三章9話 冒険者レベル
冒険者協会はいつもどうりの盛況っぷりだ。
まぁ、まだ早い時間だからってのも有るんだけどな。
今日もここ数日ずっと受付を担当してもらっている少年の居るカウンターではなく、左手の依頼書の貼り付けられた壁に3人で向う。
「で、どんな依頼なんだ?」
俺はこの世界の字が読めないので貼り付けられた依頼書の内容は全く分からないけど、伊勢と美波はシルバーブルを出る前に少し勉強していたらしく、依頼書の内容ぐらいは読んで理解できるようになっているようだ。
「これ……」
伊勢が少し古くなった紙の依頼書を指すけど、内容を言ってもらわないと理解できないからな。
「精霊石の採集依頼よ」
名前も精霊石ってそのままだし美波が受けたい依頼ってぐらいだから精霊と関係しているんだろうけど……。
「別に依頼受けなくても探しに行って良いんじゃないのか?」
依頼を受けられるレベルに達していない事もあるし、依頼さえ受けていなければ採集した依頼品もそのまま貰っておけるだろう?
「どこで手に入るか分からないのよ、依頼を受けた後で依頼主に聞かなきゃいけないのよ」
「それこそ精霊関係なら、美波がその辺の精霊に訊ねれば……」
「聞ける精霊が居ないのよ、どう言う訳か……この辺りに力の有る精霊が全く居ないのよ、例え街中でも話を出来るぐらいの精霊はいるはずなんだけどね、ホント、どうしてかしら?」
美波が精霊を探しているのはシルバーブルの精霊が勇者召喚で激減してしまった為、世界のバランスって奴が崩れて魔物の大量発生が起こっているからだ。
減った精霊を補う為に他の国の精霊にお願いしてシルバーブルに移って貰うって話だけど、適当な精霊にお願いしたんじゃどれだけの数をこなさないといけないのか想像も付かないので、力を持った精霊一体に的を絞っていく作戦だったようだが、小精霊に話を聞きながらこの街まで来た後、どういう訳か話を聞ける精霊が全く見当たらない事に気が付いたようだ。
冒険者の昇格試験の後それに気が付いてどうしようかと思っている時にこの精霊石採集の依頼書が目に付いたらしい。
精霊石って言うのは、この世界では精霊の生み出す力の結晶だそうだ。精霊石を生み出せるほどの精霊なら力もシルバーブルに移動してもらうのに申し分ないらしい。精霊石ってのを見つければ周囲に力の有る精霊が居る可能性が高いって事だな。
「なら仕方ない、一応行けるかどうか聞いてみるけど、駄目だったら地道に冒険者レベルを上げるか別の手を考えよう」
そう言って最近いつも対応してもらっている受付の少年の所に向う、この少年、何故か俺の隷属の首輪を壊す能力を知っていたのだけど、エバーラルドでいつも対応してもらっていた受付穣がこの少年の妹らしい、下手すれば少年の方が年下に見えそうな容姿だが多分血筋だろう、どうでもいいが、こいつ俺より年上だ……。
「あ……ソウヤさん、いらっしゃい、今日も討伐依頼ですか?」
いつものように対応してくれるけど今日はいつもの依頼を探しているわけじゃない。冒険者証には殺した人や魔物を記録する機能があり、申請すればその魔物に見合った冒険者経験値を受け取る事が出来るとエバーラルドで冒険者登録した時に説明を受けた。
「俺の冒険者証に記録されている討伐経験値全部貰えないか?」
「可能ですよ、すぐにやりましょうか?」
「頼む」
さて、冒険者登録してから一度も貰っていない経験値は一体どれぐらいになっているだろうな。
冒険者レベルが上がれば強制依頼が発生して面倒だからってレベルを上げていなかったけど、伊勢たちは全く気にしていないみたいだし、伊勢たちに強制依頼が発生したら当然俺も手伝う事になるだろうから、俺だけ冒険者レベルを上げないままでいる意味なんて無い、ここは上位の依頼を受ける為に冒険者レベルを上げてしまおう。
「ちょっと待っててくださいね」
冒険者証を少年に渡して少年が作業するのをしばし待つ、カウンターの向こうに隠れていて手元が見えないのでどんな操作をしているのか分からないけど、過去の異世界人の作った魔法道具を参考に作られたシステムだ、多分カウンターの向こうにはパソコンみたいな魔法道具が有るんだろう。
「うわぁ……」
ん? 思わずといった感じで少年が声を漏らした。なんか有ったか?
「ソウヤさん、人殺し過ぎじゃないですか? 幸い全て盗賊の類のようですけど……」
少し引いているみたいだけど……。
「襲って来る奴を返り討ちにして何が悪い……」
「それはそうですけど……数が多すぎますよ、意図的に盗賊のアジトでも潰して回ってるんですか?」
確かに意図的に盗賊のアジトを襲撃した事は有るけど、一度だけだぞ。他は全部……。
「蒼也、盗賊との遭遇率が、異常……」
遭遇戦だよな、捜してた時も有るけど……。
「捕獲してくれれば報酬が出ますよ」
「1人の時に捕まえても引っ張って来れないだろうが、後顧の憂いも断てるし殺した方が楽だ」
報酬なら盗賊から奪うからな。
「むう、分かりましたけど、やりすぎないで下さいよ……」
「相手次第だな」
「っと、終わりましたよ。おめでとうございます。今回の経験値で冒険者レベル20に達成しました。昇格試験を受けられますか?」
お、どうなるかと思ったけど20まで上がったみたいだな、結構な量の魔物を倒しているし、まだ冒険者レベルも低いから何とかなったって所だろうな。
「いや、試験は今度でいい、それより美波、これであの依頼受けられるだろ」
「ええ、今依頼書持って来るわ」
美波が持って来た依頼書を受付の少年に受理してもらい依頼主の情報を得る、随分前に依頼が出されて受ける者の居なかった依頼らしく、少年には感謝されたが……そんなに旨みの無い依頼なのか?
聞いた所、報酬は一般的なものだが精霊石の希少性から報酬よりも精霊石を売るほうが儲かるんだとか……依頼主に場所を聞いて精霊石を手に入れても当然精霊石は依頼主の物になる、もし横流ししたら信用と冒険者の資格を失う、つまり、割に合わないってことらしい。
早速依頼主のもとに向かい話を聞こう。
「でかい屋敷だって聞いていたけど……ホントでかいな、貴族ってやつか?」
俺たちがマギナサフィアで普通に過ごしていても全く訪れないであろう縁の無い区画、金持ち連中の住んでいる高級街ってやつだ。
普通に歩いているだけでもなんかじろじろ見られて居心地が悪いな。
場違いなのは分かっているけど、こっちも依頼できているんだからあまり蔑むような目で見てこないで欲しい。
この辺の奴らに対する印象が一気に悪くなる……下手に敵を作るのはそれがただの冒険者でも良くないって分からないなら、こいつらもすぐに落ちぶれるだろうからどうでもいいか……。
辿り着いた屋敷で門番をしていた男に用件を伝えると、すぐに屋敷の中から執事服の……セバスチャン(仮)じゃないか! 図書館で会った執事っぽい初老の男性が屋敷から俺たちを出迎えに出て来た。
この人が図書館で何してたのかは知らないけど、本当に執事だったんだな……。
「貴方たちが坊ちゃんの依頼を受けていただいた冒険者の方ですね、どうぞ、お入り下さい。坊ちゃんのもとに案内させていただきます」
冒険者協会で受け取って来ていた依頼書の移しをセバスチャン(仮)に見せるとあっさり依頼主のもとに案内してくれた。
屋敷内は大きさの割りに華美な装飾も無く無骨な雰囲気が漂っている。無駄にでかいだけでそれ程成金って訳じゃないのか、まぁ依頼の報酬を見てもその辺は期待できないか。
「こちらでございます」
セバスチャン(仮)が扉を開けて入室を促す、ここに依頼主が居るのだろう。
部屋の中は広いのに乱雑に物が散らばっていて手狭に感じる。散らばっているものも様々で大工道具や工具の類に見えるがおそらくこの世界独特の道具や、作りかけの機械っぽい物、他にも良く分からないが魔法道具っぽいものがたくさん転がっている。
そんな道具の中に埋もれるように置かれた机と椅子、其処で何か必至に書き殴っている男が居るが、こいつが依頼主ってことなんだろうな……こっちには全く気がついていないみたいだけど。
「坊ちゃま、例の依頼を受けてくださる冒険者の方が来られました」
「何度言えば分かる! 僕を坊ちゃまと呼ぶな!」
セバスチャン(仮)の言葉でバッとこちらに顔を上げ反射的に叫び返す依頼主、そこで初めて俺たちに気がついたようだ。
「ん? だれだそいつらは?」
「坊ちゃんが随分前に冒険者協会に出していた依頼を受けて来て下さった冒険者の方です」
「また坊ちゃんと……はぁ、もういい。で、前に出していた依頼か……はて、何だったか?」
大丈夫かこいつ?
「ああ! 有ったなそんな依頼、そうだ、確かに出した。んじゃとっとと精霊石取って来てくれ、場所は……」
依頼主から精霊石の有りそうな場所、つまり力の強い精霊が居そうな場所を聞く。自己紹介や依頼の詳しい説明なんかは一切無くとっとと行って来いときたか、やる気が減ったんだが……もう精霊と話だけして石は見つからなかったでいいんじゃないか?
「そうだ、僕の発明で調べたから確実に精霊石は有るだろうが、そこは危険な魔物の多い場所だ、気をつけて行って来いよ」
お、ちゃんと心配もできるのか、ツンデレ?
「精霊石に傷でも付けたら唯じゃおかないからな!」
精霊石の心配をしてただけか……。
まぁ、俺たちの目的を果たすついでに精霊石も回収してきてやるか、どんな道具を使ったかは知らないが確実に有るらしいからな……見付かりませんでしたじゃ協会的には誤魔化せてもこいつから文句が出るだろう。
もう、精霊石のある場所は聞いたんだし言われた通りとっとと回収してこよう、俺たちの目的のついでにだけどな。
「行こうか……」
「ん」
「りょうか~い」
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初老の執事は蒼也たちの見送りを済ませ屋敷の中へと戻る。
「今の冒険者は……もしかして図書館の地下ダンジョンであの技術を使っていたって言う……」
「坊ちゃま、彼らは兄君様の依頼を受けてきた冒険者でございます」
突然声をかけてきた男に執事は驚いた様子も無く淡々と答える。
「なんだ、違うのか……そうだな、俺も協会に依頼を出すか? あの技術を使える冒険者を指定して実験に……」
「ただ、男の方は私が図書館で出合った魔剣士の方ですが……」
「何故お前はややこしい事を言う! 随分若いみたいだが、とにかく彼がお前の言っていた魔剣士なんだな!?」
「さようでございます」
執事にからかわれていた男はその答えを聞き、にやりと悪い笑みを浮かべる。
「なら、是非とも俺の実験に付き合ってもらわないとな!」
「はい、心得ております……」