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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
三章 マギナサフィア・一人じゃない旅路
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三章5話

 背後に生まれる気配を頼りに振り返り様に手に持った木の棒を振るう。上手く相手の得物に当たり弾き返す事ができたが、即座に相手の姿は掻き消え、死角になる場所にその気配が生まれるのを感じとる。その気配を頼りに俺に向ってくる攻撃を捌く、それを繰り返すが、相手が早すぎてその姿を捕らえる事が殆ど出来ない。


「良く捌くわね……高深君、玲奈のこと目で追えていないんでしょ? どうやってるの?」


 外野で見ている美波が呆れた様に聞いてくるが答えている余裕は無い、俺の目で追えない程の素早さを生かし、常に死角から木の棒を振るって来る伊勢の居場所を気配だけで察知して避け、受け、捌く、何とかぎりぎりで対応できてはいるが、こうも一撃離脱を繰り返されては反撃の機会が全く見い出せない。

 これが戦闘系の勇者の実力なんだろうな、伊勢は正確には完全な戦闘系というわけではないけど、忍と言う称号から来る速度は驚異的だ。

 実戦ならチンピラドラゴンの肉を喰って得た不自然な身体の治癒力に頼って、多少の傷は覚悟して骨を断つところなんだが……今回は魔法剣無し特殊能力無しの訓練だ。最近魔法剣に頼りっきりになっているから地力を鍛えようと伊勢に訓練相手を頼んだんだが、回避や防御の術ばかり上達している気がする。


 無事にマギナサフィアの門を抜け街中に入った俺たちは、その日は旅の疲れを癒す為に宿を取り早々に眠りに着いた。朝食時にでもこれからどうするか相談しようと思っていたが、地力を鍛える為の訓練を行おうと朝早くに宿を抜け出し、近くに見つけた空き地で素振りやらを行おうとしていた俺の後を伊勢が追跡していた。

 丁度良いので訓練相手を頼んだのだけど、いつの間にか時間が過ぎていて、俺たち2人の姿が見えないことに心配した美波がやってきて早々に呆れた様に聞いてきたのが今だ。


「伊勢の動きにも慣れてきた、ちょっとずつ目で追える様になって来ている……」

「それ、嘘でしょ」


 ばっさり斬り捨てるな、まぁ、実際に見えて来てはいるけど、俺が防御に成功しているのはこれまでの経験で得た気配を読むなんてとんでもな感覚に頼っているからだ。


「……そっちの方が嘘みたいだろ?」

「まぁ、確かにね、でも私も最近精霊の気配を見る能力が出たわよ、『精霊察知』、前から意識すれば見ることは出来たんだけど、能力として確立してしまってからは意識しないでも見えるわね」


 便利だな、俺には精霊が見えようがどうでもいいけど……。


「はぁ、残念ながら俺の方は能力じゃないっぽいな、自力で身に付けた技能ってとこか……」

「蒼也、余裕……」


 攻撃を捌きながら美波と会話を始めたせいで不機嫌になる伊勢、反撃ができるほど慣れてきたわけじゃないから余裕って訳でもないんだけどな。


「悪い、そろそろ俺も反撃する」

「ん!」


 手合わせの始まる前に用意していたもう一本の木の棒を空いた手に持ち二刀流の状態になる。

 竜豚戦ではまともに扱えなかったために断念していた二刀流だ。こういった機会に実戦訓練を重ねていつかまともに扱えるようになる事を目指しているが、それ程根をつめている訳ではないので今まで通りに戦っている方がやり易いだろう。でも今回は攻撃と防御を両方一辺にやる、となると二刀流の方が良い。

 伊勢が死角から攻撃してくる気配を頼りに両手の武器を振るう、片方は伊勢の武器と打ち合い攻撃を弾き、もう片方の武器が伊勢を攻撃する。


「あまい……」


 だが、いつの間にか伊勢の空いた手に握られていた武器で容易く弾かれる。


「……これ無理だろ」

「あはは、玲奈は本来小太刀の二刀流だからね、にわかの二刀流じゃ太刀打ちできないわよ」


 ホント、防御の訓練にしかならないっポイな。

 二刀流にしたけど伊勢も二刀流を使い出した。先制は速度的に伊勢、当然お互い手数は増えたが、増えた手数を捌くのに手一杯で反撃なんて無理だ。


「あ~、伊勢この辺で止めとこう……」


 これは伊勢が一撃離脱を続ける限り状況は変わらない千日手だ。だけど、伊勢がその気になれば簡単に伊勢に軍配が上がる、特殊能力無しでこれじゃ随分無残な結果だ……本当に地力を鍛える必要が有るな、それとも魔物を狩ってレベルと能力値を上げるか? 低い地力からどれくらい上昇するのか分からない以上、良い手とは思えないか。鍛えるしかないな……。


「そうね、そうしてくれると迎えに来た私も助かるわ」


 訓練を切り上げて皆で宿に戻る。そして、朝食をとりながら今日の予定を話しあう。昨日は疲れて寝てしまったため何も出来ていないが、この街でやることは多い。


「1つ、重大なお知らせが有ります」


 今日の予定を最初に話しだしたのは美波だ、何時に無く真剣な表情で事の重大さが窺え……。


「そろそろ、旅の資金が尽きるわね、無駄遣いしないで後5日分って所かしら」


 俺の方も似たようなものだ。マギナサフィアまでもてばどうにかなると思って、盗賊から奪う以外の金稼ぎをしてなかったからそんなものだな。


「それじゃ早急に稼がないといけないな」


 この街にも冒険者協会はある、暫くは何か適当な依頼をこなして稼ごう。


「この世界ってバイトとか有るの?」

「日雇いの仕事は探せば結構有るな、俺が前にやったのは……飲食店の皿洗い兼給仕、ペット(モンスター)の散歩、トイレ掃除、ビラ配り、孤児院の手伝い……は速攻逃げたか……」


 アレは……うん、思い出すのは止めておこう。


「後俺がやってたのは、冒険者協会で依頼をこなして報酬を得るぐらいか、依頼内容は色々で魔物の討伐とか、指定された物の採集とか、商隊の護衛とかだな……。2人は異世界人……勇者の力が有るから冒険者登録して依頼をこなすのもいいかもな」


 とは言え、冒険者として働くなら魔物討伐とか危険な仕事が多いから積極的に勧める訳じゃない。

 いざとなったら俺だけで稼ぐ方法が無い訳でもない。まぁ、2人の好きにさせよう。


「蒼也と一緒……」

「伊勢、冒険者登録するか?」

「ん……」


 伊勢は深く考えずに決めたようだが、大丈夫か? まぁ、さっきの訓練の実力を見る限り、すぐに俺より稼ぐようになりそうだけど……。


「それじゃぁ私も登録しようかしら、玲奈と高深君が一緒なら大抵は何とかなるわね」


 こいつら軽いな、後俺に期待されても困る……。


「なら、飯食ったら冒険者協会に行くか」


 さて、マギナサフィアの冒険者協会は何処にあるんだろうな、多分魔物の素材なんかを扱う関係上エバーラルドの時と一緒で入り口門の近くだと思うけど……適当に散策しつつ捜すか。


「色々やることはあるけど、先ずは冒険者登録して活動資金を集めないとな……」


 朝食を終えて街を探索しながら冒険者協会を探す。何故か俺を伊勢と美波で挟む陣形で探索している。


「2人はここに辿り着くまでに全く旅費稼ぎはしてなかったのか?」

「うん」

「そうね、一応国の為に動いてる訳だし、それなりの資金援助は受けたのよ」

「颯太、頑張った……」


 あぁ、田嶋があの豚王と交渉したのか、相変わらず頑張るなぁ……。


「いざとなったらこれを売れって言って田嶋君が持たせてくれた宝石も有るけど……」

「姫の私物、私と颯太で盗って来た」


 功績を誇るように胸を張る伊勢、やっていることは泥棒だが相手があの国の王族なら俺は構わん、寧ろどんどんやれ。


「そんな訳だから、あまり売りたくないのよ」


 盗った相手が相手だから俺はなんとも思わないけど、実際には盗品だからな、足がつかないに越したことはないか。


「お、やっぱりこの辺に有ったな」


 思った通り、3つある街の門の1つの近くに冒険者協会の建物は有った。建物自体はエバーラルドで見たものと酷似している、なにか冒険者協会の建物はこうだと言う決まりでも有るのだろうか?


「ここ?」

「多分ここだな」


 俺のような冒険者っぽい格好の奴が出入りしているから合っているだろう。なによりエバーラルドの冒険者協会で見かけた看板と同じものがかかっている。


「登録には登録料が必要だけど……」


 まぁ今有る分で大丈夫だな、その分当面の生活費は減るがすぐにでも稼げるだろう。少なくてもエバーラルドに滞在している間は問題無かったから大丈夫だろう。


「高深君はやっぱりガラの悪い冒険者に絡まれたりしたの?」


 何の話? 美波は何を言っているんだ?


「そういったことは無いな……」

「そうなの? 田嶋君は、高深なら絶対絡まれてるって言ってたけど?」


 田嶋か、あいつの根拠の無い予想は何処から来るんだ? 確か召喚された当初もラノベだのテンプレだの言ってたよな、そういった本とかからの知識か?


「蒼也が奴隷ハーレム作ってたら、とりあえず殴れって……1人だったから、よかった」


 奴隷ねぇ、確かにこの世界じゃ存在するみたいだけど、現代の日本で生活していた俺には受け入れ難いよな。そうだ、2人にも注意しておかないと……。


「2人共、この世界で首輪を着けられそうになったら絶対に阻止しろ、以前に召喚された奴が作った物らしいんだけど、隷属の首輪なんて物が有るんだよ……効果は、名前の通りだ」

「強制の隷属?」

「そう、命令に逆らえなくなるから、最悪は命令される前に着けた相手を殺せ……」


 そうすれば自力で首輪は外せないが、主人がいないから命令はされない。


「これは、田嶋君にも伝えておいた方が良いわね……」


 そうだな、豚王なら勇者を隷属させるぐらいやりかねない。召喚当初に俺たちがそうされなかったのは人数の問題か? まぁ、首輪は俺が破壊できるんだが……。


「スキル、使う?」

「そうね、お願いできる? 高深君、他に何か田嶋君に伝えておく事有る?」


 へぇ、田嶋たちと連絡とる方法が有るのか……。


「とりあえず……隷属の首輪についてだろ、もし着けられても命令できない状態にしろ、主人になる着けた奴を殺せって伝えておいてくれ、そうすれば首輪は残るけど命令はされない、首輪は俺が破壊できるって事も……それと、俺がエバーラルドで聞いた現在行われている三国との戦争の原因と、エバーラルドでは帰還方法が見付からなかったって事、後、餞別でもらった剣が折れたからすまないって伝えておいてくれ」

「りょうか~い」


 美波が自分の魔法のカバン(マジックポーチ)から紙とペンを取り出して今の内容を書き連ねていく、その間に伊勢が連絡手段を用意しているようだ。


「ん!」


 伊勢の影から黒一色の子犬が跳び出して来て、伊勢の前にちょこんとお座りをして命令を待っている。


「玲奈お願い」


 書き終えた手紙を子犬を撫でていた伊勢が受け取りそのまま子犬に食わせた。

 は? 食わせた?


「ん、GO!」


 伊勢が合図を出すと子犬は物凄い速度で駆けて行った。

 速ぇ~、伊勢と良い勝負だな……。


「これで、よし」


 能力で作り出した犬に配達させたのか、まぁ、人が届けるよりは早いんだろうな。


「高深君と合流したって知ったら田嶋君驚くかもね」

「まぁ、行き当たりばったり出飛び出した俺と出会う確率なんて低いだろうからな」


 何はともあれ、いつまでも冒険者協会の前で屯してても邪魔なだけだ、そろそろ登録をして依頼を受けに行こう。

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