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異世界人~無能勇者~  作者: リジア・フリージア
三章 マギナサフィア・一人じゃない旅路
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三章3話 旅の終わり

 エバーラルドからマギナサフィア間の国境付近には何も無く、簡単にマギナサフィアに入国する事ができた。これがシルバーブルからマギナサフィア間だと国境付近には砦が築かれたり兵士共が見張っていたりと色々有り、簡単には国境越えできないらしい。

 盗賊の攻撃で毒を喰らって暫く身体が麻痺して動かなかったが、暫くすると効果が薄れてきたのか腕が動かせるようになったのでポーチから解毒の薬を出して全部験した。幸い効果のあるものがあったので数分もすれば立ち上がれるようになっていた。麻痺している間に魔物に襲われなくて良かった。

 それからは街道を進み、比較的安全にこの国境までやって来た。

 時折遭遇する魔物に能力値の強化部位を持つ奴が居なかったのは残念だけど仕方が無い。

 ここから大きい図書館や魔法研究院の有る魔法国マギナサフィアの首都マギナサフィアまで後どれくらいかな? 地図を見る限りじゃ徒歩で20日ってところだろうけど……こう歩きっぱなしだと徒歩以外の移動手段が欲しくなるな。


「とは言え、俺は馬なんて乗れないしな……」


 以前に召喚された異世界人が隷属の首輪とか色々やらかしてるんだし、この世界にもバイクや車が有っても良いんじゃないか? ガソリンとか無くても魔法が有るんだし再現できる奴が居てもおかしくないよな。

 俺が運転できるかどうかと元の世界ほど道が整備されていないってことは別として……捜せば有るんじゃないか? ましてやこの国は魔法道具の開発が盛んな魔法国マギナサフィアだ、徒歩や馬以外の移動手段を探すのも悪くない、最後の手段として馬に乗る練習でもすれば移動がずっと楽になるだろう……。

 でも何を求めるにしろ結局金が要るんだろうな、また冒険者協会で稼がないといけないかな。

 とりあえず今は無理せずこのまま街道を進むか……。



 街道を進み、途中いくつかの町で休息も取り半月程進んだ。後10日も進めば首都に到着するだろう。街道を行く為か魔物は少ないが、思ったよりも盗賊の襲撃が多かった。街道を行く中で2度、野営中に1度だ。

 徒歩、それに加え1人で居るものだから狙われ易いんだろう。

 この国に入ってから盗賊の中に魔法使いが居る確率が上がっている、3度の襲撃全てに魔法使いが居たからな、魔法国ってだけは有るのか? 盗賊なんてやらなくても稼げそうなものだが……俺の遭遇した魔法使いは比較的レベルの低い奴らだったのだろう、3度の襲撃で戦った魔法使いは単純に攻撃系の魔法を放ってくるだけで、この国に入る前に遭遇した姿を隠す魔法を使った奴より厄介な感じはしなかった。

 そんなレベルだからやっていけないのか……なら他のもので何とかしろよ。

 投擲用の武器や雀の涙ほどの金銭を補充できたから俺としては別にどうでもいいか。

 元からまともと思ってないけど、思考がどんどん屑じみてくるきがする。今は盗賊とか魔物だけだけど、その内一般の人でも平気で殺すようになりそうな自分が怖いな。

 長くこの世界に居ると、元の世界に帰った時支障が出そうだ。早急に帰還方法を探そう。


「もうすぐ首都の1つ手前の町か」


 街道の先に小さく町が見えて来た、今日中には着けそうだ。

 

「今日は野宿しないで済みそうだな」


 今晩はゆっくりできそうだ。

 この時の考えがフラグってやつなのを、後に田嶋によって教えられることになる……。


 俺が辿り着いた首都マギナサフィアの手前の町は村って程度の小さなものだった。首都の近くでこの程度の規模ってのもおかしな感じがするが、深く考えるだけ無駄だろう。

 この町の規模では宿も1つしかないようだ。


「しかも、大部屋1つしか空きが無いのか……」


 宿泊代に関しては問題無い、小部屋の3倍程になるけど、道中盗賊から巻き上げた金が有るので払うことはできる。無駄に大きな部屋に泊まる必要は無いが、其処しか空いてないなら仕方ない、町まで着いて野宿するのも馬鹿馬鹿しいしな。

 高目の宿泊代を払い部屋の鍵を受け取る、夕食まではまだ時間があるので部屋で休もうと階段へと向かう。この宿は一階が酒場兼食堂、二階が宿部分となっている。


「もう、満室?」

「はい、すみません、今のお客様で全室埋まってしまいまして」


 階段に足をかけた所でそんな会話が聞こえてきた。後数分遅かったら俺が泊まる部屋が無かったという事か……後に来た客に少しだけ悪く感じてチラリと目を向ける、其処には見覚えの有る顔が有った。


「伊勢、美波……」


 数ヶ月前にシルバーブルに残して来たクラスメイトがそこに居た。

 こんな所、シルバーブルと魔王国の戦場からは全く反対側のこの国で何をやっているんだ? 伊勢と美波の2人だけか? 他の奴らも一緒なのか?


「!」


 発生した疑問に気をとられてじっと2人を見続けていると、伊勢が勢い良くこちらに顔を向けた。

 瞬間その顔に浮かぶ満面の笑み、しかしそれはすぐに見れなくなる、珍しく笑った伊勢を見たと思った瞬間その姿は掻き消え、俺の背後に気配が生まれる。

 少々強い衝撃と共に俺の身体は床に打ちつけられる、これまでで能力値が成長しているのと防具によって俺自身に痛みは殆ど無く、圧し掛かってくる質量も大したことは無い、まだ階段を上っていなかったことも幸いした、このままでも立ち上がれるくらいだ。

 俺はただ、外套越しに感じる柔らかな感触に動けなくなっていた。女の子に抱きつかれる経験なんて無いに等しい。


「ちょっと玲奈、急にどうしたの……高深君!」


 さすが俺以外の異世界人、今の伊勢の動きが見えたのか……俺には急に消えたように見えたんだが、迷い無くこっちを向いた美波が俺の存在に気付く。


「よお、美波……伊勢を(これ)何とかしてくれ……」


 ついには圧し掛かるだけでなく首に手を回して抱きついて来た。自分でも赤面しているのが分かるくらい顔が熱いが、平静を装い美波に助けを求める。


「高深君のそんな顔、初めて見たわ……」

「俺は伊勢がこんな事する姿を初めて見たけどな!」


 いいから助けてくれ! 無駄だと分かりつつも平静を装い装いきれない、正直余裕が無い。


「心配してた無能力のクラスメイトが急に居なくなったんだから仕方ないんじゃないの? 思ってもいなかった再会で感情振り切っちゃったんじゃないかしら?」


 む、俺みたいな立場の奴が急に居なくなったのは悪かった。でも、その辺は田嶋が上手くやってくれてると思ったんだけど……。


「それでも心配なものは心配なのよ」

「ああ、すまなかった……伊勢、謝るからとりあえず離れてくれ」

「ダメ……」


 う、更にきつく抱きついて来た……離れろと言えば言うほど逆効果になりそうだ。


「高深君、そのまま立てる?」


 シルバーブルを抜け出す前なら確実に無理だ、でも、今なら容易だ、俺の身体はそれぐらいには鍛えられている。

 伊勢を背に負ったまま立ち上がる、振り落とされまいと更にしっかり抱きついて来る伊勢……もう何をやっても悪化する状況しか想像できないな。


「とりあえず店主、さっき借りた部屋、宿泊人数変更で」


 元々大きな部屋を借りていたので、2人分追加料金を払い移動する、この町に有る宿はここ一軒のみ、流石に2人に野宿させる訳にも行かないからこうするしかない。2人から不満が出れば俺が野宿すればいいだけだしな。


「高深君のおかげで野宿せずに済んだわ」

「まぁ、俺が居なきゃ部屋が空いてたけどな……」


 苦笑しつつそう答える。まぁ、気にするなって事だ。


「それで、高深君は今までどうしてたの?」


 部屋に入り荷物を置き外套や防具を外す。楽な格好になったところで適当な椅子に腰掛けそう訊ねられる。俺の方は未だ伊勢がくっついているので楽な格好にもなれないのに、その事は完全にスルーする気のようだ。


「最初はシルバーブルを出ようと思って乗った乗合馬車が……」


 伊勢を離すのは諦めてこれまでの俺の行動を大まかに説明していく、乗合馬車、盗賊、魔物、師匠、盗賊、魔物の群れ、エバーラルド、盗賊、レーヴェン商会、リミュール、竜豚、チンピラドラゴン、盗賊、盗賊……。


「特殊能力が無い変わりに厄介事に遭遇する能力でも持ってるのかしら?」


 美波曰く、俺の盗賊遭遇率は異常とのことだ。

 ほぼずっと街道を移動してきた2人は一度も盗賊に会っていないらしい。

 俺の場合は自分から盗賊に突っ込んで行ってる時があるからな……。


「2人はどうしてここに居るんだ? まさかお前らも逃げ出して来たんじゃ……」

「違う違う、私たちはちゃんと許可を取ってここに居るのよ、この国を選んだのは偶々なんだけどね」


 今度は2人の事情を聞く。

 シルバーブルで師匠と共に遭遇した魔物の群れ、あれに原因が有ったらしい。俺と師匠が遭遇した群れ以外にもシルバーブル国内各地で魔物の大量発生があったそうだ。戦闘向きのクラスメイトの手で収拾させられたようだが美波がつきとめた原因のほうを何とかしないとまた魔物が大量に発生する、それで美波と伊勢が原因を何とかする為に動いているということだ。


「蒼也は、マギナサフィアの首都に向ってる?」

「ああ、あそこにはでっかい図書館が有るらしいからな、もしかしたら帰還方法が見付かるかもしれない」


 お、伊勢がやっと離れた。


「それなら、一緒に行ける」


 って事は、2人の目的地もマギナサフィアの首都なのだろう。この先、少なくても其処までは目的地が同じで一緒に行けるから、安心して離れてくれたのか?


「そう言うことね、ここからは一緒に行く、それで問題無いわよね?」


 目的地が一緒なら態々別々に行動する理由も特にないから構わない。前は唯の足手纏いだったかも知れないけど、今はここまで自力で来れるぐらいの自信と実力を身に付けたつもりだ。


「ああ、問題無い」


 なんの躊躇いも無く、俺は2人と共に行く事を選ぶ。

 魔物の大量発生の原因を何とかして、元の世界への帰還方法も探す……うん何の問題も無い。


 こうして、師匠と別れて以降の俺の一人旅は一旦終わりを迎えた。

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