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ソール・マーニ・サーガ  作者: 鹿ノ子
第一章 闇と月
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岩の巨人と三人の侵入者

「止まれ!これ以上先に進む事は許さん!!」


 エインエヤル達は岩の巨人に叫ぶが、巨人がそれに応じる気配は無かった。

 動きは遅いが、踏み出す一歩が大きい。それはエインエヤルが足で追い駆けるのがやっとな程だ。


「まずい!このままだとニヴルヘイムに行ってしまう!なんとしてでもこいつを止めるぞ!!」


 エインエヤル達が岩の巨人の足を目掛けて攻撃をするが、硬い岩は浅い傷を付けたヒルドが巨人と並走しながら光の玉を巨人の足へ向けて続けざまに放つ。


ドンッッドドンッッ


 激しい爆発に巨人の足が止まる。ボロボロと岩肌の表面が崩れるが、それでも巨人は再び進み始めた。


「くそっ……止まれ!」


 足が崩れてもなおニヴルヘイムに近付いていく巨人の足目掛けて、フリストが槍を振るう。


ガガッッ


 槍は足首を薙ぎ、巨人はバランスを崩して膝をつこうとする。


「!!」


 巨人の膝はフリストの頭上から迫って来た。迫り来る岩肌にフリストの反応が一歩遅れた。

 まずい、そう思った時だった。エイルが一瞬とも思える早さでフリストの隣に現れた。エイルはフリストの胴に腕を回して地面から跳躍する。


ドシンッッッ


 目の前でもうもうと砂煙が上がる。

 間一髪の所で巨人の膝に押し潰されずに済んだフリストは安堵の息を吐いた。目の前の砂煙の上からは巨人の頭が見えた。


「……エイルさん、助かったっす……」

「間に合って良かったわ。……巨人は止まったの……?」


 今だ砂煙が舞い上がる中、エイルが頭上を見上げる。ニヴルヘイムまであと一歩の所で巨人は動きを止めた。

 突然、舞い上がっていた砂ぼこりが風で吹き飛んだ。

 それは巨人が腕を動かしたからだった。

 巨人は目の前に……ニヴルヘイムへ向かってゆっくりと手を伸ばす。


「今すぐその手を止めなさい!」


 ニヴルヘイムから隔てるように、そこには武器を構えたスクルドとアルヴィトが立っている。

 それでも巨人の手はニヴルヘイムに近付いていく。

 だがその手はニヴルヘイムと言うよりはスクルドとアルヴィトの二人に触れようと伸ばされている様に見えた。


「スクルド!アルヴィト!」


 逃げろ、とヒルドは二人の名を叫ぶが、その声に反応する前にスクルド達の目の前に岩の手が迫る。するとアルヴィトがスクルドを背後に庇う様にして立った。

 アルヴィトの髪に触れそうな距離まで岩の手が近付いた時、触れかけた巨人の手に赤と青の軌跡が走った。かと思うと次の瞬間巨人の手がバラバラと地面に切り落とされた。


「これ以上ニヴルヘイムに近付くと次は首を落とす」

「ウルド姉!」


 切られた手が音を立てて地面に落ちると、スクルドとアルヴィトの目の前に赤と青の光を放つ双剣を手にしたウルドがふわりと降り立った。


「貴様らは一体何者だ。何故ニヴルヘイムへやって来た」


 巨人とその肩に乗る者達に放たれる言葉には氷の様な冷たさがあった。答えによっては容赦なく攻撃をする、という意志を暗に含んでいる。

 巨人は斬られた腕を伸ばしたまま動かなかった。

 固唾を飲んでウルドと巨人を見守るエインエヤル達の中、辺りに暫しの沈黙が流れた。

 すると巨人の黄緑色に光る目が突然光を失った。その途端、巨人の体が力を失った様に崩れ始めた。

 腕から肩、そして頭部がただの岩の塊となって地上に落ちていく。

 巨人が崩壊し始めると、肩に乗っていた三人の人影がそれぞれ飛び降りた。地面に着地すると三人はエインエヤル達がいる方向とは別の方に駆け出そうとする。

 しかしその行く手を阻む様に無数の長い銀針が三人の目の前に突き刺さる。


「逃がさん」


 聞こえた低い声に三人は素早く振り返る。そこには鋭い眼光を放つシグルドがいた。長い銀針を刺したのはシグルドだ。

 行く手を阻まれた三人の内の一人が黒い刀身をしたナイフで素早く斬りかかる。


ガキィィィィィン


 シグルドは腕に仕込んだ針の束で男のナイフを受け止めた。

 その時に、外套の下から男の顔が覗く。

 男はカラスの羽根を思わす黒い髪に目鼻立ちがはっきりとした顔、そして褐色の肌をしていた。シグルドを睨む目はナイフの様に鋭い。

 ニヴルヘイム、及び周辺の国の人間とは異なる容貌だ。

 男はシグルドから身を離すと、もう片方の手にもナイフを握り、再びシグルドに斬りかかる。


 一方、黒髪の男がシグルドに斬りかかっている間、残された二人はそれぞれ別の方角へと向かおうとしていた。しかしその前をレギンレキヴが立ちはだかる。


「そう簡単には逃がさないぞ」


 ヒルドは手の平に光の玉を浮かべ、外套を頭から被った目の前の人物と相対する。

 三人の中で一番小柄なその者は攻撃態勢にいるヒルドに一瞬動きを止めるが、ヒルドが気付いた時には既に眼前にその姿が迫っていた。その手には楔形をしたナイフが握られている。


「!」


 ヒルドは後ろに身を引き、急いで相手の攻撃を避けたが微かに頬を切られた。赤い飛沫がパッと宙を舞う。

 相手は直ぐ様次の攻撃へと転じる。間を置かずにナイフを振るわれ、その度にヒルドは紙一重でナイフを避けていった。


(ま、まずい……!)


 相手の隙のない攻撃にヒルドは焦りを感じていた。予想していたよりも相手は中々の手練れだ。

 ヒルドは遠距離戦に向いた武器の為、接近戦に持ち込まれた時用の戦い方もそれなりに習得してはいたが、相手はヒルドよりも格段に接近戦での戦闘力が上だ。このままでは攻撃に転じる暇がない。

 ヒルドは攻撃を交わしながら、自身の目の前で光の玉を爆発させた。


ドンッッ


 威力を極力落としたが、それでも爆発はヒルドの制服と肌を少々焼いた。

 ヒルドは爆発に乗じて相手から距離を取った。相手も爆発を避ける為に後方へと飛び退いたようだった。

 爆風の影響か、相手の被っている外套が後ろに外れた。

 そして現れたその容貌に、ヒルドは意表を突かれる。


「なっ……女!?」


 艶やかな長い黒髪をまとめ、褐色の肌と整った顔立ちの中で黒い睫毛で縁取られた瞳から力強さがうかがえる。

 その戦いぶりから、てっきり男だと思い込んでいたヒルドは驚きを隠せなかった。

 女は手にしているナイフをヒルドに向けて投げ飛ばした。

 ヒルドは腰に携帯しているナイフを抜き、向かってくるナイフを弾く。

 しかし女が放ったナイフには鎖が繋がっており、女がそれを操るとナイフは向きを変え、再びヒルドに向かっていく。


「うわっっ……」


 ナイフはヒルドをかすめ、鎖がヒルドが持ったナイフに巻き付き、それをヒルドの手から奪い去った。


……これは本気でまずい。


 女は接近戦だけでなく、遠距離戦でも十分戦えるようだ。女は鎖を手繰り寄せ、ナイフを手にする。

 ヒルドが手の平に再び光の玉を浮かべた時、突然女はヒルドに背を向け駆け出した。


「えっ!?ちょっ、待て!!」


 予想もしていなかった行動にヒルドは一瞬呆気に取られたが、直ぐ様逃げた女の後を追った。

 しかし女は闇に紛れ、その姿を見失ってしまった。


「何者なんだ一体……」


 女はヒルドとの戦闘において優勢だったというのにも関わらず、目の前の勝利よりも逃亡を選択した。

 これは賢い判断だとヒルドは思う。

 もしこのままヒルドに勝利したとしても、ここにはヒルドの他にもエインエヤルはいる。女と他の二人を合わせてもこちらの方が圧倒的に数が多く、有利だ。

 女はそれを見越した上で逃げるという判断をした。

 彼らの目的はニヴルヘイムの侵略だろうか?しかしその行動はニヴルヘイムの侵略とはどこか違う気がした。


 一体、彼女達は何者なのか、そして目的は何なのだろうか?


 ヒルドは血が滴る頬を拭い、女が消えた闇に目を凝らした。





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