぱり火力が足りないか……」
このロボって魔法どころか物理攻撃にも強いんだよな、斬りにくくても関節を狙うしか倒す方法が無い。でも、なぜか分からないけどここの敵って全く攻撃してこないんだよな……。
「やるならやるって言ってほしかったわ……」
すまん、こっちに被害が無いからって行動が大雑把になってきている気がするから改めて注意しよう。
壁に埋まってるロボが挑発するように無傷をアピールしてくるのが鬱陶しくてムカつくけど落ち着け俺。
あのロボを退かす事が出来ればいいが、あのロボが自分で動いてはくれないよな……なら破壊するしかないけど、俺じゃ破壊力が足りない。美波の精霊魔法は強力だけど使えないし、シーフ系の伊勢も攻撃力不足……となると、やっぱり部屋の中央に突き刺さった剣が鍵なんだろうな。
でも、魔法も物理も効きにくいロボに対して有効な攻撃が出せるのか? 防御を貫く斬撃でも撃てるのか?
験してみるしかないか……。
「2人はあれを破壊できそうか?」
「精霊が居ないから無理ね」
居たら出来るんだな……。
「ん……蒼也が無理なら私も無理」
「やっぱり、あれを使ってみるしかないか……」
剣の形は今までの物と似通ったシンプルな造りで丈夫そうではある。
ためしに魔力を込めてみる、今まではこれで何かしらの効果が出ていた。
「あれ? これって最初の剣と一緒?」
魔力を込めた剣が周囲の魔力を吸収し始めた。魔力を込めないと効果が出ないって違いはあるけど、これでロボの動力を奪うっていう最初と一緒の突破方法なのか?
「GOUGOGO~」
暫く待ってみたけど、ロボは余裕そうに鼻歌的なものを歌っている。それに、俺たちの魔力も奪われていないみたいだ。周囲の自然に存在する魔力を集めて溜め込んでいるだけのようで、俺たちにもロボにも全く影響が無い。
この剣は無理に壊す必要は無さそうだけど、これじゃ何の突破口にもなりはしない。
さて、どうしよう?
幸いロボは攻撃してこないから考える時間はある、外から帰ってきたところなので食料の入ったポーチもある、持久戦覚悟で色々試してみるか……。
攻撃力不足じゃこの先辛いかもしれないからな、俺たちをここに落とした犯人にどういう意図が有るのかは知らないけど、暫くここを利用させてもらおう。
「と、言う訳だ……何か良い案は無いか?」
俺の方は新しい魔法剣を考えるぐらいしか無いんだけど、新調してそれ程時間の経っていない武器が何処まで応えてくれるか問題なんだよな。
「私じゃ無理ね、こんな事なら精霊術に頼りきらないで魔法も学んでおくべきだったかしら?」
「それは今言っても仕方ない、ってか魔法系の奴は城でこの世界の魔法の方も教わってたんじゃないのか?」
俺は能力値が低すぎるから学んでも無駄だと言われて講習に参加させてもらえなかったけど……。
「魔法を使うには術式を憶える必要が有るのだけど、その術式が結構面倒なのよ。魔法よりも手軽に使える特殊能力が有るから、異世界で魔法を使うことに憧れていたような数人しかまともに講習を受けていなかったのよ」
なんだそれ、せっかく学べる機会が有るのにとは、俺が魔法の講習を受けられなかったから思うことか……そうだな、元々勉強とかテスト前ぐらいしかまともにやってなかった俺が如何こう言えないか。
「伊勢も一緒か?」
「ん、私はシーフ系の訓練ばかりだった」
ならどうするかだな……やっぱり有効な魔法剣を考えるか……。
「ドリルとか採掘機系のイメージなんてどう?」
他に急に強くなれるような方法も無く、三人で魔法剣を考える事になった。
「どういうイメージだ?」
ドリルだと前に盗賊に使ったアクアスパイラルが近い感じか? 多分水じゃ効果が薄いだろうから氷とか大地に変える……アイススパイラル? アーススパイラル? いっそ純粋な魔力攻撃にしてスパイラルスティンガーってのでもいいか。
試しに今思いついたイメージを魔法剣で武器に伝え撃ってみる。
「スパイラルスティンガー!」
剣から放たれた魔力の刃が回転しながらロボに突っ込んで行く、壁に嵌っていて避けられないロボは手を前に構えスパイラルスティンガーを受ける。腕の一点を削ろうと回転する魔力突剣戟は、次第に勢いを弱め四散して消えてしまった。
威力が足りないのか、剣にイメージを伝えきれていないのか……根本的に魔法剣じゃ無理なのか、とにかくもう少し色々試してみよう。
アイススパイラル、アーススパイラル、イメージや属性を変えたりで色々試すが、どうもロボのレジストを越える魔法剣は撃てない。ドリルのイメージじゃ無理かな……。
「ん……やっぱり難しい……」
伊勢はさっきから何をやってるんだ? 壊れてもいい剣を貸してくれって言われたから、使い捨て用の剣を渡したけど……。
「玲奈の方はどう?」
美波の問いに首を横に振る伊勢、現状を打破する対策をしようとしているけど芳しくないといった感じのようだ。何をしようとしているのかは分からないけど、伊勢も頑張っているようだし俺ももう少し頑張ろう。
「説得してみる」
「その発想は無かったわ……」
俺たちは散々攻撃しているけど、ロボに攻撃の意思は無い。なら、話せば道をあけてくれるんじゃないか?
「GOUGOU!」
あ、瞬考する間も無く拒否された。
攻撃する意思は無いけどここをただで通す気も無いってことだよな、そう言う命令をされているんだろう。だったらこれ以上の説得は無駄か……。
「あのロボじゃなく周りの壁を破壊するっていうのはどうだ?」
「下手したら私たちが生き埋めになるわよ」
確かに、下手に壊したらそうなる可能性もあるよな……。
そう考えるとロボに対してもやりすぎるのは周りに被害が出て不味いんじゃないか?
できるだけ一点集中系の攻撃をイメージしなきゃやばそうだな。
「それじゃ、ドリルじゃなくてパイルバンカーは?」
さっきから美波の意見がやたら男前だな、ドリルとかパイルバンカーって男の子がロマンを感じるってイメージが有るんだが、まぁいい、パイルバンカー、杭を勢いよく打ち込む兵器だっけ? 力を集中させるイメージとしては良いか。でも良く知らない物だからイメージしにくいな、確か架空の兵器の筈だし……。
「とりあえずこんな感じか? ソードバンカー!」
念の為に予備の剣に変えてロボに近付き、ゼロ距離から魔法剣を発動させる。一応警戒はしたけど、思った通りロボは近付いた俺に全く攻撃してこない。それどころか、次は何をする? 受けてたつぜ! って感じに身構える。まぁ遠慮なく攻撃するだけだ。
前に竜豚に使ったメテオストライクの時と同じ様に剣が俺を引き動きをアシストする。
杭のような魔力を纏った剣は凄い勢いでロボに打ち出され、ロボとの接触部分で魔力によって火花が散る。弾かれそうなのを無理矢理修正して軌道を合わせるけど、杭の形をした魔力がレジストされ刀身がロボとぶつかり火花を散らす。しかし、魔力による強化が消えた剣はすぐにロボの防御力に負け砕けてしまった。
物理で無理矢理攻撃するのはメインの剣でも折れてしまうかもしれないな。
「蒼也……この剣凄い事になってる」
ん? 今までの失敗を基に次の手をと考え出したのだけど、服の袖を引っ張りながら伊勢がこの部屋に有った剣を指す。周囲の魔力を集めるだけで、俺たちにもロボにも何の影響も無かった為に放置した物だ。
放置してもまだ周囲の魔力を溜め込んでいたらしく、その溜め込んだ魔力の量がとんでもない事になっていた。相当な量の魔力の筈なのに剣は砕ける様子が無い、魔法剣とは別の法則で魔力を溜めているのだろうか? そうじゃないとしたら、この剣は俺には砕けないかもしれない。まぁ砕く必要も無いんだけど……。
「これ、このままにしてても大丈夫なの?」
「多分大丈夫……ここで何度も剣を調べてきたからか、魔力を流せばなんとなく剣の効果が分かるようになってきてるんだ、その感覚から判断すると問題無い」
さっき魔力を流した時の感じならこの剣は周囲の魔力を取り込んで刀身の丈夫さを増す物だ、切れ味じゃなく丈夫さ、折れにくさを上げるものだから巨大ロボには意味が無いかと思っていたけど、これだけの魔力量を溜め、更に吸収を続けるならその丈夫さはロボ攻略の手になるかもしれない。
でも、切れ味じゃなく頑丈さなら、剣を棍棒みたいにしてロボを殴り徐々に削っていくぐらいしか思いつかないんだが……。
「剣をロボの前で砕いて内包する魔力を暴発させてロボを壊すとか」
「無理、多分剣が砕けないし下手に暴発させるとここが崩れるかもしれないぞ」
下手な攻撃をすると生き埋めになるって言った本人が大雑把な手を言ってくれるな。でも、この剣の溜め込んだ魔力を利用するのはいい手だ。多分、魔法剣使いの俺ならここが崩壊しないようにロボだけに威力を集中させられる……。
「やるか……」
魔力を溜め続ける剣を手に取りロボに向かい合う、イメージはそのまま、剣の内包する魔力を集中し撃ち出すだけだ。
魔法剣を発動させるための魔力を剣に込める、やっぱり溜め込んでいる魔力とは別扱いのようだ。それでも、俺にはこの剣を破壊できそうにないぐらい許容量に余裕が有る。例え全力で魔力を込めても壊れないんじゃないだろうか? 何なんだこの剣、とんでもない業物か?
「……あれ?」
俺のイメージを剣に伝えて魔法剣を発動させるはずなのに、なぜか剣から俺にイメージが伝わって来る。俺の考えたイメージと少し違うけどこの感覚で発動しても大丈夫そうだ……でも武器の方からイメージが伝わって来る事なんて初めてだぞ、今触ったばかりで俺に馴染んでもいない武器なのに……。本当に何なんだ? 特殊な効果を持つ武器はみんなこうなのか?
「まぁいい、とりあえずぶっ放す!」
イメージと共に剣から伝わって来た言葉で魔法剣を発動させる。
「GO! GOGOGOGO!」
剣が解き放とうとする魔力のやばさを感じ取ったのか、ロボが手を前に突き出してバタバタと振るい慌て出す。でも、お前はそこから動けないんだよな? だったら慌てるだけ無駄だ。それに、俺に止める気も無い。
「潔くぶっ飛べ、ブレイカー!」
剣に溜め込まれた魔力が一気に解き放たれる。純粋な魔力の奔流は渦巻きながらロボに迫りそのボディを容易く砕いていく。
「GOOOOOOO!」
徳はなった魔力はロボを破壊して断末魔の叫びさえも飲み込み、それでもなお止まらない。ロボが破壊されたことで見えるようになった階段と、その先の外の景色まで魔力の奔流は飲み込み、彼方へとその姿を消した。
「すご……」
「凄過ぎるわよ! 崩れる前に早く外に!」
多分大丈夫だと思うけど、その辺が崩れそうだと思ってるんだろうな、ここは美波に従って外に出よう。道が開けたならいつまでもここに居る理由は無い。
あと、この剣は使えるな、こっそりポーチに入れてパクっておこう。ダンジョン? の収集物だってことにして貰っておこう。
「外ーーーー!」
なんか伊勢のテンションがおかしい、長時間地下に居た上に自身の力が余り役に立たなくてストレス溜まってたんだろうか?
「何とか無事に出られたわね……さて、高深君、さっきのもう一度お願い。今度はこの屋敷に向って……」
「いいけど、撃つのに時間かかるぞ。さっきの威力を出そうと思ったら同じだけ時間かかるからな」
「いい……やっちゃえ」
美波だけじゃなく伊勢まで……まぁ当然か……。
一度しまった、周囲の魔力を吸収して丈夫さを増す剣をポーチから取り出して魔力を流す。
剣は周囲の魔力を集め始めた。当然だが、さっきの威力にはまだまだ届かない。
「お待ちください!」
一瞬だった……執事、セバスチャン(仮)が突然俺たちの前に現れたと思ったら、その背後に伊勢が回りこみセバスチャン(仮)の首にクナイを添える。
土下座でもしようとしていたのか、セバスチャン(仮)は前に手を突き出した前傾姿勢のまま固まっていた。
「さすが……」
思わず声が漏れた。伊勢の動きここ最近で最速だったな。
伊勢の動きにも随分慣れたと思っていたのに殆んど見えなかった。
「それで、どういうつもりなんですか? 事と次第によっては唯では済ませませんよ」
美波はいつの間にか俺の予備の剣を手にセバスチャン(仮)に脅しをかけている。俺の腰には予備の剣の鞘のみが残されている。本当にいつの間に取ったんだ?
「申し訳ございません! 警備の者が2人共場を離れてしまった為、警備装置が誤作動を起こしてしまいご迷惑をおかけしました! こちらもすぐに気が付きましたが、殺傷設定を切り皆様には怪我の無いようにすることしか出来ませんで、真に申し訳ありません!」
なんとなく理屈は合っている気がする、でもなんか引っかかる、セバスチャン(仮)は多分本当の事は言ってない、でも事実として俺たちは怪我1つ無いんだよな……。
「伊勢、事実かどうかはともかく爺さんに刃を突きつけて3人で囲んでいる状態は見た目がヤバイ、ちゃんと謝罪してる事だしとりあえず刃を引こう」
「…………ん」
渋々といった感じだが伊勢がセバスチャン(仮)を開放してくれた。
「美波も、俺の剣返せ……」
「あら? ごめんなさい」
本来敵に容赦しないのは俺なんだけど、先に2人が動いてしまったから俺が止める羽目になったな。
ここで感情に任せてセバスチャン(仮)を如何こうしても面倒な事になるだけだからな、謝罪を受け入れて穏便に済ませよう。まぁ謝罪としてそれなりの物は要求させてもらうけどな。先ずはこの周囲の魔力を吸収して丈夫さを増す剣はそのままもらっておく、俺がポーチに剣をしまうのを見て何か言いたげなセバスチャン(仮)が何も言えないで居るのが分かる。実は俺が一番酷いか? でも防犯装置を謎解きにして貴重な武器を鍵として置いて置く方が悪い。
「無事だったのだからいいかしらね、でも、私たちの時間と体力と魔力を浪費させた償いはしてもらうわよ……」
何か美波が怖いな、まぁ交渉は美波に任せよう。
美波とセバスチャン(仮)が舌戦にて今回の後始末をしているのをぼ~っと眺めながら待つ、しかし退屈でしょうがないな、伊勢はいつの間にか俺の背中に張り付いているし……。
「今回はすまなかったな、まさか防犯装置が誤作動するとは……」
何も知らない者が見ればいちゃついているように見えるであろう俺と伊勢に平然と話しかけて来る、セバスチャン(仮)じゃない、彼はまだ美波と交渉中だ。声のした方を見ると、そこには今回の依頼主に良く似た男が居た。
「やぁ、俺は君たちに依頼を出した男の弟で名を……」
「ん!」
まだしまっていなかった伊勢のクナイが男の鼻先を翳めて飛んで行く、まぁなんて言うか、胡散臭いもんなこいつ……。
「後始末の話しならあっちでやってるから……」
そう言って男との話を拒否して美波の方を指す。
「俺は君に興味があるんだ……」
ヒュンヒュンと音を立てて男の足元に手裏剣が突き刺さる。
「……ん?」
笑顔で首を傾げているけど伊勢がやったのは確実だ。男の言葉も怖いが、伊勢の笑顔も相当怖いぞ。
「とにかく近付くな変態、俺にそっちの趣味は無い」
「いやいや、誰が変態だ! 俺はその若さで剣に魔力を込めて特殊な魔法を発動させるを技術を身に付けた魔剣士の能力に興味があるんだ! そっちの娘も、彼に変なことしようって訳じゃないから武器を構えるな!」
こいつ魔剣士とか言ってるが俺が魔法剣を使うことを知っている……能力の簡易説明も間違っていないし、いったいどこで見てやがった?
「伊勢、やっぱりやっていいぞ……」
放っておくと碌な事にならない気がする、変なことを企まないように釘を刺しておく必要が有りそうだ。
「それはともかく! 君が地下から持ち出した剣、返してもらえないか?」
「何のことか分からないな」
とりあえずとぼける、こっちも地下の攻略中に剣を1本駄目にしてるんだ、代わりに何か貰っておかないと気が済まない。偶然できたことだが、さっきの魔力開放は凄まじかった。あの剣を手に入れられるなら俺の足りない攻撃力を補える。
「いやいや、しょぼい効果でも、一般人が魔剣を手に入れるのって凄く大変なんだから、そう簡単には渡せないから」
「美波~冒険者協会に報告に戻ろうぜ~」
言外に脅しをかける、剣を寄こさないなら今回の件を冒険者協会に報告して問題にするぞと……。
「高深君……人が頑張って交渉しているのに……」
「坊ちゃま、交渉の邪魔をしないでいただけませんか?」
なんか美波にめっちゃ睨まれた。となりの坊ちゃんもセバスチャン(仮)に睨まれて怯えている、使用人に睨まれる主……それで震えちゃってる主……哀れだ。
「わ、わかった。魔剣は君にやる、でも使わなくなったら返しに来いよ、あと他に魔剣を手に入れたら見せてくれ、ついでに暫く研究させてくれると有り難いんだけど……」
なんだこいつ、武器マニアか? いや、さっきの剣のことを魔剣と言っていたな、魔剣マニアか?
さっき魔法剣を使った時、剣からイメージが伝わって来たのはあの剣が魔剣ってのだからか? それ以外に今まで使っていた剣との違いは今のところ無い。
けど、途中で使っていた剣も魔剣じゃないのか? 最後の以外で剣からイメージが伝わって来た事は無い、どういう基準なんだろう?
「俺たちは冒険者だけど、一箇所に留まる気は無いんだが……」
「それでも構わないから!」
魔剣って言うのは様々な魔を内包する武器らしい、今回俺がぱくったのは魔力を流すと周囲の魔力を吸収して蓄積した魔力に応じて刀身の硬度を増す魔剣だ。地下で使った他の剣は魔剣じゃないのかって言うのは……。
「目指す物は魔剣だが、あれは俺が魔剣を模して術式を組み込んだだけの魔法武器だ」
魔剣と魔法武器の違いってなんだ?
魔剣というのは人外の力で生み出された物でダンジョンなんかで稀に発見され、その効果は千差万別だが強力な物が多い。
でも俺がぱくった魔剣は魔力を集めて硬化するだけのしょぼさ、強力な物が多いってだけでしょぼいのが無い訳でもないんだな。
魔法武器というのは、魔法道具と同じ原理で人によって作り出された物で同効果の魔剣の性能には大分劣る。強力な魔法武器は組み込む術式も膨大なものとなり、そのサイズも効力の大きさに比例してでかくなり、そうなると魔法武器ではなく魔法兵器と呼ばれるようになるらしい。
剣のサイズで魔剣に匹敵する強力な物は今のところ作れなようで、その条件でも魔剣に匹敵して越える魔法武器を作るのがこの坊ちゃんの目標だと聞かされたが、そんなこと俺にはどうでもいいな。
「それじゃお金で解決ってことでいいですね、値段は私たちの知りたいことの調査を手伝ってくれるならもう少し相談に乗りますよ」
坊ちゃんが諦めて魔剣を譲ってくれたし、美波の交渉もそろそろ終わりそうだ。
「君ら何か調べてるのか? 俺もこの街では顔が利くほうだから協力は出来ると思うぞ、だから魔剣の件はくれぐれも頼む」
この坊ちゃんも必至だな……。
「坊ちゃま!」
お? 美波と交渉していたセバスチャン(仮)が慌ててこっちに来た。
「兄君様の精霊砲に欠点がございます!」
「どういうことだ? 詳しく話せ」
美波もこっちにやって来た。交渉は上手く言ったようだけど、困った顔をしている。
「いきなり正解を引いたみたいよ……でも状況は良くないわね」
どういうことだ? 色々分からない中でセバスチャン(仮)が坊ちゃんに説明する声がこっちにも聞こえる。
「兄君様の研究しておられる魔法兵器、精霊砲は精霊の命を消費しております! 兄君様が知らないのか、知っていて黙っているのかは分かりませんが、このまま実験や実戦で精霊の命を消費し続けると、精霊の減少によって世界のバランスが崩れ良くないことが起こります!」
美波が説明したんだな、その世界のバランスってくだりを良く信じたな。
「……どういうこと?」
「私たち、知らずに精霊減少の原因の手伝いをしていたみたいよ、今日調達してきた精霊石、あれ依頼主の研究している精霊砲って魔法兵器の部品になるみたいなのよ、その精霊砲が撃たれるとまた精霊が減るわ」
「マジか、じゃぁさっさと依頼主ぼこって精霊砲ってのぶっ壊そう、そうすれば精霊からの依頼も終了だ」
セバスチャン(仮)が坊ちゃんに説明しているけど、説明が終わるのを待っている時間が面倒だ。悪いがとっとと終わらせてもらおう。
「待て! 兄は既に精霊砲の実験の為に国境に向けて発っている!」
勝手に屋敷に入ろうとした俺たちを坊ちゃんが呼び止める。
って、もうあの依頼主屋敷に居ないのかよ!
「美波、落ち着いてる場合じゃなかったんじゃないか?」
「私だって居ないなんて今知ったのよ!」
「ん……とにかく追う!」
「国境って何処の国境!?」
俺はエバーラルドの方から来たんだよな……でも、依頼主が試し撃ちに向ったのは伊勢たちが来たシルバーブルとの国境の方みたいだ。戦争中だから遠慮なくぶっ放せるってことらしい……戦争をどういう認識してるんだよ……。
「とにかく急ごう、国境の砦には飯本さんが居るから人的被害は出ないと思うけど……」
精霊を殺されるのは不味いな、でも追い着けるのか?
「走る」
そう呟き伊勢が駆け出しす。
「ったく、しゃあないか……」
一人で行かせる訳にもいかない、俺も続いて駆け出す。
伊勢の速さに付いて行けるとは思えないけど、伊勢の最高速もそう長くは持たないから速度をセーブしながら急ぐだろう。
「あ、ちょっと!」
どちらかというと魔法寄りの能力値の美波は俺たちが駆け出しても付いてこなかったけど、今は急がないといけないから先に行かせてもらう。
「伊勢、いざって時力ずくで止められる体力は残しとけ!」
「ん! 了解!」
門番を急かして急いで門を抜け走る、とにかく走る。
これ以上精霊を減らされたら不味い、急がないとな……。