三章8話 誤算
図書館の地下2階を探索する前に階段で休憩だ、小さな範囲でソードフィールドを張って小休止する。
完全に治りきっていない内に動いたせいで肋骨に違和感が有ったから、少し大人しくして完全に治してしまおう。
なんというか、チンピラドラゴンの肉を喰って得た治癒力は優秀だな。暫く休んでいると違和感も消えたので動くのに全く支障は無さそうだ。
「行くか……」
ソードフィールドに使った短剣を回収してポーチに戻し、俺は地下2階へと踏み入った。
地下2階も地下1階と同様に迷路になってるっぽい、引き続きマッピングが必要だな。
サモンブックが呼んだ分は別にして考えて地下2階の魔物の数はあきらかに増えていた。魔物を蹴散らしながら進んでいるためマッピングが1階よりも適当になってしまっているが帰り道さえ分かれば大丈夫か……。
魔物が残したアイテムも増え、1階で手に入れたのとは種類の違う魔物の絵が数枚、小宝石数個、硬貨、なんか暖かい石、光っている石なんかが増えている。結構詰め込んだのだけど、まだポーチの容量には余裕が有るみたいだ。
「図書館に水が流れてるってどうなんだ?」
暫く進むとあちこちにやたらと水路の通っている場所に出た。結界が有るとは言え本の保管場所として適切ではない事は間違いない、ダンジョン化の影響だろうが厄介なもんだ。
「これは……どう進めと?」
終には通路が無くなり一面に水路が広がっている、数十メートル先に向こう岸が見えるけどあんなところまで跳べないぞ……。
どういった訳か水路の上にでも普通に本棚が浮いているからその上を跳び移って行くしかないか?
本棚の間隔的には可能そうだな、でもこの本棚の本を取ろうと思ったら小船かなんかが要るな……。
「まぁ、行くか……」
手近な本棚の上によじ登りその上を跳び移りながら移動する……。
―ザバァ―
ザバァって……水面から骨だけの魚が飛び跳ねて来た!
魚にしては牙が凄いのは魔物だからなんだろうな。
「っ!」
狭い足場で剣を振るいそのボーンフィッシュを斬り付ける。それ程大きくないせいか、ボーンフィッシュは斬ったのに砕け散った。
「こんなのも出て来るのかよ……」
骨だけな上に眼球部分が赤く光ってるから不気味でしょうがないぞ。
椅子や机や本が動いたり火の玉が飛んでたり骨だけの魚が居る……まるでホラーハウスだな……遊園地のアトラクションかよ。実害が有る分、遊園地のアトラクションなんか比べ物にならない程厄介なんだろうけど……。
ぐらつきはしないけど足場は悪いし、倒した魔物から出たアイテムも水の中に落ちて行ってしまったしで良い事無しだ、さっさと渡りきってしまおう。
この後も何度か本棚を跳び移り水路だけになっている場所を進んで行くと、ようやく場所の雰囲気が変わる所まで来る事が出来た。
水路は無くなりそこら中に植物が生えているぷちジャングルのような場所だ。
それでも普通に本棚は存在しているんだから違和感しかない。
「なんか暑いな……」
心なしか照明もきつい様な気がする、蒸し暑いって感じだ。
「PIROPIROPIRO……」
良く分からん鳥が頭上を飛んで行った。あれも魔物なんだろうが、珍しく襲い掛かって来なかったな。
がさがさと近くの茂みが揺れてブレイドボアに似た魔物が出て来る……ブレイドボアのように牙が剣になっている訳ではなく、頭って言うか身体全体でとんがり帽子を被っている……これってブレイドボアが戦士だとすればこいつは魔法使いだよな……知らない種類だけど、とりあえずメイジボアって呼べばいいか。
「BURU!」
こいつは襲い掛かってくるのか! こちらに気が付くなり襲い掛かってきたメイジボアを避けて、その武防備な背中に剣を突きたてる。
「あれ?」
突いた感覚が無い……俺の剣はメイジボアを貫いているように見えるけど手に伝わってくる感覚が全く無い。
不思議に思っていると剣に貫かれたメイジボアは霧散するかのように消えた……。
倒した時の消え方と違う……どうなってるんだ?
「BUGYU!」
鳴き声がした方を振り向くと、斬った筈なのに無傷のメイジボア居て、メイジボアの展開した魔法陣から火の矢が撃ち出される所だった。
慌てて飛び退くが外套が少し燃やされた……まぁ、身体は大丈夫なので良し。
さて、どうなってる? 実体が無い系か?
「BURU!」
っち、また突っ込んで来た。今度は様子を見る為に斬り付けずに避けるだけに留める。
目標を見失ったメイジボアはそのまま一直線に駆けて行った……。
「え~?」
逃げやがったのか?
「BUGYU!」
ってまたか!
声のした方を振り向くとやっぱりメイジボアが魔法を撃ち出す所だった。
「っざけんな! アイスエッジ!」
氷の刃を剣に纏い迫り来る火の矢を全て叩き斬る。その勢いのままアイスエッジの効果が残っている内にメイジボアに斬りかかる。魔力の篭もった攻撃、これなら効果が有る筈だ。
「BUGYUUUU!」
手応え有り! さっきと違って斬った感覚がちゃんと有る、倒れたメイジボアはこれまで倒してきた魔物と同様に消え、とんがり帽子をその場に残した。
「はぁ、なんだったんだ今の魔物は……」
見た目獣系の魔物なのに霊系のように物理攻撃が効かないってどういうことだ? これがダンジョンの魔物なのか? 厄介すぎるだろう……。
普通に知らない魔物ばかりなのに……1人出来たのは間違いだったか? でも図書館の入館料がもったいなかったしな……ここまで来たんだ、とりあえず召喚関係の魔法書の有るモンスターフロアまでの地図は完成させよう……。
メイジボアに気をつけながらぷちジャングルを進む、途中フライングブックが出て来たけど、こいつらは魔法を使う時に声が出ないんだよな……口にあたる器官が無いんだから当然なんだろうけど、以前に出会った盗賊もリミュールも呪文を詠唱していたよな……でも、呪文無しで魔法って使えるのか? シルバーブルで俺だけ魔法の講習に参加させてもらえなかったから分からんな、戻ったら伊勢たちに聞いてみるか。
メイジボアはあの鳴き声が詠唱なんだろうな、鳴き声が聞こえたおかげで死角から魔法を喰らわなくて済んだんだけど、これがフライングブックとか詠唱しない相手だったらやばかったな……。
「お……また雰囲気が変わった」
植物は無くなり地下1階と変わらない感じの場所に出た。
地形は単純になったけど魔物の数が増えてきたな……またサモンブックが居るのか、それともモンスターフロアに到着したのか……。
確認の為に手近な本棚から一冊抜き出して中を確認してみる。
「な! これは!」
「で、どうして1人でダンジョンアタックしてるのかな?」
図書館の地下ダンジョンを来た道を速度重視で引き返して帰って来た俺は、宿に戻り魔物から手に入れたアイテムなんかを広げながら伊勢と美波に図書館での出来事を説明していた。
俺が1人で危険な場所に突っ込んでいた事を知った伊勢は、心配して再会した時のように俺にくっ付いて離れなくなり、美波は軽率な俺の行動を咎める。
確かに、目的の物が有るかもしれない場所が危険なら一度戻って2人と相談した方が良かったな、入館料がもったいないからってだけで無理すべきじゃなかった。
「でもほら、こうして無事だし、召喚関連の魔法書が有る場所っぽい所までの地図はメモして来たから……」
実際は骨折れたりしたけど今はもう治ってるから言わないでおこう。
「ある場所……っぽい?」
「ああ、あそこまで行ってから気が付いたんだけど……俺、この世界の文字読めなかった」
言葉が普通に通じるからすっかり失念していた。俺に異世界の文字なんて読める訳が無かった。言葉は勇者召喚の効果で通じるようになってるんだから文字も読めるようになってたら良かったのにな。
図書館の地下ダンジョンで手に取った本を開いて、中に異世界の文字がびっしり並んでいるのを見て俺は静かに本を閉じ元の場所に戻すと、戻ってくる事を選んだ。
「あぁ……そう言えば本で調べるにしても文字を読めなきゃ意味が無いわね、私も途中で出て来ちゃったから少ししか読めないし、帰還組のメンバーならもうそろそろ読み書きできるようになってると思うけど、玲奈は……」
「無理、多分冬子と同じくらい……」
はは……俺も伊勢も美波も駄目、それじゃ調べられないじゃないか。
今から文字を覚えるか? それも時間が掛かりすぎて現実的じゃない、皆と合流したら地図だけ渡して調べに来て貰うか……図書館の本は貸し出してないから、あの魔物が居る中で調べないといけないんだよな、なら戦力と人員に勝る方に任せた方が早いな。
「今調べるのは諦めるしかないか……」
図書館での調べ物は放置することを決定して、さっきからなかなか離れてくれない伊勢の頭にダンジョンでの戦利品のとんがり帽子をかぶせる……。
「色々拾って来たのね……」
「拾ったんじゃなくて、ダンジョンの魔物が落したんだけどな」
帰りに司書の人に聞いたらダンジョンで魔物が落とした物はもって帰って構わないそうだ。拾った魔物の絵の描かれた紙は、図鑑から落丁したページと言う訳ではないらしい。途中で放置した椅子は一応回収したけど机はポーチに入らなかった。容量的にはまだ余裕だったので大き過ぎる物は入れられないみたいだ。
「今日、美波たちはどうだったんだ?」
拾って来た物はたいした物が無いので冒険者の昇格試験と精霊の調査はどうだったのかを訊ねる。
「昇格試験は面接だけだったから簡単に合格できたわ、精霊については……ちょっと冒険者協会の依頼で受けたいのがあるのだけど……」
「冒険者レベル、足りない……蒼也は、レベルいくつ?」
冒険者レベルねぇ……。俺はずっとレベル上げてないから伊勢たちと一緒だぞ……。
「レベルいくつ要るんだ?」
「丁度20、昇級している必要は無し」
20か、それだったら何とかなるかもな……。
「とりあえず明日もう一回冒険者協会に行ってみるか……」
「で、高深君の冒険者レベルは?」
…………
「10だ……」




